砂糖菓子のような恋


14


おばあ様の家を訪れてから、何だか秋定さんの機嫌が悪いような気がする。
多分、気のせいなんかではない。
仕事中、あんなに好きな甘い物を食べる姿を見なくなった。
それに、仕事が忙しくなっているということもあるけれど、家での食事回数も減り私が作るお菓子を口にすることも少ない。
前は作れば必ず食べてくれていたのに。
私は秋定さんを怒らせてしまうようなことをしたんだろうか?
それはすぐに考えたこと。
でも、私には思いつかない。
いつものように秋定さんに接しても、原因がつかめないでいる。
ううん、1つだけ考えたことがある。
それは、秋定さんに私の気持ちを気づかれたのではないかということ。
契約者である私が秋定さんに恋心をもっているということを秋定さんを気づいてしまったのかもしれない。
それだったら秋定さんの機嫌が悪くなる理由の辻褄が合う。
好きでもない都合がいい契約者なだけの私なんだから、秋定さんにしてみたら私なんかが秋定さんに恋心を持っているということが煩わしいはずだ。
だから秋定さんは不機嫌になっているのかもしれない。
このことは秋定さんからそのとおりだと言われたわけではないんだから確かではないけれど、自分からそうなんですか?なんて聞ける内容でもないから確認もできない。
でも、これを機会に秋定さんから離れた方がいいのかもしれないとも考えていたりする。
私と秋定さんはずっと一緒にいられるわけではないのだから。
そう考えると今が潮時?
そうしないと、今でも秋定さんから離れるというのが辛いのにもっと辛くなってしまうのは目に見えている。
それならば、今のうちに・・・・・。










「河野君、仕事前にいいかな。」
仕事前に秋定さんのスケジュールを確認していた私に公兄が話しかけてきた。
「何でしょうか。」
仕事中だということで、いつものように親しげに話すのではなく業務用のしゃべりで返事をする私。

なんだろう?
あんまり朝から公兄から話かけられることなんてないんだけど、何かミスでもあったかしら?

公兄の言葉にマイナスな考えを巡らせていると、
「一緒に来てもらってもいいかな。」
そう言って公兄は歩きだしたので私はその後を追いかけると、向かった先は会議室だった。
ドアを閉めると背中を向けていた公兄はゆっくりと振り向くと、
「さて、ここからは叔父と姪として話をしようか。」
ニッと笑いながら話を続ける。
「桃依、最近元気がないようだけど何かあったのか?」
「別になにもないわよ。」
私は公兄に、秋定さんが不機嫌でもしかしたら私が好きなせいかもなんてことが言えるはずもなく、にっこり笑いながら何でもないと言うしかなかった。
でも、そんな私の考えが公兄にばれないわけがなくて、
「お前な、赤ん坊の頃から知っている俺のことを騙せると思うなよ。
そんなぐっすり眠ってません、みたいな顔で何もないわけがないだろ。
隠さずきちんと言った方がすっきりすると思うぞ。」
「本当に何でもないの。
最近秋定さんが不機嫌な気がするだけで。
だから、公兄が心配するようなことはないから。」
「秋定が不機嫌ね。
それで桃依は不機嫌の理由が分からなくて悩んでいる、ということだな。」

はー、本当に公兄は誤魔化せないわね。

私は公兄に自分の気持ちを言い当てられて小さくため息をついてしまう。
すると、
「不機嫌の原因が桃依にあるんじゃないかともどうせ考えてるんだろ?
たとえば、秋定のことを好きになったせいじゃないかとか。」
「何言ってるのよっ、私が秋定さんのこと好きなわけないじゃない!
私達はただの契約者なんだから。
本当何言ってるのよ公兄ったら!」
「本当に秋定にことを好きじゃないと言うんだったらそんなに焦ることはないだろ?
人間、焦って否定することは真実なことが多いんだよ。
お前もいい加減本心をみせろ。
そうすることで俺はお前が楽になると思うぞ。」
ポンポンッと公兄は私の頭を軽く叩きながら言い聞かせるようにそう言った。
でも、私は公兄が言うように素直に自分の気持ちをみせることなんてできない。
言ってしまうと、すべてがおしまいになりそうだから、臆病な私が止めてしまう。

こんなに自分が臆病者だなんて思ってなかったな。

「秋定さんを好きなはずないじゃない・・・・。」
それでも、小さな声で言ってしまう私。
「桃依、それがお前の本音なのか?」
公兄がじっと私を見つめながら本音を言わせようとしているように感じる顔で私に問いかける。
「・・・・そうよ。」
にっこり顔で私はそう答える。
「本当にお前って奴は。」
フーと大きなため息をついた後、再び私の頭の上に手を乗せると、
「今日はこのまま帰宅すること。」
それは私が予想もしていなかった言葉だった。
「どうして!?
このまま私仕事出来るわ!」
「確かにお前は完璧に仕事が出来るだろうな、自分の気持ちを隠しながら。
秋定のおばあ様がお前と会いたいんだそうだ。
昨日連絡があったんだがお前はもう帰っていたからな。
今日話をした後会いに行ってもらおうと思っていたんだ。」
「おばあ様が?
何の用事かしら?」
「さーな。
とりあえず今日のお前の仕事はおばあ様と一緒に過ごすことだ。
これは、命令だ。」

命令って、そんなこと言わなくてもおばあ様が会いたいって言われてるんだったら行かないわけにはいかないじゃない。

「車を会社まで向かわせているそうだ。
もう下に着いているころじゃないかな。」
「車って、目立つじゃないのっ。」
「おばあ様の好意をそんな風に言うもんじゃないだろ。」
「それとこれは別よ!」
私は早く車に向かわなければと思い、大きな声になりながら言い駆け出した。




私が去った後、1人会議室に残っていた公兄が、
「桃依は秋定のばーちゃんに任せることにして、俺はもう1人の臆病者をどうにかしないといけないみたいだな。」
そうつぶやきながら仕事に戻っていることなんて知るはずもなかった。










急いで玄関に向かった私を出迎えたのは、思ったとおりの高級車。

みんな見てるんですけどっ!

私は車に向かうのをやめたい気持ちになってしまったけれど、そんなわけにもいかずとりあえずみんなの視線から消えることが先決だと思い、早足で車に向かった。
すると、私が近づくのを確認して運転手の人が後部座席のドアを開けるとそこにはおばあ様が座っていて、
「おはよう桃依さん。」
と優しい声でおばあ様が声をかけてきた。
「おはようございます。」
私はペコと頭をさげ挨拶を仕返し、おばあ様の隣に乗り込んだ。
運転手の人は私が座るのを確認しドアを閉めると運転席に座り、車を発進させた。
「お久しぶりね桃依さん。
今日は急にごめんなさいね。
本当は仕事が終わってからがいいとは思ったんだけれど、早く桃依さんに見てもらいたかったの。」
「見てもらいたいというのは。」
「この間言ったお披露目の時に桃依さんが着る衣装よ。
桃依さんに似合いそうなのが見つかったから早く着せてあげたくて、ごめんなさいね我まま言ったりして。」
「いえ、大丈夫です。
私なんかのために洋服を選んでもらってありがたいです。」

本当にありがたいことだよね。
おばあ様を騙している私なんかにおばあ様はこんなに優しく接してくれている。

「桃依さん、顔色が悪いようだけれど大丈夫?」
おばあ様は笑顔を保っているはずの私の頬をそっと触れてくる。
おばあ様の手はとても暖かくて、その温もりが私の頑なな心にかかった物を外してしまう。
そのせいか、今まで公兄の誘導尋問に力んでしまっていた私の目から気づくと、ぽろぽろと涙が流れだしてしまっていた。
「あらあら、急にどうしたの?」
「すい・・・ませっ・・・ん。」
「いいのよ、泣きたい時には泣いた方がいいわ。」
そう言うおばあ様は、私の頬を優しく撫でながらバッグから出したハンカチで涙を拭ってくれた。
「結婚が近くなったお嫁さんは不安になってくるものよね、もし差しさわりがなければ私に話してみない?」
優しい微笑みを見せながら言ってくれるおばあ様に、自然と素直な自分の気持ちが口から出てしまっていた。
「私、秋定さんが好きなんです。
でも、秋定さんはそうじゃない、そのことが辛くて。
分かっていたことなのに、辛いんです。
それなのに、秋定さんとこれ以上一緒にいない方がいいと思うのに、そばを離れたくないと思っている私がその思いを引き留めるんです。
自分の矛盾した気持ちに押しつぶされそうで・・・・・。」
公兄にも言えなかった本心、それをおばあ様に話してしまっている私。
当然言わない方がいいことは分かっている、けれど、おばあ様の手が私の本心を言わせてしまっていた。
「桃依さん。」
自分の気持ちを話終わった私に、おばあ様は微笑みながら話しかけ、
「辛かったわね。」
そう一言だけ私に話しかけてくれた。
その一言を聞いた私は、また涙を流してしまう。
「秋定はうまく自分の気持ちを表現する方法を知らないことで桃依さんには辛い想いをさせてしまったわね。
祖母として謝らないといけないわ。
きっといつもの態度が桃依さんを不安にさせてしまっているのね。
でもね、この間私が言ったこと覚えてるかしら。
秋定は私が作るお菓子以外は食べたことがないと言ったわよね、でも、桃依さんのお菓子は食べたのよね?
それは、秋定が本当に桃依さんに心を許していることなのよ。
心を許していると言うよりも好きだというのが正しいのかもしれないわね。
昔、秋定が言ったことがあるの。
自分は人を好きになることはなく会社のためだけに一生を終わらせるだろうと。
それは、私にとって辛い言葉だったわ。
もちろん秋定にとってもだと思うけれど。
その時に私は秋定に言ったの、秋定が本当に好きになる人はきっと現れる。
その人は私が作るお菓子よりももっと美味しいお菓子を作ってくれるはずだわ、と。
だから桃依さんが作るお菓子を秋定が食べているというのを聞いた時に安心したの、秋定に本当に好きな人が出来たということに。
それに、桃依さんもそんな秋定のことをこんなに好きでいてくれている、こんなうれしいことはないわ。
私に残された時間は短いものだわ。
その短い時間の中で私は秋定に幸せになってもらいたかった。
何故だかわかる?
私はね、逝く人よりも残される人の方が辛いと思っているの。
残された人というのは思い出がたくさん残されている、だから今までの秋定を1人で残すことに不安があった。
悲しみで押しつぶされてしまうんじゃないかと。でも、今はそうは思わないわ。
秋定には桃依さんがいてくれているから。
どうか秋定をよろしくお願いします。」
そう言っておばあ様は私に頭を下げる。
「頭を上げてくださいおばあ様。」
私はおばあ様の肩をゆっくりと起こすと、変わらない優しい笑顔で微笑んでいる。
「ほら、きれいな顔が涙で台無しですよ。
笑って桃依さん。」
「はい。」
おばあ様は、話を聞いてまた涙が流れそうになっている私の頬を拭いながらの言葉に私は返事をした。
「おばあ様、私は秋定さんを好きでいてもいいんでしょうか。
そして、そばにいても。」
「いいに決まってるわ。」
おばあ様の優しい微笑みを見ながら私は、秋定さんを好きだという自分の気持ちを解放していた。



秋定さん、私はあなたが好きです。
あなたのそばにいたいです。





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