切なくて、恋しくて

20

千佳ちゃんが笑顔で私と別れて歩き出すうしろ姿を、見えなくなるまで見つめていた私は、ゆっくりと歩き出しながらこれからどうしようかと悩んでいた。
千佳ちゃんと約束した、裕也のことを何とも思っていないと裕也本人に言うという約束だけど、本当に言うことができるのか不安になっていた。
裕也を諦めると決めていながらも、裕也への思いを断ち切れているわけじゃない。
そんな私に言うことができるだろうか?
でも、言わないといけない、そうしないといけないだけの理由があるから。

諦めが悪いというか意気地がないというか、景山君と一緒になると決めたくせに、千佳ちゃんから言われた言葉でこんなにも気持ちを乱してしまうなんて・・・・。
景山君と前に進むためにも裕也に言うべきなんだ、何とも思ってないって。
そうすれば、すべてがうまくいく。
何を迷うことがあるの咲、迷ってる場合じゃないのよ?

改めて自分の気持ちに言い聞かせるように決心を固めたその時、携帯が鳴った。
それは電話ではなくメールだった。

『咲、話終わった?
1人で家にいるのは寂しいから外に出て咲からの連絡待つことにするよ。
終わったら連絡して。』

それは、景山君からのメールだった。

夏樹が待ってる。
夏樹のところに帰らないと・・・・。

そう思った私がとった行動は、裕也に電話をかけることだった。








裕也に電話をすると、電話口で裕也が息をつめたような様子に私の電話に驚いているのが感じられた。
今から会いたいと伝えると、裕也は静かな口調で分かったと答えて待ち合わせの場所を決めた。
裕也の口調は、知り合ってから初めてじゃないのだろうかと思うくらい聞いたことがない静かな口調だったから、私の緊張を強くする。
裕也に電話することでこんなに緊張したことがない私は、これから言わなければいけない言葉を何度も頭の中で反芻しながら裕也が来るのを大きく鳴り響く胸の音を感じながら待つしかなかった。





裕也と待ち合わせをした場所、それは会社の屋上だった。
屋上は私の憩いの場所になっていて、今の私の落ち着かない気持ちを少しは落ち着かせてくれるかもしれないという願いを込めてこの場所にした。
でも、空を見上げコーヒーを飲むといういつもの行動をしていても、どこか落ち着かない。

落ち着かないと裕也に上手に言えないわよ咲。

そう自分に声をかけ、空を見上げた。
空を見上げると、雲はゆっくりと流れている。
そして雲にも色んな形がある。
大きくていびつな物、柔らかそうに見える物、それらの雲は本当にゆっくりと移動をして、さっきまで見ることができなかった雲が交代して私の目に映る。
雲は今の私の心と関係なくゆっくりと流れ空の表情を変えていく。
雲の流れのように私は、裕也への気持ちを景山君へと移すことができるはず。
たとえそれがゆっくりだとしても。
でも、裕也から言われた言葉がいつまでも私の胸に刺さって抜けない。
その言葉が私の決心を躊躇わせてしまう。
裕也に私の気持ちを伝えたい、でももうそれは出来ない。
そんな葛藤が景山君に抱かれた今でも私の中で渦巻く。

素直になりたい、なっては駄目。

私の本当の気持ちは・・・・・?




「咲。」
空を見上げたまま考え込んでいた私に、裕也が声をかけてきた。
その声に反応してゆっくりと裕也の方を振り向いて裕也の顔を見ると私の胸は高鳴る。
「咲、話って何だ?
俺が欲しい言葉を言ってくれるのか?
・・・・・・、俺は今まで咲に甘えてきたと思う。
だから自分の気持ちに気づくのが遅くなった。
そんな俺の気持ちを咲に押し付けてしまっているのは分かっている、俺が最低な奴だってことも。
でも、俺は咲を失いたくない。
千佳ちゃんにも別れを言ってきた。
千佳ちゃんには申し訳ないことをしたと思ってる。
そう思っても、気づいてしまった自分の思いには嘘はつけなかった。」
裕也はゆっくりと私に近づきながら静かな口調で私に自分の気持ちを伝えている。
それは、裕也の素直な気持ちなんだということが分かる。
私も裕也を失いたくない、裕也のそばにいたいとずっと思ってきた。でも・・・・。
「裕也、私はあなたのことを何とも思ってない。
だから、千佳ちゃんのところに戻って。
私には夏樹がいる、だから裕也の気持ちに答えることはできない。」
私は裕也に伝えるべき言葉を自分の声が震えださないように気をつけながらゆっくりと話した。
私の言葉を聞いた裕也は、表情を変えることはなかったが、私に近づくことを止め、立ち止まった。
そして、私の顔をじっと見つめたまま話し出す様子がない。
私と裕也の間に流れる沈黙の時間。
その沈黙の時間に耐えれなくなったのは私だった。
「そういうことだから。」
そう言って裕也の横を通り過ぎて屋上から離れようとすると、私の腕を裕也が掴んだ。
「咲、話はまだ終わってない。」
「私は終わったわ。
夏樹が待ってるの、だから帰らないと。」
「咲が夏樹のことが好きなのは分かってる。
でも、俺は咲への気持ちを忘れることはできない。
だから、千佳ちゃんの元には戻れない。」
「千佳ちゃんの元に戻れない?」
私は腕を掴まれたまま立ち止まり、裕也の顔を見上げた。
「そうだ、咲を好きでいるのは俺の自由だ。
千佳ちゃんの元に戻らないと決めるのも俺の自由だ。」
「それじゃ駄目なのよ裕也。
そんなことしたら千佳ちゃんが悲しんでしまう。」
「そうだとしても俺には千佳ちゃんにこれ以上何もしてあげることはできない。」
「そんなことはないわ。
裕也が千佳ちゃんの所に戻れば千佳ちゃんは喜ぶし幸せになれる。」
「でもそれは、ただのごまかしだ。
思いがないのにそばにいるのはお互いを苦しめるだけだ。
そんなのは幸せなんかじゃない。」
裕也の言葉に私は目を見開いてしまった。
まるで私のことを言われているようだったから・・・・・。

私がしていることはごまかしているだけ?
自分の気持ちをごまかしている私は夏樹と幸せになることはできない?
じゃ、私がしていることは・・・・・。
でも、もう後戻りなんかできないっ!

「そんなことないわ。
幸せになれるはずよ。
私達は遅すぎたのよ裕也。」
「何が遅いんだ咲。
あの夜にも言ったな、遅いって。
咲、咲の気持ちは・・・。」
「言わないでっ!
言ってももう何も変わらない。
誰も傷つけたくないの!!」
私は裕也の腕を振りほどき離れようとしたけど、再び裕也に腕を掴まれてしまい、腕の中に閉じ込められてしまった。
裕也の胸の温もりに目の奥が熱くなるのを感じたけど、このまま裕也の腕の中に包まれていたいという気持ちを奥に閉じ込めた。
「離してっ!」
「駄目だ、俺達は自分達の気持ちをよく話し合う必要があると思う。
咲、お前は俺のことを好きでいてくれてたのか?
それなら、俺達は両思いだということか?」
「そうだとしても、遅いって言ってるの!」
「何が遅いんだっ!」
「私には夏樹がいる、裕也には千佳ちゃんがいる。
そんな私達がお互いの気持ちに気づいても遅いって言ってるのよっ。
これ以上私の気持ちをかき乱さないで!
夏樹は私の大事な人なの、傷つけたくないの。
そして、千佳ちゃんのことも傷つけたくない。
私は裕也に自分の気持ちを7年間伝えることができなかった。
そんな私を支えてくれようと夏樹はしてくれている。
だからそんな彼のそばにいないといけないのよ!」
私は裕也の胸を突き飛ばしながらそう叫ぶと、屋上の扉を開け、階段を駆け下りた。
裕也が、
「咲っ!」
と叫んでいる声が聞こえていたけど、私は自分の足を止めることは出来ず、裕也のそばから離れることしか考えることは出来なかった。
そんな私を裕也が追いかける音が聞こえてきたけど、エレベーターに乗り1階のボタンを押した。
ドアが閉まるとき、離れた場所で裕也の顔が見えた。
エレベーターが動き出し、壁に背中をもたれかけた。

もうどうしたらいいのか分からない。
これからどうしたらいいの・・・・・?
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