砂糖菓子のような恋


11


穏やかな昼食の時間を過ごした私達。
食器を片づけた後身支度を整えた私と私が用意をしている間リビングのソファーに座り新聞を読んでいた秋定さん。
私の準備が終わると秋定さんが運転する車に乗り一路おばあ様の家、秋定さんの実家に向かった。
車中、家での穏やかな空気のまま過ごす私達は、他愛もないことを話しながらドライブを楽しんで向かっている。
それでも次第に私にはおばあ様に会うという緊張感が強くなってきていた。
「秋定さん、よく考えると私おばあ様のことどんな方なのか聞いてなかったわ。
どんな方なの?おばあ様って。」
私は緊張感を紛らわすように正面を向いて運転している秋定さんの顔を見ながら話しかけた。
すると、
「普通の人だ。」
と、正面を向いたまま私が求めていた返事よりも素気ない返事が返ってきた。

普通って、そんな言葉じゃどんな人なのかまったく分からないんですが。
それとも今の秋定さんの言葉だけで分からない私の方がおかしいの?
いやいや違うでしょっ。

軽く自分の中で突っ込みを入れつつ秋定さんの言葉だけではおばあ様のことがまったく分からないままになってしまっていることを再び話しかけることで伝える。
「普通の人っていうだけではおばあ様がどういう方なのかまったく分からないわ。」
「俺からみたら普通の人というのは分かりやすく教えたつもりなんだが。」
「分かりやすくないですから。
じゃ質問を変えたら秋定さんも答えやすいのかしら?
秋定さんはおばあ様のどういうところを見て普通だと思うの?」
「一言で言えば優しい人、だという所だな。」
「優しい人?」
「子供のころから社長になることが当たり前だと思っていた私は、経営者としての知識を詰め込まれて育てられてきた。
そのせいか、周りには私を甘やかす人間は存在しなかった。
両親は早くに亡くなっていたことも関係しているとは思うが。
だが、そんな状況に置かれていた私に唯一優しく接してきていたのが祖母だったんだ。
祖母との思い出は、いつも甘いお菓子をおやつだと言って作ってくれていたことだ。
そのお菓子は、子供なのに疲れていた私の心を和ませていたように思う。
そんなことを自然に出来る祖母は、私から見たら普通の人だと感じる。
私の周りには打算的な大人しかいなかったから余計に思ってしまうんだろうな。」
秋定さんが話す内容は、社長になることが当然のように育てられてきた子供の頃、おばあ様に可愛がられ、そんなおばあ様のことを秋定さんは大事にしているんだということが分かるような穏やかな口調だった。
「秋定さん、本当におばあ様のことが大好きで大切なのね。
今までの秋定さんの話でも分かってたけれど、おばあ様のことを話す時の秋定さんの表情でそのことがよく分かるわ。
私、頑張るから、秋定さんのおばあ様に少しでも安心してもらえるように。」
秋定さんに私の中に生まれた小さな決意を口にしてはみたけれど、1つの考えも生まれてきてしまった。

でも、本当にいいのかしら?
今から私達がやろうとしていることは、秋定さんが大切に思っているおばあ様を騙すことなのに。
おばあ様を安心させるためと言いながら、本当に今からやろうとしていることはおばあ様を安心させることに繋がるんだろうか?

私の中に生まれた疑問、そのことを秋定さんに問いかけようとすると、
「もう少しで着く。」
そう言って運転を続ける秋定さんにこれ以上何も言うことができなくなってしまった。










「おかえり、それといらっしゃい。
2人が来てくれるのを待っていたわ。
さー、早く中に入って。」
ついに着いてしまった秋定さんの実家。
敷地内にそのまま車で乗り入れ、車から降りた私達は玄関の前に立ち中に入ると、小柄だが上品な雰囲気を醸し出す女性が笑顔で出迎えてくれた。
その女性は当然ながら秋定さんのおばあ様で、車の中で聞いていたとおりに優しい表情を見せてくれている。
「おばあ様お久しぶりです。
お元気そうで安心しました。」
「本当に、全然顔を見せに来てくれないから寂しかったのよ?」
「すいません。
おばあ様、今日は連絡をしていた私の妻になる桃依を紹介したくて一緒に来ました。」
そうあばあ様に行った後、私の方を見た秋定さんに合せるように、
「初めまして、ご挨拶が遅れましたが河野 桃依と申します。」
緊張を見せないように注意しながら、でも、おばあ様の出す優しい雰囲気に後押しされるように自然な笑顔で挨拶をすることができた。
「初めまして桃依さん。
どんな方を秋定は連れてくるのかと思っていたけれど、とても可愛らしい方で安心したわ。」
ニッコリ笑いかけながらおばあ様はそう言うと、
「2人が来てくれると聞いて久しぶりにお菓子を作ったのよ。
このまま立ち話を続けるよりも、私が作ったお菓子を食べながらお話をしましょう。」
「はい。」
おばあ様の言葉にそう返事をすると、天気がいいからと庭に案内され、すでにテーブルの上に用意されているお菓子からは甘い匂いがして、私達を迎えてくれた。
庭は、当然だけれどきちんと手入れがされていて、草花がバランスよく植えられていて穏やかな空間を作りだしている。
そして、おばあ様に促され秋定さんの隣に腰かけた私におばあ様が紅茶を注いでくれ、慌てて、
「私がやります。」
紅茶を注ぐおばあ様にそう言って手を出そうとすると、
「いいのよ、紅茶を淹れるのは好きだから今まで誰にもさせたことがないの。
だから、桃依さんにも私が淹れた紅茶を飲んでほしいの。」
「おばあ様が淹れる方がおいしいんだから桃依は何もしなくてごちそうになるといい。」
「では、お言葉に甘えて。」
秋定さんにそう言われてしまうと無理に自分が淹れるということができなくて、紅茶を注ごうと出した手を自分の方に戻しながら笑顔を見せるしかなかった。
「さー召し上がれ。」
紅茶を淹れ終わったおばあ様は優しい笑顔で促してくれる。
テーブルにあるおばあ様が作ったというクッキーやケーキを一口食べると、それはとても素人が作ったとは思えないほどおいしくて、
「おいしい。」
自然と私の口から言葉が出てしまった。
「おばあ様おいしいですよ。
腕は落ちていないようですね。」
私が言った後、秋定さんは甘いお菓子を食べた時に見せる表情をしながらおばあ様に話しかけた。
「当然です。
ふふ、久しぶりに秋定のその表情が見れてうれしいわ。
久しぶりに作ったから本当は心配だったのよ。」
おばあ様は嬉しそうにそう言って紅茶を飲み始める。
「身体の調子は大丈夫なんですか?」
フォークを皿の上に置きながら秋定さんがおばあ様に問いかけると、
「見たままですよ。
そんなに心配しなくても私は元気に毎日過ごしているわ。
心配性ね秋定は。」
ふふ、と笑いながらおばあ様は紅茶を口にする。
「しかし・・・、」
秋定さんが再びおばあ様に話しかけようとすると、秋定さんの携帯が着信を知らせる。
「失礼します。」
携帯を取り出した秋定さんはおばあ様に頭を小さく頭を下げ、私達のそばを離れると、
「桃依さん、聞いてもいいかしら。」
おばあ様は私に話しかけてきた。
急なおばあ様の問いかけに心臓が驚いてしまう私だったけれど、
「なんでしょうか。」
落ち着いた口調でなんとか返答することができた。
「桃依さんは秋定の秘書をされているのよね。」
「はい、そうです。」
「本当に秋定でよかったの?
もっといい方がいらっしゃったんじゃない?」
「え?」
思いもよらないおばあ様の言葉。

これは遠まわしに私が秋定さんと釣り合っていないと言われているの?

「だって、あの子いつも無表情だし、気の利いた言葉も言えないんじゃない?
本当にそんな男でもいいのかしら?
それだけが心配だったのよ今日は。」
おばあ様が続ける言葉は私が考えていたようなことではなくて、私を本当に心配してくれている口調だった。
だから、
「そんなことはないですよ。
秋定さんは確かに無表情だとは思いますけど、私が作った料理もお菓子も美味しそうな表情を見せてくれるんです。
いつも表情を崩さずに仕事をしている秋定さんしか知らない人が多い中で、そんな表情を私に見せてくれる秋定さんを私は、好きなんです。
望めるのなら、これからも一緒に過ごしていきたいと初めて思えた男性なんです。」
私はおばあ様の目をじっと見つめ、自分が気付いてしまった秋定さんへの恋心を素直に話してしまっていた。

そう、結婚をしたくないと思っていたはずの私が素直に秋定さんとこのまま一緒に、本当の夫婦になりたいと願っている。
そんなことを思っていても叶うはずがないのに。
しかも、おばあ様に素直に自分の気持ちを言ってしまうなんてこんなはずじゃなかったのに。
おばあ様の声が優しく私の耳に入り込んできてしまったせいなのかな。

「桃依さん、本当に秋定のことを思ってくれているのね。
今の言葉を聞いて安心したわ。
秋定は早くに両親を亡くして、私の亡くなった夫に厳しく育てられてきたの。
だから、あんなに自分の気持ちを正直に出せない子になってしまった。
そんなあの子が私は心配で仕方なかったのよ。
でも、今桃依さんの言葉で安心したわ。
秋定はあなたには心を開いているんだと。」
おばあ様は本当にうれしそうな表情をしながら話を続ける。
「これからも秋定をよろしくね。」
私は、おばあ様に言われた言葉を半信半疑で聞いていた。

秋定さんが私に心を開いている?
それは、どういうこと?

「おばあ様、秋定さんは本当に私に心を開いてくれるんでしょうか?
私にはおばあ様が言うように秋定さんが本当に心を開いてくれているのか正直分からないんです。」
半信半疑になっていたこと、それは、秋定さんが私に心を開いているというおばあ様の言葉。

私と秋定さんは契約者なだけなのに。
そんな私に秋定さんが心を開いてくれているとは思えない。
でも、開いてほしいと思っている私がいた。
秋定さんに恋心を秘めている私の心が浅ましく思っている。
そんなこと思っていいはずがないのに。

「秋定は桃依さんが作るお菓子を食べたんでしょ?」
自分の心と頭が相反する考えを起こしてしまっている私におばあ様はゆっくりと話しかけ、微笑みかける。
「秋定はね、手作りのお菓子は私が作ったもの以外は食べたことがないの。
どんなにおいしいお菓子でもね。
でも、桃依さんのお菓子をあの子は食べたのでしょう?
それだけで私にとっては秋定が桃依さんに心を開いているという十分な証拠だわ。」

秋定さん、本当に私に心を開いてくれている?
それはどういうこと?
私達はただの契約者なだけなのに。

おばあ様の言葉は私に驚きを与え、私の恋心に刺激を与えていた・・・・。





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