切なくて、恋しくて

12

次の日、目覚めて顔を洗った後朝食を摂っている私は、昨日泣きすぎたせいか瞼が重く感じたけど、気持ちは思っていたほど重苦しくないことを感じていた。





あれだけ泣けばすっきりするよね。

でも、景山君と付き合うことになったことを朝目覚めたら後悔するかもしれないと心のどこかで考えていたけど、付き合うことが嫌だという気持ちが起きないのは自分でも驚いている。
それは、裕也のことが好きなのに、お試しのお付き合いを始めようとしている自分が許せないという気持ちがあるけれど、それと一緒に逃げ場ができたことを喜んでいる自分がいるからかもしれない。
7年の片思いは長いものだ。

自分では今の関係を維持していくのを決めていても、気持ちが疲れすぎているのかな。

お試しの付き合い・・・。人から見ればいい顔をされないだろう。
でも、今の私には助け舟なのかもしれない。
このまま裕也のことを思い続けても報われない私の思い・・・・・。
すぐに忘れられるほどの簡単な思いではないけれど、もう先に進んでいくべきなのかもしれないと思えてきた。





そんなことを考えながらゆっくりと朝食を食べていたせいで気づくと時計の針はいつも出る時間に近づいてきていた。
そのことに気づいた私は、急いで出勤する準備を始めた。








「咲さん待ってたんですよ〜!」
会社に着くと、千佳ちゃんが笑顔で出迎えてくれた。
その笑顔は、昨日裕也との関係が決まったことを知らせるには十分な笑顔だった。
朝、先に進んでいかないといけないと考えてはいても、こんなに早く現実を突きつけられるのは耐えられない。
私は自分の顔が引きつってしまっていないのか心配しながらも、
「おはよー千佳ちゃん。
ごめんね、今から急いで用意しないといけない資料があるからゆっくり話聞けないのよ。
だから、時間ができた時に聞こうかな。」
そう言って逃げの状況を作ってしまった。
「えー、今聞いて欲しかったのにー。
でも、急ぎなら仕方ないか。
じゃ、昼休みに聞いてくださいね。」
千佳ちゃんは私が言った嘘を信じて、お昼を一緒に食べることを約束し、自分の席に戻っていった。
私は千佳ちゃんの背中を見ながら、思わずついてしまった自分の嘘を申し訳なく思ってしまったけれど、このまま裕也との出来事を聞くのは避けたかった。
裕也と千佳ちゃんが付き合いだしたことを直接聞くのは先に延ばせるなら延ばしたい。

千佳ちゃんの笑顔で分かってはいるんだけどね。
まだ駄目だな、すぐに次に進むのは無理なのは分かってるけど。
でも、これからは千佳ちゃんから裕也の話を聞いていかないといけないんだから慣れていかないといけないんだよね。

そう思いながら、千佳ちゃんの背中を見送った後自分の席に向かい、予定にはない資料作りを始める振りを始めた。
その後は、仕事に集中することにしながらも、昼休みがこなければいいのにと頭の隅で考えていた。








昼休みになるとすぐに千佳ちゃんが私の席までやってきて、
「咲さん、昼休みになりましたよ。
ご飯食べながら朝話せなかったこと聞いてくださいね。」
と、朝に見せた笑顔のまま話しかけてきた。
私は断る理由も思いつかず、千佳ちゃんの誘いに乗り、一緒に食堂に向かった。
食堂に向かう廊下で、
「早く言いたかったんですけで、私裕也さんと付き合うことになりましたっ!」
と、照れたような、でも嬉しさが感じられる顔をしながら報告してきた。
「そうなんだ、おめでとう。」
私は明るい声を出しながらも、千佳ちゃんが言った裕也さんという言葉が頭の中に響いてくる。
千佳ちゃんはその後も裕也さん裕也さん、と話を続ける。

裕也さん・・・。
もう名前で呼んでるんだ。
付き合い出せば名前で呼ぶのは当たり前だとは思うけど、千佳ちゃんの口から聞くのがこんなに早いとは思ってもいなかった。
何でだろ?こんなに千佳ちゃんの口から裕也の名前が出るたびに私の胸を締め付ける・・・・。

千佳ちゃんの話を聞きながら食堂に着いて注文したものをトレイに乗せ席を探していると、
「裕也さんっ!」
と千佳ちゃんが叫んだ視線の先には、裕也が座っていた。
座っている裕也の席に千佳ちゃんは小走りになって向かいだした。
私は、その後をついていかないわけにはいかず、ゆっくりとした足取りで裕也の席に向かった。
2人のそばにいたくないと思う気持ちを押し殺しながら・・・・。




「裕也さん食堂に来るなら教えてくれたらいいのに。」
「千佳ちゃんが来るとは思ってなかったんだよ。
じゃ今度から食堂に来るときは連絡するよ。」
「食堂の時だけじゃなくて一緒にお昼食べれそうな時は教えてほしいな。
裕也さんと一緒に食べたいし。」
「わかった。」
裕也と千佳ちゃんは、私の目の前で甘い空気を漂わせながら会話を続けていく。
その様子を見るしかない私は、胸が締め付けられすぎて息苦しさまで感じていた。

裕也、千佳ちゃんに笑いかけている顔を私に見せないでっ。

2人の会話を聞きながらそう思っていると、
「咲、具合でも悪いのか?顔色悪いけど。」
と、裕也が私を見て心配そうな声で話しかけてくる。
「寝不足だから具合悪そうに見えるのかな。心配ないわよ。」
「それならいいけど、夜はちゃんと寝ないといけないぞ。」
「いつも夜更かしする裕也には言われたくない台詞ね。」
「何だよそれ。
人が折角心配してるっていうのに。」
「気持ちはありがたく頂くわ。」
「そりゃどうも。
まったく咲は素直に人の好意を受ければいいのにな。」
「悪かったわね素直じゃなくてっ。」
「何だよ、そんな怒りながら言うことないだろ。」
私が裕也の言葉に怒ったように返事をすると裕也は、わざとらしい驚いた顔をしている。

裕也から素直になんて言葉聞きたくないわよ。

そんな私の思いが裕也にきつい口調で話をしてしまう。
2人が一緒にいると私の心はかき乱されて、いつもの自分じゃいられない。
そう思っても今の状況と同じことはこの先もあるんだと思ったらどうしようもないやるせなさを感じてしまう。
そんな私の思いに気づくはずもない裕也は、
「咲が機嫌悪い時は近づかないのが一番だよな。」
そう言ってご飯を食べだした。
「じゃ、近づかないならいいじゃないの。」
私はボソッと低い声で気づいたら言っていた。
その一言を言った後、私達の周りに漂う空気が重いものになったのを感じていると、
「咲さん、二日酔いにはなってませんか?」
と、景山君がトレイを持ってそばに立ったまま話しかけてきた。
景山君の登場は、重い空気の空間から抜け出すきっかけを与えてくれているような気がして、
「景山君。」
と自然な笑顔で話しかけていた。








景山君は私の隣に座り、
「昨日あれからすぐに寝ました?
俺は家についても何だか興奮してなかなか眠れませんでしたよ。」
と、私の方を向いたまま少し照れたような顔をしながらそう言った。
「私は眠れたわよ。目覚めも良かったし。
目覚めが良かったのは景山君のお陰かもしれないけど。」
「俺のお陰?」
「そう。
景山君が話を聞いてくれたから気持ちが軽くなって目覚めが良かったみたい。」
「そっか。
咲さんにそう言われるとこれからも頑張って咲さんの期待に答えないといけないな。」
「期待してます。」
私はフフッっと笑いながら景山君を見た後、今まで食べる気がしなくなっていた目の前の昼ご飯を食べだすことが出来た。
景山君も食事を始めると、
「お前達昨日何かあったのか?」
と、裕也が聞いてきた。
「先輩に言ってませんでしたね。
咲さんと俺、付き合いだしたんです。」
景山君は千佳ちゃんが私に見せた嬉しそうな笑顔で裕也に私達が付き合いだしたことを報告した。
「そうなんですか!?
いつのまにそんなことになったんですか咲さん。
何も言ってくれないから全然2人のこと知りませんでしたよ。」
千佳ちゃんは私達の付き合いを祝福してくれるように拍手をしながら突然の報告に驚いている。
私は千佳ちゃんの反応よりも裕也の反応が気になっていた。
裕也を好きになってからの私は、誰とも付き合ったことなかった。
どんなに裕也が彼女の話をしても、私は付き合っている相手なんかいなかったから裕也が私が誰か他の男の人と付き合いだした時どんな反応するのかは分からない。

分からないといっても、裕也は私のことなんか興味ないんだからそんな反応見なくても分かりきったことなのに。
裕也が私のことを引き止めてほしいと望んでいる私の愚かしい気持ち。
あるはずないのにね。

裕也がどういう反応をするのか気になりながらも、自分の中に起きた気持ちを笑いたくなってしまった。
「どうして2人が付き合うことになったんだ?」
笑いたくなっている私に、裕也が静かな声で私達が付き合いだしたことについてきいてきた。
その声に裕也の顔を見ると、笑顔は見られず、真剣な顔だった。
自分が予想していた裕也の反応ではないことに驚いてしまった私は、裕也の質問に答えられないでいると、
「昨日咲さんにやっと付き合うって返事をもらったんです。
俺ずっと咲さんのこと好きだったんですよ。
だから、やっと俺の思いが報われて嬉しくって。
先輩、俺達の付き合いを祝福してくれますよね。」
答えられない私の変わりに景山君が答えてくれた。
景山君の言葉に、彼の方を見ると、何故か挑戦的な顔をしながら裕也に話しかけていた。
どうして景山君がそんな顔をしながら裕也に話しかけているのか私には分からなかったが、
「先輩祝福してくれないんですか?
先輩も春日部さんと付き合いだしたんでしょ?」
と、話を続けた。
「祝福してるよ。
急な話で驚いただけだ。
よかったな咲、景山はいい奴だからお買い得だな。」
裕也は先ほど見せていた真剣な顔は気のせいなんじゃないかと思うほどの笑顔で私達の付き合いを祝福してくれた。
「咲さん達も付き合いだしたんだったらダブルデートとか出来ますね。」
千佳ちゃんは嬉しそうにそう言うと、
「じゃ今度の日曜でも一緒に出かけませんか?
どこに行くかはまだ決めれないけど、行きましょうよ。
そうしましょう、裕也さん。」
言い終わった後裕也の方を向いて甘えている。
「そうだな、それもいいかもな。
俺は千佳ちゃんの行きたい所でいいけど、お前達どうする?」
裕也は千佳ちゃんに笑顔を向けると、私達に聞いてきた。
「俺は別にいいですよ。
咲さんどうですか?」
「私は景山君がいいならいいけど。」
「じゃ、行きましょうか。
行き先はみんなで案を出して気に入った所に行くということでどうですか?」
「いいんじゃないか。」
裕也はそう言うと食事を再開した。
私達も、裕也の返事を聞いて同じように食事を始めた。

ダブルデートに行くことになるなんて思ってもいなかったな。
この場所で行きたくないなんて返事できなかったし仕方ない。
でも、裕也が見せた真剣な顔、少しは私のこと気にしてくれているのかな?
ううん、そんなの気のせいね。
だって、すぐに私と景山君の付き合いを祝福してるんだから。
これで、裕也のことを諦めることが出来るわよね。
今は景山君がいてくれるんだから出来るはずよね。

私は食事を食べながら自分の中の決心を強めていった。
Copyright (c) 2007 machi All rights reserved.

面白かったよとちょっとでも思ってくれたら押してもらえるとうれしいです♪
よろしかったら感想も一緒に書いてもらえるとますますうれしいです♪

Novel

Top

Next

Back




検索サイトから来られた方は、 こちら からTOPへどうぞ。