砂糖菓子のような恋


10


公兄が食事を食べに来た夜から1か月ほど経過している私と社長の現在の現状、それは、社長が言っていたとおり仕事中以外は秋定さんと呼び、しかも敬語を使わずに話さないと返事もしないし顔を見ようともしない。
そんな状態でいながら名前を呼ぶと私の顔をじっと見つめたかと思うと嬉しそうに微笑んでいるような表情を見せる。
私に名前を呼ばれたくらいで社長が喜ぶとは思えないから私の気のせいだとは思うんだけど、そんな社長の表情が私の心臓を刺激するから困ってしまう。
秋定さん、そう呼ぶことがこんなに緊張して私の中にうれしい気持ちを引き起こしてしまうなんて。
夫婦としての甘い関係ではない私と秋定さん。
それでも、こんな小さなことで幸せを感じている私は、契約が終わった時にはどうなってしまうんだろう?
毎日少しずつ秋定さんのことを好きになり、私の心の中を支配する。

結婚なんかしたくないと思っていた私の心を。
本当、どうしよう・・・・。

秘書の仕事をしながらの主婦業、といっても食事を作る以外は頼んでやってもらっているのできついということはなかった。
その食事も毎日作っているわけでもないし。
秋定さんが遅くて夕食を済ませてくる時には簡単なものしか作らないし、外食することだってある。
だから、休みの日に作ることの方が多かったりする。
なので、食事をする時には秋定さんが好きなデザートを作ることにしている。
本を片手に秋定さんの口に合うようにと思って奮闘しているせいか、いつも
「おいしいよ。」
と言って食べてくれる。
秋定さんが言ってくれるそんな他愛もない一言がとてもうれしい。
食事の時も言ってはくれるけれど、デザートの時はその時以上に優しい表情を見せてくれる、気がする。
一緒に夫婦をするようになって今まで見たことがない表情を見せてくれているとは思うけれど、それが私が思うように本当にうれしくて表情を変えているのか不安になる時がある。
私の気のせい?と思ってしまうほど、秋定さんは分かりやすく表情を崩してくれないからそう思ってしまう。

はー、こんなに秋定さんのことで自分の頭の中を一杯にしてしまう日がくるなんて思ってもなかったなぁ。
少しずつだけれど確実に短くなってきている秋定さんとの契約期間。
それまでに自分の気持ちを整理しないといけないわね。











「桃依、そろそろおばあ様に会ってもらおうと思う。」
金曜日の夜、私が作った夕食を食べ終わりデザートを食べていると、今回はスーパーで買った元を使ったプリンではない手作りプリンを食べながら秋定さんは自然な感じで言うから私は最初頭の中に言葉がすんなり入ってこなかった。
「はい?」
「明日、おばあ様に会いに行くからそのつもりでいるように。」
「あっ、明日!?
そんな急に言われても心の準備ってものがあるのに。」
秋定さんの急な提案に驚いて大きな声を出してしまった私に気にする様子もなく落ち着いた声で話を続ける。
「以前から桃依におばあ様と会うことは伝えていたんだから心の準備はできているはずだと思っていたんだが。
とにかく、これは決定事項だからそのつもりで。」
「決定事項って、確かに秋定さんのおばあ様には会うつもりではいたけど、何も前日に言うことないのに。
明日行く気でいたんだったら週始めに言ってくれたらこんなに驚かなかったわ。」
「いつ言おうがおばあ様の所にいくことには変わりがないと思うんだが。」
「気持ちの問題なのっ!」
秋定さんは私が言っていることの意味が分からないと言わんばかりにこれ以上私の話を聞こうとする様子はみられない。

もうっ、秋定さんのこういうところはどうかと思うわ私は!!
これが仕事で急にやらなければいけないことが出来たとしたらここまで驚かないけど、秋定さんのおばあ様に会うなんて一大事をこんな簡単に言われれば予定としては決まっていたとしても驚くのは当然なのに。
・・・・そうか、これも仕事なんだよね私の。
だから秋定さんも私がここまで驚くなんて思ってなかったんだ。
そうよね、仕事なんだからしっかりお役目を果たさなくちゃいけないわ。
いつまでも驚いている場合じゃないわね。

自分の考えがまとまったところで秋定さんに、
「明日は何時に行く予定にしているの?」
と、落ち着いた言葉で聞くことができた。
「そうだな、おばあ様はお昼過ぎまでは出かけると言っていたからその辺りは調節して昼食を食べた後に出かけることにしようと思う。」
「じゃ、家で食べてから行きましょうか。」
「桃依も作るのは面倒くさいだろうから外でいいと思ってたんだが。」
「駄目です、家で食べましょ。
秋定さんは外食が多いんだから家で食べれる時はきちんと私がご飯を作るようにしたいの。
秋定さんは外食の方がいい?」
「いや、桃依が作ってくれると言うんだったら家の方が落ち着いて食べられるから家の方がいいよ。」
そう言って秋定さんは私でも分かるくらいに笑顔を見せた。
急に見ることになった秋定さんの笑顔は私の心臓を直撃してしまう。

秋定さん、その顔は反則だわ。

自然と顔に熱が集まり出してしまう私は、
「当然よ。
秘書として私は秋定さんの体調管理をしないといけないんだから。」
自分の顔の火照りを誤魔化すように笑いながらそう言うと、
「そうだな、桃依は秘書としての責任感が強いんだったな。
その気持ちを忘れずに明日はしっかりおばあ様に私達の契約結婚がばれないように妻を演じきってもらいたいものだな。
じゃ、私は疲れたから休む。」
今まで笑顔だったのが嘘のような無表情で言った後、
「もう寝るの?」
と聞く私の言葉に返事をすることなくリビングを出て行ってしまった。
そんな秋定さんの急な態度の変化に何事だろうと首を捻ってしまったが、自分が言ったことが原因になっているとは露ほどにも思わず、しばらく1人で悩んでしまっていた。

どうして笑顔だったのが急にあんなに不機嫌になったのかしら?
秋定さんが不機嫌になるようなことは話してなかったはずなのに。
やっぱり本当の夫婦じゃない私には秋定さんが何を考えているかなんて分からないことなのかもしれないわね。
改めて私と秋定さんが契約結婚をしているんだということを実感してしまうわ。
自分に言い聞かせているはずの『契約結婚』という言葉がこんなに重く圧し掛かるものになろうとはここに連れてこられた日には思ってもなかったのに。
いつまで自分の本当の気持ちを秋定さんに気付かせることなく契約結婚を期限の日まで続けることができるんだろう・・・・。
でも、私が期限まで続けたいと思っていても秋定さんに好きな人が出来てしまったら私は用済みなんだな、そう思うと辛い。
そんなことを思ってみてもそれが私の現実。
こんなことなら契約結婚なんてするんじゃなかった。
とは言っても、あの時の私は秋定さんを好きになるなんて思ってもなかったんだから仕事がなくなってしまうことを恐れてしまっていたから仕方ないわよね。
とりあえずは、一晩眠って秋定さんの機嫌が少しでも良くなっているのを祈るしかないかな。
秋定さん、条件が合ったからって私を契約結婚の相手に指名してこなければ、私にとって社長という職場の関係者ということで過ごせたはずなのに・・・・。



その日は、何度も寝返りを繰り返し浅い眠りのまま朝を迎えてた私だった。










朝、朝方から眠りだすことが出来た私は、目覚めると時計の針は11時を過ぎてしまっていた。

えーっ!?
もうこんな時間っ、どうしよう秋定さんにご飯作らないといけないのに!!

急いでベッドから出た私は、パジャマを着替え顔を洗うこともできず秋定さんがいるであろう書斎のドアをノックした。
「秋定さんごめんなさい今からすぐにご飯作るから。」
ドア越しにそう話しかけるけれど秋定さんの返事は返ってこなくて、ドアを開けるとそこに秋定さんの姿はなかった。

いないの?
もしかして外に食べにいっちゃったのかしら。

そう思っていると、
「何しているんだ?」
私が探していた人、秋定さんが後ろから声をかけてきた。
「秋定さんご飯食べに外に行ったんじゃなかったの?」
「どうしてそんなことを思うんだ?
桃依が家で食べると言ったんだろう?」
「それはそうなんだけど、こんなに遅い時間まで自分で作ると言っておきながら寝てたから私。」
「疲れが溜まっているんだろう。
とりあえずご飯は作っておいたから食べるぞ。」
「作った!?秋定さんが!」
「私が作るのがいけないのか。」
「いけなくはないけど、想像ができなくて。」
私は秋定さんの予想もしていなかった言葉に昨日に引き続き驚かされてしまった。

秋定さんがご飯作ったの?
社長で今まで何もしたことがないはずの秋定さんが?

驚きのあまりまじまじと秋定さんの顔を見てしまっていると、
「折角私が作ったんだから早く食べるぞ。」
そう言って私に背を向けて歩きだした。





「いただきます。」
秋定さんの後ろをついてきた私は、秋定さんが用意をしていた食事を前に手を合わせて食べだした。
秋定さんが用意していたのは、卵をスクランブルエッグにしたかったと思われる味付けがされていない物と焦げ目が目立つウインナー、食パンはトースターに入れるだけで勝手に焼いてくれるのでいい焼き色ではあったけれど、早くから用意していたのか冷めていた。
「無理して食べなくてもいいからな。」
秋定さんは1口食べた後そう言った。
「大丈夫よ。」
私は秋定さんに笑顔で話しかけた後食べ始めた。
確かに味もしないし焦げているし冷めているしで正直おいしいものではなかったけれど、今まで料理なんてしたことがなかった秋定さんが私のために用意をしてくれている食事というだけで私は食べることが出来る。
「でも、どうして急に食事なんて作ろうと思ったの?」
私は疑問に思っていることを素直に口に出すと、
「何となく作ってみようと思っただけだ。」
「何となく?」
「そうだ。」
秋定さんはそう言うと食事を再開させてしまい話を終わらせてしまった。

機嫌は直っているようだけどわからないなぁ秋定さんの行動は。

そう思いながら私も食事を続けると、
「昨日は、・・・・・悪かった。」
小さな声で呟くようにそう言う秋定さんは少しだけ頬が赤くなっているように見えたのは気のせいなんだろうか?
「何が?」
私は秋定さんが謝る理由が分からずそう聞くと、
「何って、分からないならもういいんだ。」
目を伏せたまま呟く。

何?本当に分からないんですけど。
でも、秋定さんが私のために一生懸命作ってくれたというのは伝わってくる。

「ありがとう秋定さん食事を作ってくれて。」
だから私は、うれしく思っているこの気持ちを知ってほしくて私が出来る最高の笑顔でそう言うと、
「たまに作るのもいいものだからな。」
秋定さんはそう言って私と同じように笑顔を見せてくれる。
その日の朝食兼昼食の時間は、穏やかな空気の中で過ぎていった。





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