近すぎる関係

「千佳好きだぞ。」
「はいはい。
そんな気持ちがこもってない言葉で言われてもね。」
私は幼稚園の頃から聞かされている佐原 一成(さはら いっせい)からの言葉。
一成とは幼馴染みで高校までずっと一緒だった。
その後は私が短大に行ったから別々になったわけだけど、それでも一度できてしまった腐れ縁というものは切れないらしい。
そうそう簡単に切れるわけないわよね、お向かいに住んでるんだから。
親同士も仲良くしているせいか切りたくても切れない腐れ縁。
別に一成が嫌いなわけじゃない。
ただ、奴がいうセリフが信じられないだけ。
一成はそれなりに見た目も良く、人当たりもいいせいかモテる部類に入る。
そのせいか奴はいつも女の子に囲まれていることが多かった。
特定の誰かがいるのかいないのかは興味がなかったから聞いたことはないからはっきりとは分からない。
分かるのはいつも一成のそばには女の子がいたということだけ。
それなのに私には『好きだ』とか『そろそろ俺と付き合う?』なんてことを聞いてくる。

ばか?
それとも、あほ?
誰がそんな本気じゃないと分かる言葉にまともに返事すると思うのよ。

いつも一成に言われるとそう思ってしまう。
だから、一成の挨拶だと思って私の返事もいつも一緒。

そんな私達の関係、簡単に言うとやっぱりただの幼馴染みで仲良しだということかなと思う。










私は短大を卒業した後なんとか就職ができ、研修期間を過したあと企画室に配属された。
とりあえず入った会社での仕事になれることがなかなかできなかった私だけど、同じ部署の大原さんから仕事を教えてもらう内に咲さんと呼べるほど仲良くなることができた。
咲さんは面倒見がいい先輩で、私が悩んでいる時は私の様子を見て話しかけてくれたりフォローしてくれたりと、お世話になりっぱなしだ。
1人娘の私は、咲さんをお姉さんのように思って甘えている自覚があった。
だって、咲さんはいつでも私を助けてくれて可愛がってくれる。
そんな咲さんをお姉さんのように思ってしまうのは仕方ないことだと思う。
そんな咲さんのそばには草壁さんという営業部の同級生がいた。
草壁さんは一成と同じように女の人に人気があるようで、いつも違う女の人が恋人になっていた。
そんな様子を咲さんはふとした拍子につらそうな顔をしながら見つめていることがある。
その様子を見て咲さんは草壁さんのことが好きなんだと気付いた。
でも、咲さんは草壁さんに告白しようとする様子はなく、友達としてのポジションを必死に守っているように見えた。

何で咲さんはこんなに草壁さんの近くにいるのに友達から先に進もうとしないんだろう?

それは私の中でずっと疑問として残っていたけど、咲さんに確認することはできないでいた。
だって、何だか聞いちゃいけないのかなと思ってしまって。
そうしている内に私は咲さんと同じ方向を見るようになり、気づくと草壁さんを見つめることが多くなっていた。






「で?俺にそんな話をして何て言ってもらいたいわけ?」
私は一成の部屋で寛ぎながら咲さんと草壁さんの話をしていた。
そして、草壁さんのことを好きになってしまったかもしれないということを話した。
「何って言われても困るんだけど、なんとなく誰かに聞いてもらいたかっただけ。
その適任者が一成だったのよ。」
「何だよ適任者って。」
「だって一成いつも話聞いてくれるじゃない。
それに、誰にでも話していいような話じゃないと思って。
それだけ一成のこと信用してるってことよ。」
私は一成ににっこり笑いかけると、何故か機嫌悪い顔をしながら椅子の背もたれをのけ反らせている。
「ねー、何でそんなに機嫌悪いわけ?
そんな不機嫌そうな顔しながら話聞かないでよ。」
「千佳があんまりばかだからこんな顔になるんだよ。」
「何で私がばかなのよ。」
「ったく、言わないと分からないばかは始末におけないな。」
「何よそれっ、分かったわよ。
ようするに一成は私にケンカを売ってるわけよね。
買うわよそのケンカ、お邪魔しましたっ。」
そう言って私は一成の顔を睨みつけながら立ち上がり部屋を出た。

何なのよっ。
ちょっと話を聞いてくれるくらいいじゃないの!
そりゃ一成が知らない人の話を聞いてもわけがわかんないから面白くないだろうけど、ただ聞いてくれるだけでいいものをあんな不機嫌な顔しちゃってさっ。
まったくなんなのよ!!

私は一成の機嫌が悪い理由なんか分かるはずもなく、自分の中になかなか消化できそうにない怒りをもったままおばさんに挨拶をして家に帰った。











あれから一成と会っても無視し続けていたある日、食堂で私にとっては衝撃的なことが起きた。
草壁さんから食事の誘いを受けてしまった。
私は浮かれながらも咲さんがどう思っているのか気になっていた。
やっぱりいい気はしないだろうなと思ったから。
だから、咲さんと草壁さんにそれとなく話を振ってみたら2人共同じ答えだった。
『ただの友達』
咲さんそんなこと思ってないくせに。
そう思いながらも私の心は草壁さんに誘われたことの喜びで満たされていて、次第に咲さんへの申し訳なさが薄れていっていた。
だからというわけじゃないけれど、咲さんが言う言葉を信じたかった私は、応援してほしいと咲さんに言ってしまった。
それがどんなに咲さんを傷つけてしまうか分かっていたはずなのに今の私にはそんなことを考えることができないでいた。
そして、私が草壁さんと付き合うことになった時、私は咲さんに話を聞いてもらいたくてしかたなかった。
きっとそれは咲さんに対する敬遠の意味もあったのかもしれない。
本当は咲さんの恋を応援したかったはずなのに、自分の気持ちを優先させて咲さんを悲しませている私、なんて嫌な奴なんだろう。
そう思いながらも今の私は草壁さんを咲さんに渡すことはできないほど草壁さんを好きになっていた。
咲さんはどういう経緯でそうなったのかは分からなかったけど、景山君と付き合うことになった。
その話を聞いた私は、咲さんが草壁さんのことを諦めてくれたんだと思っていた。
というよりも、思いたかった。
でも、そのことがきっかけで草壁さんは咲さんへの自分の気持ちに気付いてしまった。

今更咲さんへの気持ちに気付かないで!
私はどうしたらいい?このまま身を引いた方がいい?
分かってる、本当はそうした方がいいんだって。
でも、もうそんなことできない。
だから私はたとえ嫌な奴だと思われても草壁さんを放したくない。










それからの私は本当に嫌な奴だった。
自分でも分かっていながらそんな自分を止めることができなかった。
咲さんを傷つけているのも、草壁さんを困らせているのも分かっているのに。
そんな自分が嫌だった・・・・。
独りよがりだった私の恋は当然のように終わりを迎えた。
草壁さんは気持ちに気付いてからは私に何度もつらそうな顔をしながら私に別れを切り出した。
そんな草壁さんをもう縛っておくことは出来なかった。
でも、草壁さんと別れることはできたのは、一成と話をしてから自分の気持ちを改めて落ち着かせることができたからかもしれない。




「千佳、可愛くない顔してるぞ。」
家に入ろうとしている私にしばらく口をきいてなかった一成が話しかけてきた。
「誰が可愛くないって?」
「千佳。」
一成は今まで口をきいてなかったのを気にしていないかのようないつもと同じ口調で私の怒りを引き起こしたいかのようなことを言い続ける。
ムカついた私は一成のことを無視して家に入ろうとすると、
「千佳、今の恋人といると幸せか?」
今までふざけた口調で話していたのがうそのように真面目な口調でそんなことを聞いてきた。
「お前全然幸せそうな顔になってないよ。
眉間にしわよせてるしな。
なんかあったんだろ?
ため込まずに話せよ。」
一成にそう言われて、私は鼻の奥がツンときて気づいた時には涙を流していた。

何で一成には分かっちゃうんだろ。
そんなこと言われたら涙流れてくるじゃないの。
泣きたくなんかないのに。

そう思いながらも私は家に入ることをやめ、一成のそばにゆっくりと近づき促されるまま一成の部屋に上がってしまっていた。
そして、私の今措かれている状況を一成に話しだした。
話を聞き終わった一成は、溜息を小さく吐いた。
「千佳、お前なにむきになってんだ?
確かにお前は草壁って奴のことを好きなんだろうけど、それだったら咲さんのことそんなに気にしなくていいんじゃないか?」
「でも、咲さんも大事な人なんだもん。
でも、そんな咲さんに嫌味なんか言っちゃう自分がすごく嫌。
何であんなこと言っちゃうかな私。」
「そう思う時点で千佳は咲さんの方が好きなんじゃないかと思うけど。
もし本当に草壁って奴が好きで仕方なかったらそんなに思わないだろう。」
「そう言われると・・・。」
一成にそう言われて私は答えることができなかった。

きちんと考えないといけない。
私は本当に好きだった?
咲さんの視線を追っている内に好きになった人、それは確か。
でも、咲さんを傷つけてまで欲しかった恋じゃなかったはずなのに、咲さんがあまりにも素直になってくれないからムキになっていたような気がする。
ということは、私は咲さんの方が草壁さんより好きってこと?

自分の気持ちを見つめ直してみると、一成に言われたことが納得できてしまう。
草壁さんを好きな気持ちはあるけど、それよりも咲さんのことが好きみたい私。
先輩でお姉さんで、そんな咲さんが私は好きで、早く素直になってほしかったはずなのに、どこで方法を間違えたんだろう。
「何か分かったような顔だな。
お前はいつも一緒にいる咲さんの恋心を自分の気持ちに変えちゃったんだろうな。」
「そんなことあるのかな?」
「さーな。
でも、千佳がそうなったんだからあるんじゃないのか?」
「そうだね。
咲さんには幸せになってもらいたいんだよね。
だから、これからは咲さんのことを応援したいと思ってる。
でも、草壁さんのことを好きだったのは本当だと思うんだ。
だから、そのことは自分の気持ちとして受け止めることにするよ。」
「そっか。
千佳がそう言うんならいいんじゃないか。」
「一成ありがとう、話聞いてくれて。
いつも一成には甘えちゃうな。
本当にいい幼馴染みをもったね私。」
そう言って私は一成に久しぶりのような気がする笑顔でペコっと頭を下げた。
「幼馴染ね。」
「何、不満なわけ私と幼馴染みが。」
「そうは言ってないだろ。
俺が不満なのは他のことにだよ。」
「何よ他のことって。」
「鈍感な奴には教えてやらねーよ。」
「なにそれ、感じ悪いよ一成。」
そう言ってポカポカ一成の頭を叩いて教えるように言ったけど、一成は言ってくれなかった。









咲さんは草壁さんと付き合いだした。
2人の姿を見ても、辛いというよりうれしい気持ちが強かった。
やっと素直になってくれた咲さん。
そのことが私は素直にうれしかった。
そして私は、咲さんと以前のように過ごすことができている。




「一成、咲さん草壁さんと付き合いだしたんだよっ。」
私は、話を聞いてくれた一成に報告ということで部屋に行ってそう言うと、
「ふーん。」
と、一成は興味なさげに答えた。
「ちょっとっ!
もうちょっと反応してくれてもいいんじゃないの。」
「俺には2人が付き合いだしたからって関係ないからな。
いや、そうでもないか。
これでやっと千佳のまわりも落ち着くな。
そうすれば千佳も俺が言った言葉の意味を考えることができるだろ。」
「そういえば、一成私を鈍感って言ったわよね。
何で私が鈍感なんて言われないといけないのかまったくわかんないんだけど。」
私が言った言葉に一成は大きな溜め息をつきながら、
「分からないって考える気なしかよ。
何で俺はこんな女が好きなのか分からなくなってきたよ。」
そうつぶやいた。
「もう、一成誰にでも好きだなんて言わない方がいいわよ。
私だから気にしないけど、他の人だったら分からないわよ。」
「気にしろよ少しは。
俺が何年お前に好きだって言い続けてると思ってるんだ?」
「え?
だって、一成が私に好きって言うのは挨拶代わりでしょ?」
「誰が挨拶で好きなんて言うんだよ。」
「一成。」
「ばかかお前。
千佳のことが好きだから好きだって言ってるに決まってるだろ!!」
「え?えーっ!?」
突然というかいつも好きだとは言われていたけど、私にとっては突然の告白に、私は頭の中を真っ白にしてしまった。

一成が私を好き?
一成が言う『好き』は挨拶代わりだと思ってた。
だから、一成が私のこと好きだなんて考えもしなかったのに。
でも、幼稚園の頃から言われているってことは・・・・。

「一成、ストーカー?」
思わず私は頭に浮かんでしまった言葉を素直に言ってしまった。
「ばかもここまでくると怒りもなくなるよ。
誰がストーカーだ。
俺は千佳の嫌がることはしたことないだろうが。」
「確かに。」
「ということで、やっと俺の気持ちに気づいてくれた千佳は俺のことどう思ってるんだ?」
「どうと言われてもねー。」

一成に改めて聞かれるとどう答えていいのか分からなくなる。
今まで一成をそういう対象で見たことはなかったから。
だって、ふざけて私に好きって言ってると思ってたから仕方ないわよね。

「おーい、そこで無言になるなー。」
考えている私に一成はそう声をかけてきた。
「無言にもなるわよ。
今までそんな風に考えたことないんだから。」
「じゃ、今から考えろよ。」
「急に言われても。」
「考えやすいようにしてやるよ。」
そう言ったかと思うと一成は私の腕をつかみ自分の方に引き寄せた。
「何よ急に!?」
「だから千佳が考えやすいようにするためだって。」
「だからって・・・っ!」
私は一成の腕の中でこの暴挙を止めるべく見上げながら話をしようとしていると、一成の顔が私の顔に振ってきた。
そして、私の唇を塞いでしまった。
これ以上何も言わせないというかのように・・・。



「んんんっ、・・・ふぅっ・・・・ん」
一成の動きに思わず唇を開いてしまった私に一成はすかさず舌を侵入させてくる。
そして私の鼻からは甘い吐息の声が漏れだす。
一成のキスは私の身体から立つ力を吸い取っていく。
そして、そんなキスを甘く感じてしまう私。
一成が私の唇から自分の唇を離す頃には力が抜けた私の身体が一成に寄りかかり、支えられていた。
「分かったか?」
キスの後一成に寄りかかったままボーっとしていた私に一成はニヤニヤしながら聞いてくる。
「こんなので分かるわけないじゃないの!」
「そうか?
こんなに俺のキスに感じてるってことは俺のこと嫌いじゃないのは間違いないと思うけど。」
「一成のこと嫌いなんて言ったことはないわよ私っ。」
「でも、好きっていったことないもんな千佳は。
これで素直になれるんじゃないのか?」
「誰が素直になるのよ!!」
そう言って私は一成の胸元を腕で押しのけ離れた。
「こんなことする人のことなんて好きじゃないわよ!」
「そうか?
結構気に入ってくれてるみたいだったけど。」
「っ、うるさーい!!」
私は一成の言葉に顔を赤らめながら叫んだ後一成の部屋からふらつきながらも出て行った。
後ろから、
「千佳、俺はもう待つ気はないから覚悟しとけよ。」
と、恐ろしい言葉が聞こえてきた。





部屋になんとかたどり着いた私は、ベッドに倒れこみながら、一成のことを考えていた。

今まで近くにい過ぎて気付かなかった一成の気持ち。
私は一成をどう思ってる?
って、あんなに一成のキスに感じるってどうなのよ私!!
しかも、一成の最後のセリフ・・・・・、どうなるのこれから私!?

不安を感じながらも、今まで感じたことのない胸のトキメキが私の中で大きくなってくる。
そして、一成に素直に好きだということができるのは、今日から1か月後の話。


+おわり♪+




「切なくて、恋しくて」番外編、千佳ちゃんの恋バナです。
この話の初期設定は、「切なくて、恋しくて」の後半くらいからぽっと頭の中に浮かんできました。
やっぱり千佳ちゃんにも幸せになってもらいたいなと思っていたせいでしょうか(笑)
本編では嫌われてしまっていた千佳ちゃんですが、少しでもこの話で皆様に可愛がられるといいなと思っております。(無理ですかね(汗))
最後まで読んでくれてありがとうございました。


マチ拝
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