切なくて、恋しくて

あずみの家に遊びに行って数日経ったある日の仕事場。
私はパソコンを前にして、次の仕事に使う資料を作っていた。
仕事場はザワザワと騒がしくはあったけど、活気づいていて私に仕事のやる気を出させてくれる。
人によっては静かな所で仕事をしたいと思うのかも知れないけど、私は周りのみんなが頑張っているから私も頑張らないとっ、思うので、今の職場は仕事内容もだけど、雰囲気も自分によく合っていると思う。

本当は裕也と一緒の会社を選んだだけなんだけどね。
不順な動機だったけど、この会社に入って良かったな。
仕事がこんなに楽しいものだとは思わなかった。
仕事をしている間は、仕事だけに集中することができるから余計なこと考えなくてもいいし。
このまま仕事のことだけ考えられたら心が苦しくなることもないんだろうに。
うまくいかないものよね。
でも、仕事ばっかりというのも淋しいものなのかな。
そんなことを考えるようになってきたということは私も年を取ってきた証拠よね。

そんなことを思いつつパソコンの画面を見ながら指を動かしていると、
「この書類も一緒にまとめといてくれ。」
と、今回同じチームを組むことになった安東さんが私に書類を渡してきた。
「そういうことは早く言ってください。」
私が少し怒った口調で、横目で見ながら言うと、いつものことだというように気にする様子も見せず、おどけた口調で、
「そんな目で見るなよ、咲ちゃんなら大丈夫、頑張れっ。」
とウインクをしながら言われてしまった。
「別にウインクなんていらないし、そんなことしてる暇があったら早く仕事してくださいね。」
「そんな悲しいこというなよ、仕事にも息抜きは必要なんだよ。」
「安東さん息抜きばっかりじゃないですか。
それなのに仕事は出来るんだから不思議です。」
「それはな、俺の実力。
そんな仕事が出来る俺と2人で今日夕飯でも食べに行かない?」
「ご遠慮しときます。安東さんの彼女に恨まれたくないですからね。」
「彼女いる話したっけ?」
「いつも飲み会の時のろけてるじゃないですか。
覚えてないんですか?」
「覚えてない。
自分で折角のチャンスを逃すとは、俺としたことが。」
「チャンスじゃないですから。
ほら、もう仕事に戻らないと課長が見てますよ?」
「おっと、今日も怒られるのは嫌だからな。
じゃ、よろしく。」
そう言って安東さんは、口調では課長に怯えた様子を見せながらも、まったく気にしている感じは見せずに、自分の席に戻っていった。

もう、安東さんいつもあんな調子なんだから。
でも、うっとうしく感じさせない所が安東さんのすごい所よね。
どこか憎めない人だし。
多分、冗談だということが分かってるからかな。
彼女とも仲良くしてるみたいだし、危険を感じないんだよね。
でも、こんなことを言ったら怒るか。
しかし、これで今日も残業だな。この書類までまとめるとなると結構な時間かかるし、他の仕事もあるしな。
とりあえず、お昼ご飯でも食べに行こうかな、そろそろお昼の時間だ。

そう思った私は、昼食の時間になるまで今している仕事を続けることにした。






昼食の時間になりパソコン画面を保存した後、食堂に同じ課の女の子と向かった。
日替わり定食を頼んだ私は、席を取っていてくれた場所に向かうとそこには何故か裕也が座っていた。
「何で裕也が私達が取ってる席に座ってるのよ。」
「偶然だよ。
俺が先に座ってた所にこの子が席を探してたみたいだから席が空いてるのを教えてあげたんだよ。」
「彼女がいるんだからいろんな女の子に声かけないでよね。」
「親切心だろ?
折角買ってきても席がないと大変だろうなと思った俺の優しさ、ありがたく思って欲しいもんだよ。」
「はいはい、ありがとうございます。
それよりも千佳(ちか)ちゃん、何もされなかった?」
私は裕也に心のこもっていない感謝の言葉を無表情で言った後、席を取っててくれた後輩の千佳ちゃんに、にっこり笑いながら聞いた。
「大丈夫ですっ。」
千佳ちゃんは焦りながら手の平を大きく横に動かしながら返事をした。
「それならいいんだけど。」
私は取っていてくれた席が裕也の隣だったので、その場所の椅子を引いて座りながら言った。
「お前それは俺に失礼だろ。」
「裕也のことをよく知ってるから出た言葉よ。
可愛い後輩を心配するのは当然のことでしょ?」
「俺ってそんなに信用ないのかよ。」
「あるって思ってたんだったらそのことに私はビックリするわよ。」
わざとらしく肩を落としている裕也の肩を叩きながら私は笑って言った。
そんな私達の様子を千佳ちゃんはクスクス笑いながら見ている。
「2人共仲良いいですね。」
「付き合いも長いとね。」
「そうだな、これだけ長いと仲良くもなるよな。」
「付き合ったりとかしないんですかこんなに仲が良いのに。」
千佳ちゃんの質問に思わずドキッと心臓が大きな音をたててしまう。
でも、その音も裕也の言葉で棘に変わってしまった。
「それはないな。咲は1番仲が良い女友達だよ。」

そんな即答しなくてもいいじゃない。
ちょっとくらい動揺するなり躊躇うなりしなさいよねっ。
改めて自覚させてくれなくてもいいのにさ。

私は、裕也の言葉に心臓に棘が刺さっていることを気づかせないように笑顔を作ると、
「そうよ、裕也を彼にしたいなんて思わないし。
仲のいい男友達よ。」
と、自分の気持ちと反対のことを言いながらどんどん自分の心臓に棘を埋め込ませていく。

私は何本の棘を自分の心臓に刺していくんだろう・・・。
この棘を抜くことが出来る日はくるのかな。

「そうなんですか。
草壁さん人気者で、咲さんと仲が良いから付き合うのかなって思ってました。」
千佳ちゃんははにかんだように笑いながらそう言うと、
「俺の好みは千佳ちゃんみたいな女の子だよ。」
と、裕也は千佳ちゃんを見ながら口説くように話しかけている。
裕也に話しかけられた千佳ちゃんは顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。
「ちょっと、可愛い後輩を彼女がいる人が口説かないでくれる?」
「言ってなかったっけ?
俺彼女と別れたんだよ。」
「はい?聞いてないわよ。
ていうか、1ヶ月も経ってないんじゃないの?」
「そうだけど、俺は今フリーなの。
だから、千佳ちゃんに声をかけても悪いことじゃないんだよ。」
「それはそうだけど、裕也の毒牙に千佳ちゃんをかけるわけにはいかないのっ。」
「毒牙って。
千佳ちゃんは俺みたいな男は嫌?」
裕也は私の話を聞き流すと、千佳ちゃんに話しかけて答えを待っている。
千佳ちゃんは、
「そんなこと、ないです。」
と、小さい声だったけれど、裕也のことを気にしていることが分かるはっきりと自分の意思を込めた返事だった。
「じゃ、今度ご飯でも食べに行こうか。」
「ちょっと、千佳ちゃんを毒牙にかけるなっ。」
「咲はうるさいなぁ。
それなら咲も一緒に来いよ。」
「え?」
「俺は後輩連れてくるから女2、男2になるからいいだろ?」
私は裕也の提案に返事が出来ないでいると、
「私、行きたいですっ!」
と、千佳ちゃんが大きな声で私の代わりと言わんばかりに返事をした。
「千佳ちゃん?」
「私お食事一緒に行きたいですっ。駄目ですか咲さん。」
「駄目ってわけじゃ・・・。」
「はい、咲の負け。
咲達の都合の良い日を教えてくれよ、合わせるから。
じゃ、よろしく。」
裕也はしてやったりというような顔で私の肩をポンッと叩いた後、千佳ちゃんに挨拶をしてから席を立ち去っていってしまった。






「ごめんなさい、勝手なこと言って。」
裕也が去っていった後、食事を始めた私達だったが、突然千佳ちゃんが遠慮深げに聞いてくる。
「いいわよ。
でも、裕也は遊び人だから気をつけないと駄目よ。」
「そうなんですか?
想像していたより話しやすい人だなって思ったんですけど。」
「話しやすくはあるわね、確かに。」
「私、実は草壁さんのこと好きだったんですよね。」
千佳ちゃんは耳を疑うようなことを告白した。
「そうなの?」
「はい。
咲さん草壁さんと仲良いじゃないですか、だから見かけることが多くて、気づいたら好きになってたんです。
だから、咲さんがいいなら草壁さんと一緒に食事に行ってお近づきになりたいんです。」
「そっか。」
私は予想外の千佳ちゃんの告白に動揺してしまったが、何とか自分を落ち着かせて、
「千佳ちゃんがそう言うなら行ってみる?」
「いいんですかっ!」
「可愛い後輩からのお願いだからね。」
「お願いしますっ!!」
千佳ちゃんは本当にうれしそうな顔をしながら私に何度もお願いしますと言っている。
そんな千佳ちゃんに笑顔で答えながらも心の中ではドロドロした私の中にいる女の私が暴れだしていた。

千佳ちゃんが裕也を好き・・・。
何で裕也なの?
他にも男はいるじゃないっ。
千佳ちゃんは裕也の好みのタイプだ。
このままでいけばきっと2人は付き合うことになると思う。
私は耐えられるだろうか?
今まで裕也が付き合う子は私が親しくしていない子だったから耐えられた。
でも、今度は違う。
私もこんな時までいい先輩にならなくてもいいのにね。
ホント馬鹿な女だよね。

私は、今まで自分が行動起こすことが出来なかった報いを受けているのだと感じながら、無理やり食事をのどに通し、残りの食事を続けた。
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