切なくて、恋しくて

15

景山君は言っていたとおり、毎日私に電話をかけてくる。
そして私もいつのまにか景山君の電話を待っている自分がいることに気づいた。
電話も本当に他愛もないことを話すだけなんだけど、景山君の声を聞くと何だか気持ちが落ち着く。
こうやって私の中に景山君がどんどん入り込んできてくれている。
だから、1人部屋に居ても裕也のことを思い出すことが減ってきている。
減ってきていても、裕也と千佳ちゃんが一緒にいる所を見ると胸の奥がツキンと音をたてる。
千佳ちゃんからダブルデートをどうするか聞かれているけど、景山君が仕事が忙しそうだからと言って話を逸らしている。
もう少し、本当にもう少しなんだと思う。
だからそれまでは話を逸らし続けようと思っている。
そして、気づくと裕也と話をすることが以前より少なくなったように思う。
いつも千佳ちゃんと一緒にいる裕也と2人で話すことはない。
あの食堂で昼食を食べた後屋上で話して以来、裕也と2人きりになることはなかった。
今は裕也と2人きりの時間を作らない方がいいのかもしれないと思っていた私には都合が良かった。








「咲さーん、この仕事終わりません〜。」
千佳ちゃんが半泣きで私の所に持ってきた書類は今日中に仕上げなければいけないものだった。
「これって今日中に仕上げないといけないんだったわよね。」
「そうなんです。でも、終わりそうにないんです〜。」
目に涙を浮かべながらそういう千佳ちゃんに言うことは1つしかなくて、
「手伝うよ。」
という言葉を言っている私がいた。
私の言葉を聞いて今まで涙目だったのが嘘のように千佳ちゃんは満面の笑みになって、
「そうですか?
よかった〜、今日裕也さんと出かけるんですよね。
このままだったらキャンセルしないといけなくなる所でした。
咲さんありがとうございますっ!」
そう言って千佳ちゃんは私の隣に座り、書類と一緒に持ってきていたディスクを私のパソコンに入れようとした。
すると、
「こら、自分の仕事を人に任せるんじゃない。
大体この仕事は早くからやってたらこんなことにはならないはずなんじゃないか?」
と、安東さんが千佳ちゃんの頭をポンポン叩きながら言った。
「だって〜。」
「言い訳するんじゃないよ春日部。
お前は何かあるとすぐに大原に甘えるからな。
この機会に自分の仕事なんだから1人でやり遂げてみろ。」
安東さんは少し強めの口調で言うと、
「用事があるんですよ〜。」
と、千佳ちゃんは躊躇いながらも自分の意見を安東さんに伝えている。

千佳ちゃん、それを言ったら安東さんが・・・。

「用事?
仕事もちゃんと出来ない奴が用事を気にするのか?
ご立派だな春日部は。
じゃこの仕事はその用事のために投げ出すのか?
どうなんだ春日部。」
思ったとおり安東さんの地雷を千佳ちゃんが踏んでしまい、安東さんは睨みをきかせながら静かに千佳ちゃんに聞いているが、その言葉は千佳ちゃんからの返事を待つというものではなく、千佳ちゃんに安東さんが待っている返事を言わせるための言葉だった。
「いいえ、仕事が大事です。
1人でやります。」
千佳ちゃんはそう言うと、うなだれながら自分の席に戻っていった。

安東さんって普段はおちゃらけることが多いんだけど、仕事はしっかりやる人だから、後輩に対しても厳しかったりする。
だから、千佳ちゃんの一言は思いっきり安東さんの地雷だったんだよね。

そう思いながら千佳ちゃんの後姿を見つめていると、
「大原、お前も春日部のこと手伝うんじゃないぞ。
そうしないといつまでも春日部は成長しないからな。」
安東さんは私の方を向いてしっかりと釘をさしてきた。
「分かりました。」
私はそう返事するしかなくて、心の中で千佳ちゃんに謝りつつ自分の仕事を再開させた。









業務終了時間になり、千佳ちゃんの方を見ると悪戦苦闘している千佳ちゃんがいた。

手伝った方がいいよね。
このまま黙って帰るのも心苦しいし。

そう思って千佳ちゃんに近づいていっていた私に、
「大原、言っただろ手伝うなって。
お前も自分の仕事が終わったんだったら帰れ。」
安東さんは私の行動が分かっていたのか、すぐに言われてしまった。
言われた後安東さんの顔を見ると、先ほど見せていた厳しい表情のままだったから、これ以上千佳ちゃんに近づくことが出来なかった。

千佳ちゃんごめんね。

そう心の中でつぶやきながら安東さんに挨拶をした後、部屋から出て行った私だった。





ロッカーで着替えながら今日も景山君は残業だったなと思い、一人寂しく帰ることになる自分がちょっと悲しかった。
でも、仕事なんだから仕方がないと思い洋服を着替えた後、景山君にメールをした。

『仕事頑張ってね』

一行だけのメールを送り終わった後、可愛げないなぁと思っていると、すぐに返事が返ってきた。

『咲さんメールありがとう。
今日も残業で落ち込んでたところに咲さんのメールうれしかった。
今日で残業終わるから週末デートに行こう。
行きたい所があったら考えといて。』

景山君のメールの返事に思わず顔が緩んでしまった私は、

『楽しみにしてるね』

とすぐに返事を返した。
景山君のメールに顔を緩ませている自分がおかしかったけど、これも景山君効果なのかもしれないと思った。
だって、メールをもらってこんなに顔を緩ませる私なんて今までだったら考えられないから。
景山君が私を素直にさせてくれているんだと思う。
そんな自分が嫌いじゃないし、自分が変わっていっていることがうれしかった。
メールに書いてあった週末のデートを楽しみだなと思いながら、行きたい所を今日は家でゆっくり考えるため、家に早く帰ることにした。






「咲、今から帰るのか?」
週末のデートのことを考えながら会社から出ようとしていると、私の肩をポンッと叩いて裕也が話しかけてきた。
久しぶりに裕也と話をする気がすると思いながら、いつもと同じように返事をした。
「うん、今から帰るとこ。裕也は千佳ちゃんとデートなんでしょ?」
「それがな、千佳ちゃんは残業みたいで無理そうなんだよ。」
「待ってあげたらいいのに。」
「そう思ったんだけど、結構時間かかるみたいでキャンセルされたんだよ。」

確かに、下手したら夜中までかかるかもしれないもんね。

「残念だったわね千佳ちゃんとデートできなくて。」
「そう思うだろ?
だから咲慰めるつもりで夕飯食べにいこう。」
「それは駄目よ。」
「何で?」
「だって、千佳ちゃんが残業してるのに2人で夕飯食べに行くのはどうかと思うわよ?」
私は千佳ちゃんの名前を出して裕也と2人きりになるのを避けたかった。
そうしないと、今景山君が入り込んでいる私の心が乱されると思ったから。

だから、裕也とは一緒に食事にはいけない。

「大丈夫だよ、俺と咲で行くんだから。
それに、夏樹は残業だから咲暇だろ?
暇人同士ちょうどいいし。
ほら行くぞ。」
私の気持ちを知らない裕也はそう言って、これ以上私の意見を聞く気はない様子で歩き出してしまった。
私もこれ以上何も言うことが出来ず、仕方なく裕也の後ろをついていくしかなかった。


裕也とこのまま食事に行くことが、私の心を想像以上に乱してしまうとも知らずに・・・。
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