砂糖菓子のような想い


3


契約結婚が成立した後、桃依から部屋の整理をしたいと言われ同意した俺は、桃依が部屋に入っていくのを確認した後書斎へと移動した。
書斎に入った俺はパソコンを立ち上げ仕事をしようとしたが、画面を見る目は集中することができず、手を動かし始めることもなかった。
とりあえずパソコンを立ち上げたといえる状態だ。
俺の頭の中には桃依との今後のことを考えていたわけだから当然かもしれない。
今のところ計画どおりにいっている。
だが、ほんのさわりの部分がうまくいったというだけで、これからどう転ぶのか分からない。

問題はこれからだな。

そんな考えが頭の中を占める中、突然携帯が鳴りだす。
画面には公浩の名前が表示されており、俺はゆっくりと通話ボタンを押し、話を始める。
「何だ。」
「何だ、はないだろ。
どうだ?調子は。うまいこといってるのか?」
「とりあえずは桃依から契約結婚の同意は得ることが出来た。」
「そうか、それはよかった。
俺の可愛い姪っ子なんだから泣かすようなことはしないでくれよ。」
「俺が桃依を泣かすことがあるはずないだろうが。
俺の大切な女性なんだからな。」
「大切な女性、ね。
お前の口からそんなことを言う日が来るなんてな。
でも、いい傾向だよ。
秋定がこれからどうやって桃依を口説き落とすのか楽しみにしているよ。」
「お前は俺の応援をしているのか、面白がっているのか分からないな。
多分、面白がってる方の比率が大きそうだが。」
「比率は半々だよ。
じゃ俺はこれから真面目に仕事をやるんで、しっかりな秋定。」
そう言って含み笑いで最後を締めくくった公浩は電話を切った。

楽しんでるんだろうな、公浩は。
今まで女性に対して見せたことのない俺の執着心を。
別にかまわないけどな、そんなことくらいで俺の気持ちが変わるわけではないから。
桃依に対する気持ちはとどまるところを知らないようだ。
これからどう口説き落そうか、どうしたら本当に桃依が俺の物になるのか、それが今の俺の一番の関心ごと。

俺は自分の中に生まれている決心を強めていくのを感じながら天井を見上げる。






「はい。」
天井から視線をパソコンに戻した後、携帯ではなく家の電話が鳴りだす。
家の電話にかけてくる相手は分かっているから返事だけをする。
「秋定?私です。」
「おばあさまお久しぶりです。」
「本当ですよ、私から連絡しないと秋定は連絡もくれないんですものね。」
おばあ様は拗ねた素振りを表す。

そんなおばあ様の様子はいつもと同じで俺を安心させる。
両親が亡くなり、俺を唯一可愛がって育ててくれた人。
俺にとって数少ない大切な存在。

「今日はお見合いの話があるから連絡したのよ。」
「またですか?
いつもお断りしているはずですが。」
「またそんなことを言って。
早く私を安心させてほしいといつも言っているのに私を困らせるのが本当に好きなようね、秋定は。
私もいつまで元気でいられるか分からないのだから。
会うだけでも会ってみてほしいのよ。
出会ってみたら気に入るかもしれないじゃないの。」
おばあ様の口から出るのはいつもと同じセリフ。
確かにおばあ様がいつまでも元気でいれるとは思ってはいない。
だから、おばあ様の願いを叶えてやりたいとは思うがお見合いで叶えてあげることはできない。
それに、今俺の心を占めているのは桃依だけ。
だから、いつものようにとりあえず会うということは無理だ。
「おばあ様、お見合いはしません。
今、結婚を前提にお付き合いしている人がいますから。」
「そうなの!?
それならそうと何故早くいわないの?
知っていたらお見合いの話なんて言わないのに。
どんな方なの?秋定が選んだ方は。
早くお会いしたいわ、可愛らしい方のような気がするのだけれど。」
「可愛い女性ですよ。
私も早くおばあ様に紹介したいのですが、仕事が忙しいのでしばらくそちらへ伺えないので、落ち着いたらすぐにおばあ様に紹介したいと思っていたんですよ。」
「そうだったのね。
うれしいわ、本当に。
今までお見合いの話をしていたけれど、秋定が自分で好きになった女性が見つかったのは本当にうれしいですよ。
早くお会いしたいけれど仕事が忙しいのであれば仕方がないですものね。
落ち着いたら連絡をくださいね。」
「なるべく早くおばあ様に会いに行きますよ。では。」
そう言って俺は電話を切り、やっと仕事を始めだすことにした。












しばらくパソコン画面に集中しながら仕事を片付けていると、部屋にノックの音が響く。
ドアを開けるとそこには当然だが桃依が立っていて、遠慮がちな表情を見せながら口を開き始めた。
「どうした?」
「あの・・・・、お腹が空いたので良かったら冷蔵庫の中にあるものを使わせてもらえないかと思いまして。」
「冷蔵庫?
冷蔵庫には飲み物とつまみくらいしか入っていないが。」
「お酒とつまみ?
いつも食事はどうされているんですか?」
「ほとんど外食だな。」
「そんな不健康な。」
「自分では作れないんでな。
特に困ることもないし。」
「そうですか。」

もうそんな時間か。
言われてみればお腹が空いている。
あまり食べることに執着がないから気がつけば食べずに酒とつまみで過ごしていることが多いせいか気にもとめていなかった。
だが、桃依に対してはそういうわけにもいかない。
どこか食事をしに連れて行かないといけないな。

そう思った俺は、桃依に確認を取るため話そうとするとそれより早く桃依が話を始めた。
「よろしければ私夕食を作りますので一緒に食べませんか?」
桃依からの予想もしていなかった提案。
そのことに驚きながらも、
「君が作ってくれるのか?
そう言えば君の母親が食事は作れると言っていたな。
では、作ってもらおうか。」
そう返事をしてしまう。
俺の返事を聞いた後桃依はホッとしたよな表情を見せながら、
「はい。
では、材料を買いに行ってきますね。
近所にスーパーはありますか?」
と聞いてくる。
「歩いて行くには少し遠いな。
私が車を出そう。」
「そんな、社長にそんなことさせられません。
大丈夫です、多少遠くても歩いていけますから。」
俺は自然と口にしたことだったが、桃依は首を振り遠慮をする。
そんな姿が何故だか俺を苛立たせる。
「そういうわけにはいかなだろう。
私も食べる食事も作ってくれるんならなおさら。」
「でも・・・。」
「ではいくぞ。」
「あっ、待ってくださいっ。」
俺は自分の中にある苛立ちを隠し、桃依に否を言わせるつもりはなくスタスタと前を歩き始める。
そんな俺の後ろ姿を桃依が早足で追いかけてきているのを感じて、自然と顔が緩んでくるのを感じていたが、エレベーターに乗る頃にはいつもの表情に戻すことができた。





車を運転している間、桃依が今住んでいるマンションについて聞いてきたが、俺にとっては当然のことだったので何ともなしに答えた後、会話が途切れてしまった。
そんな沈黙の中でも桃依といる空間は俺にとって居心地が良かった。
そのことに驚きつつも、スーパーまでの道のりを運転を続けていた。
スーパーに着き車を止めると桃依は、
「では、買い物に行ってきますが夕食で食べたいものはありますか?」
と聞いてきた。

1人で行く気か?
このまま車で桃依が戻ってくるのを待つよりは一緒に言った方がましだな。
それに、桃依と行くのならスーパーに行くのも悪くはない。

そう考えた俺は驚く桃依と共にスーパーの中へと向かった。
予想外にスーパーというのは俺にとって珍しい場所のせいか興味を引く。
野菜や果物をむき出しで置いている様子が俺にとっては面白くて仕方がない。
魚などは生で調理前のものをみたことがなく、目の前にある魚の姿は初めての経験と言っていい。
目に映るものすべてが珍しいため、楽しくなってきていた。
そのせいか、となりにいる桃依を気にしながらも野菜を1つ手に取ってみる。
「社長、先ほどは聞けなかったので聞くんですが夕食で食べたいものはありますか?」
「そうだな、特に食べたいというものはないな。」
「それでは何を作ればいいのか悩んでしまいます。」
「では、君が得意な料理を食べさせてもらおうか。」
「得意な料理ですか?」
「お母様が言われていたな、君にはしっかり料理を教えたと。
期待してもいいということじゃないのか?」
「そこまで期待されても困るんですが。
とりあえず私が作れるものを作ります。」
そう言うと桃依はカートを動かし、次々にカートの中を食べ物で埋めていく。
そんな桃依の姿も興味深い俺は、手にしていた野菜を置いた後、後ろを歩きながら桃依の様子を見つめていた。










家に着いた後、桃依が料理を作る間再び書斎に移動した俺は、スーパーを出た後の様子を思い出していた。
桃依が持つスーパーの袋を自然と持っていた自分の姿にフッと笑いが出てしまう。
今まで誰かの荷物を持つなんてことはしたことがない。
社長なのだから当然のことだと思っていた俺が、自然に桃依の荷物を持っていたことは、俺にとって驚きだ。
桃依といる短い時間の間に今まで感じたことがない驚きを体験していることに楽しさを覚える。
まだまだ始まったばかり、これからどれだけの驚きが待っているのだろう。




「社長お待たせしました。」
「分かった。」
俺はそう返事をしながらパソコンから視線を外せないでいた。
そんな俺に痺れを切らしたのか桃依が近づいてくる。
「社長、食事ができたとお知らせしたので一旦仕事を中断していただきたいのですが。」
「そうだったな、しかし今やめるわけにはいかないからもうしばらくしてから行くから先に食べていてくれ。」
どうしても最後まで終わらせたい俺は、パソコンから視線を外すことなく桃依にそう言うと、
「社長、食事はきちんと摂っていただかないと身体を壊してしまいます。
仕事も大事だとは思いますが、食事もしっかり摂ってください。」
見飽きている秘書としての笑顔で俺に食事を促す。

俺が見たいのはそんな作り物の笑顔じゃない。
そんな笑顔では食欲もなくなってしまうな。

そんな気持ちが俺の身体をパソコンの前に繋ぎ止めてしまう。
横目で桃依を見ると、思い通りに動きださないことに焦れ出しているのを感じる。

さあ、どう動く?

桃依の様子が俺に対してどう変化するのか期待している俺は、今の状況が楽しくなってきていた。
すると、桃依は俺が予想をしていない行動で俺を楽しませてくれた。
そして、秘書としてではなく、作りものでもない本当の桃依の表情、そんなことがこんなにも俺をうれしくさせる。
うれしく思う気持ちが表情にも出てしまったのか、桃依はじっと俺の顔を見ていることに気づいていたが、気づかない振りをして俺の腕に絡ませたままの桃依と共に夕食を食べるべく移動を始めた。






「社長、本当に私以外に契約結婚の話をする人はいなかったんですか?」
夕食を食べ始めると、桃依は箸を止め問いかけてくる。
俺は桃依が作ってくれた夕食を味わっている時に改めて聞いてくる質問に思わず眉をしかめてしまう。
先ほどまでは他愛ないが穏やかな夕食の時間を過ごしていたから余計にそうなってしまったといえる。

やはりこの状況に桃依は嫌だと言いたいのだろうか?
だが、今更そうだと言われても聞く気にはなれないな。
会社とは違う桃依を知ることもでき、近づいていると感じる今の状態を手放すことはできない。
まだ、何も始まっていない俺達なのだから。

俺はそんな自分の気持ちを出し過ぎないよう、桃依との会話で契約結婚を拒否しないように持ち込もうとしていると、おばあ様を心配してのことだったのだということに気づいた。
桃依の優しい一面が見えた気がして俺の心を揺り動かす。
確かにおばあ様を使って桃依を説得したのは俺としても辛いところだったから余計におばあ様を想ってくれる桃依が愛おしい。
俺のバックにあるものに惹かれる女はいくらでもいたが、欲ではなく優しさをもってくれる女性は桃依だけだ。
これではますます手に入れたいと強く思ってしまう。

どうしたら本当に俺のことを好きになってくれるんだ?
こんな方法でしかそばにいてもらうことが出来ない俺を桃依は好きになってくれるにはどうしたらいい?

会話の中で自然な様子の桃依が見える中、俺の心を占める願い。
願いながらどんどん欲深くなる自分におかしくなるが、今まで公浩に見せていた表情を俺にも見せ出す桃依を愛おしく感じ、自然と笑顔になる。

ゆっくりでいい、俺のことを好きになってくれ、桃依。
そうでないと俺はお前を好きになりすぎておかしくなってしまいそうだ。
契約結婚という鎖でいつまでもお前を縛り続けたままでもいいと思うくらいに・・・・。





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