砂糖菓子のような恋



家に帰り着いた私は、社長が持ってくれていた買い物袋を台所で受け取り料理を作り始めた。
そんな私を見ながら社長は、料理ができるまでの間書斎にいると言ってそばを離れた。   
台所に1人残される形になってしまった私だったけど正直に言うとホッとしたという思いがある。
予想もしなかった社長と一緒に行くことになった買い物、その時に私の中に感じたもの。
それは深く追求してはいけないもののような気がして落ち着かない気持ちにさせる。
だからといって社長との契約結婚をやめることはできないし、このまま私は社長と暮らしていかなければいけない。

社長のおばあ様、今は日常生活に支障はないのよね。
冷静に考えると、本当に社長は私以外の契約者を探す時間はなかったのかしら?
社長を疑うわけじゃないけれどそんな考えが頭の中によぎってしまう。
でも、今は私が契約結婚の相手としてここにいるんだからこれ以上深く考えても仕方がないことよね。
社長との結婚、あくまでも私が仕事を続けるための契約なんだから・・・・。

私は、無意識に自分の中に生まれつつある感情に気づきたくなくて、自分に言い聞かせるように社長との契約結婚について 考えながら料理を作る手を動かし続けた。










「社長お待たせしました。」
料理を作り終えた私は、書斎に行き社長に声をかけた。
「分かった。」
社長は一言で答えた後、再び仕事を再開してしまった。

社長、出来たって言ってるんですけど?
いつも家にいる時でもこんな調子でご飯食べてなかったのかしら?
秘書としてきちんと社長の体調管理ができていなかったんだと反省しちゃうわ。
とりあえず今は仕事より食事をしてもらわないと。
社長も今日はまともな食事はしていないんだから。

そう思った私は、社長に近づき声をかけた。
「社長、食事ができたとお知らせしたので一旦仕事を中断していただきたいのですが。」
「そうだったな、しかし今やめるわけにはいかないからもうしばらくしてから行くから先に食べていてくれ。」
社長はパソコンから視線を外すことなく話をする姿は私をいらだてるものだったけれどもちろんそんな顔をするわけにはいかなくて、
「社長、食事はきちんと摂っていただかないと身体を壊してしまいます。
仕事も大事だとは思いますが、食事もしっかり摂ってください。」
私はいつも見せる秘書スマイルでそう言うと、
「そんな顔で言われても食欲がでないぞ。
作り笑いでは私を食事に連れ出すのは無理だと思った方がいいな。」
視線を私に向けることはなく社長は仕事を続けるので、私はどうしたらいいのか考え込んでしまう。

そんな顔と言われても・・・。
今まで完璧に騙せていると思っていた私の笑顔はしっかりと作られているものだとバレテいたわけね。
社長侮れないと言ったところかしら。
でもそうなると、遠慮はいらないわよね。

「では社長、強制的にでも連れて行かせていただきます。」
私はしっかりと社長の腕に自分の腕を絡ませ無理やりに立ちあがらせようとすると、今まで私に向けなかった視線がしっかりと私の目と合った。
その隙に空いている手でパソコンを休止状態にしてしまう私。
「パソコンも休ませたことだし、行きましょうか。」
そう言って私は今まで見せていた作り笑いではなく、してやったりという気持ちを含んだ笑顔を見せると、
「わかった。」
もしかしたら怒らせてしまうかもしれないと思っていた社長の反応は、返事をしながら少しだけ楽しげな顔を見せた。





社長の腕を絡ませた状態でいると、社長はそのまま歩きだしてしまい離れるタイミングを失った私は、まるで恋人同士のように寄り添う形で腕をくんだまま移動することになってしまった。
でも、社長はそんなことを気にする様子もない。
そのままの状態で着いたリビングのテーブルの上には、何とか作り上げた料理が並べられている。
とりあえず失敗しないものを作ろうと思った結果、和食中心のメニューになってしまった。
洋食より和食の方が得意なので仕方がないんだけど、社長は嫌いではなかったはず。
「社長のお口に合うか分かりませんが、とりあえず食べてみてください。
そう言って私は絡めていた自分の腕を社長の腕からはずした。

何だか社長と腕を組むのが嫌じゃなくて、どこか落ち着く感じがあっていつまでも腕を組んでしまっていた。
社長が嫌がる様子を見せないから・・・。
必要以上に近づかないようにしないといけないと思っていたはず。
だって私は秘書でこの人は社長で、今の私達は契約結婚しなくちゃいけなくて。
とりあえず、やっと社長を連れ出すことに成功したんだからいろいろ考えずに食事にしようっ。

自分の考えをまとめることが出来なかった私は、深く考えることを放棄して社長との食事を始めることにした。
社長との食事は意外と言えるのか思っていたよりも会話が弾んだ。
口数が少ない社長に話しかけても返事が返ってくるのも少ないだろうと思っていたのに、予想を反して社長が話をしたからだ。
私は驚きながらも社長とゆっくり話すことなく決定してしまった契約結婚についてもう少し聞きたいこともあるため、そのことについても話を始めた。
「社長、本当に私以外に契約結婚の話をする人はいなかったんですか?」
「そう言ったはずだが?」
「そうは思えないんですが、社長にはお食事に行かれる多くの女性がいるはずなので。」
「私と食事に行く女性は本気で私との結婚を考えているから駄目だな。
しかも、その結婚の目的は私の地位や金だから。
そんな女性に声をかけてしまったら契約結婚が成立しないだろ?
君、いやもう桃依と呼ぶべきかな、私の妻になるんだから。
桃依とだったら問題なく契約結婚ができると思ったからな。」
「それは私が両親からの声にウンザリしているという話を聞いていたからですか?」
「そうだ。
桃依は他の女性と同じようなことを私に求めてはこないだろうからな。
私も桃依と同じように今のところ結婚する気はないんでね。」
「確かに利害関係は成立しますね。
でも、本当にそんな関係でおばあ様は騙されてくれるんでしょうか?
それに、社長のことを大事に思っている方をこのように騙していいんでしょうか?」
「祖母は私が結婚したい人が出来たと言えばただ純粋に喜んでくれるだろう。
そんな祖母を騙すのは心苦しくもあるが、このまま誰も連れて行かないで心配を抱えたまま亡くならせる方が可哀想な気がしてな。
それだったら騙すことになっても安心してもらった方がいいと思う。
嘘も方便と言うだろ?」
「確かにそのような言葉もあるし、社長のおっしゃることも分かる気がします。
・・・・分かりました、これ以上色々言いません。
きちんと社長の妻としておばあ様に会わせていただきますね。」
「そうしてくれ。
やっと本当の決心をつけてくれたようでなによりだ。
では、夫婦らしく名前は呼び合いたいんだが、いつまでも社長と呼ばれるのは夫婦らしくないしな。」
「そうですか?
おばあ様には口癖になっていると言えば大丈夫ですよ。
その辺りは上手に伝えられますから。
夫婦といってもあくまで契約上のことなので、私の中では社長は社長です。
だから、名前で呼ぶことはできません。
だからと言って私のことをいつもみたいに社長が君と言っていては不自然なので、私のことを名前で呼んでもらってもかまいませんが。
でも、おばあ様の前で敬語ばかり使っていては怪しまれますかね?
おばあ様の前では敬語を使わないようにしますのでお許しください。」
「別に普段から敬語は使わなくてもかまわない。
桃依と堅苦しい関係のまま祖母に会うつもりはないから。
だからいつも公浩と話すような感じで話してくれ。」
「・・・分かりました。 できる限りそのようにしたいと思います。」
「できる限り、ね。」
「そんなすぐに変えるのは無理です。」
「そうか?
公浩からは桃依は物怖じしない性格だと聞いているんだが、私もそれは感じていたよ。」
「そうですか?
私は大人しい秘書だと思うんですが。」
「大人しい秘書があからさまな作り笑いはしないだろ。」
社長は、いつもは見せないでも、今日はよく見せてくれる楽しげな顔で痛いところを突いてくる。
「作り笑いって・・・・、確かにそんな時もありますが。」
「痛い所を突かれたか?」
「そんなことはないですよ。」
社長の言葉に無意識に口調が強くなる。
そんな私の様子に社長は機嫌が悪くなることなく、少しだけ表情を崩す。
一瞬の笑顔を見せながら。
そして、
「そんな風に自然な桃依を見せてくれ。」
と、私が予想もしていなかったことを優しい声で話しかける。
その声と言葉は、聞いた私の頬を熱くさせるには十分な声色で、私の心をかき乱してしまう。
一瞬見せた笑顔と共に。





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