切なくて恋しくて

会社から出ると、昼に感じていた日の温もりは当然のようになく、冬空の冷たい風が私の身体を冷やしていく。
首に巻いたマフラーに顔を近づけながら寒さを少しでも減らそうとしたけど無理な話で、私はさっきまで重くも軽くも感じた足を早く動かし、裕也が待つ店に向かっていた。
裕也が待つ店は、2人でよく行く居酒屋だ。
そこは、日本酒の種類が多く、日本酒が好きな私達には相性が合っている上に、料理も美味しいので夕飯を食べに行こうという時には、その店に行くことが多い。

気に入っているお店だけど私だって女なんだから、たまにはちょっとお洒落にイタリアンなんか言ってもらいたいものよね。
その後はバーにちょっと寄ってみたりしてさ。
別にいいんですけどね。
裕也が私を友達としてしか見てないんだから当然だし。
はっ、いけないわ、何だか卑屈な考えが頭の中を回ってる。
裕也と一緒に夕飯食べるのなんて久しぶりなんだから素直に喜ばなきゃ。
遅くなったから裕也待ってるだろうな、急がなくちゃ。

私は、落ち込みそうになった自分の気持ちを浮上させつつ、裕也が待つ店までの道のりを早足になりながら向かった。






店に着いて、店内を見回すと、裕也が私に手を上げて席の場所を知らせてくれた。
「ごめん、遅くなった。」
「大丈夫だよ、俺も会社出るの遅くなったからさっき着いた所で飲みだしたところだから。
咲は何飲む?」
「裕也は日本酒飲んでんの?」
「当然、咲も同じのでいい?」
「うーん、今日はとりあえずビールって感じだな。最初はビール頼むことにする。
後は、がっつり食べたいわ。」
「がっつりって、もう少し可愛い言い方あるだろ。」
「裕也に可愛く言ってもねぇ〜。」
「なんだよ、俺じゃ駄目って言ってんの?」
「だって、今更裕也に可愛いところ見せても一緒じゃない。
それだったら他の男の人に見せるわよ。」
「そうですか、まーいつもの咲らしいからいいけどな。」
「はい、じゃー私の分注文するから。裕也何か追加で注文するのある?」
私は裕也といつものようにメニューを見ながら食べたいものを探しつつ、軽い感じの会話をしている。

裕也と会話する時はいつもこんな感じになる。
仲のいい友達の会話を。
でも、いつも心の奥底に裕也の言葉の一部が引っかかる。

『可愛い言い方あるだろ』

裕也にしてみればいつもの軽口なんだろう。
でも、

私だって裕也の周りにいる女の子達みたいに可愛く甘えたように話してみたいわよっ。
でも、私の女の部分が見えたら嫌がるのは裕也じゃない・・・。

裕也に分からないように小さなため息をつきながらそう思った。




昔、酔った時に隠していたはずの私の中にある女の部分が出てしまい、甘えてしまったことがある。
ちょっとしたことだったのに裕也は、顔をしかめ、目を逸らしたのを覚えている。
そのことに気づいた私は、酔いも一気に冷めてしまい、冗談にしていつもの自分に戻った。
何故そこまで裕也が私の女としての部分が出るのを嫌がるのかは分からない。
怖がりの私は、確認したことがないから。
でも、私を女として受け入れてくれる見込みがないのに、そんな部分を見せて裕也が自分のそばから離れていくのは嫌だ。
だから、私は気の合う女友達のままだ。

時には裕也の言葉に心に傷を入れながら・・・。




注文が終わった私の前にしばらくするとビールが運ばれてきた。
そのビールジョッキを持ち、裕也と乾杯をした。
お疲れ様、と言いながら。
「んー、ビールがおいしーっ!」
私は勢いよくビールを飲んだ後、そう言った。
「ホント咲は美味しそうに飲むよな。」
「だって美味しいんだもん。
美味しいものは美味しいと言わないといけないと思うの私は。」
「そんな所が見てて気持ちいいよな咲は。」
「そう?」
そんなことを言っていると、注文した料理が次々に運ばれてきた。
お腹が空いていた私は、裕也の話を聞く前に食事を始めた。

だって、お腹が空いてる時って人間冷静になりにくいもんだし、しかも、裕也の恋愛話聞くんだから冷静に聞けるような状態にしとかないとね。

私はそう思いながら次々に運ばれてくる料理に箸をつけていった。






「で?今回の話は何なの?」
私は一通り運ばれてきた料理を食べてお腹を落ち着かせた後、裕也から今日の本題の話を聞くために話をふった。
「お腹いっぱいになって俺の話聞くの思い出してくれた?」
裕也はおかしそうに笑いながら私に聞いてくる。
「忘れてないわよ。今日はそれが目的で私裕也に呼び出されてるんだから。」
私は少し怒った振りをしながら裕也に答えた。
「忘れてなかったらいいんだよ。
じゃ、日本酒でも飲みながら聞いてもらおうかな。」
そう言って裕也は私のお猪口に日本酒を注ぎ話し始めた。
「今回はうまくいくと思ったんだよなぁ。」
「どこら辺でそう思ったのよ。」
「だって、記念日好きらしいからそれに合わせて、彼女が作った記念日にせっせとつきあってたんだぜ?
それなのに、『もう無理』なんて言われる俺って可哀想じゃない?」
「まー可哀想かもね。
でも、どうせ他の女の人にも手出してたんじゃないの?」
「それはない。
付き合ってる子がいる時はその子一筋だから俺。」
「そう?噂で営業先の受付嬢と食事してるって話聞いたんだけど。」
「食事ってのは仕事のお付き合いだろ?
だから浮気なんかじゃないよ。」
裕也はにっこり笑い悪気がない笑顔でそう言った。

どこの営業が受付嬢と接待なんかするのよ。
まったく、裕也の恋愛の観点てどっかずれてるわよね。

「受付嬢と食事なんか行くから振られるのよ。
大人しくしといたらいいのに。」
私はあきれたような口調でそう言うと、
「営業はいろんな所と接点作っといた方がいいんだよ。
だから、食事も行きますよ俺は。」
と、私の忠告なんか聞く気もないと言わんばかりの返事をしてくる。
「だったらいつまでも付き合う子と長続きしないわよ。
たまには私の忠告聞きなさいよ、折角仕事で疲れてんのに話きいてやってるんだから。」
「咲には感謝してます。
でも、それとこれは別。
声かけられるのに無視したらその子が可哀想だからな。」
「何なのよその理屈は。」
「モテるのは俺にはどうしようもないだろ?
だから、博愛主義者になるのは仕方ないと思わないか?」
「思わないわよ。
ったく、その来るもの拒ます去るもの追わずの精神でいるといつか背中から刺されるわよ。」
「愛されすぎて殺される、それもいいかもな。」
裕也はおかしそうに声を出して笑いながらそう言った。
「何怖いこと言ってんのよ。
ホント裕也の彼女になる子は大変よね。
大事にしてやんなさいよね。」
「大事にしてるよ、俺が出来る範囲でね。
それが駄目って言われたら別れるしかないだろ?」
「刺されてしまえ。」
「物騒なこと言うなぁ。」
私は話を続けながら日本酒を飲みながら、

何でこんないい加減男なんか好きなんだろ私。

と、自分の気持ちに問いかけていたりした。
でも、この問いかけはいつものことで、裕也が付き合っている子と別れるたびにいつもこんな会話をしている。
だから、裕也に何を言っても一緒なのは分かっているのに、決まり文句のように言ってしまう私。

ホント馬鹿だなぁ。






私達は裕也の失恋話の後、他愛もないことで話を盛り上げさせ、店を出る頃には0時近くになっていた。
「今日は俺の話聞いてもらったんだから奢るよ。」
そう言って裕也が会計を済ませてくれた。
これもいつものことなので、私は裕也の言葉に素直に甘えた。
店から出ると、お酒で火照った身体に夜風が心地よく感じた。
「帰るか。」
「そうね、明日も楽しい仕事だしね。」
「楽しくはないけどな。」
そう言って私達は顔を見合わせて笑った。
タクシー乗り場に立ち、順番を待っていると、
「いつもありがと咲。
咲に話聞いてもらうのが一番落ち着くよ。」
裕也は穏やかな笑顔でそう言った。
「友達なんだからいつでも話は聞いてあげるわよ。」
「いい友達持って俺は幸せもんだな。」
そんな会話をしていると、タクシーの順番が来て、私が先にタクシーに乗り込んだ。
「また明日な。」
「また明日ね。」
どちらからともなくそう言って私を乗せたタクシーの扉が閉じた。
私は運転手さんに行き先を言った後、自分の鼻の奥がツンっとしたものが突き上げてきているのを感じたが、それ以上強くならないように落ち着かせるために両手を膝の上で強く握りしめた。
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