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Magic Pearl

追われるものと傍観者 1

客足が減ってきた夜の時間、今日は久しぶりに逸香ちゃんが店に来る予定になっている。
あまり予定を立てて訪ねてくることのない逸香ちゃんが今日は何故予定を立ててやってくるのか、それには理由があった。





「うまくいってるわけねぇ。よかったわね。」
「うん。」
「はー、幸せって顔してるわ。本当に羨ましい。」
「…逸香ちゃん、棒読みな気がするのは私の気のせいでしょうか?」
「気のせいなんかじゃないわよ。わざと棒読みで行ったんだもの。
他人の幸せを祝うほど出来た人間じゃないのよねぇ。
今だってただあてられてるだけだし?」
「それはいじわるっていうものじゃないの?
できたら素直に喜んでもらえたら嬉しいなぁなんて思うんだけど。」
首を垂れるようにして呟いてしまう私だったけれど、そんな私の様子を見た逸香ちゃんはからかいを見せた表情で笑いつつ話を続ける。
「冗談よ。真珠が幸せになってくれて私はうれしい。これ本当よ。
だって、今まで仕事一筋だった真珠がやっと恋愛に興味を示したんだからこんなに目出度いことはないもの。
心配してたからねぇ、このまま真珠が一人者で寂しく過ごしていくんじゃないかって。」
「…それを言うなら私より逸香ちゃんの方が…。」
「はい?地雷を踏もうとしているのはこの口かしら?」
そう言いつつもつままれたのは私の頬で、痛くはなかったけれど降参だと口にすると手を放してくれた。
空いた手をカップへと戻した逸香ちゃんは中身を口にした後再び話し始め、私を驚かせる。
「真珠も幸せを手に入れたところで、彼氏に会わせてもらおうかな。
やっぱり姉替わりの私としては相手がどんな人なのか実際に見てみたいし。
彼氏の都合がいい日で良いから。」
「都合が良い日って急に言われても。
逸香ちゃんが心配しなくても圭さんは素敵な人よ?」
「そりゃ真珠にとってはそうでしょうね。
でも、私としてはやっぱり心配なわけよ。
だから、私を安心させるためだと思ってくれればいいから。」
譲る気配を見せない逸香ちゃんにこれ以上のことを言っても私に勝ち目はなく、圭さんに確認してからということで逸香ちゃんと圭さんを会わせることになってしまった。







逸香ちゃんが心配してくれるのは嬉しいし、圭さんには逸香ちゃんが私にとって大切な友人だということを知ってもらうにはいい機会なのかもしれないと今日2人が会うために予定を合わせた。
圭さんには逸香ちゃんが会いたがっているからとは伝えていない。
やっぱり品定めのような感じで思っている逸香ちゃんのことをそのまま伝えることはできなかった。
だけど、圭さんは何となく分かっているような気がする。話している時に感じ取っていたようだったから。
それでも会ってくれると言ってくれた圭さんの優しさが嬉しかった。
2人は仕事が終わってから来ることになっているので閉店間際か閉店後に来るはず。
そして、閉店の時間を迎えて片づけをしていると最初にやってきたのは圭さんだった。
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
いつしか変わった仕事帰りの圭さんを迎える言葉。
照れくささは薄れ、心をホワンと暖かくさせる。
「急なお願いをしてごめんなさい。」
「真珠が気にすることじゃないよ。」
「でも、私の友達のお願いだし。」
「仲良くしている友達なんだろ?真珠が大切にしている人だったら俺にとっても大切な人だよ。
だから、ごめんなさいはもうなしだ。」
「はい。」
圭さんの優しい言葉を嬉しく思ってしまうのが自然と表情にも現れ笑顔がこぼれる。
静かに流れる時間は私と圭さんを包み込み、2人だけの空間を穏やかなものにしてくれ、やっぱり私は圭さんのことが好きだと漠然と思わせる。
今いる場所、大切な私の小さなお城。それだけでも十分私を満足させていたはずなのに、こうやって圭さんがいるといない時のことを考えると物悲しさを感じてしまうのだから不思議だ。
この場所さえあればいいと思っていたのが嘘みたい。
もう私には圭さんがいないなんてことは考えられない。
それだけ圭さんに身も心も奪われてしまっているから。
気がつけば圭さんを見つめていた私を同じように圭さんも見つめている。
絡み合う視線は次第に熱が籠ったものに変わろうとしていた。
でも、働きだした理性がそろそろ逸香ちゃんがやってくると信号を送ってきて、このまま惹きこまれるように圭さんに近づきたいと思っていた気持ちを押しとどめ、口を開いた。
「友達もそろそろ来ると思うからそれまで紅茶を飲んで待っていてもらおうと思ってたんだった。」
空気を変えるために言った言葉。
でも圭さんはそんな私の言葉を受け入れる気はないようで、私の身体を大切な物を扱うように優しく抱きしめる。
「け、圭さん!?友達来ちゃう。」
「そうだね。でもまだ来てないよ。だからそれまでは俺と真珠の2人きりだ。
恋人に触れたいという気持ちを持て余すにはもったいない時間だと思わない?」
蕩けてしまうような囁き声。しっかりと私の鼓膜を揺らし、同意しか受け入れないと意思表示しているとしか思えない。
というよりも、私が嫌と言えないということを知っている?
「ずるい、圭さん。」
だから私もわざと拗ねたように呟く。でも、口から出る声色は優しいもの。
「ずるくないよ。本当のことを素直に言ってるだけなんだから。」
「やぁっ」
吹きかけられる息が耳をくすぐり、甘噛みされた耳介からも甘い痺れが身体に流れ込んでくる。
「感じやすいね、真珠。」
クスッと小さく笑う圭さんの声を聞き顔が熱くなるのを感じてしまうけれど、熱くなったのはそれだけのせいではないかもしれない。
途切れない刺激が場所を移し少しずつ私の中に快感を生む。
ゆっくりと流れるように身体のラインをなぞる圭さんの手は計画性を持って動いている。
手の動きを止めることをしなければいけない、そんなことは理性が訴え続ける。
でも、そんな声を本能は無視したいのだと意見をぶつけ合わせ圭さんの動きを止めることなく、受け入れてしまっていた。
逸香ちゃんがもうすぐ来ること、そんなことよりも圭さんの温もりを感じていたいとおもってしまうのはすごく浅ましい人間になったような気さえする。
「ふっ・・・」
考えを巡らせている私を知ってか知らずか、圭さんは私の唇を自分の唇を使い閉じさせる。
角度が変わった時に漏れ出る声に力はなく、感じてしまっていることを示していた。
「あら〜、お邪魔しちゃってるかなぁ私。」
遠くで鳴っている錯覚に陥ってしまったドアが開く音は錯覚なんかではなく実際に起きたことで、ドアを背に逸香ちゃんがニヤニヤ笑いながら私達を眺めていた。
閉じていた目を開いて逸香ちゃんの顔が視界を占めたことで羞恥を強め圭さんから勢いよく離れた私は、ワタワタと落ち着きなくなってしまっていた。
「いいのに。私のことは気にせず続きをしてもらっても。」
「続きって!?」
「ははは、顔真っ赤じゃないの真珠。本当に可愛いったらないわねぇ。」
からかわれていることに気づいたけれど、今の状況では当然の結果と言えるかもと思えばこれ以上何も言えなくなってしまう。
とりあえずこの場の空気を変えなければ、なんて変な使命感を働かせた私は2人の紹介を始めた。
「圭さん、来てくれた女性が友達の本木逸香(もときいちか)さん。
そして、私の隣にいるのが彼の八坂圭さん、です。」
圭さんと逸香ちゃんの顔を交互に見ながら自己紹介を済ませると圭さんを背中越しに見ていた逸香ちゃんは何故か目を見開いている。
逸香ちゃんの方を振り向いた圭さんの顔を見た逸香ちゃんは叫び出してしまった。
「八坂圭!?何であんたがここにいるのよ!!」







逸香ちゃんの叫び声は店内に響き渡る。
予想もしたいなかった逸香ちゃんの反応に私は驚いてしまい圭さんに視線を向けた。

何?圭さんと逸香ちゃんは知り合いなの?

視線で私の疑問を感じ取ったらしい圭さんは私に微笑みかけた後、逸香ちゃんへと話しかけた。
「久し振りだな本木。」
「久し振りって、そんなのどうでもいいからどうしてあんたがここにいるのか説明しなさいよ!」
「説明も何も、真珠が言ってただろうが。
お前が会いたがってた真珠の彼氏だ。」
「ありえない!あんたなんかが真珠の彼氏だなんて!!」
ツカツカと足音高く近付いてきた逸香ちゃんは胸倉を掴むかのような勢いで圭さんの目の前に立ちふさがり睨みを利かせている。
2人のやり取りについていけない私は頭が混乱しそうになる。
見ている限りは逸香ちゃんと圭さんは知り合いで、逸香ちゃんは圭さんを嫌っているようだし、圭さんもいつもと違って笑顔がない気がする。
でも、とてもじゃないけど2人の間に入って話を止めさせられる気がしなくて私が今出来ることと言えば、情けないことに圭さんの隣にたっていることだけだった。
鼻息荒く話し続ける逸香ちゃんは私の存在は忘れてしまったかのように圭さんの隣にいる私に視線を向けることなく今も圭さんを睨み続けていて、話しかける。
「どんな偶然があれば八坂が真珠と付き合うわけ?就職先はこの辺じゃなかったはずよ。」
「出向でこの近くの会社に来て真珠の店に通うようになったのがきっかけだ。別に本木と真珠が友達だったということはこの店に通いだすまで知らなかった。」
「通いだすまで?ということは、付き合う前から私のことは知ってたってこと?」
意外な事実を耳にしたことで驚いてしまう。

もう何が何だか分かんない…。

「本木が心配しているのはアイツのことだろ?俺の口から本木の居場所が知られることを恐れている。」
圭さんの言葉に今までの勢いが嘘のように逸香ちゃんは言葉を詰まらせる。

アイツ?アイツって誰だろ?話の流れからいくと逸香ちゃんが会いたくないと思っている人のはず。
でも、そんな人がいるって今まで聞いたことないから誰のことなのか検討がつかない。

「まさか…、言ってないでしょうね…。」
「ヒントは与えた。」
「それって言ったってことと同じじゃないっ。まさか!来るんじゃないでしょうね!!」
「どうだろうな。とりあえず今日会うかも知れないとは言っておいたがアイツも仕事があるし、今日来るのかは分からないな。」
「真珠!私帰るから!!」
「えっ、逸香ちゃん!?」
顔をしかめ、圭さんからの返事を聞いた後勢いよく手を上げて切羽詰まった声を出しながら言う逸香ちゃんは早足でドアに近づく。
本当に何が何だか分からない状況に逸香ちゃんを引き留めることが出来ない。
ドアノブに手をかけようとした逸香ちゃんの手は、急に開いたドアのせいで空を切り、開けられたドアから見かけたことのない男性が姿を現した。
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