砂糖菓子のような恋



社長に抱いてしまった恋心。
そんなものに気づきたくなかったのに社長のあの表情が私に気づかせてしまった。
社長の今まで見たことがない微笑み、その微笑みが私を苦しめていく。

社長と私は契約者なだけなのに。
私が好きになったところでどうしようもない。
今まで男性に料理を作ったことはあっても、また作っておいしそうに食べてくれる顔を見たいなんて思ったこともなかった。
それを数日一緒に暮らしただけの社長は簡単に私にそんな気持ちを起こさせることができている。
ううん、数日なんかじゃないのかもしれない。
本当は一緒に仕事をしている内に私は社長のことが好きになっていたんだ。
でも、そんな自分の気持ちに気づくことがなかっただけの話。
気づきたくなんてなかったのに・・・・。










食事を終えた私は、社長と公兄がリビングで寛いでいる間台所で洗いものをしている。
手を動かしながらも頭の中は気づいてしまった自分の気持ちで溢れさせてしまい、機械的な動きになっていた。
それでも、社長のそばにしばらく近づくことが出来ない今の状況にほっとする。
気づいてしまった自分の気持ち、でも私に与えられているのは契約者としての妻という立場なだけ。
はぁ、思わず私の口から出てしまうため息。
「どうしたんだ?ため息なんかついて。」
ため息をついたばかりの私の前に、気づくと社長が立っていて驚いてしまった。
急な社長の急接近に持っていたコップが手から滑り落ちてしまい、割れてしまったのかと心配したが、高さがなかったせいか割れることはなく転がっていた。

よかった〜、割れてない。
食器も何だか高そうだから割れたらどうしようかと思ったー。

「大丈夫か。」
コップが割れていないことに安心した私に、いつのまにか私の隣に移動していた社長が心配そうに私の手を掴んだ。
「あっ、あの、割れなかったので何ともありませんから。」
急に掴まれた手を社長の手から急いで離し、何とか笑いながらそう言うと、
「そうか。」
と、機嫌悪そうな声でそう言うと、私のそばから離れていってしまった。
そんな社長の行動に、そばを離れたことを安心する私と寂しく感じている私がいて、自分の心なのに本当はどうしたいのか分からなくなっていた。
だから、社長が不機嫌になっていることを気にする余裕がなく、淡々と洗い物を続ける私だった。





洗い物が終わりリビングへ移動すると、また公兄はニヤニヤと笑っていた。
「公兄何笑ってるの?」
「別に。」
「何よ別にって。」
「別には別にだよ。」
そう言って笑っている理由は教えてくれない。
そんな公兄の隣で不機嫌な顔のままの社長はそんな公兄と私の会話に入ってくる様子もなく、テレビを観ている。
テレビではニュースがやっていて社長が見るにはらしいという言葉が合うな、と漠然と思ってしまう私。
このまま社長がテレビを観てくれていたら動揺している自分の心を落ち着かせることが出来ると思い、公兄の隣に座り仕事のことや他愛もないことを話していた。
すると、
「桃依、コーヒーが飲みたい。」
今までテレビを観ていたはずの社長が仕事中に言うような感じで私に話しかけてきた。
社長の言葉を聞いて、
「分かりました。」
癖なのか反射なのかすぐに返事をすると、立ち上がりコーヒーを入れるために台所に向かった。
「秋定、奥さんにそんな素っ気なく言わなくてもいいんじゃないか?」
公兄は、社長を見ながらそう言うと、
「別に普通に言ったんだが何か問題があるのか?」
と、公兄が言った言葉を気にした様子もなく答えた。
「お前な、その言い方が誤解を受けるっていつも忠告してるのにまったくの無視か?」
「私は問題ないと思ってるからな。」
「まったく、これじゃまとまる話もまとまらないはずだ。」
そう言うと、大きな溜め息をつきながら公兄は私の所に移動してきた。
「桃依、お前からもきちんと言わないと駄目だぞ。
仕事でこの場所にいるんじゃないんだからそこははっきりさせとくべきだ。」
「でも、契約結婚なんだから仕事と同じよね?」
「はぁ?お前も何言ってるんだ?」
「公兄こそ何言ってるのよ。
私と社長はお互いの利害が一致して契約したんだから、仕事と一緒じゃない。
それに、私は秘書何だから社長の健康を管理しないといけない立場なわけで、妻と言うより秘書が家にもいると思ってもらった方がいいと思ってるんだけど。」

あ、自分で言ってて悲しくなってきた。
言葉にすると本当に社長に恋している自分が不憫になる。

自分が言った言葉にそんなことを思っていると、
「ここにも同じような奴が・・・・。」
と、公兄はガクッと首を垂れる。
「同じような奴?」
「いや、俺の独り言だから桃依は気にするな。」
「・・・うん。」
力が抜けた声でそう言う公兄に何だか釈然としないものを感じながらもこれ以上自分を落ち込ませる話を続ける必要もないと思い、これ以上の追求はしなかった。










「ところで、秋定のおばあさんにはいつ桃依のことを紹介する気なんだ?
もうそろそろ決めとかないと色々言いだす奴がいるんじゃないか?」
公兄は私がコーヒーを入れ終わるとリビングまで持っていってくれて、コーヒーを飲み出した社長に同じようにコーヒーを飲みながら話しかけた。
「そうだな、そろそろ考えないといけないな。
でも、もうしばらくは無理だな。」
「何でだ?」
「私と桃依はまだ夫婦には見えないだろうからな。
こんな状態では祖母にすぐ見抜かれてしまう。
だからもうしばらく桃依と自然に振舞えるように訓練をしないといけない。」
「社長、私なら大丈夫です。
きちんとおばあ様の前では妻らしく振舞いますし。」
「いや、それは無理だろう。
そんな敬語で妻が話しかけている状態を祖母に見せるわけにはいかない。
桃依、私のことは社長ではなく名前で呼ぶんだ。
そして、敬語を使うことは今から禁止する。」
「え!?」
社長の横暴としか言えないような言葉に私は思わず驚きの声を出してしまった。

ちょっと敬語も使っちゃ駄目、しかも社長を名前で呼ばないといけない!?
そんな、それについてはきちんと話し合ったはずなのにっ!

「社長、お言葉ですが、この間話したように私が社長を名前で呼んだり日頃から敬語も使わず話すのは無理です。
ご心配なさらなくてもその場になればきちんと出来ますから。」
そう言って社長の提案に抗議をすると、私の顔をフッと見た後、
「秋定だ。」
そう言ってテレビを観だしてしまった。
聞く耳をもたないと言いたいのかと思わせる社長の態度、話の途中なんだからと思い何度も社長と呼びかけるけれど返事もしなければ反応する様子もない。
そんな社長の様子を見て公兄は私の耳元で、
「桃依の負けだな、こうなると秋定は自分の言うことは絶対に曲げない。
だからここは諦めて秋定の言う通りにするのが利口だと思うぞ。」
と、どこか楽しそうな顔だ。
そんな公兄の態度にもムッとした私は強めの口調で言った。
「公兄からも社長に言ってよ、友達なんでしょっ。」
「こうなると俺にも無理だな。」
そう言って私を促すように社長のそばに行くよう手を社長の方に向ける。

公兄の裏切り者っ!!

心の中で毒づきながらも、私と公兄の会話を聞きながら何の反応も示さない社長を目の前にして観念しないといけないのかもしれないと思いだす。
「秋定さん。」
「何だ?」
観念した私は社長のそばに近づいて名前を呼ぶとすぐに返事が返ってきた。
「名前は呼びます。
でも、敬語だけは変えられません。
私は秘書で秋定さんは社長なんですから。」
私は今度こそ負けないように強気の口調でそう言うと、
「そうか。
でも、名前を呼んでも敬語で話されたら返事はしないぞ。
仕事中は仕方がないが。」
フーっと溜め息をついた後そう言って立ち上がった。
そして、歩き出してリビングから出ていこうとする。
「ちょっ、秋定さん!
まだ話途中ですから出ていかないでくださいっ。」
私は社長を引き留めるべく大きな声を出してそう言ったけれど社長は止まる様子はない。
どう考えても聞こえているはずの私の声を見事なまでに社長は無視している。

もうっ、敬語使わなければいいんでしょ!

「秋定さんっ。
まだ話途中なんだから出ていかないで。
きちんと話をしましょ。」
社長の思惑どおりになるのは本意じゃないけれど、このまま口を聞いてくれない状態にするわけにはいかない私は、結局社長に敬語を使うことなく名前を呼ぶことになってしまった。
そして、自分の思惑どおりになった社長は、
「桃依がそう言うなら。」
そう言って戻ってくる。
しかも機嫌良さそうな顔をしながら。
そんな社長の様子に負けた気分になってしまっている私。

好きな人相手に何やってるんだか私は。

そう思わずにはいられない私だったけれど、公兄はそんな私達のやり取りを見ながら大きな声で楽しそうに笑っていた。


「この2人は面白い。
これからどうなるか見ものだな。」
そんな意味深な言葉を言っているなんて今の私には聞こえていなかった。





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