Prologue

実家がお弁当屋という私の毎日は、当然のようにお弁当屋の仕事で始まり終わる。
毎日が同じことの繰り返し。
そんな毎日に刺激なんてあるはずもないし期待もしていない。
20歳のこの歳でこんな考えは枯れてるとしかいいようがないのかもしれないけど。
でもそんな毎日は私にとって嫌な毎日ではない。
私はこの仕事が好きだから。
買いに来てくれる人のために少しでも温かくておいしいと思ってもらえるお弁当を作ることはやりがいもあるし楽しい。
常連になってくれている人もいてその人達がいつもありがとうなんてことを言ってくれたりするとうれしくなる。
そんな私の日常、いつもと変わらない日常を過ごすと思っていた私に運命の神様がちょっとしたスパイスをふりかけた。









いつものように仕事をしている私の前に初めて見るお客さんがやってきた。
その人は、夕飯だと思われるお弁当を1人分買って去っていった。
その日はカッコいい人だなと思うだけだった。
でも、ちょくちょく来てくれるようになって顔見知りになると話もするようになり、そんな他愛もない会話を私は楽しみにするようになっていた。
そして気づく、彼を好きになっていることに。




歳は私より少し上だと思う。
スーツ姿がよく似合っていて顔も私の好みだし、お弁当を注文する声も耳に心地よく聞こえてくる。
その人のことが好きだと気付いても行動することができない私は、彼がお店に来る数分間の間の他愛もない会話をする時間で満足していた。
でも、しばらくすると彼はやって来なくなってしまった。

もう会えないのかな。

そう思うと、今まで自分が何も行動しなかったことを後悔した。
数分間の会話を待ち望んでいた自分。
そう思おうとしていたことにも気付く。
本当はもっと彼のことを知りたかった、私のことを知ってほしかった。
そして、彼に近づきたかった。
そんな自分の気持ちに気付かない振りをしていた臆病な私・・・・・。









「から揚げ弁当1つ。」
「あっ、・・・・はい!」
夜店番をしていた私の前に現れお弁当を注文したその人は、もう会うこともできないと思っていた人だった。
私は久しぶりに会うその人を見て胸をときめかせた。

会えた、・・・・また会えたんだ。

再び出会うことができた人に私はお弁当を渡しながら話しかけた。
「久しぶりですね。」
「そうですね、ここのお弁当の味が忘れられなくてまた来てしまいました。」
「そう言ってもらえるとうれしいです。
しばらくいらっしゃってない間は他の所のお弁当を買われていたんですか?」
「そういうわけではないんです。
正直に言うと、一緒にご飯を食べてくれる人がいなくなったというのが正しいですね。」
「それって・・・。」
「恥ずかしながら恋人に振られてしまったんです。
だから、1人寂しくご飯を食べないといけなくなって。
1人で食べるならおいしいここのお弁当がいいと思ったんですよ。」
「そうだったんですか。
すいません、そんなこと言わせてしまって。」
「いいんですよ。
こちらこそ変なこと言ってしまいましたね。
じゃ、また来ますね。」
「はい、うちのお弁当なんかでよかったらいつでも来てくださいね。」
そういうと、彼は私に微笑みかけて背中を向けるとドアへ向かって歩き出した。
「あの!」
「はい?」
私は彼の背中に向かって呼び止めると、彼はゆっくりと振り返ってくれた。
「えっと、お名前教えてほしいなって。
常連さんにはきちんと名前で呼ばせてもらいたくて。」

あーん、何変なこと言ってるのよ私は!

自分が言った言葉のあまりの間抜けさに落ち込んでしまう。
でも、彼はそんな私の言葉に、
「景山 夏樹といいます。
あなたは?」
と、微笑みながら答えてくれた。
「私!?
私は藤見 沙希(ふじみ さき)って言います。」
「沙希?そうか沙希さんか。
これからお世話になることが多いと思うんでよろしくお願いします。」
「はい!」
彼、景山さんは私の名前を聞いた時一瞬目を見開いたように見えたけれど、見間違いだったのか優しい微笑みで話しかけてきた。
そして、再び私に背を向け帰っていった。

景山さん、名前を聞けただけでも私にしては大進歩だよっ。

私は、景山さんの背中を見送った後、思わず飛び跳ねてしまっていた。




この景山さんとの再会が、私のせつない恋の始まりだとは気付かずに・・・・・。
Copyright (c) 2007 machi All rights reserved.

面白かったよとちょっとでも思ってくれたら押してもらえるとうれしいです♪
よろしかったら感想も一緒に書いてもらえるとますますうれしいです♪

Novel

Top

Next




検索サイトから来られた方は、 こちら からTOPへどうぞ。