切なくて、恋しくて

16

外に出るとまだ肌寒かったけど、急に裕也に誘われてしまい驚いている私にはいつもより肌寒さを感じなかった。
裕也を追いかけるように後ろからついていっている私の気持ちは表情に出してはいないけど落ち着かない。
千佳ちゃんと景山君が残業している時に裕也と2人で食事に行くのは何だか心苦しかった。
裕也は友達なんだからというけれど、私にとって裕也は好きな人であって、諦めないといけない人だから。
そんな私の気持ちなんて気づいていない裕也は、
「咲歩くの遅いんじゃないか?
そんな後ろ歩くなんて。」
「そんなことないわよ。
裕也が歩くの早いだけじゃないの?」
「そうか?
仕方ないな、咲に合わせないとな一緒に夕飯食べに行くんだから。
並ばないと相談も出来ない。」
そう言って裕也は私の隣に立ち歩き出した。

今までこんなこと言い出したことなかったのに裕也。
こんな風に裕也と並んで歩くのは久しぶり。
緊張とやっぱりうれしさを感じてしまう。

「今日はどこに行こうか。」
「どこって、いつもの居酒屋じゃないの?」
「うーん、今日は違うとこがいいかなって。」
「違うとこか、でも私お店ってあんまり知らないんだけど。」
「じゃ俺が行きたいとこでもいいか?」
「うん、いいわよ。」
私達は裕也が行きたいお店に向かい出した。
その間私は、自然と笑顔で裕也と話していた。








「ここって。」
「何だ?来たことあるのか?」
「うん、景山君が連れてきてくれたの。」
そう、裕也が連れてきてくれたお店は、景山君が連れてきてくれた店だった。
そしてこの場所は思いっきり泣いて景山君と付き合うのを決めた場所。
そんなことを思いながら立ち止まっていると、どこかムッとしたような声で裕也が、
「咲入るぞ。」
と言って中に入るよう促してきた。
中に入った私達を店員さんが部屋に案内してくれた。
そこは前来た時と同じ部屋ではなかったけど、同じような作りになっている部屋だった。
座ってメニューを見ながら頼むものを決めていると、
「今日は何飲むんだ?」
「そうね、日本酒にしようかな。」
「じゃ俺も飲むから同じのにするか。」
日本酒も決めて注文するために店員さんを呼んだ。
しばらくすると料理と日本酒が運ばれてきた。
「よし、食べるか。」
そう言って私達は食事を始めた。








食事もお酒もこの間と同じようにおいしかった。
裕也との会話も次第にいつものように出来るようになってきていた私は、
「千佳ちゃんと来るんだったんでしょ、ここ。」
と、自分で自分の気持ちの地雷を踏んでしまった。

でも、裕也と千佳ちゃんが一緒にいることに慣れていかないといけないと思っていたんだからたとえ自分で地雷を踏んでいたとしても慣れていくしかないんだから。
私には景山君がついているんだから頑張れるはずよ咲。

自分の気持ちを奮い立たせるようにそう思っていると、
「いや、千佳ちゃんからは急に誘われて断られたからここにはくる予定じゃなかったよ。
ここには咲と来たいと思ってたのに、夏樹から先越されたな。」
裕也はフッと笑いながらそう言うと、日本酒を飲んだ。
「ほら、今日咲あんまり飲んでないんじゃないのか?」
裕也は私のコップに日本酒を注ぎだし、自分のコップにも注いだ。

私と来たかった?何で?
今までそんなこといったことないくせに。
何だか今日の裕也いつもと違う?

いつもと違う裕也の言動に疑問を感じてしまう。
何かあったのか心配になってきた私は、
「ねー裕也、千佳ちゃんと何かあったの?」
と聞いてしまった。
そんな私の問いかけに裕也は笑いながら
「何もないよ千佳ちゃんとは。
あるとすれば、俺の気持ちの問題だけ、かな。」
と、はっきりしない返事を返してきた。
「何よ、気持ちの問題って。」
「気持ちの問題は気持ちの問題だよ。」
「そんなんじゃ分かんないわよ。
私で相談に乗れることがあるんだったら言ってよ。」
「言っていいのか?」
そう言うと裕也は真剣な顔になってじっと私を見ている。
急に裕也からじっと見つめられてしまったことに落ち着かず視線を逸らすと、
「視線逸らすなよ。」
と、真剣な声で話しかけてくる。

そんなに見ないで。
どうしたらいいのか分からなくなってしまう・・・。

「やーね、そんなにじっと見るから照れちゃったじゃないの。」
私達2人を包む落ち着かなくなってしまう空気を払おうとふざけながら言った。
「咲、夏樹と付き合って幸せか?」
「何急に言い出すのよ。
裕也だって千佳ちゃんと付き合いだして幸せでしょ?」
「幸せじゃないと言ったら?」
「え?」

幸せじゃない?
そんなことないでしょ?
何言ってるの、ううん、何が言いたいの?

「俺は今まで恋愛に関して相手に何も期待してなかった。
気持ちを求めてもいつかは駄目になる時が来る。
だから身体を重ねてただけだった。
そんな俺の前に現れたのが咲、お前だよ。
お前と友達になって引かれていっている自分にも気がついていた。
でも、どんなに好きでもいつか別れがくるのかと思ったら今の関係を続けていっていつまでも俺のそばに咲がいてくれる方がいいんじゃないかと思った。
だから、咲とは友達のままでいることを決めた。
でも、今までの自分のスタイルを変えることができなくて、好き勝手にやってきたんだけどな。
そんな俺に咲は変わることなかったし、男を作ることもなかった。
だから安心してたんだな、俺は。
それが、気づいたら夏樹と付き合うことになったって報告されて。
その時俺は今まで自分が間違っていたんだということに気づいたんだよ。
咲を誰にも渡したくない、俺のそばにいてほしいって。」





裕也の突然の告白に私は、驚きよりも動揺していた。
ずっと欲しかった裕也の気持ち。
それを今私に伝えている。
そう思うだけで身体が喜びで痺れてしまう。
裕也に見つめられ、私も見つめたまま視線を逸らすことなんか出来ないでいる。
口も固まってしまったかのように動かすことが出来ない。
「咲、俺はお前が欲しい、離したくない。」
裕也はそう言って私の手を取り、自分の方に引き寄せる。
そのまま裕也の胸に倒れこんでしまった私は、今まで感じたことがない裕也の温もりに包まれて、このまま包まれたままになりたいと思った。
「千佳ちゃんとはきちんと別れる。
夏樹にも俺からきちんと話をする。」
裕也に言われて私はハッと気づき、裕也の胸から離れた。
「ダメ、私は裕也と付き合えない。」
そう言って裕也のそばから離れると、部屋を飛び出した。








「待てよ咲っ!」
飛び出した私に追いついた裕也は、走っていた私の腕を掴んで動きを止めてしまった。
「何でダメなんだよっ。」
「だって・・・。」

もう景山君のことを裏切ることなんかできない・・・・。
こんな私に付き合ってくれた優しい景山君。
どんなに裕也のことが好きで裕也が私を求めてくれても、もう遅いのよ裕也。

「私は景山君が好きなのっ!」
「それでも俺は咲が好きなんだっ、誰にも渡したくないっ!」
裕也はそう言うと私を引き寄せ私の唇に自分の唇を押し当てた。
私と裕也の初めてのキス。
うれしいのに、悲しくなってしまうキス・・・・。
「もう遅いのよ私達っ!
何でもっと早く言ってくれなかったの!?
そうすれば私はっ・・・・・。」
裕也の身体を押しのけた後、涙を流しながら叫んでいた。
そんな私の叫びに裕也は動かなくなってしまった。
私はそんな裕也のそばから走り去ってしまった。
自分の中で荒れ狂う嵐に苦しみながら・・・・・。
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