砂糖菓子のような想い



計画実行の日、公浩から桃依を俺が用意したマンションに連れてくると連絡があった。
その方法は無理があるだろうと言ったが、
「桃依にはこのくらいしないと実行不可能なんだよ。
心配するな、姉さん達には俺からうまく話して了承もらったから。」
公浩はそう言って計画通り桃を抱きかかえながらマンションにやってきて、俺が用意したベッドの上に寝かせた。
薬を使い眠っているせいか目が覚める様子もなく穏やかな寝顔の桃依、朝になりこの状況にどういう反応を示すのだろう?
そんな考えが頭の中によぎるが、間違いなく驚くだろうということは予想できる。
いつも動じることなく仕事をする桃依しか知らない俺としては、不謹慎にも見てみたいと思ってしまう。
俺が知らない桃依の表情を知りたいと思ってしまうのは、俺の中では初めての感情。
桃依の寝顔を見つめながらそっと頬に触れる。
初めて触れる桃依の肌、ほのかな温もりを直に感じ離れることができない。
「それ以上の行為は叔父として許さないからな。」
俺の肩にポンッと手を置きながら公浩が俺に忠告する。
「分かってるさ。」
「そうか?今すぐにでもキスしそうな勢いだぞ。」
「正直出来るものならしたいが、桃依の気持ちを無視した状態でこの場所に連れてきているのに、キスまでするのは反則だからな。」
「そうだな、これからは秋定の努力次第というところか。
これからは見守らせてもらうよ、お前がどう桃依を口説いていくのかをな。」
公浩はそう言って軽く手を挙げながら挨拶をした後部屋を後にし、玄関から出るドアの音が聞こえる。
残された俺は、眠ったままの桃依の寝顔を見た後、部屋を出た。











「初めまして、伊神 秋定といいます。
急で非常識な方法を了承していただいてありがとうございます。」
朝になり、まだ桃依の目は覚める様子はないが、桃依の両親が訪ねてきた。
「いえ、この間きちんと挨拶に来てもらっていたので事情は分かっているつもりです。
ただ、1つ約束を確認したいのですが。」
「何でしょう。」
「こんな方法で桃依を混乱させてしまうのは親としてどうかとも考えました。
だが、秋定君が桃依のことを想ってくれているということが私達に伝わったから了承したんです。
そのことを忘れないでいただきたい。
もし、桃依が悲しむことがあればすぐに連れ戻しに来ます。」
「分かりました、大切なお嬢さんを妻として頂くのですから当然のことです。
必ず桃依さんを幸せにすると誓います、ご安心ください。」
桃依を騙し連れ去って、ご両親にもすべてを話しているわけではないことを心苦しく思いながらも、本心である桃依を幸せにするということを躊躇うことなく口にする。
今の状況を考えれば桃依を幸せにするというのが可能かどうか分からない。
だが、これから先桃依と共に歩んでいきたいと思う気持ちに偽りはない。
だから、そうなるべく俺は努力をする必要がある。
今から目が覚めるだろう桃依に、今の状況を受け入れてもらわなければならない。
今までどんな場面でも緊張をしたことのない俺が、緊張をしていることに我ながら笑ってしまう。
それだけ桃依のことを欲しているということだろう。

桃依、俺は必ずお前を手に入れる。





「伊神社長!?」
目が覚めた桃依は俺とご両親がいるリビングにたどり着き、社長である俺がいることに驚いた表情をしている。

当然だな、目覚めて自分の会社の社長がいれば驚くだろう。

そんなことを考えながら桃依の表情を見続けている俺はいつしか自分の頬が緩んできていることに気づく。
ただそれは、自分が気づく程度の緩みではあったが。
目の前で繰り広げられる桃依とご両親の会話。
先ほどまで俺と真剣な顔で話していたのが嘘のように明るい表情で桃依と話すご両親。
そんなご両親に桃依はいつもの表情ではなく素の表情を見せながら興奮し話す様子が楽しくて仕方がない。
いつか俺にもご両親に見せている表情で話をしてくれる日がくればいい、それが今の俺の望み。
「今日は用事があると言われていましたが時間は大丈夫ですか?」
いつまでも終わりそうにない会話を終了させるべく桃依とご両親の間に口を挿む。
「そうだったわ。
お父さんそろそろ行かないと。」
「そうだな。」
そう言ってご両親は立ち上がると、
「よろしくお願いします。」
と俺に頭をさげ、桃依に、
「じゃあね、しっかりやりなさいよ。」
と言って玄関に向かって歩き出した。
「ちょっと、話は終わってないじゃな・・・」
そんなご両親の後を追いながら呼びかける桃依の声も空しく立ち去るご両親を見つめながら桃依は立ちつくしていた。





「驚かせてしまったようだね。」
立ちつくしたままの桃依に声をかけると、桃依は俺の方を振り向きいつも見せる秘書の顔で俺に問いかけてくる。
仕方がないことなのかもしれないが、今まで素の表情でご両親と話していた桃依の表情が俺に向けられないことに寂しさを覚える。
そして、構えたような口調、それらは俺が求めているものではない。

どうすれば桃依は俺に心を開いてくれる?
こんな非常識な方法を使っても手に入れたいと思っている桃依。
いや、焦りは禁物だ。
今まで何年も社長と秘書としての関係しかなかった俺達なのだからすぐに桃依が心を開いてくれるわけがない。
とりあえずは桃依に契約結婚を納得してもらわないといけない。
そうしなければ先に進めない。

「ご両親の話だけでは不足しているからな。
とりあえずコーヒーを飲みながらでも説明させてもらうよ。」
「では私がコーヒーを淹れます。
台所をお借りしてもよろしいでしょうか。」
「私が淹れよう。
君は座ってていいよ。」
「そういうわけにはいきません。」
「では、一緒に淹れようか。」
「え?」
桃依は俺の提案に驚いた表情を見せる。
そんな桃依をとりあえず無視して一緒にコーヒーの準備を始めた。
「急な話で驚かせてしまったと思っている。
しかし、私には時間がなかったんでね。」
「時間がなかったとはどういうことですか?」
「分かりやすく言うと、私に妻が必要なんだよ。
そうしないといけない理由があってね。」
コーヒーをリビングのテーブルに移動させた後、本題でもあり契約結婚について桃依に話し始めた。
公浩と話しあって決めた契約結婚の内容、それは、大切に想っている家族の祖母を利用することだった。
俺を大切に想ってくれている祖母に対して申し訳ない気持ちが浮かんできたが、他に考えられる内容がなかったせいで決めてしまった。
祖母が知ったら悲しむだろうということが俺に罪悪感を抱かせる。
それでも、この計画を実行してしまうのだから俺という人間は桃依に対して余裕を保てないということだろう。
桃依に契約結婚について話を進めていくと、
「社長、私は結婚できません。」
「なぜ?」
「なぜって、社長にとって大事なおばあ様を騙すようなことはなさってはいけないと思います。
きちんと社長が本当に妻にしたいと思う方と結婚した方がいいと思います。」
桃依は祖母の気持ちを考えての答えを俺に話す。
その答えは、祖母のためを思って言ってくれていると感じるが、俺のことを何とも思っていないのだということを直に知らされる内容でもある。
俺が好きなのは桃依なのだから、内容からいえば桃依と結婚することで祖母は喜んでくれるだろう。
確かに、俺が好きな女性は出来ることはないだろうと思っていたことを祖母は知っているから今の俺のことを知れば、好きな女性が出来て結婚を望んでいることを喜んでくれるはずだ。
だが、桃依の気持ちが俺に向いていないことを自覚させられてはいらついてしまう。
我ながら勝手なことだが。
「さっきも言ったが私にはそんな時間はない。」
「しかし、社長ならどんな方でも探せると思うのですが。」
「そんな確実性のないことを言われても真実味がないと思うんだが。」
「しかし・・・。」
「河野君、これは決定事項だ。
君は俺の妻となる。
早いうちに祖母にも会ってもらう。」
「社長、決定事項とおっしゃいますが、私には社長と結婚する意志はありませんので。
では、失礼します。」
「そんな恰好でどこに行くんだ?
それに所持金もないだろ。
君はここにいるしかないんだよ。」
俺は桃依が契約結婚に賛成する様子を見せないことに痺れを切らし、社長である権限を使う。
そんなことでは桃依の気持ちが俺に向くようになるとは思えなかったが、このまま桃依が去ってしまうことだけは避けなければいけない。

ご両親に桃依を幸せにすると誓ったのにこれでは嘘になってしまうな。

自虐的なことを思いながらも、帰ろうとする桃依を引きとめる俺。
自分の今の恰好に驚いている桃依は、俺の言葉に可愛らしい反応を見せる。
「結婚と言っても婚姻届は出さない。
とりあえず式は形だけでもやらないといけないが、身内だけでやるから私達が結婚したことに気づくものはいないはずだ。
君もご両親に結婚の話はされなくなるわけだし、契約が終わった時は私に理由があるようにすれば君に迷惑をかけることはないはずだ。
君にとって悪い話ではないと思うんだが。
それともこのままその恰好で歩いて家まで帰って職を失う方が君はいいのか?」
桃依が仕事に対して執着をしていることを知りながら放つ言葉。
そして桃依は不本意そうな表情を見せながら俺と契約の証として握手をした。
桃依と握手を交わしながら頭の中ではある考えが浮かんできていた。

桃依、お前を手に入れたいと思いながらこんなことしかできない俺を好きになってくれる日は来るのか?
そんな日は来ないかもしれない。
でも、俺はもうお前を手放すことはできない。

そんな想いを胸に秘めながら俺達の契約結婚の日々が始まった。





Copyright(c) 2008 machi all rights reserved.

面白かったよとちょっとでも思ってくれたら押してもらえるとうれしいです♪
よろしかったら感想も一緒に書いてもらえるとますますうれしいです♪

Novel

Top

Next

Back




検索サイトから来られた方は、 こちら からTOPへどうぞ。