切なくて、恋しくて

13

食事をしながら自分の中での決心を強めていた私だけど、すぐにその決心を実行するのは無理みたいだった。
目の前で千佳ちゃんが楽しそうに裕也に話しかけて裕也が笑顔で話している姿を見るのは辛かった。
だから私はそんな様子を見なくていいように俯きながら食事をしていると、景山君が話しかけてきた。
「咲さん、俺今日からしばらく仕事が遅くなるんで一緒には帰れないけど、金曜日は一緒に帰れるからご飯食べに行きましょう。
咲さんと一緒に行きたい所があるんですよね。」
「仕事忙しくなるんだ。
じゃ金曜日ご飯食べに行くの楽しみにしてる。」
「楽しみにしてるなんて言われるとは思ってなかったからうれしいですね。」
「私だって素直に楽しみなことは楽しみだって言うわよ?」
「そうじゃなくて、俺と行くのを楽しみにしていると言ったことですよ。
咲さんが俺に気を許してると思うとうれしくて。
俺今顔緩んでるでしょ?」
「こんなことで顔緩ませないでよ、なんだか照れくさいじゃない。」
「咲さん顔赤くなってますよ、可愛いですね。」
「もう、そんなこと言わないでよ。」
私は照れくさくて自分の顔が熱くなってきてしまい、手で自分の顔を扇いでしまった。
そんな私の様子を景山君は楽しそうに見ている。
景山君の視線にますます顔を熱くしてしまう自分に驚きながらも、素直な自分が景山君に引き出されていることを感じていた。
でも、そんな自分が嫌ではなくて楽しくなってきていたりする。

景山君がいてくれたら素直な自分になれて、裕也への気持ちもだんだん薄れてくるよね。
そして景山君のことを好きになれるはず。
そう思わせてくれる景山君はすごいな。
7年間そんなこと考えたこともなくって裕也を好きなままだったのに。
景山君がいてくれてよかった。

自分の気持ちが穏やかに少しずつ裕也を好きだということを諦めようと準備を始めていることを感じながら景山君との話を続けた。
「咲さん、仕事が忙しくなってくるけど咲さんの声は毎日聞きたいから夜電話してもいいですか?」
「いいけど、私の声聞いても楽しくないんじゃない?」
「楽しいとかじゃなくて、俺がただ咲さんの声を聞いてから寝たいんですよ。
咲さんの声を聞いて寝たらいい夢見れそうだから。」
「なんでそんなに照れくさくなるようなことばっかり言うのよ。」
「本当のこと言ってるだけなんですけどね。
咲さんの顔また赤くなってきてますよ。」
「そんなこと言われたら赤くもなるわよ。」
私は景山君と話を続けながらいつの間にか楽しい昼食の時間を過ごしていて、気になっていた裕也と千佳ちゃんを気にすることなく食事を終えていた。



だから裕也が千佳ちゃんと笑顔で話しながらも、私と景山君の様子を見ていたことなんて気づきもしなかった。
景山君は気づいていたようだけど、私にはそんな素振りはみせなかったから私は気づかないまま景山君と話を続けていた。











それぞれ食事を終えた私達は席を立つと、景山君は急ぎの仕事があるからと言って先に行ってしまった。
「咲さん戻りますか?」
と千佳ちゃんが裕也の隣に立ちながら聞いてきた。
「うーん、もう少し時間があるからお茶しにいつもの場所に行ってくるわ。」
「ホント咲さんって屋上好きですよね。」
「屋上でお茶するのって気持ちが落ち着くというかゆったりした気持ちになれるのよね。
屋上って私にはリラクゼーション効果があるのかも。
じゃ行って来るから先に戻ってて。」
「わかりました。
じゃ私もう少し裕也さんと一緒にいようかな。
いいでしょ裕也さん。」
「ごめん、俺も急ぎの仕事あったの思い出したから戻るよ。」
そう言って裕也は千佳ちゃんに別れの挨拶を言った後、
「じゃな、咲。」
私にも声をかけて言って私達のそばから離れていった。
「あーあ、もう少し裕也さんと一緒にいたかったのになぁ。」
千佳ちゃんは残念そうにつぶやいた。
「仕事じゃ仕方ないわよ。」
「そうですね、また仕事が終わってから甘えたらいいですもんね。
じゃ私先に戻ってますね。」
千佳ちゃんはにっこり笑いながら言うと歩き出した。
私はしばらく見送った後、目的地である屋上に向かった。






屋上に着いた私は、いつものように買ってきた飲み物を手に空を見上げた。
今日も天気がよくて日差しが私を暖めてくれる。
それに、雲が流れる様子はいつ見ても飽きることはなくて、私をゆったりした気持ちにさせてくれるしね。
買ってきた飲み物に口をつけながら食堂での出来事を思い出していた。

今までだったら裕也と千佳ちゃんが仲良くしていることを見ていると、自分の中で気持ちをかき乱してつらい気持ちだけが私を支配していたのに、景山君がいてくれてそんなことにはならなかった。
景山君には感謝しないといけない。
私のわがままに付き合わせているようなお試しのお付き合い。
それでも景山君は私の気持ちを大切にしてくれる。
優しい景山君の気持ちに答えたいと思っているけど、まだ私の中にある裕也を好きだという気持ちはその思いより大きい。
でも、少しずつ本当に少しずつだけど、景山君への恋心が生まれてきているのは事実。
7年間裕也以外の男の人は私の心の中に入ってくることはなかった。
でも、景山君は会ってそんなに経ってもいないのに私の心の中に入りこんできている。
このまま裕也のことを忘れることができれば、7年間の私の思いは開放されるんだよね。

そう思いながら空を見上げていると、
「そんなに空ばっかり見てると首が痛くなるぞ。」
と、聞きなれた声が私に話しかけてくる。
「裕也。」








「急ぎの仕事があったんじゃないの?」
急に現れた裕也に驚きながら気になったことを聞くと、
「そうなんだけど、もう少し休憩したくなってな。」
裕也はそう言うと自分で持ってきた飲み物を飲みながら言った後、じっと私のことを見ている。
私は裕也の視線が気になって仕方なかった。
それもそのはず、今まで裕也にこんな見つめられることなんてなかったから。
だから、裕也の視線を感じながらも、視線を合わせることができなかった。

何でそんなに私を見るの?
そんなに見られたらどうしていいか分からなくなってしまう・・・。

「咲、夏樹と付き合うことになったんだな。」
裕也は私に向けていた視線を外した後、空を見上げている。
「そう、景山君と付き合うことになったの。
そう言ったじゃない。」
「聞いたけど確認したかったんだよ。」
「何よ確認って。
景山君はいい奴なんでしょ?
そんな裕也の後輩と付き合うんだから祝福してよね。」
ふざけながらそう言うと、裕也はフッと笑って、
「そうだよ。夏樹は俺の後輩でいい奴だ。
でも、夏樹と咲が付き合うなんて話を急に聞いて驚いたんだよ。
咲には今まで男の影もなかったからな。
夏樹は大事にしてくれてるか?」
「うん。
景山君は私には勿体ないくらいいい人よ。
こんな私を大事にしてくれてる。
それに・・・。」
「それに?」
「内緒よ。
裕也も私のかわいい後輩の千佳ちゃんと付き合いだしたんだから大事にしてよね。」
「分かってるよ。」
「分かってればいいんだけど。
本当に大事にしてあげて、そうしてくれないと私も困るしね。」
「何が困るんだ?」
「内緒よ。」
「内緒ばっかりだな。
気になるだろ?」
「内緒は内緒です。」
「なんだそりゃ。」
そう言った後裕也は空を見上げた。



裕也に内緒にした2つのこと、それは・・・。
景山君は私が裕也のことを好きだと知りながら付き合ってくれていること。
もう1つは、裕也が千佳ちゃんと付き合い続けてくれることで、諦めることができるはずだということ。
臆病者の私は1人だと裕也のことを諦めることはできない。
だから、景山君に頼っている。
でも、このことは裕也に言うべきことじゃないから内緒にするの。


裕也はまだ空を見上げていて、私も同じように空を見上げると、鮮やかな青空がまぶしく私の瞳に写って何だか泣きそうになったけど、何でそんな気持ちになってしまったのか今の私には分からなかった。
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