切なくて、恋しくて

11

泣き続けている私に景山君は、その間中ずっと背中を撫でてくれていた。
なかなか止めることが出来なかった涙も次第に止まった。
涙が止まってくると、涙と一緒に酔いも醒めてきたのか泣いてしまったことと景山君に抱きしめられている状態なのが恥ずかしくなってきて、腕の中から抜け出そうと思い、景山君の胸を押した。
でも、景山君は腕の力を強めてしまい、再び胸に頬をつける形になり、抱きしめられたままの状態だ。
「景山君離して。」
私は腕の中で体を捩りながら言うと、
「嫌です。」
とハッキリした言葉で言われてしまった。

このまま抱きしめられたままの状態はまずいわよね。
早く離れてもらわなくちゃ。

改めてそう思った私は、先ほど言った言葉よりも口調強く、
「離してっ。」
と言ったけど、
「嫌です。
さっきもそう言ったはずですけど。」
そう言って景山君は離してくれなかった。
「もう泣き止んだんだから離して。
いつまでもこのままの状態でいるわけにはいかないでしょ。」
「俺はもうしばらくこうしてたいんです。」
「私は嫌なの。」
「本当に嫌だったら暴れてでも俺の腕の中から抜け出せばいいんですよ咲さん。」
「じゃそうするわ。」
そう言って私は体を大きく捩り、景山君の胸を強く叩いたけど景山君の腕の力は少し緩んだくらいで外れそうにもない。

何でこんなに力が強いのよ。
見かけは力ありそうに見えないのにっ。

「咲さん、泣いて少しはすっきりしましたか?」
景山君は一生懸命腕の中でもがいている私にニッコリ笑いかけながら聞いてきた。
その言葉に思わず動きを止めた私は、顔を上げ正直な気持ちを答えた。
「そう言われると・・・。
こんなに泣いたのは久しぶりだからかな、それに、溜め込んできた気持ちも言ったからか胸に溜めていた重苦しさは軽くなってる気がする。」
「それなら良かった。
咲さんが辛そうな顔をしているのを見るのは嫌ですからね。」
「ありがとう、そう言わないといけないわね。
ずっと落ち着くまでそばにいてくれたんだから。
もうすっかり落ち着いたから抱きしめてもらわなくてもいいわよ。」
「さすがにもうこれ以上引き伸ばせませんね。
咲さんの柔らかい胸が触れて気持ちよかったのに。」
「何言ってるのよっ!」
私はそう言って胸を強く押すと、先ほどと違いすんなりと景山君から離れることが出来た。
「冗談ですよ。」
景山君はいたずらっ子のような顔でそう言うと、笑い出した。
私はその笑い声と景山君の笑い顔を見ていると、自然に笑いがこみ上げてきた。

あんなに泣いたのに今は笑ってるなんて不思議。
景山君がそばにいてくれたからかな。






私達は向かい合ったまましばらく笑っていると、
「やっぱり咲さんは笑っている顔が1番可愛いですよ。」
と、景山君は自然な感じでサラッと言った。
そのあまりの自然さに私は素直に、
「ありがとう。」
という言葉が出てきた。
こんなに素直に言うことが出来るなんて自分にビックリしてしまった私はきっと顔に出ていたと思う。
「咲さん、先輩のどこが好きなんですか?」
と、驚いている私に突然景山君が質問してきた。
「どこって。」
「そんなに好きな人だったらどこが好きなのか気になって。」
「そうね、気づいたら好きになってたからなぁ。
しいて言うなら、遊び人でだらしないのに、優しい所かな。
困っている時に気づいたら助けてくれるの。」
「そっか。
でもこの先も先輩に自分の気持ちを言う気はないんでしょ?」
「うん、言わないわ。
そうなったら今の関係を壊してしまうから。
このままの状態がいいのよ。
そう思ってても気持ちがついていかない時があるけどね。」
「先輩でないと駄目ですか?俺が咲さんのそばにいたいって思っても駄目ですか?」
「うん・・・、裕也のそばにいたいの。」
私はいつものように返事をしたけれど、その返事はいつもと違い、少し間をおきながら言っていた。
それは、先ほど感じた景山君の温もりが心地よかったからかもしれない。
でも、裕也のそばにいたいという気持ちは変わっていなかった。
そう思いながらも景山君の温もりを求めだしている思いも生まれてきているのも事実。
それは口に出してはいけない。
口に出してしまったら変わってしまう。

何が変わるの?咲。

自分に問いかけてくる声が聞こえてきたような気がしたが、景山君の声にかき消されてしまった。
「咲さん、俺と付き合ってください。」
「え?」
「咲さんが先輩を好きな気持ちはすぐに変わらないと思う。
でも、咲さんの心にほんの少しでも俺のこと考える気持ちがあるなら付き合ってみませんか?
すぐに咲さんの気持ちが欲しいですけど、それは無理そうだからちょっとずつ俺のことを考えてもらえるように頑張りますよ。
とりあえず、お試しでどうでしょ?」
「そんなの駄目よ。」
「何が駄目なんですか?」
「とりあえず付き合うなんて景山君に悪いもの。」
「俺が言い出してることなんですから悪いことなんかないですよ。
咲さんが気になっているのが俺のことだけなら問題ないですね。
お試しお付き合いしましょう。
期間は、咲さんがやめたいと思った時でいいですよ。」
景山君はそう言って私の手をとり、自分の小指を私の小指に絡めた。
「これで契約成立です。
1度契約したんですから嫌はなしですよ。」
「嫌も何も、私まだいいなんて返事してないんだけど。」
「でも咲さん、俺のこと嫌いじゃないでしょ?
それを感じたから提案したんです。
どうですか?」
景山君はニッと笑い私の顔を覗き込んでくる。

確かに嫌いじゃない。
それに、景山君の温もりに甘えたい気持ちもある。
でも本当にいいのかな?
景山君が提案してきたことは、私を甘やかしているだけじゃないのかな?





そんなことを考えていると、絡められた小指を景山君が自分の方に引っ張り私の身体がふらついてしまった。
そんな私の身体を景山君が支えてくれたかと思うと、景山君の顔が私に覆いかぶさってきて、気づいたら私の唇には景山君の唇が重なっていた。
そのキスはこの間突然されたキスとは違い、深いキスで私を求めてくるものだった。
「んんっ、ふぅ」
私は自分の身体が火照るのを感じ、キスを受け入れていた。
角度を変えながら求めてくるキスは、私の舌に景山君の舌を絡ませて、口腔内を自由に動き回る。
身体を痺れさせながらキスを続けていると景山君の唇がゆっくり離れていった。
しばらく放心状態になってしまっていた私だったが、景山君にキスをされていたということに意識が向くと、
「いきなり何するのよっ!」
と、顔を真っ赤にしながら叫んでいた。
景山君はそんな私の様子を見てニッと笑いながら、
「付き合いだしたから恋人のキスをしただけですよ。
この間のキスは挨拶だけだったから。
当然ですよ、恋人同士なんだから俺達。」
と、飄々と言ってくる。
「契約は破棄するっ!
私が決めていいって言ったわよね。」
私はそう勢いよく言うが、
「却下です。
咲さんが決めていいって言いましたけど、俺が同意した場合のみです。
言うの忘れてましたけど。」
「そっ・・・、」
「じゃそろそろ帰りましょうか、明日も仕事ですし。
咲さんを疲れさせたまま仕事に行かせるわけにはいきませんからね。」
景山君は私の抗議をそ知らぬ顔で聞き流し、レジに向かうべく私を立たせた。
私は自分が選択したことが良かったのか頭を抱えながら考えていた。








店から出た私達は、景山君に家の前まで送ってもらい別れた。
こういう場合、家にお茶を飲みに来ないかと誘うのがいいのかとも考えたけど、誘ってしまったら墓穴を掘りそうな気がして躊躇っていると、
「じゃ、また明日。」
そう言って景山君は爽やかに帰っていった。
その姿は先ほど店で見せた姿ではなく、いつもの景山君だった。

でも、店で見た景山君も口で言うほど嫌ではなかった。
頭は抱えてしまったけど。
でも、キスはやりすぎじゃないのかしら。
これからあの景山君が出てくるなら私は・・・・、ええいっ、これ以上今日は考えないっ!
お風呂に入って身体を休めたらもう寝よう!!

家に着くまでのエレベーターでいろいろ考えてしまった私は、考えることを放棄することにした。
家に着いた私は、計画どおりお風呂に入って身体を休めた後、ベッドに入りまだ残っていた酔いに任せて眠りについた。
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