続Loveliness Yo


9.真っ白になる放課後


始まりました、稽古の日々。
台本を一生懸命読んできているのにしどろもどろな口調になってしまう私は毎日駄目だしを出されていて、稽古を中断させることもしばしば。

うう、本当にすいませんっ。

何度謝ったことか。
もう回数なんて覚えられないくらいすぎて情けなさすぎる。
舞台監督だからと、生徒会長はあれやこれやと指導を入れてくれるけれど、そもそも私が王子様というのが合っていないんだと思う。
何だかんだで賀谷西も桐野君も無難に役をやれているし、継母役の紗和子ちゃんに至っては生き生きしているようにも見える。
気のせいなのか、シンデレラをいじめるシーンが一番そう感じるけれど、紗和子ちゃんに聞いてみたら、
「そんなことないわよ。
役を掴むのに苦労してるんだから。」
にっこり笑いながら言っていたので気のせいかもしれない。
でも、生徒会長に迫真の演技だと褒められているんだから紗和子ちゃんはしっかりと役を掴めているんだろうなぁなんて聞いていて思ったりもする。
別に褒められたいわけじゃないけれど、見苦しくない程度には王子様役をやり遂げたいというのが今のところ私の願望だったりする。









「可愛らしい王子様だよね、木村さんがやると。」
他の人達が稽古をしている間、用意されている椅子に腰掛け稽古風景を見つめていた私の隣に座った桐野君が声をかける。
「可愛いって、王子様には駄目だよ。
やっぱり王子様は格好よくないと。
あうぅ、何で私なんだろ。
王子様は役に合う人がやった方がいいと思うんだけど。」
「合ってないことないんじゃない?」
「え!どこが!?」
桐野君から言われた言葉に驚いた私は桐野君の顔を凝視する。
だって、あまりにも今の状況に適している言葉とは思えなかったから。
どう考えても私が王子様の役が合っているとは思えないし、私なんかがするよりも桐野君の方がずっと王子様が似合っている気がする。
誰だってヌポーッとしたような人、しかも、女子がするよりもずっといいと思うはず。

今からでもミスキャストだって生徒会長に言いに行こうかな。
そうだよね、それがいいよね。

「生徒会長に何言っても無駄だと思うよ?
あの人は自分が決めたことは有言実行するからね。」
「私、何も言ってないよ?」
わざとらしく言ってはみたけれど桐野君には私の考えなんてお見通しだったらしく、クスッと笑った後、
「木村さん、嘘がつけないタイプだよね。」
なんてことを言われてしまった。
「そんなに分かりやすい?」
「可愛いって思えるほどね。」
「かわ!?」
「ほら、そんなところもだよ。
木村さんを見てたら、食べちゃいたいほど可愛いって言う人の気持ちが分かる気がするよ。
頭からバリバリ食べちゃいたくなるよね。」
「食べちゃうの!」
「冗談だよ。
本当に食べちゃったら木村さんに会えなくなっちゃうよ。
そうなると悲しいからやらないよ。」
「そ、そうだよねぇ。」

あー焦っちゃったよ。
でも、比喩なんだから本当に桐野君が私のことを食べちゃうわけないわよね。

自分の無駄な焦りに恥ずかしくなって照れ笑いをしてしまうけれど、そんな私のことを桐野君は笑うことはせずに、優しく微笑んで見つめている。
いつも桐野君は優しく接してくれるし嫌な顔をするところをみたことがない。
でも、こんなに優しいと言うか慈しむ?みたいな目で見られたことはない気がする。
そのせいか、顔が火照りドキドキしてしまう。
だって、こんなに見つめられてドキドキしない人はいないと思くらい、桐野君は私を見つめていた。
私は桐野君の目に惹きつけられてしまっているようで、視線を逸らさずお互いの視線を重ねている。

いままでこんなに桐野君のこと見つめたことないよね。
それなのに、何で視線を逸らせないんだろう?
念力でも出してるのかな?桐野君。
そうだったら怖いなぁ。
さっきも食べちゃいたいなんて言ってたし、やっぱり食べる前準備!?
ダメダメ!

どう考えても違うだろうと紗和子ちゃんに突っ込まれそうなことを考えていたなんてことは全く気付いていない私だった。
それでも、いつまでも見つめあっているわけにもいかないと話題を出してみる。
「もう少ししたら私達の番がきそうだよね。
読み直ししなくちゃ。
桐野君もやった方がいいよ。
あ、でも、桐野君はいつもちゃんとやってるもんね、だったら大丈夫か。」
「・・・・そうくるんだ。」
「え?」
「何でもないよ。
そうだね、読み直ししとかないとね。」
どことなく含み笑いな笑顔を見せる桐野君だったけれど、言ったことを実行するため私に向けていた視線を台本に向ける。
今まで何事もなかったように台本を読んでいる桐野君を見て自分も台本に集中しなくちゃと、残っていた桐野君に向けていた意識をすべて台本に向けて集中していたけれど、そんな私のことを桐野君が台本を見るふりをしながら見ていたことにはまったく気づくことはなかった。










「じゃ、今日はここまで。」
自分のセリフを反芻しながら自分の出番を待っていた私だったけれど、監督でもある生徒会長の声に拍子抜けする。
いつもより明らかに早い時間の解散だったから。
「まったく、日にちがないのにこんなんでいいと思ってるのかしらね。」
いつのまにやってきたのか紗和子ちゃんが私の隣に呆れ顔で腕を組み立っている。
「今日終わりなんだね、びっくりしちゃった。」
「責任者がいい加減だからね。
帰ろうか。」
紗和子ちゃんの言葉に椅子から立ち上がったけれど紗和子ちゃんと一緒に帰ることはできなかった。
生徒会長がやってきて紗和子ちゃんを攫っていったからだ。
「ちょっと!」
「約束の時間が近づいてるんだから急がないとね。」
「私は行かないって言ったでしょ!」
「行かないなんて言葉は却下って言ったはずだけど?
いい加減覚悟決めなさい。」
「いーやー!」
「さ、紗和子ちゃん!?」
目の前で繰り広げられる押し問答、紗和子ちゃんのいつもと違う様子に驚いている間に生徒会長に連れ去られてしまった紗和子ちゃんの後ろ姿を見送る。
このままほっといていいのかと心配になっていると、
「2人は用事があるらしいから心配しなくてもいいと思うよ。」
桐野君が私と同じように立ち上がりいつの間にか隣に立って言う。
「でも、紗和子ちゃんいつもと様子が違ったし心配だよ。」
「そうは言っても、2人の姿もう見えないからここで心配していてもどうしようもないと思うよ?
大丈夫だよ、2人は仲いいから。」
「うーん、確かに仲はいいのかな?
いいのかなぁこのままほっといても。」
「行かないといけない所があるとは聞いてるけどね。」
「そうなの?どこだろ?」
「明日聞いてみたらいいよ。
とりあえずみんな片付け始めてるから手伝おうか。
すでに廊下には2人の姿はなく、桐野君が言うように心配をしても私にはどうすることも出来ない状態。
そして、周りでは片付けが始っていることに気づき、慌てて参加するころには紗和子ちゃん達は学校を後にしていた。





「明日も練習だね、いい加減セリフ間違えないようにしないと。」
片付けが終わった私は、桐野君と並んで学校を出て駅までの道のりを歩いている。
ゆっくりとした歩幅の桐野君は私の歩幅に合わせて歩いてくれていると気づいたのは最近のこと。
男である桐野君との歩幅が私と一緒であるはずがないことに気づくのが遅いとは思ったけれど、自然すぎて気づくのが遅くなった。
早く帰りたいんじゃないかと思いもう少し早く歩けるよ?と言ったこともあるけれど、
「ゆっくりの方がいいから今のままでいいよ。」
と、優しく言ってくれたので今も甘えてしまっている。
いつもだったら賀谷西が私と桐野君の話を邪魔することが多いけれど、何故か賀谷西は練習に現れなかった。
授業が終わった後急いで帰ってしまったからだ。
「こいつと2人で帰るのは許さないからな。」
桐野君の方を向いた後私に言って立ち去った賀谷西だったけれど、別に私が賀谷西の言うことを守る必要もないということで一緒に帰っている。
「今日は賀谷西君がいないから静かだったね。」
駅に着き、電車が来るのをホームで待っていると桐野君が話しかけてきた。
電車を待つのは私達だけではなく、帰宅時間でもあるせいか人が多くて少しだけ大きな声になりながら返事をする。
「そうだね。
いつもだったらわーわー賀谷西騒いでるもんね。」
クスクスと思い出し笑いをする私。
そうしているうちに電車が来たので乗り込むと、いつものように満員だった。
でも、ドアの所に立つことが出来たので背中をドアに預ける。
桐野君はそんな私の前に立っていた。
私より早く降りる桐野君はそろそろ最寄りの駅に近づいていたけれど、電車に乗ったあとから口を開かなくなったことが気になる。
口を開かないこと以外はいつもと変わりがない気がするけどどうしたのかと思って声をかけようとした瞬間桐野君が私に倒れこんできた。
突然のことに驚いてしまった私に、
「押されたんだ、ごめんね驚かせて。」
申し訳なさそうに言ってくれる桐野君。
「大丈夫だよ。」
気にしないでと伝えるために笑顔で答えた私にまたまた予想もしなかった事態がやってきた。
アナウンスで桐野君が降りる駅に着くことを伝え減速を始めた電車の車内、まだ桐野君は私に倒れこんできているけれど、満員だから仕方ないし体重がかからないようにドアに手を置いてくれているからいいかなんてことを思っていた私の耳元にフッと息がかかってきて身体がビクつく。
私は耳元で話されるのがこそばゆくて苦手だから息がかかるなんてことに反応しないわけがない。
何で!?そんな考えが頭の中を巡っていると、桐野君が私の耳元でささやく。
「好きだよ。
俺を好きになって、優美。」
切なく、それでいて優しい声色のささやき。
電車が止まる。
「じゃ、また明日。」
いつもと変わらない挨拶の後電車を降りていく桐野君を力が抜けてしまった膝をドアに身体を強く預けることで座り込むのを防ぐ。
少しだけ人が少なくなった電車の中で早鐘を打つ心臓の音と熱くなっている身体を感じていた私の頭の中は、何も考えられないほど真っ白になっていた。





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