砂糖菓子のような想い



俺にとっては穏やかだが充実感に満たされる時間が過ぎ、準備を済ませ桃依と共に車に乗り込み、おばあ様が待つ実家へと車を走らせる。
車中では、桃依からおばあ様の人物像について聞かれたが、どうして桃依がそんなことを聞いてくるのか分からず、一言で返事を済ませた。
だが、そんな俺の答えに桃依が満足している表情は見せなかった。
その後、桃依が聞き直してきたことでやっと桃依がおばあ様のことを何故聞いてきたのかを理解した俺は、思いだされるおばあ様の姿を頭の中で思い浮かべながら話す。
「秋定さん、本当におばあ様のことが大好きで大切なのね。
今までの秋定さんの話でも分かってたけれど、おばあ様のことを話す時の秋定さんの表情でそのことがよく分かるわ。
私、頑張るから、秋定さんのおばあ様に少しでも安心してもらえるように。」
俺の話が終わった後、桃依は穏やかだがどこか嬉しそうな様子を含んだ笑顔を見せながらそう言った。
桃依の言葉に、自分がどういう表情をしながら話していたのかと考えてしまったが、桃依の表情を見ている限りは、変な表情をしていたわけではないのだろう。
だが、桃依に、「頑張る」と言わせるような表情をした自覚はなかった。
おばあ様のことを話すのに不快な表情をしているはずはないので、どんな表情をしていたんだという言葉は口に出さないことにした。
その後、目的地に近づいていることを桃依に知らせるため、
「もう少しで着く。」
と、言葉短く知らせる。
それからは緊張してきているのか桃依は口を閉じ、窓の外の景色を眺めだしていたので、それ以上のことを話すことなく、車を走らせ続けた。












「おかえり、それといらっしゃい。
2人が来てくれるのを待っていたわ。
さー、早く中に入って。」
自宅に着き、門を入りしばらく車を走らせた後、玄関の前に車を止め降りると、玄関をゆっくりと開け出てきたおばあ様は、俺と桃依にそう言って中に入るように促した。
久しぶりに会うおばあ様は顔色も良く、元気そうで安心する。
桃依には余命が半年と嘘をついているわけだが、すでに高齢と言っていい年齢のおばあ様は、いつ体調を崩すかは分からない。
だから、おばあ様の体調をいつも帰ってくると心配してしまう。
そう思いながらも、自分がついている嘘に勝手なことだが胸が痛くなる。
心配していながらも、桃依を手に入れたいと願う俺は、大切に思っているおばあ様を利用しているということに、本人と直接顔を合わせることで改めて思い出してしまったからだ。
昔から変わらない優しい微笑みで迎えいれてくれるおばあ様、

ごめん。

人に謝ることなどしない俺が、自然に心の中で謝罪の言葉を言っていた。
けれど、今更計画を変更するわけにはいかない。
心の中で一言呟きながら自分の欲望のためにおばあ様を犠牲にしている罪悪感を心の奥底に閉じ込めながら、促されるまま足を動かし続けた。






天気がいいからと案内された場所は、すでにテーブルの上にセッティングされている状態にある庭だった。
座るように促され、腰をかけるといつものようにおばあ様が紅茶の準備を始める。
そんなおばあ様に桃依は自分がすると言っていたけれど、予想どうり自分の仕事だからとおばあ様は譲らなかった。
準備が終わると、
「さー召し上がれ。」
優しく包み込むような笑顔を見せながらおばあ様が紅茶とケーキを勧める。
カップを手に取り紅茶を口にし、手作りのケーキを味わうと、子供の頃この味にどれだけ救われていたのかということを思い出させる懐かしい味。
俺の好みに合った味付け、今でも十分おいしく感じさせるおばあ様の手作りケーキに顔の筋肉が緩んできていたが、緩む理由はそれだけではなかった。
桃依と一緒に住むようになってから食べるようになった桃依のお菓子。
手作りの物はおばあ様が作ったもの以外は受け付けられなかった俺の口に合うお菓子は、おばあ様の作るものよりも数段おいしいものなのだと気づかされる。
そして、昔おばあ様が言っていた言葉が思い出され、俺の表情をますます緩めさせていた。

おばあ様の言っていたとおり見つけたと思っていたが、こんなにも違いが出てくるとはな。
今食べても十分におばあ様が作るお菓子を美味しくは感じるが、桃依が作るお菓子はおばあ様が作るお菓子には出来なかった俺の心を動かす何かがあるのだろう。
ただのお菓子だと言われればそれまでなのかもしれないが、俺にとっては重要な意味のあるものだから、改めて桃依の存在が俺の感情を満たすのを感じている。
俺は桃依が欲しいと。
身体だけではなく、心ごと。
どうすれば俺はそれを手にすることが出来る?
無理やりに手にするわけにはいかないが、それでも、欲して気が狂いそうな感情。
気づいてほしい、これほどまでに桃依を必要としている俺の本心を。

横に座る桃依の顔を見ながら自分の想いが溢れだしそうになる。
だが、おばあ様が話しだす言葉に意識を向けさせ、溢れさせる様子を見せないようにしながら返事をした。
すると、携帯が震えだし着信を知らせる。
この場で電話に出るのは無粋だと思い、席を立ち少し離れた所で通話ボタンを押す。
相手は、液晶画面に表示された人物、美登理だった。






「今大丈夫?」
「ああ。
どうしたんだ?」
「何とか引き継ぎの目途も立ってきたから帰国の日を決めたの。
そのご報告よ。」
「そうか。
いつになりそうだ?」
「そうね、引き継ぎには後1ヶ月時間を欲しいの。
そうすれば日本に戻れるわ。
とは言っても、油断すると先延ばしにされそうだから帰国日時を決めたのよ。
今から言うわね。」
美登理はそう言って決定しているらしい帰国日時を話しだす。
俺は手帳を取り出し、その日時を書きとめた。
「それと、1つお願いがあって。
引き継ぎのせいで日本での住む所を探す時間がないのよ。
だから、用意してもらってもいいかしら?」
「ああ、構わないが。」
「助かるわ。
じゃ、そういうことで。」
美登理はホッとしたような声を出しながら電話を切ろうとしていたが、
「公浩には電話したのか?」
予想ではかけていないだろうと思いながら問いかけ、美登理を引き留める。
美登理は、小さく息をつめたようだったが、感情を俺に読み取らせまいとしているのか、声に変化をさせず、
「電話してないわよ。」
と、答えた。
「公浩にも電話するんだろ?
久しぶりに逢うんだから。」
「久しぶりと言ってもわざわざかける必要もないと思うからかけないわ。
それと、日本に帰ってきたら連絡を取るから帰国の日は公浩には言わないでおいて。
その方があの公浩を驚かせることが出来るだろうから。
じゃ、そういうことでよろしくね。」
再び電話を切るため締めの言葉を言う美登理に、俺は引き留めることなく通話を終わらせた。

言わないでくれと言われても、それは無理な話だ、美登理。
どうせばれることなんだから、俺の口からばらすぞ。
それに、公浩には協力すると約束しているからな。

心の中ですでに会話を終わらせている美登理に話しかけながら、公浩の番号を表示させ、通話ボタンを押した。
しばらくすると、公浩が電話をとり、美登理が帰国する日時を知らせる。
「わざわざすまないな、おばあ様に会いに行っている時に。」
「きちんと知らせておかないと後でうるさいからな公浩は。」
「さすが付き合いが長いだけあって分かってるな。」
ククッと公浩は笑いを含んだ声で返事をする。
「美登理が帰国する日が決まったんだったら、この間頼んだことお願いすることにするよ。」
「美登理、驚くだろうな。」
「そうだろうな。
でも、俺の近くに戻ってくる美登理を他に手放すつもりはないから計画を実行するまでだ。
これだけ待ってたんだ、多少待つのが延びても問題ない。
最終的に俺のそばに美登理がいてくれればいいんだよ。」
「お前の自信はどこからくるんだ?
美登理も大変だな、公浩の相手をするのは。」
「自信ねぇ、あるわけないだろ。
でも、何もしないまま指をくわえて見ているほど馬鹿でもない。
だから行動しているだけだ。
秋定も理性より本能を優先したらもう少しうまく立ち回れるんだろうにな。」
「どういう意味だ?」
「それは自分で考えるんだな。
じや、協力感謝するよ。」
公浩は俺の中に疑問を残したまま電話を終わらせた。

理性より本能、そうは言っても本能だけで動くのは動物じゃないんだから無理な話だ。

公浩の言葉を受け入れることができないまま、桃依とおばあ様がいる庭に戻るため、携帯をなおし、歩き出した。











「これで私もやっと安心できるわ。
そうそう、2人のお披露目をしないといけないわね。
結婚式に日取りはまだはっきりとは決まっていないんでしょ?
だったらその前にやりましょうね。
忙しくなりそうだわ。」
「あのおばあ様、私達はお披露目ということはやらないようにしていたんです。
結婚式も身内だけでということに決めているので。」
「どうせ秋定がそう言ったんでしょ?
桃依さんは心配しなくてもいいですからね。
私から秋定に話をしますから。
それに、2人は忙しいと思いますから私が準備はやりますよ。」
「おばあ様そんな問題ではなくて・・・・。」
2人のところに戻っている俺の耳に入ってきた会話。
桃依は焦りながらおばあ様が婚約式の準備を進めることを止めたいと思いながら止められない状態にいるようだった。
それもそのはず、桃依にとっては契約結婚なのだから婚約式というのは避けたいだろう。
だが、俺としてはおばあ様の提案に、自然と表情が反応を示していた。
このまま婚約式を行い、桃依が俺から離れられない状況を作るというのもいい手かも知れないと思ったからだ。
「おばあ様もお元気そうですからお願いしましょうか。」
2人に近づきながら、おばあ様の提案に賛成を示し、自分の席に腰をかける。
冷めてしまっている紅茶を口にしながら隣に座る桃依の反応を横目で確認すると、当然のことながら考え込んでいるようだった。
だが、すでに盛り上がっているおばあ様を止めることはできず、そんなおばあ様の後押しをするような俺の言葉に桃依は反論することなく、
「お願いします。」
短い言葉ではあったが、思惑どおり答えた。
その言葉を聞き、姑息な手段を使ってしまったと思ったが、2人の関係を進展させるための足がかりになれるという希望を俺に持たせていた。
自分がこんなにも卑怯な手を使ってまで欲しいと、自分の手の中から逃がすまいと必死になったことは今まで1度たりとしてない。
桃依に対して自分が行っていることといえば、真逆の行動だということは自覚しながらも止めることは出来ないでいる。
どんな小さなきっかけでもいい、卑怯な手を使ってもいい、桃依との距離が少しでも近づき、俺のそばから離れることがなければ。

これが公浩が言った本能というやつなのかもしれないな。

自分の今までにない行動にそんなことを思ってしまう。
だが、今の俺には自分の欲望を満たすだけの行動しか取ることができないでいた。












「あら、すっかり遅くなってしまったわね。
折角だから2人共このまま泊まっていくといいわ。
そうよ、そうしなさいな。
そうしてくれると私も久しぶりに1人での寂しい夕食じゃなくなるしうれしいわ。」
庭での出来事の後、場所を移しおばあ様と桃依は楽しそうに話をしていて、俺といえばそんな2人の様子を眺めながら時には相槌を打つということをしている内に時間は気づかない間に過ぎていた。
そのことに気づいたおばあ様が夕食を一緒にということで俺達に声をかける。
結局夕食の後もおばあ様も桃依の会話は終わることがなく、外は暗闇に包まれ家に帰るには遅すぎる時間になってしまい、泊まるよう促される。
俺としては特に異存はなかったが、おばあ様が言った言葉に桃依は困惑の表情を見せた。
それもそのはず、俺と一緒の部屋で眠るよう言われたからだ。
今まで俺達は当然のことながら一緒の部屋で夜を共にしたことはない。
桃依が動揺するのも仕方がないことだろう。
俺としては同じ部屋で眠るというのに異存はないが、自分の忍耐に自信があるのかと問われれば、ないと即答できる。
だが、そんな様子を見せ、桃依を怯えさせることなど出来るはずもなく、何事も感じていない素振りをみせながら俺の部屋へと桃依を案内した。
「今日は疲れただろう、風呂に入ってゆっくりするといい。」
そう言って桃依に風呂に入るよう促した。
桃依が風呂から出てくるまでの間用意させた水割りを口に運びながらゆっくりと待つ。
しばらくすると、桃依が用意させていた寝衣を身にまとい俺のところまでやってくる。
頬が風呂に入ったことで赤く色づき、ゆったりと上げられている髪で今まで隠されていたうなじが見える。
その姿は俺を誘っているような錯覚を覚えるくらいの色気を漂わせていた。
今まで入浴後の桃依を見たことがないわけじゃない。
だが、これから同じ部屋で一晩を過ごすのだということが俺を落ち着きなくさせていることを自覚してしまう。
そんな自分を見せるわけにもいかず、手にしていたグラスをテーブルに置いた後すぐに風呂へと向かった。
若造でもないのに、自分の欲望がすぐに反応を示そうとしていることに苦笑してしまうが、何とか落ち着かせ入浴をして部屋へ戻ると、桃依はソファーを前にして佇んでいた。
どうしたのかと思っていると、すぐにその訳を知ることになる。
桃依がソファーで眠るから毛布が欲しいと言ってきたからだ。
「どうして貸す必要があるんだ?」
「どうしてって、やっぱり一緒に眠るのはまずいかと思うし。」
「これだけ広ければ何も問題はないと思うが。」
「そういう問題ではなくてっ。」
「ではどういう問題だ?
桃依は私が襲うと思っているのか?」
「そうは思ってないけれど。」
「だったら問題はないな。
もう遅い、眠ろう。」
桃依をソファーで眠らせる気は全くない俺は、本心とは言い難い言葉を口にしながらベッドに入るよう桃依に促す。
入りにくいならと俺が先にベッドに入るとしばらくして桃依もベッドへ潜り込んできた。
ベッドは2人で眠っても十分の広さを保っていて、俺と桃依の間には空間が出来る。

背を向けたままの桃依を同じように背を向けながら感じていた俺だったが、桃依が話しかけてきた。
「秋定さん、なぜお披露目をすることに賛成したの?
秋定さんからおばあ様に断わりを入れてくれると思っていたのに。」
「それは無理な話だな。
おばあ様は自分が言ったことはやらないと気がすまない人だ。
止めさせるのは至難の業と言ってもいい。」
「でも、多くの人に結婚するということが伝わってしまうわ。
私達は本当の夫婦ではないのに。」
「そんなことはおばあ様の喜んだ顔に比べるとどうということはない。」
「桃依は何も心配しなくてもいい。
だから、このまま休むといい。」
「・・・・はい。」
言いくるめるように桃依の質問に答えると、しばらくすると寝息が聞こえ始めた。
桃依にはおばあ様のためだと伝家の宝刀のように繰り返す言葉。
本当はおばあ様のためなんかではなく自分のためなんだと思いながら。
それでも、本心を素直に言えないことに苛立ちを覚える。
どうして素直に愛していると言えないのかと。
この先、2人の関係を変える一歩を踏み出せないのは、桃依を失いたくないという恐怖のため。
契約結婚という関係が2人の関係を変えるために仕組んだはずなのに、桃依の気持ちを確信できない今、足かせのように俺に行動を起こさせることを引き留める。
2人で過ごす時間の居心地の良さを知ってしまったから余計に。
だから、最悪このままおばあ様のためだと言い続けて桃依が離れていかないよう外堀を固めようとしていることに苦笑してしまう。
桃依が眠ったことを寝息で確認した後、ゆっくりと桃依の方を向き初めてみる桃依の寝顔。
このまま抱いて有無を言わせず自分の物にしてしまいたいという衝動に駆られるほどその寝顔は俺の心を惑わせる。
だが、そんなことが出来るはずもない。
だからと言ってこのまま大人しく眠ることができない俺は、そっと指で桃依の唇に触れ、その柔らかな感触に自分の唇を重ねてしまう。
そして、離れた後ゆっくりと桃依の身体を自分の方へ引き寄せる。
桃依の温もりを全身で感じるために。
柔らかで華奢な身体、守らなければいけない存在だと俺に知らしめる。
それでも言わずにはいられなかった、

桃依、愛している

と。





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