切なくて、恋しくて

24

屋上で裕也と話をして1週間、その後裕也の存在に気づいても私は話しかけることはなかった。
裕也は私に話しかけようとしてきていたけど、私は気付かない振りをしてそばを離れていた。
もう友達にも戻れない私達。
それは、私が招いてしまったことなのは分かっているけれど、出会って普通に話すことができない。
景山君とは仲良く付き合っている。
どこかぎこちないと感じる時があるけれど、景山君は優しい。
そんな景山君を好きになれるはずだと思う自分、好きだと思う自分。
どちらも私の今の本当の気持ち。



あずみに景山君との付き合いを続けると報告した。
すると、どういう経緯でそういうことになったのかすごい剣幕で聞かれてしまった。
それも当然のこと、景山君にお別れを言いに行ったはずの私が別れていないのだから。
そんな私にあずみは怒ってしまっている。
絶交だとまで言われてしまった。
そう言われるだろうと予測してあずみの所に行った私。
怒ったあずみは部屋から出て行ってしまい、その場に私と大樹が残された。
あずみの後ろ姿を見送っていた私に大樹は、
「本当にいいんだな。」
と、以前私に言ったセリフで話しかけてきた。
「今度こそ私は景山君を裏切ることはできない。
だから、この選択に後悔することはないわ。
裕也のことを好きだという気持ちはもう私の中にないわ。」
私は心の奥底に鍵を閉めて閉じ込めた裕也への気持ちを思いながら大樹の方を見ながら言った。
「咲、あの時自分の気持ちに素直になったと思ってたのにな。
まさかこんな展開になるとは思ってなかったよ。」
「そうね、でもそれも自分が決めたことだもの。
私はこれから景山君と幸せになるわ。」
「裕也とはなれなかったのか?」
「・・・・、遅すぎたのよ私達は。」
そう言って私は、あずみと大樹の家を後にした。



今私は景山君の家に一緒に帰ることが多い。
お互いの仕事の都合がつけばそうしている。
そうしようとどちらかが言ったわけではない、気づいたらそういうことになっていた。
半同棲状態の私達だったが、抱き合って眠ることはあってもお互いの身体を重ね合わせることはなかった。
あの日、私を襲ってしまったことを景山君は気にしていた。
私も、景山君に抱かれようとすると身体が強張ってしまう。
だから、私達はただお互いの温もりを感じられる距離で寄り添うことしかできないでいた。








「咲、今日は夕飯食べて帰ろうか。」
「うーん、でも家に帰ってゆっくりしたい気もするな。」
「そうか、じゃ家で何か作ろうか。」
「夏樹が作ってくれるの!?」
「咲が男の料理を嫌じゃなければね。」
「嫌じゃないよ、楽しみー。」
「じゃ帰ろうか。」
私と景山君は仕事が終わり待ち合わせの場所でそんな会話をしながら歩き出そうとすると、千佳ちゃんが私達の前に立っていて、立ち止まってしまった。
「どうしたの?」
「いいですね咲さんはいろんな人に想われてて。
私もそうなりたいな〜。」
千佳ちゃんはいつもの笑顔でそういうけれど、その笑顔はどこか笑えていなかった。
「え?」
「え?じゃないですよ。
景山君といい裕也さんといい、両手に花じゃないですか。
結局裕也さんは私の所には戻らないそうです。
いいですね、咲さんは幸せそうで。」
千佳ちゃんの言葉に私は何と答えていいのか分らなかった。

裕也は千佳ちゃんと付き合っていない。
でも、もう私はこれ以上どうすることもできない。
だから、千佳ちゃんのために出来ることはもうないのに、私は千佳ちゃんにかける言葉が見つからない。

「春日部さん、変な言いがかりはやめてくれないかな。
咲は先輩とは何でもないよ。
だから、先輩が春日部さんと付き合わなくなったのは咲のせいじゃない。」
「そうかしら、咲さんが思わせぶりなことを裕也さんにしたんじゃないの?
だから裕也さんは私と別れるなんて言ったのよっ。」
千佳ちゃんは私を睨みながら怒りを込めている口調でそう言うと、景山君の方を向いて言葉を続けた。
「あなたも気をつけないと咲さん裕也さんの所にフラッと行っちゃうかもよ。」
そう言い残して千佳ちゃんは私を睨みつけながら私達のそばから去っていった。
「春日部さんが言ったこと気にすることないよ。」
景山君は千佳ちゃんが私達の前から立ち去って行った後優しく声をかけてくれた。
「うん。」
私はそんな景山君にそう返事することしかできなかった。
頭の中で千佳ちゃんが言った言葉が離れなかったせいで。






千佳ちゃんとは職場で最近話していなかった。
話していなかったわけではないけれど、今までみたいにおしゃべりをすることがなくなり、仕事で必要な内容しか話すことがなかった。
話しかけようとしても、千佳ちゃんは私が近づいてくるのを感じると離れていってしまい、私はそんな千佳ちゃんに話しかけることができなくなっていた。
そんな私達の様子に安東さんは、
「何だケンカか?」
と、冗談混じりに聞いてきたけれど、私は笑って誤魔化すしかなかった。
裕也とのことでケンカしましたと安東さんに言うことはできなかったから。

千佳ちゃんがこんな態度を私にとっているのは、私のせいなんだよね。
私は友達も失くし、可愛い後輩もなくしてしまったということか。

そんな自分が可哀想だというよりも、情けなかった。
そんな私のそばに残ってくれたのは景山君しかいないと思うと、大切にしないといけないと思う。
こんな私を好きでいてくれる景山君を・・・・。








数日後、景山君が残業になってしまい、今日は帰るのが遅くなるということで、私は自分の家に帰ることになっていた。
仕事が終わり、駅に向かおうとすると、
「帰るのか?」
と、話しかけられた。
振り返るとそこには裕也が立っていて、いつもと変わらない笑顔を見せていた、
「そうよ。」
私はそう言って裕也の顔を見た後すぐに顔の位置を戻し、歩き出した。
すると、裕也はそんな私の後ろを3歩ほど離れた状態でついてくる。
私は気にしないようにして振り返ることなく歩いていたけれど、ずっと自分の後ろを歩かれていることが気になってしまい、とうとう後ろを振り返ってしまった。
「何でついてくるのよ!」
「ついてきてない、俺も帰るから帰り道が一緒なのは仕方ないだろ?」
「じゃ、裕也の方が歩くスピードは速いんだから先に行ったらいいじゃないの。」
「今日はゆっくり歩きたい気分なんだよ。
気にしないならいいだろ、別に咲の後を追いかけて歩いてるわけじゃないんだから。
そんなに気にするなんて自意識過剰なんじゃないのか?」
「そんなことないわよっ!」

誰が自意識過剰なのよっ!
後ろを歩かれたら気になるってもんでしょ!!

私は裕也の言葉にムカつきながらこれ以上話してもこのムカつきが強くなってしまうことを考えて再び歩き出した。
でも、心拍数がいつもより多くなってきていることにも気付いていて、そのことにも腹が立っていた。
裕也と話している時に心の奥底に閉じ込めてしまった箱がカタカタと音を鳴らし、私の心臓に信号を与えているけれど、そのことに私は気付きたくなくて、歩く速度を速めた。
そんな私の後ろを変わらず裕也が同じ距離を保ちついてきていた。
そのことに気付きながらも今の私は裕也を振り返ることはなかった。








駅に着き、改札口に近づいた私は裕也と離れることができると思い、さらに歩く速度を早めた。
でも、腕をつかまれ私は改札口を抜けることができなかった。
裕也が私の腕を腕をつかみ、自分の方に引き寄せてしまった。
「何するのよ!」
「このまま咲と離れるのは嫌だったから。」
裕也は私の怒りなど気にする様子もなく、飄々と言った。
そんな裕也に私の中の封じた思いが湧き上がるのを抑えるように私の心の中は怒りで満たされる。
私は裕也の腕を振り払った。
「私は裕也と一緒にいたくないのっ。
だからこんなことをされたら困るのよ!」
そんな私とは裏腹に、裕也は穏やかで落ち着いた声で私に話しかける。
「そんな事分かってる。
咲が俺といるのを望んでないことも。
でも、俺は咲のそばにいたい。
だから、迷惑だと分かっていても身体が勝手に動くんだよ。
勝手なことを言ってるのは承知の上だ。
でも、俺は咲を諦めることができない。」
「そんなの勝手な言い分だわ。
私には夏樹がいる。
だから、こんなことされても困るだけだわ。」
「そうだな。
でも、本当に咲はもう俺のことを好きじゃないのか?
少しでも俺のことを好きだという気持ちが残っているんであれば俺はその気持ちに賭けたいんだ。」
裕也はそう言って私を強く抱き締めた。
その腕の中は暖かく、私を包み込んでしまう。
その温もりに包まれたいと思う気持ちが私の心の奥底に沈ませている箱をこじ開けようとする。
でも、頭の中で危険信号が鳴り響く。
このままじゃいけない離れないと、と。
「離してっ!」
私は頭の中で鳴っている信号に従うようにそう言って裕也の腕の中から離れた。
そして、改札口に向かって走り出し、裕也の前から離れた。
そんな私を裕也は追いかけてきたけれど、きていた電車に飛び乗った私は裕也の視界から消えることができた。
私は裕也から離れることができたことに安心したのか、足から力が抜けていく。
でも、座り込むことはできなくて何とか踏ん張ることができた。

裕也、お願いもう私のことは忘れて。
私はもう景山君を裏切ることはできないの。
だから・・・・・。

そう思いながらも私の瞳から私の意志とは関係なく、涙が流れ出していた。

Copyright (c) 2007 machi All rights reserved.

面白かったよとちょっとでも思ってくれたら押してもらえるとうれしいです♪
よろしかったら感想も一緒に書いてもらえるとますますうれしいです♪

Novel

Top

Next

Back




検索サイトから来られた方は、 こちら からTOPへどうぞ。