切なくて、恋しくて

食堂での出来事から数日経っているけど、裕也にはいつ都合がいいのか連絡していなかった。
千佳ちゃんからは、いつでもいいと言われながらもなかなか裕也に言うタイムングがつかめないでいた。
タイミングと言っても、裕也にはすぐ連絡が取れるんだけど、私の気持ちがまだ準備が出来ていないだけ。
往生際悪くしていても、いつかは2人を会わせないといけないのに。
私は、無理やり残業を作って時間が取れない振りをしていた。




「今日も残業なんですか?」
終了時間近くに千佳ちゃんが声をかけてきた。
「そうなの。
この書類を今日中に仕上げないといけなくなっちゃって。」
「そうですか。私手伝いますよ?」
「大丈夫よ。
千佳ちゃんは先に帰って。」
「でも・・・。」
「そんなに気を使わなくていいから。」
「はい、わかりました。
最近残業多いみたいですから無理しないで下さいね。」
「ありがと。」
そう言ってパソコン画面に視線を戻すと、まだ隣に千佳ちゃんが何か言いたそうに立っていた。
「どうしたの?何か言い忘れた?」
「言い忘れたというわけじゃないんですけど・・・。」
千佳ちゃんは言いづらそうに俯きがちになりながらも、チラチラ私の顔を見ている。

どうしたのかしら。
何か相談でもあるのよね、この様子だと。

そう思った私は、パソコン画面から視線を外し、千佳ちゃんの顔を見ながら、
「どうしたの?何か相談でもあるの?」
と、優しく声をかけた。
「あの・・・、咲さんが最近忙しいのは分かってるんですけど。
私、草壁さんと一緒に行くって言ってた食事がどうなったのか知りたくて。
すいません、忙しいのにこんな自分のことを言ったりして。」
千佳ちゃんは遠慮がちに言葉を詰まらせながらも、私の答えを求めている視線を向けながら言った。

千佳ちゃん、裕也のこと好きなんだな。
でも、私は千佳ちゃんに裕也を会わせたくないんだよ。
だから、無理やり残業なんかしたりして。
嫌な女だな私。

「ごめんね、私最近残業ばっかりだから裕也に連絡出来てないのよ。
だから、まだセッティングできてないんだよね。」
「いいんですっ、咲さん忙しいのにこんなこと言ったりしてごめんなさい。
じゃ、残業頑張って下さいね。」
千佳ちゃんは顔を真っ赤にしながら顔を横に振りそう言った後、帰っていった。
私はそんな千佳ちゃんの後ろ姿をじっと見ることしか出来なかった。






千佳ちゃんが帰った後、胸におもりがのっているような重苦しさを感じながらも、書類を作ってしまうため、再びパソコン画面に集中することにした。
でも、集中することが出来なくて、文字を打ち間違ったりと、思うように仕事が進まなかった。
それでも何とか仕事を終わらせたのは、壁に掛けてある時計が8時を過ぎた頃だった。

はー、やっと終わった。
こんな書類にこんなに時間掛けるなんて。
千佳ちゃんの話にそれだけ動揺してたのかな。
私にはない積極的な所。
それに、可愛いわよね一生懸命で。
私はいつまでもそばにいることしか出来ないでいるのに・・・。
千佳ちゃんみたいに積極的になれてたら何か変わってたのかな。
そうすれば、裕也に近づきすぎず、きっぱり振られて次の恋を見つけることも出来たかもしれない。
いまさらそんなこと思っても遅いんだけね。
もう、裕也のそばから離れられないんだから・・・。

パソコンを閉じ、背伸びをしながらそんなことを考えていると、
「残業お疲れさん。」
と、聞きなれた声が聞こえてきた。
背伸びをしていた腕を下した後声がする方を振り向くと、思った通りそこには裕也が立っていた。




裕也は私の隣の席に座って私の方を向いた後、話しかけてきた。
「そんなに残業ばっかりしてると倒れるぞ。」
「何で残業が続いてるって知ってるの?」
「帰るときに咲を最近見かけてなかったから、残業続いてるのかなと思っただけ。
違った?」
「違わないけど。
今日はどうしたの?残業してる時に来ることなんてないのに。」
「ん?
特に何か用事があるわけじゃないけど、こんなに毎日残業することなんてない咲が残業してるみたいだから様子見にきたんだよ。」
「心配してくれたの?」
「そりゃ、友達が無理してるんだったら心配するだろ。」
私は裕也の言葉を聞きながら、裕也が私を心配してくれている気持ちがうれしくて、顔がにやけてしまいそうになった。
でも、そんな顔を見せるわけにはいかないから、なんとか普通の顔が保てるように頑張りながら、
「ありがと、心配してくれて。
でも、裕也から心配されるなんて珍しいこともあるもんね。」
と、ふざけたように答えた。
「そんなことないだろ。
俺はいつでも咲の心配してるだろ?」
「そうだったかな?」

そうだった。
裕也は私が頑張ったり無理している時は、いつも心配してくれてた。
それは、自分でも気づかない時があったりしてもだ。
いつもはそんな素振りも見せないくせに、こんな時にばかり優しくされるといつまでも裕也を好きなままだよ。
そんなに優しくしないで。
でも、優しくされるとうれしい。
この2つの相反する気持ちに私はいつまでも揺さぶられてしまう。

裕也が見せる優しさに胸を温かくさせつつも、頭の中では色んなことを考えてしまっている私に、
「もう帰れるんだろ?何か食べにいくか。」
裕也はそう言って椅子から立つように促してくる。
「そうだね、お腹空いてきたし、何か食べに行こうか。」
「いつもの店でいいよな。
最近行ってなかったから、行きたかったんだよ。」
「もしかして、そのために今日は来たの?」
「違うよ、咲の様子を見にきただけ。」
「そっか。」
そう言って私達は、いつもの店に向かうために帰る準備を始めた。






いつもの居酒屋で夕食を済ませた私達は、いつものようにタクシー乗り場でタクシーを待っていた。
前には、数人の人が列になり立っている。
私達の番が来るまでにはしばらくかかりそうだ。
「やっぱり夜は寒いな。」
「そうだね。」
「そういえば、この間食堂で会った咲の後輩、何ちゃんだっけ?」
「千佳ちゃん?」
「そうそう。
最近会ったらよく挨拶してくれるんだよ。
あの子可愛いよな。」
裕也の言葉に、私は身構えてしまう。
「一緒に食事行く話あったよな?
咲いつなら大丈夫そう?」
裕也は私の様子に気づくことなく話を進めていく。
「俺はいつでもOKだから、咲のいい日を言ってくれ。」
「そう、だな・・・、しばらく残業はないんだけど。」
「じゃ、金曜日にでもどうだ?」
「そうだね。」
「じゃ、店見つけとく。
時間は連絡するよ。
順番きたぞ、じゃよろしくな。」
「わかった。」
私はそう言って、何とか笑顔を作りながらタクシーに乗り込んだ。

どんなにあがいても無理なのかな。
裕也が千佳ちゃんを気にしだしてる
また私は、その様子を見つめるだけ・・・・。
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