切なくて、恋しくて

14

屋上での時間を過ごした私は、気を取り直して仕事に戻った。
そして、時間になるまで仕事に集中ことにしたけど、何故だか思うように仕事を捗らせることができないでいた。
時間になり、帰る準備を始める私の所に千佳ちゃんがやってきた。
「咲さん、今日も裕也さんと帰ろうと思うんですけど、よかったら咲さんも一緒にどうですか?
景山君は仕事で遅くなるみたいだし、1人で帰るよりは楽しいんじゃないかと思って。」
「お誘いはうれしいけど、さすがに付き合いだした2人と一緒に帰るのはどうかと思うから遠慮しとくわ。」
「そんなことないですよ。
咲さんは裕也さんの親友なんだから。」
「親友ね。
そうなんだけど、やっぱり遠慮するわ。
じゃ、先に帰るわね。」
私はそう言って千佳ちゃんに笑顔を見せながらそばを離れた。
千佳ちゃんのそばを離れ、早歩きになっていた自分の歩きをゆっくりとした歩きに変えながら駅に向かった。

まだ一緒になんか帰れないわよ。
2人が一緒にいる所を見るのは1人でいる時には辛いから。
景山君がいてくれると大丈夫なんだけど。
すっかり依存してるな私、景山君に。

自分が景山君に依存していることにおかしくなって笑いだしてしまいそうになったけど、往来で1人なのに笑い出すのも躊躇われたので何とか堪えた。
今日はこのまま家に帰ってしまおうと思っていると携帯から音楽が流れてきた。
携帯のディスプレイにはあずみの名前が表示されていた。
「もしもし、どうしたの?」
「久しぶりね。元気にしてた?
ところで今日今から暇?」
「暇だけど何で?」
「実は、大樹が蟹貰ってきたから一緒にどうかと思って。
よかったら今から家に来ない?」
「蟹か〜。ご馳走になろうかな。」
「じゃ待ってるわね。」
「うん、後でね。」
私はそう言って電話を切った。

蟹久しぶりだな。
それに、この間は大樹に会わなかったから大樹に会うのも久しぶりだ。
誘ってもらったんだから手土産もっていかないとね。

駅に向かっていた足を手土産を買うために方向を変えて、あずみが喜ぶだろうお土産を買うべく歩き出した。










「いらっしゃい。
いいタイミングだったわよ、早く上がって。」
「お邪魔します。」
あずみの家に着いてチャイムを押すと、笑顔のあずみが出迎えてくれた。
私は遠慮なくお邪魔するとリビングには蟹のおいしそうな匂いが漂っていた。
リビングには大樹と喜美ちゃんが楽しそうに遊んでいた。
「咲、久しぶりだな。」
「ホント久しぶりだよね。
でも相変わらずだね大樹は、喜美ちゃんにデロデロじゃないの。
昔の大樹からは想像出来ない図よね。」
「自分の娘にデロデロになって何が悪い。
その内側に寄らないでなんて言われるかもしれないんだから今のうちに仲良くしとくんだよ。
なー喜美。」
大樹はそう言って喜美ちゃんに同意を得るために首をかしげながら話しかけている。
でも、まだ小さい喜美ちゃんは当然だけど答えることなく笑顔で大樹の頬を叩いている。
そんな姿が何だか微笑ましくて知らないうちに笑顔になってしまう。
「ほら、咲座って。おいしく出来たからたくさん食べてね。」
台所から戻ったあずみは、私の肩を叩き座るように促してくる。
私もいつまでも立っていても仕方がないので、言われたとおりに座り、みんなで鍋を囲んだ。
「蟹をご馳走になるんだから手ぶらじゃ悪いと思って買ってきたから飲もう。」
「やったー。
咲ならきっと買ってきてくれると思ってたの。」
「そうだと思った。
お気に召しましたか?」
「当然。
私が好きなの買ってきてくれたんだもの。」
そう言ってあずみは早速私が買ってきた日本酒をあけるとグラスに注ぎだした。
「じゃ久しぶりの咲との食事にかんぱーい。」
あずみの掛け声で私達はグラスを鳴らした。





「はー、おいしかった。
もうお腹いっぱいで何も食べれないわよ私。」
「何言ってるの、咲だけじゃないからそんな状態なのは。
後はゆっくりお酒でも飲みながら話しましょ。」
乾杯が終わった後、早速蟹を食べだした私達だったんだけど、蟹を食べることに夢中で無言になりながら食べていた。
だから、お腹いっぱいになって落ち着いた今からやっと色々と話を出来る状態になっていた。
「本当は裕也も誘ったんだけど、彼女と用事があるって断られたのよね。
この間言ってた彼女?」
「違う、その子とはとっくの昔に別れて今は別のこと付き合ってるの。」
「また?
裕也もいつまでも変わらないわねぇ。
で、今度の子はどんな子?」
あずみは興味津々な顔をして私に聞いてきた。
私は裕也が今付き合っている子、千佳ちゃんについて話始めると、
「ちょっと咲、それでいいわけ?
自分の後輩と裕也が付き合ってるのよ。」
と、ちょっと怒ったように言いながら私の話を中断した。
そんなあずみににっこり笑いながら、
「良いも悪いも裕也が決めたことだもの。
それに、言ってなかったけど私も付き合いだした人がいるの。」
そう言ってグラスを取り、日本酒で喉を潤した。
飲み終わった後あずみを見ると、目を大きく開いて驚いていた。
「あずみ何て顔してんのよ。」
「だってビックリしたんだもの!
付き合ってる人がいる!?信じられない。」
「何よ信じられないって。」
「だって、ずっと裕也のことが好きだったのに違う人と咲が付き合ってるだなんて信じられないんだもの。」
「もう裕也のこと諦めることにしたのよ。
だって7年よ、裕也を好きになって片思いしてきたの。
でも、いつも裕也は別の女の人を選ぶのよ。
だから、もう諦めようと思うの。
今付き合ってる人はね、私が裕也のこと好きだって知ってるのに付き合ってくれてるの。
彼と一緒にいると素直になれるの。
裕也といても素直に全然なれなかった私が。
だからきっと、裕也のことを忘れることができると思うの、彼がいてくれれば。」
私はあずみの顔をじっと見ながら静かに自分の思いを話した。

そう、景山君がいてくれれば裕也を諦めきれるはず。

私は自分の心の中で呪文のように思っていた。
「咲がそう言うならいいんじゃないか?」
今まで黙って話を聞いていた大樹がそう言うと、
「何言ってるのよ!
咲がそんな気持ちで付き合ってたってうまくいくわけないじゃないのっ!」
あずみは大樹を見ながら怒鳴っている。
「俺達がどうこう言っても仕方ないんだよ。
咲が自分で決めたことなんだから。」
「でも・・・。」
「でもじゃない。
咲、本当にいいんだなそれで。」
「うん。」
「後悔しないな?」
「後悔だったら今までしてきたわ。
何で早く裕也に告白しなかったんだろうって。
だから、今更後悔はしないわ。」
私は自分の決心を改めて大樹を見ながら口にした。
大樹は私を見ながら小さく息を吐くと、
「咲が決めたことだ、これ以上俺達が言うことはないよ。
でも、もし辛くなったら言いに来るんだぞ。
咲は自分の中に何でも溜め込んじゃうからな。
分かったか?
あずみもこれ以上咲に色々言うんじゃないぞ。」
「分かった。」
そう返事する私にあずみも、
「分かったわよ。」
と、口を尖らせながら返事をしていたけど、これ以上私に付き合いだしたことに対して言ってくることはなかった。
その代わりに、
「咲、大樹も言ってたけど、何かあったらすぐに相談に来るんだよ。」
と、夫婦揃って同じことを言った。
そのことがおかしくて思わず笑い出してしまった私に大樹が、
「よしっ!じゃ、咲が付き合いだしたお祝いでもするか!」
そう言って私のグラスに日本酒を注いだ。
それから私達は、日本酒を飲み干し昔話などをしながら夜遅くまで過ごした。









あずみ達の家から帰ると12時近くになっていて、寝る準備をしようとすると、携帯が鳴り出した。
「咲さん、寝てました?」
「ううん、今友達の家から帰った所だから大丈夫よ。」
「友達の家?」
「うん、大学時代の友達が蟹食べに誘ってくれたの。」
「そうなんだ、おいしかったですか?」
「うん、とっても。
景山君は家に着いたの?」
「今着いたとこです。
今日は疲れたから咲さんの声を聞いて元気出そうと思って。」
「そんな、私の声ぐらいで元気なんか出ないわよ。」
「そんなことないです。
好きな人の声を聞いたら元気になれますよ。」
「そういうもん?」
「そういうもんです。
よし!咲さんの声も聞いたことだし、咲さんが夢の中に出てくれそうな気がする。
これで安眠間違いなしですよ。」
「そうだといいんだけど。
私も景山君の声が聞けて何だか安心しちゃった。」
「そうですか?
そう言ってもらえるとうれしいですね。
おやすみ咲さん。」
「おやすみ。」
そう言って電話を切った私は、中断していた寝るための準備を再開した。

景山君ったら何でいつも照れくさくなるようなこというのかしら。
言われなれてないから照れちゃうんですけど。
でも、こんな風に景山君と過ごすことで、私の中での景山君と裕也の比率が変わってくるわよね。
今も景山君の声が聞けたのは嬉しかったし。
少しずつ私の気持ちも変わってきてるのかな。

そう思いながら準備をしていると、昼休みの屋上で見た青空が思い出されてまた涙が出そうになった。
だけど、どうして屋上の時も今もそうなるのか、いまだに分からないでいた。
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