切なくて、恋しくて

25

今私は幸せだ。
私のことを大事にしてくれる景山君と一緒に過ごすことができているから。
そのはずなのに、私の心の奥底に閉じ込めている箱がカタカタと動き出す。
その音は、私に何かを伝えようとしている。
そのことに気づきながらも私は気づかない振りをしている。
気づかない振りのまま景山君と過ごす私は笑っているのに、
「体調悪いの?機嫌悪いの?」
と聞かれることが多くなった。
体調も機嫌も悪くない。
それなのに、何でそんなことを景山君が聞いてくるのか私には分からない。
何で私は幸せで笑っているのにそんなことを言うの?
箱が動き出しているのがいけないのかな?
だったら鍵を増やさないといけない。
箱が動き出さないように。
私が本当の気持ちに気づかないように・・・・・。










「咲、今日行った店気に入ってくれた?」
「うん、おいしかったー。
また来たいな。」
「じゃ、また今度来ようか。」
「そうだね、その時は今日と違う料理食べてみなくちゃ。
それに、まだ飲んだことない日本酒もあるし楽しみ。」
私と景山君は、夕飯を食べた後歩きながら話をしている。
今日は久しぶりの外食。
明日は休みだからゆっくりできるということもあり、仕事帰りにデートをすることになった。
最近景山君は残業することが多くて夜一緒に過ごすことがなかったから、久しぶりにゆっくりできそう。
景山君の腕に腕を絡ませている私は、甘えるように身体を密着させている。
そんな私を嫌がる様子もなく、甘えさせてくれている。
公園の前に近づくと、景山君が私に聞いてきた。


「咲、今日は家に泊まるよね。」
「うん、そのつもりで用意してきてる。」
「ねー咲、あんなことをしておいて俺から言うのはどうかと思ったんだけど。」
「何?」
「俺は、咲を抱きたい。」
景山君は真剣な顔をして私の方を振り向き私の瞳をじっと見つめたまま言った言葉に私は、
足の動きを止め景山君の瞳を見つめ返した。

そう、私達は景山君が私を襲ってから抱き合うこともなければ唇を合わせることもなかった。
家にも泊まりに行っているから、何度かそういう雰囲気になることはあった。
でも、私の身体は強張ってしまう。
腕を組んだり寄り添うのは大丈夫なのに、景山君から求められてしまうと駄目だった。
そんな私に、景山君は怒ることもイラつくこともなくて、
「仕方ないよね、俺が悪いんだから。」
悲しそうな耐えるような顔をして私から離れていく。
私は景山君に申し訳なく思いながらも、自分ではどうすることもできなかった。
そんな状況の私に景山君が「抱きたい」と言ってくるということは・・・・・。

「咲の身体が俺を避けているのは分かってる。
でも、俺は咲を抱きたい。
咲は俺を選んでくれた、そのことも分かってる。
でも、今のままじゃ本当に俺を選んでくれたとは思えない。
咲が俺に抱かれて俺に身を任せてくれることで、俺は咲を本当の意味で自分の物にしたいんだ。」
私は景山君の言葉に何も返事ができない。
ただ、景山君が言うことを聞くだけの状態になってしまっている。
何と答えたらいいのか分からなかった。

私は景山君を選んだ。
だから、景山君の思いに答えないといけない。
いつまでもこのままじゃ駄目なんだ。

「ごめんね、こんなこと言わせちゃって。
・・・・、私は夏樹に抱かれてもいいと思ってる。
だから、今日は私を抱いて欲しい。」
「咲、ありがとう。」
景山君は私を抱きしめる。
そして、私の唇に自分の唇を重ねる。
私は、その唇を受け入れるために自分の瞳を閉じた。
近づいてくる気配を感じながら私は待っていた、唇が重なることを。
でも・・・・。

ドンッ。

私は鈍い音に瞳を開けると、私の腕は景山君の胸を押していた。
それは、無意識にやっていたことだった。









「ごめ・・・なさ・・・い。」
私は自分がやってしまったことに愕然としてしまう。
そして、景山君も。

何故?何で?

「やっぱり拒むんだね、咲は俺のことを。」
景山君は俯いたままそうつぶやいた。
「拒んだつもりはないのっ。」
「拒んだって言うんだよこういうのは!
やっぱり咲は先輩のことが忘れられないのか?」
「違うっ!
私は裕也より夏樹を選んだの!!」
「選ぶだけじゃ駄目なんだっ、気持ちも俺にくれないと!
身体だけじゃ嫌だ、同情もだっ。」
景山君は強い力で私の肩を掴みながら叩きつけるような口調で私を責めたてる。
そんな景山君を目の前で見ることで私の心の奥底に沈め、鍵を増やしたはずの箱がカタカタと動き出す。
私は箱の動きを止めたかった、だから、
「私の気持ちは夏樹のものよっ!
もう裕也への気持ちは封じ込めた、だからっ」
「封じ込めた?
封じ込めないと俺のことを好きだとは言えないんだ咲は。
それが同情だと言ってるんだ!
俺のそばにいてくれたら、俺のことを本当に好きになってくれるよう頑張ってきた。
それでも、俺を選んでくれないのか?」
自分の気持ちを搾り出すような切ない声で私に景山君は訴えてくる。
その訴えを聞きながら、私の心の奥底に沈めている箱の鍵が外れてきていた。
鍵が外れ、今まで封じ込めていた想いが私の中で開放されようとしている。

私は景山君を選んだ。
自分の本当の気持ちを閉じ込めて。
でも、それが景山君を傷つけている。
私はあずみと話して気づいたはずだった。
自分の気持ちを偽ったままじゃいけないと。
そのことが景山君を傷つけてしまうと。
それなのに私は同じ過ちを繰り返している。
あの時私は言わなければいけなかったんだ、自分の本当の気持ちを。
このことに気づくのが遅すぎた私は景山君をまた傷つけている。
私は素直にならないといけない、景山君のために。

そう思う私の心の奥底に沈めていた箱は、すべて鍵を外し閉じ込めていた想いを解放させた。
裕也への思いを再び自分の心に浮上させた私は、景山君に自分の本心を伝える必要がある。
景山君のこれ以上傷つけないために。
想いを開放させた私は、本当の自分の気持ちを伝える決心ができた。
「そうね、同情だった。
私の夏樹への気持ちは。
裕也への思いを忘れることはできなかったのに。
そうして結局私は夏樹の事を傷つけている。
このまま一緒にいても私達はお互いだめになる。
だから・・・・。」
「聞きたくない!
先輩の所に戻るのは許さない、咲は俺の物だ。
俺を好きになってくれ。」
景山君は私の話を聞いた後、目を見開いたかと思うと、顔を歪めながら私を自分に引き寄せようとした。
「駄目!
私達は一緒にいるべきじゃないの、ごめんなさい。」
私は景山君の腕を振り払い離れようとした。
これ以上の間違いを繰り返さないために。
でも、景山君は私の動きを再び絡めとるために私の腕を掴み自分の方に引き寄せようとする。
私は腕を振り払おうとしたけれど、できなかった。
強く掴まれて。
でも、このままではいけないと思った私は腕を振り払うことをやめなかった。
「何してるんだ!」
そんな私達の耳に叫び声が聞こえる。
声がする方を見ると、駆け寄ってくる人影が見えた。
近づいてくる人影それは、
裕也だった。
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