切なくて、恋しくて

22

裕也に自分の気持ちを伝えることを決めた私は、もう遅いからとあずみが用意してくれた布団で眠った。
朝目覚めてみると、頭の中がすっきりしている気がした。
今まで悩んでいた気持ちを昨日言葉に出して決心をしたことが自分の気持ちを軽くしているのかもしれない。
でも、裕也に自分の気持ちを伝える前にやらなくちゃいけないことがある。
それは、景山君と話をすること、そして、自分の気持ちを正直に言わなければいけない。
昨日あんな風に電話を切ってしまって景山君はどう思っただろう?
もう気づいているのかもしれない、私が言いたいことを。
私の気持ちに気が付いていた彼なんだから。
景山君に会うのが怖い、でも逃げてちゃ駄目だ。
今まで逃げていたから周りの人を傷つけてしまっていた。
電話して話があると言おう。
そう決めた私は携帯をバッグから取り出した。
携帯の電源を切ってしまっていたから電源を入れた。
メールが来ているかもしれないと思い、受信してみると何通もメールが届いていた。
そのメールの送信者は景山君で、開いてみると、

『今どこにいるんだ、話がしたい』 
『咲、会いたい』

という内容が入っていた。
あんな状態で携帯の電源を切ってしまっていたんだから仕方がないのかもしれない。
景山君にこんなメールをさせてしまっていたのに、私はあずみ達に自分の話を聞いてもらって裕也への自分の気持ちに正直になることを決めた。
本当に景山君には申し訳ないことをしていると思う。
でも、気づいてしまった自分の気持ちには嘘はつけない。
私は携帯を持ちながら景山君にメールをしていた。








「今から景山君と話をしてくるね。」
「1人で大丈夫?」
「大丈夫よ、そんなあずみが心配するようなこと何もないから。」
「そうかなぁ、言っても別れ話をしに行くわけだから相手がどういう反応を示すか分らないんだから心配だわ。」
「景山君なら分かってくれると思う。」
「咲がそう言うんならもう私はここで見送るしかないわ。」
「うん、お世話になりました。
いい友達をもって私は幸せものだよ。」
「そう言ってもらえると友達冥利に尽きるわね。
頑張るのよ、咲。」
「うん、じゃお邪魔しました。」
靴を履きながらあずみと話をしていた私は、笑顔であずみに手を振ると家を後にした。
景山君に打ったメールの返事はまだこない。
でも、私は行かないわけにはいかなかった。






メールを気にしながらも返事がないまま景山君の部屋の前に着いた私は、チャイムを鳴らした。
すると、すぐに玄関は開きそこには景山君が立っていた。
その表情は怒っているようにも見えるし、落ち込んでいるようにも見えて、表情が読み取れなかった。
分かっていることは、いつも見せてくれる景山君の笑顔ではないということくらいだ。
「上がって、ここじゃ話もゆっくりできないから。」
景山君にそう言われ、私は言われたとおりに部屋の中に入っていった。
中に入るとソファーに座るように無言で促せれ、景山君は台所に向かった。
そして、コーヒーを淹れてから私の前に現れ向い合せに座った。
コーヒーを渡されたけど、重い沈黙の中なかなか口をつけることができなかった私だったけど、景山君との沈黙が耐えれなくてコーヒーに口をつけた。
その時、
「昨日はどこに行ってたの。」
と、景山君が静かに聞いてきた。
「友達の所に行って泊めてもらったの。」
「ふーん。」
再び沈黙の時間が流れてしまったけれど、今日は景山君に自分の気持ちを伝えにきていることを思い出し、話しだそうとする私に、
「それで?昨日の電話はどういうこと?」
と、私の顔をじっと見ながら聞いてくる。
やはりその表情には笑顔はなくて、無表情と言っていいくらいだ。
「昨日も言ったけど、俺は咲と別れるつもりはないよ。
咲が別れたいって言ってもね。
今さら先輩に咲を譲るつもりはない。」
「譲るとかそんなことじゃなくて、私は自分の気持ちに正直にならないといけないんじゃないかと思ってる。
裕也を好きだという気持ちのまま景山君と一緒にいるのは景山君を傷つけてしまうことだと思うから。」
「俺が傷つくかどうかは俺が決めることだ。
こんな別れ方をする方が俺を傷つけるとは思わないの?」
「今はそうかもしれない。
でも、この先ずっと付き合っていてももっと傷つけることになると思う。」
「そんな思うなんて予想ばかりの話は聞きたくないよ。
そんなこと最初から覚悟の上だ。
だからそんな理由で別れることはできないな。」
「私は自分に正直になるって決めたの。
だから、もう景山君とは付き合えない、ごめんなさい。」
「俺と別れたら先輩の所に行くんだ。
そして、仲良く付き合いだすわけだ。」
「それは・・・。」
景山君の言葉に言葉が詰まってしまう。
それは彼が言う言葉が真実だからだ。
このまま裕也の所に行って自分の気持ちを伝えれば裕也と付き合うことになるだろう。
だから、私はこれ以上何も話せない。
「両想いなんだからお互いの気持ちを言えば付き合いだすことになるんだろうね。
でも、今更先輩の所に戻ってどうするの?
咲は俺に身を委ねたのに。
そんな咲を先輩は受け入れるのかな?
ほかの男と寝てしまった咲と。」
景山君はニッコリ笑いながら私に告げる。
でも、眼は笑っていない。
だから、彼が静かに怒りを身体の中に秘めさせているのが分かる。
そんな彼からの言葉は私の胸を刺す。


確かに景山君に身を委ねてしまっている私に裕也はどんな反応を示すだろう。
今までの裕也だったらそんな私を受け入れてはくれないだろう。
それが景山君にも分かっているからこんなことを言っているんだということは分かる。
自分に素直になろうと決めたけれど、このまま裕也に自分の気持ちを伝えていいんだろうか?


景山君の言葉にいろんな考えが頭の中を廻る。
もしこのまま裕也に自分の気持ちを伝えることがないとしても、自分の気持ちには嘘はこれ以上つけない。
だから、
「景山君が言うように裕也は受け入れてくれないかもしれない。
それでも、今の私は裕也のことが好きだということに気づいた。
だから、これ以上自分の気持ちを偽ったまま景山君と付き合えない。
このことは私の中で変わらない。」
自分の正直な気持ちを伝える。
私にはもうそうすることしかできないから。
そんな私の言葉を聞いた景山君は、今まで見せていた笑顔を崩すことなく立ち上がり、私のそばに近づいてきた。
「咲、人を愛しいと思う気持ちと人を憎んでしまう気持ちは紙一重だと俺は思う。
咲のことがこんなに好きなのに、俺から離れていこうとする咲のことが今は憎らしい。
俺が先輩のことを好きでもいいと言って始まった付き合いだけど、今更咲と別れることなんて今の俺にはできないんだよ。
咲が離れてしまうと言うんだったら例え力ずくでもそれを止めるしかない。」
そう言って私をソファーに押し倒す。
「やめて!」
私は景山君が私を抱こうとしていることに気づき、私の手を抑え込む景山君の手を振り払おうとするけど、できなかった。
身体も上から乗られる形になり、動かすことができない。
「やめないよ。」
そう言って景山君は私の首筋に顔を埋める。
そして、唇を近づけ強く吸いついてくる。痛いほどに。
片手で私の手を押さえつけたまま自由になった手を私のシャツの下から忍ばせる。
そして、私の肌にじかに触れ、胸を強く揉んだ。
その動きは私を感じさせようとする動きではなく、怒りにまかせた動きだった。
そんな景山君の行為が私に恐怖心を起こさせる。


怖い・・・・。


私は景山君が怖くて、今の状況をどうすることもできなくて、泣くことしかできなかった。
泣いていることで私の身体は小さく震える。
そのことに景山君が気づき、動きを止めた。
「お願い、やめて・・・。」
私は小さい声でそうつぶやくのが精一杯だった。
すると、私の手を押さえつけていた景山君の手がゆっくりと離れていき、私の身体の上から景山君が離れていった。
そして、
「ごめん。」
と。
私はすぐに身体をソファーから起こし、バッグを手にして部屋から出て行った。
そして、靴を履いて外に出ようとしたけれど、景山君は後を追いかけてこない。
私の身体は震えていた。
さっきまで感じていた恐怖で。


景山君があんなことするなんて思わなかった。
でも、景山君にあんなことをさせてしまったのは間違えなく私。
優しい景山君をあんな風に変えてしまった、あんな行動をとらせてしまった。
私の考えは間違っていたんだろうか?
このまま景山君と付き合っていてもお互い不幸になるという私の考えは景山君を変えてしまった。
彼をあんなに変えてまで私はそばを離れるべきなんだろうか?


そう思うと、靴を履いたまま私はその場を動くことができなかった。
そして、しばらく考えた後、靴を脱いで景山君がいる部屋に戻った。
するとそこには、絨毯の上に座り込んでいる景山君がいた。
ゆっくりとそばに近づく私に、背中を向けたまま、
「何で戻ってくるんだ?
あんなことをした俺の所になんか戻ってくるな!」
そう言って景山君は私の方を見ようとはしない。
そんな彼の背中を見ていると、景山君から離れることは出来ないと思った。


私を思ってくれて、私を救ってくれた景山君を傷つけたまま裕也の所に行くなんて私にはできない・・・・。


自分の気持ちに正直になると決めていたけれど、そのことでこんなにも景山君を傷つけてしまったんだということに胸が痛んだ。


景山君を傷つけてしまうことは分かっていた。
けれど、私のために悲しんでいる景山君をみるのはつらい。
たとえそれが私の本当の気持ちを偽るものだとしても。


そう思い、景山君の背中にゆっくりと自分の身体を寄せ、頬をつけた。
「私が景山君のそばにいることで景山君が喜んでくれるのなら、私はあなたのそばにいる。」
そう伝えると、ゆっくりと私の方を向き、
「あんなひどいことをした俺のそばにいると言うの?
そんな俺のそばにいるのはつらいだろ?」
「ううん、つらくないわ。」
「咲が俺のそばにいてくれるなら俺は必ず咲のことを幸せにする。
だから、俺のそばにいてくれ。」
「そばにいるわ。」
そう言って私は景山君を抱きしめた。




自分が選んだこの選択が合っているのか間違っているのかはどうでもいいことなのかもしれない。
分かっているのは、もう景山君をこれ以上傷つけることはできないということだけ。


たとえそれが自分の気持ちを偽っていたとしても・・・・。
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