想い出を胸に秘めて

:: plot ::
全1話

「高校、閉校だって。
しょうがないのかもしれないね、少子化だし。
でもさ、自分が通ってた学校がそんなことになるなんて思ってなかったからビックリしちゃって。
卒業式には、今までの卒業生も行っていいみたいだし、久瑠美も行かない?」
久しぶりに高校の友人からの電話があって知った、母校の閉校。
去年、地元を離れ大学に通っていた私は、就職を機に戻ってきた。
慣れない仕事に必死な毎日を過ごしていたが、次第に仕事の流れを掴むことができだし、慣れないながらも自分のペースで仕事をすることが出来るようになった今、友人からの電話で思い出される高校時代のこと。
それは、心の奥底に押し込めていたもの。
そうしなければ、悲しみで押しつぶされそうな自分を支えることが出来なかったから。
今でも思い出すと胸を襲う痛み。
でも、その痛みも少しずつ弱まっている。
きっとその理由は、思い出として色褪せてきているせいだろう。
月日は、過ぎ去っていくことで、辛い出来事を思い出としてくれる。
そうでなければ、思い出にしばりつけられ動けなくなるから。
高校時代、卒業と同時に付き合っていた彼との別れ。
今思えば、すべて誤解からの別れだった。
あの時、素直になれていたら、今も彼と一緒に過ごすことが出来ていたのだろうか?
でも、あの時の私はそうすることが出来なかった。
若かったと言えばそうかもしれない。
最近思い出すことが少なくなっていた思い出が、電話と共に私の中に蘇ってくる。











結局、友人からの誘いは仕事だからと断った。
友人は、他の友人と卒業式に行くということだった。
きっと、高校時代のことを思い出しながら盛り上がったことだろう。
その日仕事を終えた私は、いつもだったらまっすぐ家に帰るけれど、そんな気にはなれず、自然と卒業式が終わっている高校に向かった。
外灯の明かりで照らされている学校の前に立ち、卒業以来の校舎を閉じられている門の前で見上げる。
昔と変わらずに建っている校舎に懐かしさを感じながら、卒業式の日のことが頭の中を駆け巡っていた。
あの日、式の時に見つめていた彼の背中。
その背中を見ながら彼に声をかけたい衝動に駆られていた。
そんな自分の気持ちを持て余しながら終わった式の後、みんなで集まり写真を取り出すと、彼の姿を見失ってしまっていた。
写真を撮りながら彼を捜す私。
やっと見つけることが出来た彼に、意を決して近づく私の足を止めてしまう光景。
それは、彼の胸に寄り添っている同級生の姿だった。

どうして?
どうして私以外の女の子があなたの腕の中にいるの?

身体を震わせ、目の前の光景を見ながらそう叫びたい気持ちになる。
でも、私の口は開くことがなかった。
ううん、開けなかった。
彼と付き合いだしたきっかけは、同じクラスの隣の席になったことだった。
1年生の時から好きだった彼と同じクラスになって、隣の席に座ることになった時、気がつけば、仲がいい女友達と呼ばれるくらい親しくなれた。
それだけでも幸運だと思っていたけれど、ある時彼に貸したノートに書いていた私の告白を彼が受け入れてくれた。
というよりも、気がつけばといった方がいいくらいのものだったと思われる付き合いが始まった。
それは、彼からはっきりとした付き合おうとの言葉がないまま始まった付き合いだったから。
それでも、ずっと好きだった彼と付き合うという自分に舞い降りてきた幸運に浮かれていた私。
けれど、しばらくすると当然のような形で私の中に、ある不安が生まれてきた。
私は彼に、「好き」ということがあっても、彼の方からは「うん」や「ありがとう」という言葉しか返ってこないからだ。

彼からも「好き」だと言ってほしい。
それは、贅沢なことなの?

悶々と自分の中に彼への問いかけを溜めていた私だったけれど、卒業を前にそんな自分の思いを爆発させてしまった。
私には言ってはくれない「好き」という言葉を、校舎の人目につきにくい場所で他の女の子にはにかんだような表情を見せ、彼が言っている姿を目撃したからだ。
私は、私には言ってくれない言葉を、私には見せない表情を見せて話す彼のことが信じられなくて、悲しくて、その日から彼のことを無視した。
それがその時の私が出来る精一杯の意思表示だったから
最初は話しかけていた彼も、取りつくしまのない私に次第に話しかけてこなくなってしまった。
その頃には、私は自分から彼に声をかけようかと思いだしたりもしたけれど、1度失くしたきっかけを探すのは難しくて、気がつけば卒業式を迎えてしまっていた。
私は県外、彼は地元の大学に受かっている。
このままじゃ彼と何も話さず、自分の気持ちを口にすることがないまま離れてしまうことになる。

そんなのは、嫌っ。

そう思って捜した彼の姿だったのに、私ではない女の子が彼の腕の中にいて、彼は優しく接している。

やっぱり、私だけだったんだな。
こんなに好きという気持ちを強く思っているのは。

彼と彼の腕の中にいる女の子の姿を見つめていた私だったけれど、次第に歪んでくる2人の姿に、自分の瞳に涙が溢れだしていることに気づき、その場を離れた。
卒業式の日、彼から電話がかかってきたけれど、彼の口から別れの言葉を聞きたくなくて、出ることができないまま、今日まで月日が流れた。





校舎を見つめながら、あの時感じた苦い思い出が蘇る。
今思えば、彼にはっきり自分の気持ちを言うべきだったと思う。
結局は逃げていただけの自分。
そして、彼を一方的に責めていた自分。
だから、私の心の中には昇華されることのない想いがくすぶり続け、新しい出会いを探すことも出来ない。
月日が経てば色褪せているはずだと思いたかっただけなのだと、今更ながら気がついてしまった。
気がついたところでどうしようもないのに。

いっそのこと、彼に会いに行ってみようか?
なんてね。
あーあ、いつまで経っても後ろ向きだな私。
感傷的になるなんてさ。
もういい加減、卒業しないといけないよね、この想いから。
学校の閉校、きっと私の想いも終わらせろということなんだろうな。
うん、きっとそうだね。

私は、そう自分の中で思い、今まであった彼の想いを閉校と一緒に終わらせようと決意する。
周りには民家はない。
だから、ちょっとくさいけどやってしまう儀式。

「鉄ー!大好きだったよー!!」
私は校舎に向かって大きな声で叫んだ。
叫んだことで、何だかスッキリしたような気がする。
「久瑠美―!好きだー!!」
後ろから私の声よりも大きな声が聞こえ、しかも、私への告白で驚いて振り向くとそこには、私が卒業しようとしていた想い人が立っていることに目を見開いてしまった。
私の記憶の中の彼よりも、精悍な顔立ちで立っている彼。
でも、昔の面影が残っている。
鉄はゆっくりとした足取りで私に近づきながら問いかけてくる。
「久瑠美は過去形なのか?
俺は今でも久瑠美のことが好きなのに。」
「嘘つき。
私のことなんか好きじゃなかったくせに。」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、私が好きって言ってもいってくれなかった。他の女の子には好きだって言ってたくせに。
それに、卒業式の日、女の子と抱き合ってたくせに。」
「他の女に好きなんていったことないぞ俺は。」
「言ってた!」
鉄は考え込んで、何かを思い出したような表情になりながら話しだす。
「それは、久瑠美のことを話してた時じゃないか?
その時、久瑠美のこと好きだって言ったのは覚えてるけど。
それに、卒業式の日は、告白されて彼女がいるからって断ったら抱きつかれたんだよ。」
「嘘。」
「こんなことで嘘ついても仕方ないだろ。」

そんなことって。
私が勝手に誤解して、離れてしまったってこと?
そんな間抜けなことって・・・・。

私は、鉄の言葉に自分の誤解のせいで鉄と離れることになっていたという事実に愕然としてしまう。
というよりも、情けなくなってきてしまう。
そう思うと、自然と目頭が熱くなり、息を詰めながら涙が流れてきてしまう。
すると、鉄は優しく私を両腕で包み、自分の胸に引き寄せる。
私の頬は、鉄の温かい胸に触れることで涙が流れ続けてしまう。
「久瑠美、好きだ。
昔はそうはっきり言うことが照れくさくて久瑠美に好きだと言われても答えることができなかった。
でも、今は昔のようなガキじゃない。
はっきりと自分の気持ちを言うことが出来るようになった。
久瑠美が好きだって。
だから、今から始めないか?
お互いの気持ちを素直に言いあうことが出来る関係を。
もう久瑠美が俺のそばにいないことがもう耐えられそうにない。
俺のそばにずっといてくれ。」
「私なんかでいいの?
勝手に誤解して、離れた女なのに。」
「誤解させた俺も悪い。
もうそんな誤解させないほど好きだといい続けるから問題ない。
それでも、やっぱり過去形?」
「過去形だったらあんなこと恥ずかしくて叫ばないよ。
ずっと鉄が好き。
その気持ちは変わらないよ。」
私はそう言ってぎゅっと鉄を抱きしめた。
そして、鉄も私を抱きしめて、私達はお互いの気持ちを確認するように抱き合う。



お互いの温もりを直に感じることが出来る距離にいることに、嬉しさを覚えながら。

+おわり♪+

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