想いが届くまで

《夏樹side》

あんなに人を好きになったことはなかった。
彼女を無理やりにでも引き留めたかった。
でもそんなことをしても彼女が俺の物になるはずはないのに・・・・。
彼女を引き留められるならどんなことでもするつもりだった、たとえそれがどんなに情けなくて惨めなことだったとしても。
そんな一方的な気持ちがうまくいくはずがなかった。
彼女は7年間好きだった男の元に行ってしまった。
彼女が幸せだったらそれでいいと思おうとした。思いたかった。
でも俺の気持ちは彼女から離れることができないまま・・・・・。



《沙希side》

彼、景山さんが再び私藤見 沙希の家のお弁当屋に顔を見せてくれるようになってから数か月、まだ彼女がいる気配はなかった。
私にとってはうれしいことなんだけど、モテルと思われる景山さんに彼女が出来る様子がないのは不思議でしょうがない。
話している感じでは人を寄せ付けない感じではないみたいだからますます分からない。
別に景山さんに彼女が出来てほしいわけではまったくないんだけどね。
ちょっとした素朴な疑問。
顔見知りになって気軽にはなせるようにはなった私は、いつものように景山さんのために用意しているお惣菜を余ったからということで渡す時に思い切って聞いてみることにした。



「いつも残り物で申し訳ないんですけどおまけ付けときますね。」
「こちらこそいつもおまけつけてもらって申し訳ないですよ。
おいしいから俺は得した気分だな。」
「そう言ってもらえるとうれしいです。
ところで景山さんは最近うちによく来てくれますけど一緒にご飯食べに行く人なんかいるんじゃないですか?」
「残念ながらそんな人はいませんよ。
だからいつもここにお世話になりにきてしまう。
でも、毎日のように買いにくる奴は気持ち悪いですか?」
「そんなんじゃないんですっ。
ただ、景山さんみたいな人だったら食事の誘いなんか多いんじゃないかと思っただけで。
私はうれしいんですよ、こうやって買いにきてもらえるのは。
だから、毎日と言わず毎食買いに来てほしいくらいですよ!」
「はは、毎食はちょっと無理かな。
でも、夕飯はこれからもお世話になりに来ますんでよろしく。」
景山さんは自分が質問したくせに景山さんから返ってきた返答に焦って身振り手振りで返事をする私を見ておかしそうに笑いながら私がうれしくなる言葉を言ってくれる。

これからもお世話になります。
えーえー、どんどん来ちゃってくださいっ。
毎日景山さんの顔が見れるほどうれしいことはありませんから!

私は心の中で景山さんに返事をしながらお弁当が入ったビニール袋を景山さんに渡すと、それを受取ろうとした景山さんの指先が私の手に触れてしまい、思わず手から袋が離れてしまいそうになり慌ててしまった。
景山さんはそんな私の様子に気づいた様子はなく私の手から袋を受け取ると、
「じゃ、また。」
そう言って笑顔のまま私の前から去っていく。
「ありがとうございました。」
私は、自分の手にわずかに残っている景山さんの温もりを逃さないようにもう片方の手でその手を握り締めながら大きな声であいさつをした。
景山さんが帰った後、私の中に残っていた景山さんの温もりは私の手から無くなっていることを感じながら、遠ざかる景山さんの背中を窓越しに見つめ、無理だということが分かりながらこれ以上温もりが消えていかないように手を握りしめ続けてしまっていた。










景山さんについて私が知っていること、
歳は23歳、近所の会社に勤めていて営業課だということ。
そして、彼女と別れてからは特定の人がいないということ。
毎日のように私の家のお弁当屋に通って夕飯を買っていく。
その時に見せる笑顔はとてもカッコいいけれど、話をしていくと可愛いと感じる瞬間がある笑顔を見せてくれること。
私が知っていることと言えばこれくらいだ。
これだけで彼のすべてを知り尽くしているとはさすがに思わない。
でも、好きになってしまった景山さんのことを。
ずっと見つめることだけしかできなかったことを景山さんが来なくなって後悔した。
それからしばらくして再び来てくれた時に思ったことそれは、
『後悔したくない』
だった。
来ることがなくなっていた景山さんが私の目の前に再び現れたことは私にとっては奇跡と呼んでもいいくらいの出来事だった。
だから、この奇跡を手放すことはできないと思った。
でも、いざ積極的になろうとしてもどうしていいか分からない。
今日までに出来たこと言えばおまけと言ってせっせと作ったお惣菜を渡すことと今までよりも話すことができるようになったことだけ。
そんなことじゃこの恋をつかむことができないのは分かってる。
でも、景山さんを目の前にするとあんなにシュミレーションして話す内容を考えていてもうまくいったことがない。
恋というのは本当に自分が気付かなかった自分の存在を教えてくれると思う。
どちらかといえば恋には積極的な私のはずなのに、景山さんの前だとそうはいかない。
私も知らなかった私の存在、それは恋をした時の特権なのかもしれない。
でも、このまま親しいお弁当屋の娘では景山さんが気づいた時には誰かの物になっている気がする。
そんなのは嫌っ!
だから私は行動を起こさないといけない。
この恋を手に入れるために・・・・・。










「沙希飲みに行くよ!」
悪友の京子(きょうこ)から飲み会への誘いの電話があったのはお昼。
京子とは高校時代からの友達で今年就職をしてから前に比べると合う回数は減ってきている。
でも、何かと一緒に過ごしてきた私達の腐れ縁というものは切れないらしく、こうやってどちらからともなく会う約束をすることが多い。
今回は京子の方からのお誘いということで、京子が決めたお店の前に待ち合わせの時間に立っていた。
京子は仕事を終わらせてから向かってくるということだったので、多分遅れるだろうなぁと思いながらも待ち合わせの時間どおりに待ってしまう私。
京子は大概いつも遅刻をしてくる。
それに慣れてしまった私は特に何もいうことはしない。
遅刻と言っても5分10分だったりの時間のせいかもしれない。
そんなことを考えながら待っていると案の定5分遅刻の京子がやってきた。
「ごめーん遅くなった。」
「遅いのはいつものことでしょ。」
「そうなんだけど、いつも悪いと思ってるのよ。」
「分かってるわよ、だから友達続けてるんでしょうが。
これで何も思ってないなんて言われたら友達やめるわよ、毎回の遅刻なんだから。」
「そうだよね、こんな遅刻魔の私に付き合ってくれる貴重なお友達沙希ちゃん。
ということで、そんな優しい沙希ちゃんには今日私の愚痴を聞いてもらいまーす。」
「そんなことだろうと思った。
じゃ聞いてあげるからお店入ろうよ。
京子待ってる間ずっとお腹空かせてたんだから。」
「はいはーい。」
京子は返事をすると、お店のドアを開け私を先に通してくれた。



席についた私達は飲み物から注文した後メニューを見ながら注文するものを決めた。
決まる頃には飲み物が運ばれてきて注文を終えた私達は、何に乾杯するわけでもなく、
「お疲れ様。」
と言いながらグラスを鳴らした。
しばらく飲んでいると、注文していた食べ物が運ばれてきて、空腹のお腹の中に次々と運ばれる。
とりあえず空腹を満たした私達は、お互いの近況を話した後今日の本題、京子の愚痴の話題になった。
「もー営業って疲れるのなんの、私に向いてないんじゃないのかと思うわ。」
「そうかなぁ、京子くらい話ができるんだったら合ってると思うけど。」
「いくら私のように話ができてもなかなかうまくいかないのが営業。
あー何で希望もしてない部署に配属されたんだろー!」
「それだけ期待されてるんだよきっっと。
京子ならうまくやれるって思ってくれたんじゃないかな。」
「そんなことないわよ、ただ偶然の出来事なだけよ。」
「そんなことないわよ、きちんとその人のことを見てある程度は決めるんじゃないの人事って。
私は会社勤めしたことないからよくは分からないけど、適材適所という言葉があるように京子にとって営業の仕事はまさしくその言葉が当てはまるんじゃない?
それに仕事を始めて1年も経ってないんだから決めつけるのはよくないと思うわよ?
京子ならきっとやっていけると私は思うな。」
「いつも沙希に言われるとそうかなって気になってきちゃうな。
沙希は私のオアシスだわ。
いつまでも変わらない沙希ちゃんでいてね。」
京子はそう言って私をぎゅっと抱きしめた。
「ちょ、ちょっと!」
「うーん、いい抱き心地〜。」
「京子もー酔ってるの?」
「酔ってないわよ。
でも、いつも思うのよね〜、私が男だったらすぐ沙希を彼女にするのにって。
料理もできて優しいし、言うことないわ。」
「何言ってんだか。
そんなに優しくないわよ私。」
「私にとっては優しいからいいんです。
それに私と違ってちっちゃい所も可愛いし。」
「それは言わないでよ、小さいの気にしてるんだから。」
「なんでよ、大きい女より小さい女の方がいいじゃない。」
「ひとそれぞれいろんな悩みがあるんです。
もうその話はいいから飲むわよ。」
私はいつまでも私に抱きついている京子を引き離すと店員さんに飲み物の注文をするために声をかけると、店員さんが近づいてくるそばに景山さんが立っていることに気づいた。

景山さん!?

急に現れた景山さんに驚いて店員さんが注文を聞いている声を聞き逃してじっと見てしまっていた。
すると、そんな私の様子に気がついた京子が私の視線の先を追っていき景山さんの存在に気づくと、
「景山さーんっ。」
と大きな声で手を振りながら景山さんに話しかけた。
そんな京子の姿に私は驚いて京子の方を見てしまった。

京子、景山さんと知り合いだったの!?
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