嫌い嫌いも好きのうち

「あんたなんかだいっ嫌いだー。」
これは、私、今井倖(いまいさち)の口癖のようになっている台詞。
誰に言っているのかというと、私の天敵、佐藤直喜(さとうなおき)にである。
アイツと私は、同期入社なんだけど、まー出会いが最悪だった。






不動産会社に入社が決まり、入社式の日のこと。
私は、寝坊してしまい、遅刻しそうになっていた。
「えーん、なんでこんな日に寝坊してしまうかなぁ。このままじゃ遅刻だよ〜。」
私は、泣きそうになりながら、バス停に向かって走っていた。
でも、スーツにヒールというスタイルの私には、思うように全力疾走をすることができず、バス停に着いたら、バスは出発した後だった。




「うー最悪だわ。あのバスに乗らなきゃ遅刻なのにー」息も絶え絶えな状態の私は、何とかタクシー乗り場までたどり着き、タクシーに乗り込もうとしたその時、誰かにボンっと横から押されてしまった。
なにごとっ、と思った矢先、前から男の声が聞こえた。
「悪い、急ぐから先に乗るわ。」


ん?なんでタクシーに乗ろうとしてるのに、前から男の人の声が聞こえるの?


頭の中にはてなマークが浮かんできた私の目の前には、スーツを着た男の人が、タクシーに乗り込んでいた。

うっ、いい男だわ。茶色のサラサラヘアが切れ長な目を柔らかく見せている。しかも、身長も高いようで、スーツも着こなしてる。


って、そんな場合じゃないでしょ私!自分の今までの考えを振り払うように、頭を振ると、閉まりかけているタクシーのドアを掴み、ドアを開けた。




「おい!なにしてんだおまえ!あぶねーだろーが!」
「あぶないじゃないわよっ!私も急いでんの!それなのに、順番守らないないなんてどういうことよっ。順番守んなさいよねっ!」
私は、ドアを握ったまま叫んでいた。
すると、男は、私が開いたドアを閉めようとドアを内側から引っ張ってきた。

負けるもんかっ。私も遅刻が掛かってるんだからねっ。


負けじとドアを開きながら、
「早く降りなさいよっ。順番からいったら私が先なんですからねっ」と、叫ぶ私に、男は、
「お子ちゃまはたいした用事じゃないだろ?俺は本当に急いでんの。大人しく次のタクシーに乗るんだな。ここは大人に譲りな、お・子・ちゃ・ま。」
男は、人を馬鹿にしたような顔で、私をお子ちゃま呼ばわりしてきた。


お子ちゃまだとー!確かに身長150cmで大きい目だねとよく言われている私は童顔だが、今は入社式でもあり、スーツを着ているんだから、お子ちゃまなはずないだろー!


と、怒りのあまりドアから手が外れてしまったその隙に、男は、ドアを閉め、タクシーを発進させ、私の目の前から遠ざかっていってしまったのだった。
タクシーが走り去った後、呆然と立ち尽くす私だけが、タクシー乗り場に残されていた。


なんだったのよあいつは!


と、私からタクシーを奪ったあの男を頭の中で思い出しながら、悪態をついていた。
あの後呆然と立ち尽くしていた私は何とか立ち直り、なかなか来ないタクシーを待ち、やっと来たタクシーに乗り込んだが、もちろん入社式に遅刻してしまったのだった。






もうっ、出だしからからあの男のせいで、印象悪くなったじゃないのっ。
入社式が行われている中、怒りに震える私だったのだが、
「次に、新入社員を代表して、佐藤直喜君に挨拶をしてもらいます。」
と、司会進行の人が言うと、一番前の席で立っている男の人がいた。


へー、身長高いなー180cmはあるのかな〜。しかも、代表ということは、入社試験の成績が良かったってことよね。
どんな人なんだろ?と、興味津々な気持ちで見ていると、ん?どっかで見たスーツのような気がするんだけど、どこだろ?うーん思い出せないな。


私が、記憶の糸を手繰り寄せていると、代表の人は、壇上に上がっており、マイクに向かって、話をしようとしているところだった。
男の人の顔を見ると、忘れもしない、私を押しのけてタクシーに乗って去っていったあの最低男だった。

なんだってー!あの最低男が代表だっていうのー!


と思った私は、驚きのあまり、ガタガタッと音を立てながら、立ち上がっていた。


はっ、なんてことしてんのよ私は!
と思ったが、すでに遅く、式場の視線は、私に集中していた。
「このように、入社の喜びで思わず立ち上がってしまう同期がいるように、今回入社できたことを大変うれしく思っています。」と、私を見ながら、笑いを堪えた顔で挨拶を続けるあいつがいた。
周りからもクスクスと笑い声が聞こえてくる中、私は慌てて座った。


くっそー、1度ならず2度までもあいつのせいでー。


再び怒りで身体が震てしまった。
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