切なくて、恋しくて

屋上の階段を駆け降りた私は、1度も後ろを振り返らなかったが、景山君の言葉が頭の中で響いたままだった。
喫茶店に行くつもりはない。
でも、私が来るまで彼は待っているんだろうか?
そう思うと、行かないのは申し訳ないような気になってくる。

それでも行っちゃ駄目よね。
私が好きなのは裕也なんだから、景山君に期待させちゃいけない。
だって、期待させるようなことしたら景山君が辛い思いしちゃう。
そんな思いをさせるわけにはいかない。

そう思いながらも、私は休憩後の仕事中行くか行かないかを悩み続けていた。











終了時間になり、思わずため息をついていると、
「咲さーん、今日草壁さんと会うことになりましたっ!」
と、千佳ちゃんがうれしそうに報告にやってきた。
「昼休みに草壁さんに会ったから夕食に誘ったんですよ。
そしたらいいよって言ってくれたんですっ!
私頑張りますっ!!
咲さん応援してくださいね。」
「そっか、頑張って。」
「はいっ!
じゃ準備もしないといけないから帰りますね。」
そう言ってスキップでもしてしまうような勢いで笑顔のまま千佳ちゃんは帰っていった。
その後ろ姿をじっと見ながら、
「そっかそっか、今日会うのか。」
と、独り言を言っていた。

展開速いよ2人共、昼の報告すぐに行動に移すなんて。
これじゃ私の気持ちは落ち着かないままじゃない・・・。
違うわね、遅くても気持ちが落ち着かないのは一緒か。
きっと2人は明日うれしそうに私に報告してくるんだろう、付き合い始めたって。
何だか疲れたなぁ、裕也のこと考えるのも。
それに、今は景山君のこともあるしね。

私は再びため息をつきながら、残りの仕事を始めた。




すぐに残りの仕事を終わらせた私は、更衣室に向かい帰る準備を始めた。
準備が終わった私は、挨拶をしながら更衣室を出て玄関に向かい、足を止めた。

どうしよう。
行かない方がいいのは分かってるんだけど、ずっと景山君が待ってることになるんだったら行った方がいいのかな?
わからないな〜。
うー、ホントどうしたらいいんだか。
よしっ、とりあえず行ってみて様子をみようっ。
それからどうするか決める!

私は良い解決法を考えることができず、とりあえず喫茶店へ向かい細かいことは着いてから考えるという、現実逃避ぎみな方法を取る事にした。
足取りは軽いものではなかったけどなんとか喫茶店まで向かい喫茶店の近くに着いた私は、中が見える所までゆっくり歩いていった後、ちょうどあった電信柱の影に隠れながら中の様子を窺った。

これじゃ怪しい人だわ私。
でも、中に景山君がいるんだったら見つかるわけにはいかないし。

自分の行動に落ち着かなかったけど、喫茶店に景山君がいないか一生懸命覗いた。
しばらくすると、後ろの方からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
そのことに気づいた私は、絶対自分のことを笑われていると思い、喫茶店を覗き込むことを止めた。

絶対そうだよね。
だって私の行動かなり怪しすぎるっ!
とりあえず景山君はいないようだから帰ろうっ。
いちおうは喫茶店に来たんだもんね。
よし、そうしよう!!

そう考えた私は、真っ赤になっているはずの顔を下に向けたまま笑い声が聞こえた方向と反対側に歩き出した。
「どこ行くんですか?咲さん。」
歩き出した私に話しかける声がして振り向くとそこには、笑いをこらえている景山君が立っていた。












私は景山君に見られていたという事実に身体を硬直させてしまい、しばらく立ち尽くしていると、
「咲さんって面白い。」
そう言うと景山君は、大きな声で笑い始めてしまった。
「ちょっと、そんな大きな声で笑わないでよっ!
周りの人が見るじゃないのっ!!」
私は焦ってそう言うと、
「そうですね、じゃ喫茶店に行きましょうか。」
景山君は無理やり笑いを止めると、目は笑ったままで私の手を掴んで歩き出した。
「私行かないわよっ。」
「ここまで来てそれはないですよ。
帰るっていうならこのまままた大きな声で笑い出しますよ。
そしたらまた周りの人が見ますよ?」
「うっ、分かったわよ。」
私は、また周りの人の視線に晒されるのはつらいものがあると判断し、大人しく喫茶店へ向かうことにした。
喫茶店に着くと景山君はこの間と同じように2人分のコーヒーを頼んだ。
その後、私の顔を見ると声は抑えてくれているが、肩を震わせながら笑い出した。
「いつまで笑ってるのよ。
景山君って笑い上戸だったのね。」
「違いますよ。
こんなに笑ったのは久しぶりです。
咲さんの行動が面白くて。」
「面白いっていうのは女性に対して失礼よ。」
「すいません、もう笑いません。」
景山君はそう言うと、笑うのを止め真面目な顔になり私の顔をじっと見つめた。
「笑うのを止めてくれたのはいいんだけど、何でそんなに見るの?」
「好きな人の顔はいつでも見てたいので見てるだけです。」

いや、笑い続けられるのも困るけど、見つめられても困るんですけど。
好きな人の顔を見つめていたいという気持ちは分かるけど、それが私だっていうのは困る。

景山君に見つめ続けられるのが耐えられないと感じていると、コーヒーが運ばれてきて視線が私から外されホッとした私は、再び見つめられるのを避けるために話題を変えることにした。
「何で景山君は私の後ろに立ってたの?」
「それはですね、咲さんは来ない可能性が高いと思ったので、会社からずっと後をつけてたんです。
駅に着いたら声かけようと思っていたら予想に反して喫茶店に向かってるじゃないですか。
だから着くまで声かけるの待ってたんですけど、また予想外のことが目の前で起きてしまったというわけです。」
「確かに私は喫茶店に来ない気ではあったんだけど、何も後をつけることないじゃない。
早く声かけてくれればこんな恥ずかしい思いしなくてもよかったのに。」
「いえいえ、声かけなくて良かったですよ。
咲さんの意外な一面を知ることが出来たんですから。」
景山君はそう言いながらとても嬉しそうな顔をしていた。
そんな顔をされると何だか照れくさくてこれ以上何も言うことが出来なくなってしまった私は、照れくささを誤魔化すようにコーヒーを飲んだ。
「咲さん、夕飯はどこに食べに行きますか?」
コーヒーを飲んでいると、景山君は嬉しそうな顔のまま聞いてくるので、今日の目的を思い出した。
「行かないわよ私。
今日ここに来たのは様子を見に来ただけだし、もう帰るわ。」
「それは駄目ですよ。
こうやって俺に会ったんだから夕食には一緒に行ってもらいます、約束なんですから。」
「約束って・・・。
景山君が勝手にした約束でしょ?私は約束した覚えないんだから帰ってもいいはずよ。」
「ここにいるってことは約束を守ったということですよ咲さん。
だから、咲さんは約束を守らないといけない。
咲さんは約束を守らない人なんですか?」
「そんなことないわ、約束は守るわよ私は。」
「だったら、夕飯食べに行きますね。」
ニッコリ笑いながら、そう言う景山君に私はもう何も言えず、
「そうね、ここまで来たんだから食べに行くわよ。」
と、私はそう返事をしていた。

景山君ってこんな人だったのね。
思いっきり口で負けてしまったわ。
それに、あんな笑顔で言われると勝てないわよ。

私はそんなことを思いながら景山君を見ていると、私の返事を聞いて笑顔のままの景山君は、コーヒーを飲みながら、
「じゃ夕飯行きましょうか、咲さん何食べたいですか?」
と聞いてきた。
「今日は特に食べたい物はないわね。」
「じゃ、俺が行きたい店でいいですか?」
「ええ、お願いするわ。」
「じゃコーヒーを飲み終わったら行きましょ。
折角美味しいコーヒーなんだから。」
「そうね、ここのコーヒーは美味しいから好きよ私。」
「良かった咲さんに好きになってもらえて。
これで俺達の好きな物一緒ですね。
嬉しいです、好きな人が俺の好きな物を好きになってくれて。」
「そんなに好きな人って連呼しないで。」
「自分に正直に言ってるだけなんですけど。」
「それが恥ずかしいの。」
「恥ずかしがる咲さんも可愛いですよ。
今日は色んな咲さんの一面が見れていい日だ。」
「そうですか。」
私はこれ以上景山君の話を聞いているのは照れくさすぎて大人しくコーヒーを飲むことにした。

これ以上何か言っても恥ずかしさが増すばかりのような気がするのは私の気のせいかしら?
気のせいじゃないわよね。
何でこんなことになったのかしら、夕食に一緒に行く気なかったのに・・・。
疲れる1日はまだ終わらないのね。
頑張れ私っ!
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