砂糖菓子のような恋


12


「秋定はあなたには心を開いているんだと。
秋定はね、手作りのお菓子は私が作ったもの以外は食べたことがないの。」



おばあ様が私に言ったこの言葉の意味は?
秋定さんは本当に私に心を許してくれているの?
私にはおばあ様が言った言葉を素直に受け入れられるだけの情報が足りなさすぎる。
おばあ様が言うように私が作った手作りのお菓子を秋定さんが食べてくれているという事実はあるけれど、だからと言ってそうなのかと受け入れきれないのにはきっと、私と秋定さんの間にある『契約』という言葉があるせいだ。
だから私はおばあ様の言葉を喜んではいけない。
そう、私はただの契約者なのだから・・・・。
そう思えば、おばあ様に安心だと言ってもらえるのはうまくいったと言っていいのかもしれない。
本来の目的、おばあ様に秋定さんが結婚して安心してもらうこと。
それは少なからず叶ったといえる。
それなのに、私の心は晴れない。
契約者ではなく、秋定さんを好きな私の心がだ。
目的は達成しているはずなのに・・・・・。










「秋定は帰ってこないわね。」
おばあ様の声に自分の考えに没頭しすぎていた私の頭は引き戻された。
「そうですね。」
引き戻されても心に燻る想いがなくなるわけではなく、思わず作り笑いになってしまう私。
そんな状態の私におばあ様は笑いかけながら話しかけてきた。
その内容は私1人では対応できるものではなかったのだけれど。
「これで私もやっと安心できるわ。
そうそう、2人のお披露目をしないといけないわね。
結婚式に日取りはまだはっきりとは決まっていないんでしょ?
だったらその前にやりましょうね。
忙しくなりそうだわ。」
「あのおばあ様、私達はお披露目ということはやらないようにしていたんです。
結婚式も身内だけでということに決めているので。」
私はおばあ様の言葉に焦ってそう言うと、おばあ様はやっぱりニッコリ笑い、
「どうせ秋定がそう言ったんでしょ?
桃依さんは心配しなくてもいいですからね。
私から秋定に話をしますから。
それに、2人は忙しいと思いますから私が準備はやりますよ。」
「おばあ様そんな問題ではなくて・・・・。」

そう、そんなことが問題ではなくて、私と秋定さんが結婚することになったことをいろんな人が知るのはまずいんですっ。
でもおばあ様にそんなことは言えないし・・・。
秋定さん早く帰ってきておばあ様に説明してくださいっ!

「おばあ様もお元気そうですからお願いしましょうか。」
おばあ様の提案にどう説明したらよいのか考えていた私に待ち望んでいた人は、私が考えていた逆のことをおばあ様に提案しながら私達の所に帰ってきて、先ほどと同じように私の隣にある椅子に腰かけた。
椅子に腰かけた秋定さんは、落ち着いた様子で冷めてきている紅茶を飲みほした。
「本当は秋定がやらないといけないことなのかもしれないけれど、年寄りの楽しみとして私がやらせてもらうわね。
秋定からもお許しが出たことですし。」
「無理だけはしないようにしてくださいね。」
「大丈夫ですよ。
秋定がお嫁さんをもらうと聞いてから調子がいいの。
お薬も効果があるみたいだし。」
そう言っておばあ様はうれしそうに話しをした後に、
「そうと決まれば桃依さんの衣装も決めないといけないわね。
うれしいわ、今までは秋定しかいなかったからそういうこともできなかったし。
これからは桃依さんと一緒にできると思うとうれしくて仕方がないわ。
私の人生の最後にこんな楽しみを秋定がくれるなんて思ってもいなかったことだから本当にうれしいのよ。」
そう言いながら何だか涙ぐまれているようにも見える。
そんなおばあ様の表情をみると何だか申し訳ないような気持ちになってしまう。

私を本当の秋定さんの結婚相手だと思って喜んでくれているおばあ様、本当は違うんですと言えたらどんなにいいだろう。
でも、今その言葉を言ってしまうことがおばあ様にとっていいことだとは思えない。
いつか真実を知ってしまうかもしれないのに。
そもそもこんな話の展開になってしまったのは、秋定さんがおばあ様の提案に反対してくれなかったからだ。
秋定さんならきっと反対すると思っていたのに。
おばあ様の様子だと今私が嫌だと言ったところでどうしてかと聞かれるとうまい言い訳は思いつかない。
このままお披露目をすることになりそう。
でも、秋定さんは本当にそれでいいのかしら?

秋定さんの真意が読み取れず、本当はどうして反対しないのかと確認したい気持ちが強くあったけれど、おばあ様の前でそんなことができるはずもなく、気づけばおばあ様に、
「お願いします。」
と言っている自分がいた。
そんな私の言葉におばあ様は本当にうれしそうな笑顔を見せてくれていた。










しばらくいつが都合がいいのか、どんな衣装にするかなど次から次におばあ様から提案され、気づけば辺りは薄暗くなってきてしまっていた。
「あら、すっかり遅くなってしまったわね。
折角だから2人共このまま泊まっていくといいわ。
そうよ、そうしなさいな。
そうしてくれると私も久しぶりに1人での寂しい夕食じゃなくなるしうれしいわ。」
おばあ様は両手を合わせ手を鳴らすと、帰ろうとしていた私達に夕食を勧めた。
私としては秋定さんにどういうつもりでお披露目を行う気になったのか理由を早く聞きたくて、このままお暇させてもらいたかったのだけれど、おばあ様のやはりうれしそうな表情を見るとそんなことは言えなくて、おばあ様に言われるがまま一緒に夕食を食べ、泊まることになってしまった。



夕食を済ませ、しばらくおばあ様と話をしていたけれど、そばにいる秋定さんは私達の会話に入ってくる様子はなく、そばで話を聞いているだけだった。
おばあ様との会話はとても楽しくて、気づけば深夜まで話し込んでしまっていた。
「すいませんおばあ様。
すっかり話し込んでしまってこんな遅い時間になってしまいました。
お疲れじゃないですか?」
「大丈夫ですよ。
桃依さんと話していると楽しくて。
そろそろ休みましょうか。
お部屋は秋定の部屋を用意していますから一緒に使ってね。」
「えっ、一緒に・・・、ですか。」
「心配しなくても広いベッドだから一緒に眠っても大丈夫よ。
家では一緒に過ごしているんだろうから別よりはいいかと思ったんだけれど。」

おばあ様、私達一緒にいつも寝ていないんです!
そう言えたらどんなにいいか!!
言えない、この状況では言えないわっ。
秋定さんと同じ部屋、同じベッド、どうしよう・・・・。

おばあ様に笑顔を見せながらも頭の中ではこれから秋定さんと1つの部屋で2人きりになることに対して動揺していると、
「では、おやすみなさい。」
と、今まで私達の話を聞いていただけの秋定さんが私の肩に腕をまわし、おばあ様に挨拶をしたかと思うと歩きだしてしまった。
急な秋定さんの行動に、私はついていくしかなくて肩を抱かれたままおばあ様に挨拶をした後、連れられるまま秋定さんの部屋に着いてしまっていた。





部屋に着くと、私の肩から腕を離した秋定さんは、
「今日は疲れただろう、風呂に入ってゆっくりするといい。」
そう言って部屋の中にある浴室に案内してくれた。
私はとりあえず自分を落ち着かせるために先に浴室を使わせてもらうことにした。
落ち着かせるためといっても、いつまでも浴室にいるわけにもいかず、部屋に戻ると、
「入ってくる。」
私が上がったのを確認すると秋定さんは浴室に向かった。
その後ろ姿を見送った私は、とりあえず一緒のベッドに寝るのはまずいだろうと思い、どこか眠るところはないかと部屋を見渡した。
部屋は、無駄なものがなくスッキリしていると言える部屋だというのが1番の感想だった。
だからといって殺風景なわけではなく、落ち着いた雰囲気を感じた。
その部屋にソファーを見つけることができ、自分が眠る場所が確保できたと安堵した。
しかし、眠るといっても上から羽織るものがなければさずがにきついと思った私は、浴室から出てきた秋定さんに毛布を貸してほしいと話しかけた。
すると、
「どうして貸す必要があるんだ?」
と、返答が返ってきてしまった。
「どうしてって、やっぱり一緒に眠るのはまずいかと思うし。」
「これだけ広ければ何も問題はないと思うが。」
「そういう問題ではなくてっ。」
「ではどういう問題だ?
桃依は私が襲うと思っているのか?」
「そうは思ってないけれど。」
「だったら問題はないな。
もう遅い、眠ろう。」
秋定さんは、これ以上何も言えなくなっている状態の私の手を取り、ベッドに座らせると、何も気にしている様子もなく布団の中に身体を潜り込ませた。
そんな秋定さんの様子を見ていると、1人で意識してしまっていた自分が何だか虚しくなってしまう。
秋定さんの態度に、少しは意識してくれてもいいのにとつい思ってしまったりして。
でも、よく考えると秋定さんが私のことを意識するはずもないという事実に改めて気付かされてしまった。
そうなると、これ以上一緒に眠ることを躊躇うこともできず、私もモソモソと布団の中に入っていった。
「おやすみ。」
秋定さんからそう話しかけられ、
「おやすみなさい。」
と返答した私だったが、ふと秋定さんに聞かなければいけないことを思い出した。
けれど、至近距離で秋定さんの顔を見ながら話すことに慣れていない私は、天井を見ながら話しかける。
「秋定さん、なぜお披露目をすることに賛成したの?
秋定さんからおばあ様に断わりを入れてくれると思っていたのに。」
「それは無理な話だな。
おばあ様は自分が言ったことはやらないと気がすまない人だ。
止めさせるのは至難の業と言ってもいい。」
「でも、多くの人に結婚するということが伝わってしまうわ。
私達は本当の夫婦ではないのに。」
「そんなことはおばあ様の喜んだ顔に比べるとどうということはない。」
秋定さんにそう言いきられてしまうともう私に何もいうことはできなくなってしまう。
「桃依は何も心配しなくてもいい。
だから、このまま休むといい。」
「・・・・はい。」
秋定さんに言い含められた気がしないでもないけれど、おばあ様を安心させ喜ばせることが本来の目的だということを改めて思い、この話はここで終わらせることにした。
そう思いだすと楽しい時間を過ごしていたといっても緊張していたためか眠気が襲ってきて、気づけば深い眠りに誘われてしまっていた。





目覚める様子がない私に、秋定さんが小さな声で何かを呟きながら私を腕の中に閉じ込め、優しく抱きしめていたことなど、夢の中の住人になってしまっていた私は知る由もなかった。





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