切なくて、恋しくて

21

エレベーターが1階について扉が開くと同時に走り出した私は、裕也がついて来ないよう急いで会社から離れることに必死になっていた。
走りながら次第に息切れをしてきて、走るスピードも落ちて立ち止まってしまった。
荒い息を吐きながら屋上での出来事を思い出していた。

「でもそれは、ただのごまかしだ。
思いがないのにそばにいるのはお互いを苦しめるだけだ。
そんなのは幸せなんかじゃない。」
裕也の言葉が私の頭の中で繰り返されている。

私が景山君を大切に思っているのは真実。
だから私は景山君と共に過ごそうと決めた。
でも、それは裕也が言うようにごまかしなんだろうか?
幸せになれると思ってた。
私は景山君といることで、裕也は千佳ちゃんといることで。
そんな私の思いはみんなを苦しめるだけなんだろうか?
自分が正しい判断をして行動したことなのに、どうしたらいいのか分からなくなってる。
もう一度考えないといけない。
これからどうしていくのが1番いいのか・・・・。

息も整い、歩き出すと携帯が鳴り出した。
裕也からの電話かと思いドキッとしながら画面を見ると、景山君の名前が表示されていた。
景山君の名前を見て、裕也かもしれないと思って鳴らした胸が、景山君と知ってますます鳴り出す。
胸が鳴り出す意味は裕也からかもしれないと思った時とは違う音だと思いながら携帯に出た。

「もしもし。」
「咲?遅いから電話したんだけど、もう話は終わったんだよね。
今どこにいる?迎えに行くから教えて。」
「・・・・、迎えに来なくていいよ、景山君。」
「咲?何で迎えに来なくていいんだ?それに、景山君って。」
「私、いろいろと考えないといけないから。」
「何を考えるんだ?
もう十分考えて俺と一緒にいることにしたんだろ。
それならもう何も考えることないじゃないか。」
「そう思ってた。
でも、そうじゃないかもしれない。
今の私は自分の行動が正しい選択だったのか分からなくなってきてるの。
そんな気持ちのまま景山君に会うわけにはいかない。
だから、私に考える時間を欲しいの。」
「何があったんだ?」
「それは・・・、」
「先輩と会ったのか?
春日部さんと会うって言ったのは嘘だったのか?」
「千佳ちゃんと会うって言ったのは嘘じゃないっ。
千佳ちゃんと会ったの、そして話をして裕也に会わないといけなくなって。」
「どうして先輩と会わないといけなかったんだ!
咲はもう俺の彼女なんだよ。
それなのに、先輩に会わないといけない理由がどこにある。
咲、会ってゆっくり話をしよう。
電話じゃきちんと話ができないから。」
「ごめん、時間が欲しいの。
考えたら連絡するから。」
「咲がどんな考えになろうと俺は咲と別れない。
絶対に。」

私は景山君の言葉にこれ以上答えることが出来なくて、通話を切った。
そして、電源を切り、携帯をバッグへなおした。

景山君が言った、私がどんな考えになろうと別れないと言った言葉の意味は、私の今の裕也への気持ちに気づいているんだろうか?
気づいているのかもしれない。
私が心の奥底で裕也への思いを諦め切れていないことを。
最初から私の裕也への恋心に気づいていた景山君なんだから当然なのかもしれない。
結局私がしていることは、誰も傷つけないですむようにと思いながら反対のことをしているのかもしれない・・・・・。









「ほら、言わんこっちゃない。」

私は景山君の電話を切った後、あずみの家に向かった。
1人ではどうすることも出来なかったから。
自分の気持ちなのに自分でどうすればいいのか分からなくなるなんて思いもよらなかったけど、今の私にはあずみに頼るしかなかった。
そして、あずみの家に行き今までの経緯を話した私にあずみが言った言葉は、耳に痛いものだった。
「だから言ったのよ、本当にいいのかって。
第3者から見たら咲の選択は無理があったのよ。」
「だって・・・。」
「だってじゃないわよ!
恋愛なんて好きという気持ちだけですむ話じゃないの。
両思いにあるのは奇跡みたいなもんなのよ。
今回の咲の気持ちも分からないわけじゃないけど、結局咲は自分が傷つきたくないから逃げてるのよ。
その結果がこれよ。
咲がやってることはみんなを傷つけてるのよ、いい加減気づきなさい!」
私は、母親から怒られているのではないかと錯覚してしまうほどあずみは説教モードに入っている。
でも、あずみに言われる1つ1つが胸に痛い。
きっとそれは自分が気づかないようにしていたことを言われているからだ。
私は自分が傷つきたくなかった。
だから、逃げてしまっていた。
千佳ちゃんからも裕也からも。
そして、その逃げ道を景山君にしてしまった。
景山君を大切な人だと思いながらも、裕也への思いを忘れることなんかできないのに。
あずみはそのことに気づいて私に警告してくれたのに私はその警告を自分が傷つきたくないから無視をした。
あずみが言うように、その結果がこれだ。
「咲は優しいから他の人を傷つけたくなくて行動したのは分かってる。
でもね、その行動が余計傷つけることになるのよ。
きれいごとだけじゃ恋愛はできないの。
両思いの咲と裕也が他の人と付き合っても、化かしあいなだけ。
そんなの幸せとは言えないわ。
その点は裕也と同意見なわけだけど。
で?咲はどうしたいわけ?」
あずみは腕を組みながら私の答えを待っている。
「そんな体勢で待たれたら咲も話しにくいんじゃないか?」
今まで喜美ちゃんと遊びながら私とあずみの話を聞いていた大樹が話しかけてきた。
「私のどこが話しにくいっていうのよ!」
「そんな腕を組まれて待たれてもな。
あずみ少し落ち着け。
そんなにカッカしても仕方ないだろ、咲もあずみの言葉でいろいろ考えたみたいだし、ゆっくり聞いてやれよ。」
「わかったわよ。」
大樹に言われてあずみは、組んでいた腕を緩めソファーに座り深呼吸をした後、
「ごめん、少し興奮しすぎたわ。」
と、落ち着いた口調で言った。
「いいのよ、私のことを思って言ってくれてるんだし。
確かにあずみが言うとおりなのよね、私は自分を傷つけたくなかっただけ。
最初から千佳ちゃんに言ってれば良かったのよね、裕也が好きだって。
ううん、裕也本人に好きだって言えばよかったのよ。
そうすれば、こんな風に自分の気持ちから逃げることもなくって、景山君や千佳ちゃんを傷つけることもなかった。」
「ちょっと違うかもしれないぞ。」
「え?」
大樹がニッと笑いながら考えていなかったことを話し出した。
「咲が早くから裕也に告白してても、奴は自分の気持ちに気づかなかった可能性が高い。
今回後輩君が咲と付き合いだしたことで自分の気持ちに気づいたまぬけな奴だからな。
だから、咲がとった行動すべてが悪い方向に進んでるわけじゃないと思う。
後輩2人にとってはいい気持ちはしないだろうが、結果だけを言えば必要なことだったんじゃないかと思うよ。」
「それって、聞きようによっては後輩2人が裕也と咲の後押しの道具みたいに聞こえるんですけど。」
「そんな風に言ったら聞こえが悪いだろ。
まーでも、そういうことかな。
俺は後輩達のことは知らないし、裕也と咲の友達だから2人に幸せになって欲しい。
だから、2人よりの考えになってしまうのは仕方ないことだろ?
あずみも言ってただろ、恋愛はきれいごとじゃできないって。」
「確かに言ったわね。
私も咲が幸せになってくれたらいいんだけど。
だから咲が幸せになってくれれば私もうれしいわ。」
さすが夫婦、いつの間にか同じこと言ってる。
でも、景山君と千佳ちゃんには悪いことをしたと思う。
それなのに、私は本当に裕也に自分の気持ちを答えていいんだろうか?
「咲、また変なこと考えてるでしょ。」
「変なことなんて考えてないわよ。」
「いーえ、考えてた顔してる。
当ててあげましょうか?
私は裕也と付き合っても本当にいいのかしら?てことを考えてたでしょ。」
私はあずみに自分が考えていたことを当てられてしまい、どういう顔をすればいいのか迷ってしまった。
「やっぱりね、咲が考えそうなことは分かるわよ私には。
咲、その思いが人を傷つけてるのよ。
裕也のことが好きなんだったら素直になるの。
そうするのが1番いい方法よ。
どうするの、咲。」
あずみに言われて今まで言われた言葉を頭の中で繰り返し、自分の気持ちに聞いてみた。

私は、裕也が好きだ。
それは7年前から変わりがない。
弱い私は7年という長い片思いから逃げていた。
でも、自分の気持ちを見つめ直すとその思いから逃げれないことに気づいた。
気づくのに時間がかかって、人を傷つける結果になっても私はもう自分の思いに嘘はつけない。
だから、私の思いを裕也に伝えよう。

「私はやっぱり裕也が好き。
裕也に自分の思いを素直に伝えたい。」
「決心したのね。」
「うん。」
「人間素直が1番よ。
でも、これから後輩2人にも伝えないといけないからつらいことになるかもよ、大丈夫?」
「それは仕方がないわ、自分がしてしまったことなんだから。
どんなにつらくても、自分の気持ちを誤魔化し続けてももっと傷つけることになるってことにやっと気づいたの。だから大丈夫。
ありがとう、あずみ、大樹気づかせてくれて。」
私は今自分に出来る最高の笑顔で2人にお礼を言った。
そんな私に2人は微笑み返してくれた。
その顔が私の新たな選択の後押しをしてくれる。
だから私は頑張れる。
きっと。
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