切なくて、恋しくて


19


朝目覚めて寝返りをしようと身体を動かすつもりが、思うように動けなかった。
そのことに驚いて目を開けると、景山君の顔が目の前にあることに再び驚いてしまった。

そうだった。
私は昨日景山君と・・・。
景山君眠ってる、今私が動いたら起こしちゃうかな?
自分から景山君を誘ってしまう形になったけど、今景山君の腕に抱かれている状態は何だか心地いい。
もう少しこの腕の中でまどろんでいたいと思ってもいいかな。

そう思い目をゆっくり閉じた私は、いつの間にか景山君の腕の中で眠っていた。





「咲さん、そろそろ目を覚まして。」
再び眠ってしまっていた私に囁いて声をかける人がいた。
声をかけられゆっくりと目を開けると、景山君が私を腕の中に閉じ込めたままの状態でニッコリと微笑みながら見つめている。
「景山君。」
「咲さんおはよう、よく寝てたから起こさないほうがいいかと思ったんですけど、そろそろお昼になるから起こしちゃいました。」
「お昼?もうそんな時間なんだ。
ごめんねいつまでも寝ちゃってて。」
「お昼になるからというのは言い訳で、本当は自分だけ起きてるのは寂しかったから咲さんを起こしたんです。
折角咲さんと夜を過ごした後の朝だから。」
「何でいつもそんな照れくさくなるようなこと言うかな景山君は。」
「普通に言ってるだけなんですけどね。」
「私が照れくさくなるのが分かってて言ってる気がするんだけど気のせい?」
「気のせいですよ。
俺が咲さんにそんなことするわけないでしょ?」
そう言いながらも景山君の目は笑っている。

やっぱりわざとじゃないのっ。
人をこんなに照れくさくさせるなんて。

「もう起きるから腕をはずして。」
「起きないといけないのは分かってるんですけど、やっぱり咲さんをこの腕の中から離すのはおしいかも。」
ギュっと私を抱きしめながら景山君は言って、次第に手が私の背中をゆっくりと下に下がりながら触れてくる。
「もう起きるのっ!
だから背中で動かしている手を止めて景山君。」
「残念ですけど起きましょうか。」
そう言って動かしていた手の動きを止めて、ゆっくり私から腕をはずした。








ようやくベッドから出た私達は、遅い朝ご飯を摂っていた。
「咲さん、今日これからどうします?」
「そうね、ところで景山君。」
「何ですか?」
「何時まで私に敬語を使うの?
何だかよそよそしく感じて寂しいんだけど。
それに、私が年上なのを意識されてるのかと思って悲しくなるわ。」
「そんなつもりはなかったんですけど。
じゃ、咲、これからは敬語はなしにするよ。
じゃ咲も俺のこと君付けじゃなくて名前で呼んでくれよ。」
「そうしてくれた方がうれしいわ夏樹。」
「でも、咲って呼び捨てにするの何だか照れくさいな。」
「そう?じゃ、いつも私が照れくさくさせられてるからお返しできたわね。」
「お返しだったんだ。
でも俺はいつも咲にはかなわないのにお返しされるなんて悲しいよ。」
そう言う景山君はわざとらしく悲しそうな顔をしているからその様子がおかしくて私は、思わず笑ってしまった。
すると、景山君もそんな私を見て笑い出した。

景山君と過ごす穏やかな時間、そんな時間が私には合っているのかもしれない。
裕也と過ごす時間は、うれしくもあり、胸が苦しくなる。
だから、こんなに穏やかな時間を過ごしたことはなかった。
裕也への思いを箱に入れて蓋をする。そして、奥深くに沈めてしまおう。
そうすることで、きっと気づいたら忘れているはず、裕也への想いを。
そうすることがみんなが幸せになれる1番の方法。




景山君とご飯を食べ続けていると私の携帯が鳴り出した。
バッグから携帯を出して液晶画面を確認するとそこには、千佳ちゃんの名前が表示されている。
名前を確認した私は、胸が大きくドクンッと鳴ったことに気づきながらも急な千佳ちゃんの電話にすぐに出た。
「もしもし、千佳ちゃん?」
「咲さん、聞いてほしいことがあるんです。
「何?」
「・・・・・、電話じゃうまく話せそうにないです。
今から会ってほしいんですけど、駄目ですか?」
「駄目じゃないけど、ちょっと待ってね。」
私は通話口を手で押さえながら景山君の顔を見て、
「千佳ちゃんが話したいことがあるみたいなんだけど、電話じゃ話にくいっていうから今から会いに行こうと思うんだけどいいかな?」
「2人でいたいところだけど、仕方ないね。」
「ありがとう。」
そう言って押さえていた手を外し、
「千佳ちゃん今から大丈夫よ、どこかで待ち合わせしようか。」
「咲さん今1人じゃないんですか?」
「え?うんそうなの。
夏樹と一緒にいるの。」
「そうですか、2人の邪魔しちゃいましたね。
でも、仲良くていいですね。
じゃ、前一緒に行ったことがある喫茶店で待ってます。」
「あそこね、分かった。
用意したらすぐに出るわね。」
「はい、じゃまた。」
電話を切り用意をするために立ち上がると、
「話終わったら帰ってくる?」
と、夏樹も一緒に立ち上がりながら聞いてきた。
「そのつもりだったけどよかった?」
「そうしてくれるならうれしいよ。
帰って来る時電話して、時間がちょうどよければそのまま夕飯でも食べに行こうよ。」
「そうね、じゃ電話するわ。
よし、早く用意しなくちゃ。」
「咲、ちょっと待って。」
「な・・・・っ」
言い終わる前に私の唇を景山君が塞いでしまった。
「寂しいから咲を充電しておかないとね。」
夏樹はニッコリ笑いながらそう言うと、
「咲早く用意しないと。」
と、自分が私を引き止めていたのを忘れたように急かした。
そんな夏樹を少し睨みつつも甘い時間に私の胸は温かく暖められていた。








待ち合わせの喫茶店に着くと千佳ちゃんはすでに来ていて、私に手を上げて場所を知らせてくれた。
「千佳ちゃん早かったのね。」
「はい、あの後すぐに出たんで。」
「そっか。」
私は椅子に座り、コーヒーを注文した後千佳ちゃんの方を向くと、いつもの千佳ちゃんだったら笑顔で話しかけてくるはずなのに、今日の千佳ちゃんは俯いてなかなか話だそうとしない。

どうしたのかな千佳ちゃん。
こんなに大人しい千佳ちゃんを見たのは初めてだから心配だわ。
今から話そうとしていることに関係してるのよね。

何も話さないままでいると、コーヒーが運ばれてきたので口をつけると、
「咲さん。」
と、今まで話出さなかった千佳ちゃんが声をかけてきた。
「何?
千佳ちゃん、本当に何があったの?
こんなに落ち込んでる千佳ちゃん見たの初めてだから心配しちゃうわ。」
「昨日裕也さんが・・・・。」
「裕也がどうしたの?」
千佳ちゃんの口から裕也の名前が出て、ドキッとしてしまった私だったけど、そんな素振りを見せないようにしながら千佳ちゃんに問いかけた。
「昨日裕也さんが私と別れたいって言ったんです。」
「え!?」
突然の千佳ちゃんの話に私の頭の中は一瞬真っ白になってしまった。

千佳ちゃんと別れたい?
裕也は何を考えてるの?

「昨日夜遅く裕也さんから会いたいって電話がかかってきたんです。
うれしくて会いに行ったら裕也さん真剣な顔をしてて。
それからすぐに別れたいって言われました。
急にそんなこと言われても納得できなくて、分からなくて裕也さんにそう言ったんです。
そしたら裕也さん、好きな人がいるから私とこれ以上付き合えないって・・・・。」
千佳ちゃんは途中から涙を流しながらも昨日の出来事を私に伝える。
そんな千佳ちゃんの顔をよく見ると、一晩中泣いていたのか、目の周りが腫れぼったくなってしまっている。

裕也千佳ちゃんに好きな人がいるって言ったって、それはもしかして私のこと?
昨日家の前に裕也は立っていた。
裕也の前から走って逃げた後に家の前にいたってことは、その後に千佳ちゃんに会いに行ったんだろうか?
そして、千佳ちゃんに別れを切り出したんだろうか?
裕也は千佳ちゃんに私のことを言ったんだろうか?
私はこんな風に千佳ちゃんを悲しませたくなかった。
だから、夏樹を選んだ。
それなのに今目の前で千佳ちゃんは泣いている・・・・。

「裕也さんは言ってました、咲さんのことが好きだって。
咲さんは裕也さんから何か言われましたか?」
「・・・・いいえ、何も言われてないわ。」
私は千佳ちゃんに言うことが出来なくて、嘘をついてしまった。
「咲さんは裕也さんのことは何とも思ってないんでしょ?
それなら、裕也さんにそう言ってください。
そしたら裕也さんはまた私と付き合っていいと思うかもしてない。
私、裕也さんと別れたくないんです、だから咲さん、裕也さんに何とも思ってないって言って下さいっ!」
千佳ちゃんは涙を溜めた目で私を見つめている。
その目は私に助けを求めるような目だった。

私は千佳ちゃんを悲しませてしまっている。
だから、裕也を忘れるだけじゃなく、きちんと伝えなくちゃいけない。
何とも思っていないって。
たとえその言葉が今は嘘だとしても。
そうしなければ、千佳ちゃんを悲しませたままになってしまう。
千佳ちゃんを悲しませたくなかったのに。
千佳ちゃんは私が裕也のことを好きということは気づいていないみたい。
それは今の千佳ちゃんにとっていいことなのかもしれない。
気づいていたらもっと千佳ちゃんを傷つけてしまうはずだから・・・・。

「分かったわ千佳ちゃん、裕也に会ってきちんと伝えるわ、裕也のこと何とも思ってないって。
私には夏樹がいるからって。」
「本当ですか!
咲さんありがとうございます。
急にこんなこと言ってすいません。
もう1人でどうしたらいいのか分からなくなって、咲さんに電話するしかないって思って。」
「いいのよ。
裕也が千佳ちゃんにそんなこと言ってるなんて思ってもなかったの。
千佳ちゃんを泣かせることになってしまったわね。」
「そんな、咲さんのせいじゃないですよ、私が勝手に泣いただけなんですから。
でも良かった、咲さんも本当は裕也さんのこと好きだったらどうしようかと思ってたんです。
でも、咲さんは裕也さんのこと何とも思ってないんですもんね。
景山君と付き合ってるんだし。
裕也さんも咲さんの口から何とも思ってないって言われたら諦めてくれますよね。
そうしたらきっと私とまた付き合ってくれますよね。」
千佳ちゃんはハンカチで目元を拭きながらいつもの笑顔を次第に見せてくれた。
その笑顔を見て私は、改めて裕也にきちんと伝えないといけないと心に決めた。

裕也、私達はもう遅いの。
もう少し早くお互いの気持ちを伝え合うことが出来れば付き合うことができたはずなのに、私達はそれが出来なかった。
だから、もう遅いのよ・・・・。





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