切なくて、恋しくて

26

「その手を離せ、どう見ても咲は嫌がってるだろっ。」
私達に近づいた裕也が私を掴んでいる景山君の腕を握り、私から離した。
裕也の行動に私の視線は捕らわれた状態になっていた。

どうしてここに裕也がいるの?

私の頭の中にはその言葉だけが浮かんでいる。
そして私の身体は動くことを忘れたようにその場で固まってしまった。
目の前の事実が信じられなかったから。



「こんな所で咲に何しようとしてるんだ夏樹!」
「先輩には関係のないことですよ。
手を離して下さい。」
「関係ないことはない。
咲が泣きそうな顔をしているのに黙ってることはできないな。」
「ただの痴話ゲンカですよ。」
「そうなのか咲?」
裕也は景山君の腕を掴んだまま私に聞いた。
私は裕也に答えるつもりだった、痴話ゲンカだと。
でも、話し出す前に私の瞳から涙が流れ出してしまった。
涙のせいで私はうなずくことしかできない。
「咲、そんな涙を流しながらうなずくな。
本当のことを言ってくれ。」
裕也は涙を流し続ける私の肩に優しく触れる。
肩から伝わる裕也の温もりが、私の涙を流し続けさせる。

裕也、裕也。
どうしてここにいるの?
もう私は裕也への気持ちを止める事ができない。
私はもう自分の気持ちに嘘はつけない。

「裕也、裕也っ。」
私は自分の想いのまま裕也の胸に飛び込んだ。
私の行動に驚いたように裕也は身体を一瞬固めてしまったけれど、それはすぐになくなった。
そして、
「咲。」
と、優しく私にささやき抱きしめてくれた。
裕也の腕の中に包まれた私は、ずっと自分が求めていた温もりの中に包まれて安心することができた。

裕也の腕の中にいたかった。
いつもそう思っていた、ずっと。










「咲、離れるんだ!」
裕也の腕の中にいる私に景山君が私を裕也から引き離そうとしながら叫んだ。
「離れる必要はない。
お前が咲から手を離すんだ。」
景山君の手を払いのけ、裕也がそう言うと、
「先輩、咲は俺の彼女だ、いつまでそうしてる気ですか。」
先ほど叫んだのが嘘のように落ち着いた口調で裕也を睨みながら言った。
「確かに咲はお前の彼女だ。
でも、咲は俺の腕の中に自分で飛び込んできた。
それは、どういうことだ?」
「それは・・・。」
景山君は言葉を詰まらせた。
「私が悪いの!」
「咲?」
私は裕也の胸から離れ、大きな声で叫んでいた。
「私が自分の気持ちに嘘をついていたのがいけないの。
それが、みんなを傷つけてしまった。
私は裕也が好きなのに。
自分の気持ちを裕也が受け入れてくないと悩んで、裕也を好きでいた7年に疲れて景山君の優しさに逃げたの。
でも、それは間違いだった。
逃げちゃいけなかったの、自分の本当の気持ちから。
そのことにやっと気づいたの。
だから、もう私は景山君と付き合い続けることはできない。」
私は、ハッキリした口調で自分の本当の気持ちを言うことができた。
もう嘘はなかった。
自分の気持ちに素直になりたかった。
そしてやっと私は、素直になれた。






「もうどんなに俺が悪あがきしても駄目か。
咲はもう俺の物にはなってくれないんだろうな。
俺は自分の気持ちに素直になって今まで行動してきた。
でも、それでも咲が俺を選んでくれないというなら・・・・・。」
私は自分の気持ちをすべて話した後景山君は、いつも見せる穏やかな顔で、私につぶやいたかと思うと、裕也の方を見て、
「先輩、咲を大事にすることができますか?
それができないんだったら俺はいつまでも咲を諦めることはできない。
どうですか。」
真剣な顔で裕也に答えを求めた。
「俺は今までいい加減な付き合い方しかしてこなかった。
でも、咲が俺のそばから離れるてやっと自分の気持ちに気づくことができた。
どれだけ咲が俺にとって大事な人なのか。
だから、咲が俺を選んでくれるのなら、もう咲を離さない。」
裕也は景山君と同じように真剣な顔でそう答えると、
「そうですか。
先輩が咲を大事にしてくれるというなら俺は咲と別れます。
俺とこれ以上付き合っていても咲は自分の気持ちに嘘をついて不幸になるだけだ。
そのことに気づいていながらも俺は咲を離すことはできなかったから。
でも、もう咲を自由にしてあげる。」
景山君はそう言って私の頬に優しく触れたかと思うと、
「本当に好きだったよ、・・・・・咲さん。」
そう言って私の頬にキスをして私から離れた。
そして、私に背を向けて歩き出した。
私は景山君の背中に向かって、
「ごめん景山君、甘えてごめんねっ。」
そう叫んでいた。
今更謝っても仕方がないと思いながらも、謝ることしか出来なかった。
今までの景山君の優しさに謝ることしか・・・・。










景山君が見えなくなり、今までの自分の身勝手さが景山君を傷つけてきたことに涙が流れた。

ごめん、景山君。
結局私はあなたを傷つけてしまった。
それなのに、私のことを考えて裕也に話をしてくれた。
そんな優しい景山君を選ぶことができなかった。
ごめんなさい。

私は心の中で何度も景山君に謝った。
いまさらどんなに謝ってもしょうがないのに。



「咲、もう泣くな。」
「でも、止まらない。」
「自分をそんなに責めるな。
悪いのは俺なんだから。
俺が早く自分の気持ちに気づいてればこんなことにはならなかったはずなんだ。
だから、泣き止んでくれ。」
「そんなに優しくしないで。
私が早く裕也に自分の気持ちを伝えればよかったの。
そうすればみんなが傷つくことはなかったのに。
だから・・・。」
私がそう言うと、裕也はゆっくりと私を抱きしめた。
「咲、これ以上責めても夏樹の気持ちを無駄にしてしまう。
俺達は夏樹の気持ちに答える必要だと思う。
だから、咲、俺を好きだと言ってくれ。」
裕也にささやかれ、私は裕也の腕の中で裕也の言葉を頭の中で廻らせた。

裕也に好きだと言う、それはもう許されるんだろうか。
裕也が言うように景山君の優しさに答えるためにも私は伝えないといけない。
裕也が好きだと。

「私は裕也が好き。
ずっと好きだった。」
私はやっと自分の素直な気持ちを伝えることができた。
7年間伝えることができなかった自分の気持ちを。
「俺も咲が好きだ。」
そう言って裕也は私をぎゅっと抱きしめた。
この瞬間、私の長い片思いが両思いの瞬間になった。
Copyright (c) 2007 machi All rights reserved.

面白かったよとちょっとでも思ってくれたら押してもらえるとうれしいです♪
よろしかったら感想も一緒に書いてもらえるとますますうれしいです♪

Novel

Top

Next

Back




検索サイトから来られた方は、 こちら からTOPへどうぞ。