続Loveliness Yo


13.開演前の混乱


「優美、似合ってるじゃない、王子様の恰好。」
「紗和子ちゃん、顔笑ってるよ。」
「あら、そう?あんまり優美が可愛いもんだからつい笑顔になっちゃってるのね。」
「笑顔じゃなくておもいっきり笑ってるってば!」
私の肩に手を置いて笑いを堪えながら話しかけてきた紗和子ちゃんに頬を膨らませる勢いで反論する私だけど、今の紗和子ちゃんにはなんの効果もないらしく、肩をふるわせ続けている。
「好きでこんな恰好してないのに。」
「今さらそんなこと言うわけ?今から本番なのに。」
「そんなこと分かってるよ。
緊張してるのに紗和子ちゃんが笑うんだもん。」
「ごめんごめん、ちょっと優美にリラックスしてもらおうと思ったのよ。」
「本当に?」
「当たり前じゃない。
私が今まで嘘ついたことあった?」
「そりゃ、ないけど。」
「だったら信じなさい。
ほら、優美のお姫様達も準備が出来たみたいよ。
今から本番が楽しみ、楽しみ。」
ニヤニヤと笑う紗和子ちゃんの視線の先を見つめると、王子の私より体格が良いお姫様の恰好をした2人が立っていた。
シンデレラである賀谷西と桐野君だ。
体格が良いと言っても、顔立ちが整っているせいか2人ともかなり化粧映えしている気がする。
しっかり女性らしい顔になっているから。
そんな2人を見て思わず叫んでしまった。
「わー、2人共すっごくきれい!」
「きれいじゃないだろ。
男がこんな恰好をしても。」
女性らしい見た目とは裏腹に豪快に歩いてきた賀谷西は私の言葉を聞いて不本意そうに顔を歪めている。
でも桐野君は、ゆっくりとおしとやかに近づいてニッコリ綺麗な微笑みを見せながら、
「木村さんにそう言われるとこんな恰好でもうれしいものだね。」
なんてことを言ってくれた。
あまりの桐野君の綺麗なアップに圧倒された私は、顔を真っ赤にさせてしまう。
「おい、何でこいつの顔を見て顔を赤くするんだ。
どうせなるなら俺の顔を見てからだろうが。」
ずいっと私と桐野君の間に入って賀谷西がアップに近づいてきて、ますます顔を赤くさせてしまう私だったけれど、桐野君の時には感じなかった鼓動の早さまで感じてきて、挙動不審な行動をとってしまいながら賀谷西の身体を押しのけてしまった。
「おい!何で俺にはそういう態度なんだよ!」
「そんなに怒鳴ったら木村さんが驚いちゃうよ、ねぇ木村さん。
賀谷西君、緊張している木村さんを刺激しないように。」
桐野君はそう言って私の身体を自分の背に隠してくれ、賀谷西から見えなくしてしまった。

賀谷西が悪いんだもん。
急に顔なんて近付けてくるから。
始まる前から緊張しちゃうじゃない!

桐野君の背中に隠れながら深呼吸しつつ、落ち着こうとしている間そんなことを考えていると、気づかない間に賀谷西と桐野君が何かを話したようで、そのあと賀谷西は私達から離れていってしまった。
「桐野君、賀谷西と何を話したの?」
「たいしたことじゃないよ。
でも、分かりやすく言うと勝負についてかな。」
「勝負?」
「そう、忘れてないよね木村さん。
今日の舞台で僕達どちらかを選ぶってこと。」
「あ!」
「もしかして、忘れてた?」
「忘れてないよ!
ただ、ちょっと忘れたかったかなぁって思って逃避してたって言うか…。」
「木村さんらしいな。
でも、今日はそんなんじゃダメだからね。」
桐野君はゆっくりと私の方を振り向き、先ほど見せていた微笑みではなく真剣な表情になっていて、思わず視線を逸らしたくなったけれど桐野君の手が私の頬に触れ、阻止されてしまい見つめ合う形になってしまう。
桐野君の熱い視線を感じてしまって、治まったはずの鼓動が速くなる私に、目を細めながらフッと微笑むと、手を頬から離し立ち去ってしまった。
しばらくの間視線に絡め捕られたままになってしまったのか、その場から動くことが出来ないでいた私を動かすきっかけになったのは、周囲のざわめきだった。
ざわめきに気づき、周りを見渡すと他の生徒会役員の人達が興味津々な顔を見せながら口々に、
「なんだ、すでに争奪戦か?」
「いやいや、青春だねぇ。」
そんなことを言っているのが耳に入り、1人残されたこの場をどうすればいいのか分からなくなってしまった。

2人共こんな場所に私だけ残すなんて、どうしたらいいのよ!

さっきとは違う意味で挙動不審になる私だったけれど、そんな私の肩をポンッと誰かが叩いた。
「目の前でやってたやり取りについて説明してもらおうかしら。」
すっかり存在を忘れていた紗和子ちゃんがやっぱり楽しんでいるとしか思えない表情を見せながら私の肩に手を置いていた。
「私、何も聞いてないようなことを言ってたような気がするなぁ。
じっくりと聞かせてもらいたいわぁ。」
そう言って、私の肩に置いていた手で肩を抱きながら歩き出した紗和子ちゃんは、控え室になっている生徒会室を出て、人通りの多い廊下を衣裳のせいでジロジロ見られながら空いている教室へと移動させられてしまった。
早足で歩く紗和子ちゃんについていくのが精一杯でそんな視線を気にする余裕はなかったけれど。











「なるほどねぇ、そんなことになってるわけね。」
空いている教室に着いた後、椅子に座らされ先日の出来事を話すことになった私は、かいつまんで経緯を話した。
賀谷西にキスをされたことは黙ってたけど。
やっぱりキスされたなんて恥ずかしくて話せないし、人に話すようなことでもないような気がしたから。
私の説明が終わると、紗和子ちゃんは納得をしてくれたようで、ふーんと言いたげな顔で腕を組んで座ったまま口を開かずにいる。
少しの間できてしまった沈黙がいやに長く感じて、かなり居心地が悪い。
別に悪いことをしたわけではないのにそう感じてしまうのは何故だろう?
疑問に思っているところに紗和子ちゃんが話し始め、そんな考えも吹き飛ばされてしまった。
「で?優美はどっちを選ぶわけ?」
「選ぶって言われても・・・、そんな選ぶだなんてこと出来ないよ。」
「何で?」
「何でって、だって2人に好きだって言われても私は2人を好きなわけじゃないわけで、そりゃ、ドキドキすることはあるけどそれは驚くからで。
好きというのとは違う気がするもの。」
「ふーん、好きじゃないねぇ。でも、ドキドキはすると。
・・・2人も気の毒に。」
紗和子ちゃんは大きくため息をつきながら2人への同情の言葉を口にしたけれど、私としては、きっと紗和子ちゃんは私が大変な状況になっていることに親身になってくれると思っていただけにショックが大きい。
「紗和子ちゃん、気の毒なのは私、2人じゃないよ!」
「確かに優美にとっては気の毒なのかもね。
でも、第三者から見たら私の意見の方が賛同されそうな気がするんだけど。」
「そんなことないよ!」
「優美、鈍感なのも時には残酷だと私は思うわよ。
そうやって逃げてたら本当のことなんか見えてこないし。
きちんとまずは受け止めてあげたら?2人の気持ちを。
別にどちらかを絶対に選べとは言わないけど、本気の気持ちを流されちゃうのは気の毒のなにものでもない気がするわ。嫌なら嫌、はっきり言うべきよ。
話を聞いてたら優美はそんなこともしてないもの。
はっきりさせるのも優しさなんじゃないの?」
紗和子ちゃんから言われた言葉は諭すような言い方で、責めるものではなかった。
だから私の耳から入ってきた言葉は考えを促すものとなり、私の心に響いてきた。

私、受けとめてなかったのかな?2人の気持ち。
今まで受けとめるとか考えたことなかったかも。
どうしようっていう気持ちが強かったし。
受けとめる・・・、賀谷西と桐野君は私が好き。
じゃ、私は?
2人が私のことを好きと言ってくれる言葉に応えられる気持ちはあるのかな?
えーん、自分のことなのに分かんないよぉ!
紗和子ちゃんが言うように受け止めたとしても全然どうすればいいのか分かんないってどうしたらいいの!!

紗和子ちゃんの言葉で2人を受けとめるということで考えてみたけれど、出口のない迷路に迷い込んだように思考回路が混乱してきて、考えがまとまらない。
グルグルと頭の中が渦巻きだして煮えだしたような気にさえなってきてしまう。
「こらこら、鼻息荒くなってるから優美。」
「ええー!?」
「とりあえずは、舞台の上でゆっくり考えることね。
さて、そろそろ開演時間も近づいてることだし戻ることにしましょうかね。」
「え!?舞台の上?無理、そんな器用なこと出来ない!!」
「しょうがないわよ、2人と約束しちゃったんでしょ?」
「しょうがなくないよぉ、無理、無理〜。」
「はいはい、とりあえずみんな待ってるから行こうね。」
小さい子供を諭すような声で紗和子ちゃんは言いながら私の頭を撫でた後、この場所に来た時と同じように肩を抱きスタスタと歩きだし、私が逃げ出さないようにしているとしか思えないスピードで生徒会室へと戻ってしまった。
私はと言えば半泣き状態になっているけれど、逃げ出すことも出来ずに開演時間が近づいた時間を混乱した頭のまま過ごすことになってしまっていた。





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