切なくて、恋しくて

10

コーヒーを飲み終わった私達は喫茶店を出て、景山君の案内で夕食を食べるためお店へ向かった。
そこは、歩いていける所にあるらしく、私達は肩を並べながら歩き続けている。
その間、仕事のことを話しながら歩いていたせいか、喫茶店にいる時より構えることなく話せた。
景山君と話すことや行動することは嫌ではないんだなと思うけど、彼の気持ちに答えることは出来ないという思いは変わっていない。
でも、そう伝えても彼は落ちこむわけでもなく、何度も告白をしてくる。
その行為は、私には出来ないこと。
何年も一緒にいる裕也に出来ない芸当だ。

どうして景山君は何度も告白出来るんだろう?
私に出来ないことを彼は出来ている。
ううん、本当は分かってる、私に勇気がないだけだって。
でも、今の私にはやっぱり何度考えても出来ないことだな。

話している間、そんなことを考えているうちに目的の店に着いたようで、景山君にドアを開けてもらい、私は店の中に入っていった。










「ここの店おいしいんですよ。
咲さんが気に入ってくれるといいんですけど。」
「雰囲気は好きよ。
料理は食べてみないと分かんないけど。」
「じゃ早速頼みましょうか。」
そう言って景山君は、メニューを私が見やすいように開いてくれた。
折角なので、私は自分が食べたいと思うものがないかメニューを覗き込んだ。
そうして、お互い食べたいと思うものを注文し、最初に来た生ビールを手に取った。
「やっぱりここは乾杯しないといけませんね。」
「乾杯って、別に乾杯するようなことないと思うんだけど。」
「ありますよ。
咲さんが来てくれたこと、そして、これからの俺達のこと。」
「私が来たことぐらいで乾杯しなくても。
それに、俺達のこれからって・・・。」
「まーまー、はい乾杯っ。」
景山君は私の言葉を遮ったかと思うと、乾杯の掛け声をした後私のグラスに自分のグラスを当て、音を鳴らした。

個室になった作りというのが気になるけど、周りには他のお客さんがいるから心配ないかな。
やだ、私何意識してんだか。
それも、景山君の素直さには驚かされてすっかり景山君のペースに乗せられてしまっている私自身にもビックリしてるからよね。
こんなに自分のペースを崩されるなんて、裕也といてもこんなことないのに。
だからなのかな、このまま景山君と一緒にいるのは危険な気がする。
何が危険なのかと聞かれるとうまく答えられる自信はないんだけど、私の中で警告が鳴っている。
早く帰らなくちゃ。

私は、早く帰る状況を作るため、運ばれてきた料理を不自然にならないよう気をつけながら食べ始めた。
そんな私に景山君は、私のグラスが空いたのを確認するとすぐに次の飲み物を頼んでくれてその結果私は、いつも飲む量より多いお酒を飲んでしまっていた。









「ねー、何で景山君はそんなに自分の気持ちに素直になれるの?
私に教えてよ素直になる方法。」
すっかり酔ってしまった私は、景山君に絡んでいた。
絡んでいる自覚はなかったけど。
そんな私の様子に嫌な顔を見せず笑顔のままの景山君は、私の話に付き合ってくれている。
「素直ですか?俺。」
「素直よっ。
私には裕也に好きって言うことが出来る素直さはないもの。
そんな私から見たら、私は好きにならないって言ってるのにずっと好きだって言い続けてる景山君はすごい。」
「咲さん、褒めてるんですか?貶してるんですか?」
「もちろん褒めてるんだけど。
素直、いい言葉だよねぇ〜。憎らしい時の方が多い言葉だけど私にとっては。」
「俺から見れば咲さんは素直ですよ。」
「私のどこを見たらそんなこと思うわけ?」
「先輩を見つめる視線は素直の何者でもないと思いますよ。」
「視線だけ素直でも仕方ないんですっ!
言いたいことを口に出してこそ素直と言えるのよっ!!」
私は勢いよく景山君に言った後、自分が言った言葉に落ちこんでしまった。
急に静かになってしまった私に景山君は、
「どうかしたんですか?」
と優しい声で声をかけてくる。
その声が引き金になってしまったのか、今まで私の心に溜まっていたものが噴き出してきた私は、気づいたら涙を流していた。

あれ?
何で私涙流してるの?

急に流れてきた涙に疑問符が頭の中に浮かんだけど、涙の理由はすぐに分かった。
涙の理由が分かった私は、
「素直になるなんて私には無理な話だったわ。
素直になんかなったらもう裕也のそばにいられないんだから。
裕也のそばにいるためには今の私のままじゃないと駄目なのにね、何言ってんだか私。
ごめんね、急に泣いたりして。」
気づいたら笑顔で景山君にそう言ったけど、涙は流れ続けてしまう。
今の状態の私には涙を止めることは出来ず、しかも口は勝手に動いてしまい、話を続けてしまう。
「知ってる?裕也と千佳ちゃん付き合うって。
自分の好きな人と仲がいい後輩が付き合うなんて笑っちゃうよね。
千佳ちゃんは裕也のことが好きなんじゃないかって聞いてきたの。
でもね、私は嘘ついちゃった、裕也のそばに居続けるために。
だから千佳ちゃんが裕也に告白して付き合うのは自然な流れなのは分かってるの。
千佳ちゃんは裕也の好みだし。
それなのに、自分で引き寄せてしまった結果なのは分かってるのに辛いの。
馬鹿みたいでしょ?
笑いがこみ上げてくるぐらい馬鹿よね私。」
私はそう言って再び笑い出してしまった、涙をながしたまま。





「もういいから、咲さん。
そんな顔しながら泣かないで。
見ている俺の方が辛くなる。
だから、咲さんが溜めている気持ちを全部吐き出していいよ。受け止めるから。」
景山君は私の隣に来た後そう言って私を自分の腕の中に引き寄せた。
私は景山君の温かい胸の温もりと腕の力強さを感じて、嗚咽を上げながらしがみついて泣いてしまった。
「何で私じゃ駄目なの!?
いつもそばにいたのは私なのにっ。
私以外の人選ばないでよっ!
私だって裕也が好きって素直に言いたいのになんで駄目なのよぉ。」
今まで胸に溜め込んでいた刺さったままの棘を抜いていくように、景山君の胸にすがりつきながら今まで誰にも言えなかった思いを口にした。
そんな私に景山君は何か声をかけてくるわけでもなく、優しく私の背中をさすってくれた。



景山君がくれる温もりを感じながら、景山君の腕に抱きしめられたまま止めることが出来ない涙を流し続けた。
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