切なくて、恋しくて

次の日、千佳ちゃんに昨日裕也と会って、金曜日に食事に行くことになったことを伝えた。
千佳ちゃんの反応は予想通り、
「本当ですか!?
金曜日、何があっても絶対行きます私っ!」
という、勢いのある返事が返ってきた。
私といえば、千佳ちゃんに話しながら、いい先輩を装っていた。
心の中では、「こなくてもいいのに」なんてひどいことを思いながら。

これじゃ根暗な人だよね。
表ではいい顔しながら、裏ではこんなこと思ってるなんて。
自分がどんどん嫌な女になっていく気がする・・・。

千佳ちゃんはすでに自分の世界に入ってしまっていて、私の存在を忘れているようだった。
それは、千佳ちゃんと長く話せそうにない私には、都合のいいことだった。






約束の金曜日、私と千佳ちゃんは仕事を終わらせ、裕也が予約しているお店に向かった。
その道すがら千佳ちゃんは、心配そうな顔をしながら聞いてきた。
「咲さんは、草壁さんのことは好きだったりしないんですか?」
その質問に私の心臓はドクンと大きな音をたてて、私に刺激を与えてきた。

何で急にそんなこと聞くの千佳ちゃん。

そう思いながら、
「どうして?」
と、動揺を見せないように落ち着いた口調で返事をした。
「だって、男と女の友情って難しいと思うんですよね。
だから、もしかしたら咲さん草壁さんのこと好きなんじゃないかと思ったんですよ。
もしそうなら、私達ライバルになっちゃうじゃないですか。
そうなったら嫌だなって。」
「そっか。
私と裕也はただの友達よ。」
「本当ですか?」
「本当。」
「じゃ、私が草壁さんにアタックしても大丈夫ですか?」
「そうね、それは千佳ちゃんが頑張るんだったら私には何もいうことはないわ。」
「じゃ、今日は私頑張っちゃいますよ?」
「頑張ってね。」
「よーし、咲さんからも頑張ってという言葉ももらえたことだし、頑張るぞー。」
千佳ちゃんはガッツポーズをした姿を見せながらニッコリと笑いかけてくる。
その笑顔は屈託のないものだった。
私は千佳ちゃんの笑顔に胸を鋭い針で突かれたような気がしたが、気づかない振りをした。
その針は、私が千佳ちゃんに嘘をつき、自分の気持ちを偽った証拠だったから。

嘘ついてしまった・・・。
言ってしまえばよかったんだ、裕也のことが好きだって。
ここで言えなかったら私はもう千佳ちゃんに裕也のことが好きだとはいえないのに。
それが分かっていながら千佳ちゃんに言えなかったのは、裕也に私の気持ちを知られるのが怖かったから。
ただそれだけ・・・。
裕也に私の気持ちを知られてしまったらもう裕也のそばにはいられないから。
私はこうやっていつまでも逃げることしか出来ないでいる弱虫だ。








「遅かったな。」
店に着いた私達を裕也がそう言って出迎えた。
裕也が予約していた店は、居酒屋ではあったけど、私達がいつも行くような感じではなくて、落ち着いた感じの店だった。
席も掘りコタツになっていて、部屋も個室になっているからプライベートも守られる空間になっている。
ライトも落ち着いた明るさで、廊下には和紙で作られたライトが置いてあったりして私好みの雰囲気だ。

こんな所知ってたんだ裕也。

お店の人に案内されながらそんなことを思ったが、今までいつもの居酒屋以外に行きたいといったことなかったんだから私が知らなくても当然かという思いがあるが、連れてきてくれてもいいのにという思いがないわけでもない。
ちょっとしたことなんだから裕也に言えばいいことなんだろうけど、そんなことも裕也に言えてなかったんだなと改めて思っていた。




「こんばんは。」
部屋に着いて千佳ちゃんは笑顔で明るい声を出し、裕也に視線を合わせ挨拶をした。
そんな千佳ちゃんに裕也も笑顔を返している。
すでに着いていた裕也ともう1人に男の人は向かい合わせに座っているから、私と千佳ちゃんはどちらかの隣に座らないといけない。
どちらに座るか確認しようと千佳ちゃんを見ると、足はすでに裕也のほうを向いており、私が口を開く前に裕也の隣に座ってしまった。
そうなると私は空いている席に座るしかないわけで、千佳ちゃんが裕也の隣に座った後、空いているもう1人の男の人の隣に座った。
私達が座ると裕也が、
「揃ったことだし、注文するか。」
そう言って店員さんを呼んだ。
最初に飲み物を頼み、飲み物が来た後食事を頼んだ私達は、店員さんが部屋から出て、乾杯をした後、自己紹介をすることになった。

まるでコンパみたい。
名前を知らない人もいることだし仕方ないのかも。
それに、コンパといってもいいような集まりなのは確かなんだから。

お互い自己紹介が終わったところで食事が次々にきて食事を始めた私達は、食事を楽しみながらも、会話が弾みだしていた。
「しかし、同じ女性なのに咲はビールと日本酒、千佳ちゃんはファジーネーブルとは。」
「何か問題あるわけ?
私は自分が好きなものしか飲みたくないの、だからカクテルも甘いのは飲めないんだから仕方ないじゃないの。」
「私甘いのしか飲めないんですよ。
だから、咲さんみたいに日本酒飲みたいんですけど、駄目なんですよね。」
「そうなんだ。
でも、千佳ちゃん女の子らしくて可愛いよね。
咲は男らしい所が多いからなぁ。」
「そうですか?」
千佳ちゃんはうれしそうな顔をしながら裕也の方を向いて返事をした。
私と言えば、今更裕也に男らしいと言われるのは慣れてるけど、千佳ちゃんと比べたように言われるのは、辛かった。
でも、そんな様子を見せるわけにもいかないから、
「はい?
それは私にケンカ売ってるわけ裕也は。」
と、ふざけた口調で会話を続けた。
すると、私の隣に座っている男性、景山 夏樹(かげやま なつき)君が、
「咲さんは可愛らしいじゃないですか。
いまどき女性がビールや日本酒飲むのは当たり前ですよ先輩。」
と、ニッコリ笑いながら言った。
可愛いなんて言われ慣れてない私は、思わず彼の顔をじっくりと見てしまった。

彼は裕也の後輩で、よく一緒に営業に回ることが多いと聞いたことがある。
仕事も出来るらしく、仲良くしている後輩だと言っていた。
確か歳は23歳と言っていたような気がする。
裕也とまた違ったカッコいい顔立ちだ。
きっと、彼もモテるんだろう。
そんな彼から可愛いといわれると何だか照れくさくなってしまう。

「咲が可愛いねぇ。
夏樹がそう言うなら今日はそういうことにしとくか。」
「裕也に許しをもらう必要があるみたいじゃないの、そんな言い方されたら。」
「そうか?
でも、良かったじゃないか可愛いなんて言ってもらえて。
あんまり言われないだろうから。」
「私だって可愛いっていわれることくらいあるわよ、裕也が知らないだけでね。」
「へー、じゃ誰に?」
裕也は意地悪な顔をしながら聞いてくる。
私は、裕也が言うように言われることはないんだけど、ここで素直にいうことは出来ないから必死に頭の中を巡らせ、何とか名前を挙げようとした。
「まーいいじゃないですか。
草壁さん、これおいしいですよ?」
と、千佳ちゃんが話の間に入ってくれた。
私は助かったと思いつつも、その後裕也と千佳ちゃんが仲良く食べている姿を見ることになり、その方が裕也の質問に答えるよりも辛いことになってしまった。
そんな2人を見ながら日本酒を一気に飲んでしまい、自分で次を注ごうとすると、その手を景山君に止められてしまった。
「俺が注ぎますよ。」
突然のことに驚いてしまったけど、手酌酒というのも悲しいから景山君に手渡し、注いでもらうことにした。
「ありがとう。」
「いいえ。」
注いでもらった後お礼を言うと、可愛らしい笑顔を見せてくれた。
男の人に可愛いというのもおかしいのかもしれないけど、そう思ったからしょうがない。
お酒を注いでもらったのをキッカケに私達は色々話を始めた。
時折裕也と千佳ちゃんのことを気にしながらだったけど。
すると、
「気になりますか2人のこと。
先輩のこと好きなんですよね。」
と、景山君が小さな声で言った。
その言葉に動揺してしまった私は、手に持っていた日本酒をこぼしてしまった。

どうして景山君が知ってるの!?

動揺しながらも、こぼしてしまった日本酒を手拭タオルで拭いていると、
「何やってんだ咲は。」
裕也が呆れたような声を出して聞いてくる。
「ちょっとこぼしただけよ。」
そう返事をしながらも、いつもより小さな声になってしまっているのに自分でも気づいていた。




「じゃ、そろそろ出るか。」
裕也はそう言って席を立ちだした。
私達は裕也が立ち上がる姿を見て、後に続くように立ち上がり、レジに向かった。






「俺と千佳ちゃんは別の所で飲みなおすから。」
と裕也は当然のような口調で言い、私と景山君に手を振ると、歩き出した。
千佳ちゃんは裕也と2人でということがうれしいのか、私を振り向くことなく一緒に行ってしまった。
残された私は、そんな2人の姿を見るのは辛かったけど、先ほど景山君に言われた言葉が頭の中でグルグル回っていた。

「先輩のこと好きなんですよね。」

その言葉だけが・・・。




「2人は行ってしまいましたね。
酔いを醒ましにコーヒーでも飲みに行きませんか?」
景山君は私の動揺に気づいていないのか気づいていない振りをしているのかまったく読めない表情で提案してきた。
私は、コーヒーを飲みたい気分ではなかったが、彼の言った言葉を彼に確認する必要があると思い、彼の誘いにのることにした。

確認をしておかないと、裕也のそばにいられなくなるかもしれない。

そんな気持ちを強くしながら・・・。
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