切なくて、恋しくて

17

「私は景山君が好きなのっ!」
「それでも俺は咲が好きなんだっ、誰にも渡したくないっ!」





裕也が私に言った言葉と私が裕也に言った言葉が頭の中でグルグル壊れたCDのように繰り返されている。
私は裕也のそばを走って逃げ出した後、ひたすら走り続けた。
自分の息が苦しくなっても。
瞳からは涙が流れてきて、私の息苦しさを強めていく。
息苦しさに耐えれなくなってきた私は、ゆっくりと走り続けていた足の動きを緩めていった。
そして、どれだけ走ったのか分からないほど混乱していた私は、自分を落ち着かせるための場所を探した。
きっと今の自分はとてもじゃないけどお店になんか入れる状態じゃないだろうというのは分かっていた。
だから、ゆっくり歩きながらやわらかな光で照らされている公園が目に入り、その公園のベンチに座り、頭の中を整理することにした。








裕也からの突然の告白、予想もしていなかった告白。
裕也が私のことを好きだと、誰にも渡したくないと言ってくれる。
私も裕也が好き、誰にも渡したくない。
裕也のそばにいたい。
でも、それは今の私にはできない・・・・。
恋人として私のそばにいる人は景山君、優しくて私を大切に思ってくれる人。
そんな彼と恋愛を始めると決めたのは、私。
裕也を好きだと分かっていながら私を受け入れてくれた景山君。
そんな彼を裏切ることは出来ない。
裕也から好きだと言われたからサヨナラが言えるほど景山君は私の中で小さな存在ではなかった。
千佳ちゃんと裕也が付き合いだした時に優しく手を差し出してくれた。
そんな彼を裏切ってもいいのだろうか?
それに千佳ちゃんには裕也のことは何とも思ってないと言って、付き合う橋渡しをしたのは、嘘つきの私だ。
千佳ちゃんは本当に裕也のことが好きだ。
裕也に私の気持ちを伝えるということは、そんな千佳ちゃんも裏切ってしまうということだ。

私に2人を裏切ることができるだろうか?
2人のことは何も考えず裕也の胸に飛び込むことができる?

答えは否だ。
景山君も千佳ちゃんも私にとっては大切な人達だから。
裕也のことは好きで好きでたまらない。
このまま裕也の胸に素直に飛び込んでいけるものならそうしたい。
でも、冷静な私が頭の中でストップをかける。
こんなことになったのは私のせいだと。
素直になって千佳ちゃんに裕也のことを好きだと伝えていれば、裕也に早く自分の気持ちを伝えていればよかったんだ、と。
7年もの間何も行動をしなかった私が招いた結果がこれだ。
そんな私が裕也に好きだと言っていいわけがないんだ。
だから、このまま裕也の気持ちに答えるべきじゃないんだ。
でも、もう裕也とは友達ではいられない。
今までのように近くにいることさえも許されなくなってしまった。








自分がどういう選択をすればいいのか分からないまま、家までの道のりを帰った。
すると、マンションの入り口に人影が見え、よく見るとその人影は裕也だった。

何で裕也が?

私は驚きつつも、裕也が私を待っていてくれている状況を心の中で喜んでしまっていた。

裕也は何でいるの?
2人を裏切れないのに。
今裕也に会ったら私は・・・。

私は裕也を見つめながら、頭の中で景山君と千佳ちゃんのことを思い出しながらも、身体は裕也の所へ向かいだしていた。
その時、私の携帯が揺れた。
その動きに自分の身体の動きを止めてしまった私は携帯の画面を見ると、そこには景山君の名前が表示されていた。




『咲さん、今家?』
『ううん、出かけてたの。
もう少しで家に着くところだけど、景山君仕事終わったの?』
『思ったより早く仕事終わったんですよ。
だから、ずっと咲さんに会ってないから会いたくなって、咲さんの家の駅にいるんです。』
『そうなの!?』
『うん。
咲さん、会いたい。これから会いに行ってもいいですか?』
景山君の声を聞いて私は、裕也のそばに行くのを止めた。

やっぱり景山君を裏切ることなんか出来ない・・・・。

『うん、私も会いたい。』
『咲さん泣いてるんですか?』
『泣いてないわよ。
もし泣き声に聞こえるんだったら景山君に会えるのがうれしいからかな。』
『咲さんが俺に会うのにそんなに喜んでくれるなんてうれしいですね。
今から咲さんの家に行きます。』
『ううん、私まだ外にいるから駅に行くわ、だから待ってて。』
『分かりました。』
そう言って私達はお互いに電話を切った。
そして私は、裕也に近づくことなく、裕也に背を向け景山君が待つ駅に向かった。

これでいいのよ咲。
そうすれば影山くんも千佳ちゃんも傷つかないですむんだから。
これも、自分が招いた結果なんだから他の人を傷つけちゃいけないのよ。

そう思いながら景山君が待つ駅に向かった。
もう涙を流さないように唇を噛みしめながら。











「景山君待たせちゃったわね。」
「そんなことないですよ。」
私が駅に着くと、景山君は入り口で待っていてくれたのですぐに会うことが出来た。
久しぶりにあった景山君は仕事で疲れている顔をしていて心配になってしまった。
「疲れてるんでしょ?
それなのに私なんかに会いに来て、早く帰って休んだほうがよかったんじゃない?」
「疲れてはいますけど、家に帰って休むよりも咲さんに会いたかったんですよ。
咲さんに会うほうが元気になれますから。」
そう言って景山君はニッコリと微笑んだ。
その笑顔を見て私は改めて景山君のことを裏切れないと思ってしまった。
こんな私に会いたいと言ってくれる人を裏切るなんて出来ない、と。

だから私は覚悟を決めなくちゃいけないんだ。
裕也を本当に諦める覚悟を。

「景山君ご飯は食べたの?」
「まだですよ。」
「じゃお腹すいてるんじゃないの?」
「そうですね。
でも咲さんはもう食べましたよね。」
「良かったら私何か作りましょうか?」
「え!?
咲さんが俺のために作ってくれるんですか?」
「いや?」
「そんなわけないでしょ。
ぜひお願いしますっ!」
「じゃ、景山君の家に連れて行ってくれる?」
「俺の家ですか?
いいんですか、俺の家なんかに来たら襲っちゃうかも知れませんよ?」
景山君は冗談交じりに聞いてくる。
その言葉に私は、
「いいわよ襲っても。
景山君は私の彼氏なんだから。」
と、誘うように答えた。
「そんなこと言わないでください。
そんなに俺の理性試したいんですか?」
「試したいわけじゃないわ、本当の気持ちを言っただけ。」
「じゃ、期待しちゃいますよ俺。」
「うん。
景山君の家って何か材料ある?」
「えっと、何にもないですね。」
「じゃ、買い物してから景山君の家に行こうか。」
「そうですね。」
景山君はそう言って私の手を握り歩き出した。
私も景山君の手を握り返し、景山君に寄り添うように歩き出した。

これでいいのよ咲。
そうすれば誰も傷つかないんだから・・・・・。
Copyright (c) 2007 machi All rights reserved.

面白かったよとちょっとでも思ってくれたら押してもらえるとうれしいです♪
よろしかったら感想も一緒に書いてもらえるとますますうれしいです♪

Novel

Top

Next

Back




検索サイトから来られた方は、 こちら からTOPへどうぞ。