砂糖菓子のような想い



今生きていることに何の楽しみがあるのか。

子供の頃に思っていた子供らしからぬ想い。
目の前に引かれたレールの上を歩くために祖父から厳しく育てられた俺は、人としての感情が欠落して育っていった。
だからといって、両親が亡くなってから育ててくれた祖父母に恩返しのつもりで祖父が望むような人間になっていくことに不満もなく日々を過ごしていた俺。
打算的な大人に囲まれ利用されないために自分の目を養っていくのは楽しくもあった。
そのせいか、可愛気がまったくない子供に育ってしまったわけだが。
祖父に可愛がられた記憶はない。あるのは厳しく育てられたという記憶だけだ。
初めの頃はそのせいで泣いていた記憶もあるが、次第に泣くことも忘れるほどの強い精神力が養われていった。
そんな中、祖母だけが俺の安らげる人だったと言えるだろう。
優しい手で撫でられる頭、毎日出される祖母の甘いお菓子。
そのどちらもあの頃の俺には必要なものだったのだろうと今なら分かる。
きっとそれがなければ、俺は残り少ない人としての感情を失くしてしまっていたはずだから。





大学生になった俺は、それまで親しい友人はいなかった。
というより出来なかった。
学校に行くと、俺に両親からの命令なのか取り入ろうとする男、色気を出して俺に取り入ろうとする女、そんな奴らしか俺の前にはいなかったから適当にあしらっていたせいだ。
もちろん俺も健全な男なのだからそれなりに女に対してはおいしい思いをさせてもらったが、彼女という存在は自分から作ろうと思ったことはなく、来るもの拒まず去る者負わずの状態だった。
もちろん後腐れがないような女を選んでだが。
そんな学生時代を過ごしていた俺に、大学生で初めて友人、いや、親友と言ってもいい奴らと出会えた。
鈴村 公浩、松本 美登理、この2人とは学部が一緒ではあったが、始めの頃は話すこともなかったから、気がつけば親しくなっていたと言っていいのかもしれない。
一緒にいても気を使わない存在というものに出会ったことがない俺は、友人をいうものがいいものだとこの2人に気づかされた。
お互いが困っている時には助けあう、そんな当たり前のことに大学生になるまで気づかなかった。
気づかせてくれた2人には感謝しているが、今まで口に出して言ったことはない。
きっと言わなくても2人のことだから気づいてはいるのだろうが。
大学生活も終わりが近づいている時に就職活動をしていた2人に俺は、自分の会社に来ないかと誘った。
こいつらとだったらこれから俺が社長となる会社を成長させることが出来るだろうと思ったからだ。
2人は、
「楽しそうだからその話のってやるよ。」
「確かに楽しそうではあるわね。くだらない会社に行くよりは秋定と働く方が有意義に毎日を過ごせそうだわ。」
そう言って俺の会社に就職を決めた。





専務として就職した俺と、平社員として就職した2人。
しばらくはお互い仕事に慣れることに集中していた。
その間、公浩も美登理も実力を発揮してくれていたから、祖父が引退した後社長に就任した俺が秘書室に移動させる時は、楽なものだった。
もちろん俺も2人に負けることなく自分の実力を古狸に見せつけていたから社長に就任する時は、反対意見を言わせることもなくスムーズに物事を運ぶことができた。
そんな日々を過ごしたある日、美登理が海外転勤を希望してきた。
突然美登理がそんなことを言ってきたことに対して心当たりはあった。
美登理はずっと海外への転勤を希望していたから。
海外転勤の話は他の人間に依頼しようとしていたが、美登理の方が行きたいという気持ちが強いのであれば、美登理に変更をしてもいいんだが、
「本当にいいのかそれで。」
「いいも悪いも、海外転勤を私が希望していたこと秋定も知ってるでしょう?」
「そういうことを言ってるんじゃない。
公浩とのことはいいのか?」
「それこそ、いいも悪いもないわよ。
秋定が私を親友だと思ってくれているのであれば、許可をちょうだい。
そうすれば私はこれからも頑張れるから。
気持ちの切り替えもできるしね。」
「美登理がそう言うなら、分かった辞令を出す。」
「ありがとう。」
そんなやり取りの後、美登理は旅立っていった。
美登理が旅立った数日後、公浩と飲みに行った俺は、
「引き留めると思ってたよ。」
「どうして俺が引き留めるんだよ。
美登理が自分のために決めたことを俺が引き留めることは出来ないよ。
ま、これだけ待ってたんだから数年待つことくらいどうってことないさ。
でも、戻って来てから遠慮はしないけどな。」
「美登理は戻ってきたら大変だな。」
公浩とそんな会話をしながら夜を過ごした。












「秋定、俺の姪っ子が就職したいって言ってるんだけど、いいよな?」
ある日、公浩が社長室に入って開口一番に話しかけてくる。
「良いも悪いも、入社試験に受かるんだったらいいんじゃないか?」
「それは心配ないよ、ただ、秘書課を希望してるんだよな。
俺と一緒に働きたいんだそうだ。」
「優秀であれば可能だろう。」
「秘書課で働くことになったらよろしくな。
でも、手を出すなよ。」
「俺がいつ秘書に手を出した?」
「確かに秘書にはないけどな、他の女性陣には心当たりがあるだろ?」
「向こうから勝手に言い寄ってくるのは覚えてるがな。
姪っ子に言っておいてくれ、そんなことをする暇があるなら仕事をきちんとするようにとな。」
「桃依に限ってそんなことすることはないから安心しろ。
俺としては可愛い桃依に秋定が手を出さないかが心配だ。」
「それこそ心配いらないことだ。」
そう言っていたはずなのに、不覚にも公浩が言うように姪っ子に手を出したいという気持ちが芽生えるのだから人生というものは分からないものだ。





公浩の姪、桃依が就職してきた。
手をまわしたわけではないのに、秘書課に配属されたらしく顔を合せることになる。
確かに公浩が可愛いというだけあって愛嬌ある表情をしているようだ。
だが、興味が湧いてきたかと問われれば、否、だ。
しっかり仕事をしてくれれば俺はそれでいい、そうでなければ移動させるまでだ。
だが、俺の考えは実行されることはなかった。
桃依は、俺に色気を振りまくこともなく仕事を行い、秘書としても優秀だった。
今までいた秘書達よりも俺の役に立ってくれたのには正直驚いた。
用意してほしい書類も事前に用意しているので、仕事も効率がいい。
公浩が優秀だと言っていたのは嘘ではなかったのだということが分かる。
俺に言い寄ってこない秘書というのは初めてと言っていいだろう。
美登理もそうだが、それは例外の部類だろう。
そのことが桃依に興味を持ったきっかけだったのかもしれない。
だが、その頃の俺は、桃依に興味を持ったということに気づかずにいた。
ある光景を見た時に自覚をするまでは。



仕事が終わり会社を後にしようと玄関に向かう俺の視界に入ってきたのは、公浩と桃依だった。
2人が叔父と姪の関係だと知っているのは、この会社では俺くらいだ。
だから、いつも上司と部下の関係の2人しか見たことがなかった。
そんな2人は今離れてはいるが、俺の目の前で桃依は見たこともない笑顔を公浩に見せている。
その笑顔は、俺に見せる笑顔が愛想笑いだったのだということを知らせる。
桃依が公浩に見せる笑顔、どうして俺には見せることがないのかと怒りが込み上げてくる。
今まで感じたことのない怒り、胸に溜まる不快な物。
それが、嫉妬だということに気づくこともなく2人が立ち去るまで談笑している様子を見つめていた。



「最近機嫌が悪いな。」
「気のせいだろう。」
「確かに他の人間には気づかせないようにはしているが、俺の目は誤魔化せないぞ。」
公浩と飲みに来て、すぐに聞かれた言葉に俺は否定の言葉を返すが、公浩を誤魔化すことは出来なかった。
「何でもない、ただ、この間お前と河野君が話している姿を見てから調子が出ないだけだ。」
「俺と桃依?仕事中にか?」
「違う、玄関で話をしていたところを見た時だ。」
「あー、そんな日もあったな。
でも、そんなのを見たからといって秋定が不機嫌になる要素はないように思うぞ。」
「俺にもどうしてこんな状態になっているのかが分からないが、河野君がお前に作りものでない笑顔を向けていたことが何故か俺を苛立たせるんだよ。」
「それって、嫉妬じゃないのか?」
「嫉妬?何故俺が嫉妬しないといけないんだ。」
「何故って。
確かに言われてみれば秋定の視線の先に桃依がいることが多くなったかもしれないな。
そうかそうか、とうとう秋定も好きな女が出来たか。
お前も嫉妬することなんてあるんだな、いやいや新鮮な話だよ。」
「勝手に話を作るな、俺は河野君が好きだとは言ってないだろ。」
「嫉妬している時点でお前は桃依のことが好きなんだよ。
今までそんな気持ちを体験したことがないだろうから気づかなかっただろうけどな。
普通世間ではそんなお前の状態を嫉妬してるって言うんだよ。
お前は桃依に惚れてるよ。」
俺は、公浩が話すことが信じられなかった。
今まで女性を好きになったことはなかったから。
これから先もそんな女性が現れることはないと思っていた。
会社に利益をもたらす女性と結婚することになるのだろうと考えていた。

これが人を好きになるということなのか?

いまだに信じ切れていない俺ではあったが、公浩に言われたことを考えながら桃依と接すると、自分が彼女のことを好きだということを認めないわけにはいかなかった。
彼女がそばにいることが落ち着かなくさせるけれど、そばにいたい。
そんな今まで感じたことがない気持ちが俺を支配する。
そして、俺は桃依を好きになったことを自覚していった。











そんな自分の気持ちを自覚しながらも、俺に興味を示さない桃依にたいして行動を起こすことが出来ない俺は、何年も社長と秘書の関係を続けてきた。
ある日、公浩が桃依に最近見合いの話が多くなってきていることを俺に話しだした。
桃依が見合い、今は断り続けているらしいがいつ気に入った男が現れてさらわれるか分からないことに苛立つ。
だが、何か行動を起こすことが出来ない俺に公浩がある提案をしてきた。
「秋定、桃依と結婚してみないか?」
「何わけが分からないことを言っているんだ?」
「本当にじゃないよ。
契約結婚ってやつだ。
お前も見合いの話がでてるんだろう?
そんな話をいつまでも断り続けるのはお前の立場的に無理があるし、このままお前が桃依を見つめ続けるだけというのも友人として悲しいものがあるからな。
そこで、1度きりのチャンスをやるよ。
そのチャンスを生かすも殺すもお前次第だ。
どうする?秋定がこのチャンスを生かすというのであれば俺はお前に手を貸してやるよ。」
公浩はニッと笑いながら俺の返事を待っている。
急にふられた話に俺はすぐには返事が出来ないでいた。
確かに俺にも見合い話がある。
その話も今は断ってはいるが、公浩が言うようにいつかは断れない時がくる可能性がある。
だが、公浩がいう契約結婚というのはどういう意味なのかまったく分からず返事ができない。
「契約結婚というのは、秋定も桃依も見合い話に嫌気がさしている。
だから、お互いそんな話がこないように形だけ結婚をするんだよ。
もちろん形だけだったものが本当になるかは秋定の手にかかってるがな。
桃依は一筋縄ではいかないからかなり頑張ることになると思うが、秋定が桃依を手に入れたいと思うのであれば、友人として協力してやるよ。」
「可愛い姪ではなかったのか?
なのに、俺のために協力をすると?」
「俺にもいろいろと思うところがあるんでね。
この作戦はあまりいい方法とはいえないからな、強くはお勧めしないよ。
でも、鈍感娘の桃依にはここまでしないとお前の気持ちが通じないとは思うし、桃依に見合い話がくることもないから叔父として俺が今一番いい方法と思う提案だよ。
どうする?秋定。」
公浩の答えを待つ言葉にしばらく俺は考えを頭の中で巡らせる。
確かに桃依に見合いの話がこれ以上こないということは俺にとって好都合。
だが、こんな方法を使ってもいいものだろうか?
そんな考えが繰り返される。
しかし、数年桃依に自分の気持ちを言い出すことが出来ない俺にとってこの話は、最初で最後のチャンスなのかもしれない。
今まで自分から行動を起こすことがなかった俺に対する非常識ではあるが桃依を俺の物にする方法。
「どんな風にやるんだ?」
俺は、公浩の顔を見つめ、この計画を実行することを伝える。
「じゃ、俺が立てた計画を説明するよ。」
そう言って公浩は楽しそうでありながら真面目な顔で計画を話しだした。

後日、俺と桃依がお互いの気持ちを伝え合い結婚した後公浩が話したこと。
「あの計画は、桃依が気づいていなかったけど秋定のことを好きだということを俺が気づいたから計画したんだよ。
そうじゃなかったらあんな非常識な計画はさすがの俺も立てることは出来なかったよ。」
そんなことにはあの頃の俺はまったく気づくこともなく、数日後計画を実行することになる。





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