彼女と彼の事情


8.素直な気持ちの先に


「大学3年の時、初めて男の人と付き合ったの。
男の人に免疫がなかった私は、友達として付き合いがあった彼から告白されたことに驚いたけれど嫌じゃなかったから付き合いだしたわ。
そして、優しい彼に私はすぐに夢中になってた。
でも、彼と付き合って数か月過ぎた頃、自分が騙されていることに気がついたの。」
「騙された?」
「そう、彼は私のことが好きなわけじゃなかった。
自分にとってただ都合がいい女だと私のことを思っていただけ。
そのことに気がついたのは彼の家に行った時だった。
今日は用事があって遅くなるから会えないと言われた時、家で待っていようと思って行って鍵を開けたら声が聞こえたの。
疑問に思ってゆっくりと部屋の中に入っていったら彼が女の人と過ごしてた、裸で。
どういうことかと訊ねた私に彼は言ったわ、
『そんなに叫ぶなよ、うるさいな。
ありがたく思われてもいいくらいだろ?
男に縁もなさそうなお前に声をかけてやったんだから。
抱いてやろうとしても色気もないからやる気がなくなるしな。
お前の価値なんて、都合いい時に金をだしてくれるってくらいだよ。
そのくらいしてもらわないとな、ボランティアしてやってる身としてはな。』
彼は、いままで見せたことがない顔で、人を見下している顔で私のことを見ながらそう言ったのよ。
私は自分の耳を疑って動くことが出来なかった。
だって、優しい彼氏だと思っていた人から突然思いもよらなかったことを言われたんだもの・・・。
そして、追い討ちをかけるように一緒にいた女性のクスクス笑い。
その笑いは彼と一緒に笑われていたのがすぐに分かった、騙されていたことも知らず浮かれていた私のことを笑っているって。
『感謝も出来ないような女とは一緒にいられないな。
でも、俺のことが好きだって言うんだったらそばに置いといてやってもいいけど。
便利と言えば便利だからな。』
その言葉を聞いて、何も言うことが出来なくて動くことも出来なかったけれど、気がついた時にはその部屋を飛び出してた。
それから、しばらく何もすることが出来なくて家に閉じこもってた。
信じられなかった、彼がそんなことを考えて私と付き合ってたなんて、そう思いながら騙されて浮かれていた自分が惨めだった。
・・・・、何もすることは出来なかったけれど、考えるには十分な時間だった。
私には男なんか必要がない、ずっとなりたかった教師になって仕事だけをしていくのが一番いいんだって。
それから私は必死になって勉強して教師になった。
そして、望んでいた通りの生活を続けていた。
それなのに・・・。」
私は孝蔵に見つめられたまま自分の中に閉じ込めていた過去を気がつけば涙を流しながら話していた。
話し終えた私は、流れだしていた涙を止めることが出来なくて嗚咽を漏らしながら涙を流し続けていると、孝蔵の温かい手が私の頬を包み込んだことに気がついた。
「その男とはそれから会ってないの?」
「会ってないわ。
会うはずがないわ、私にとって辛い思い出になった人なんだから。」
「そう、そうだよな。
梨佳子から見たら俺もその男と同じに見えるんだろうな。」
「それは・・・。」
「今までの俺の行動は褒められたもんでもないしな。
でも、それだけ俺も必死だったんだ、梨佳子を逃さないように。
だって、やっと会うことが出来たんだずっと会いたいと思っていた想い人。」
孝蔵は私の頬に触れていた手を移動させ、私を自分の胸の中に入れ強く抱きしめた。
急に抱きしめられたことに今までだったら抵抗を示していたけれど、孝蔵の思いもよらない言葉に驚いてしまい、大人しく抱きしめられていた。

想い人?私が?
どういうこと?
確かに孝蔵は私に会ったことがあると言っていた。
でも、私のはそんな記憶がないから信じてなかった、でも、想い人と出会ったっていうのはどういうことなの?

孝蔵に抱きしめられたまま流していた涙を止めてしまうほど驚いてしまっている私に、考えてもいなかったことを話しだした。
「覚えてない?
梨佳子は俺が高校生の時家庭教師してくれてたんだよ。」
「え?」
「その時は親に無理やり家庭教師をつけられたから感じが悪かったとは思うけど。
北島って男のこと覚えてない?」
「北島・・・?」
私は孝蔵の問いかけに家庭教師のアルバイトをしていた時のことを思い出していたが、なかなか思い出すことが出来ない。
その頃の私は、勉強を必死にしながらアルバイトに励んでいた時期、しかも、忘れたいと思っていた思い出の時期と重なるから余計思い出しにくいのかもしれない。
でも、記憶を思い起こさせていくと確かに北島という名字の男の子の家庭教師をしたことがある。
その男の子は、ただ静かに勉強をしているような子だった。
それから、絵を描くのが好きだと言っていたことを覚えている。

孝蔵があの時教えていた北島君?
でも、今は名字が違う。

「名字が違うのは、よくあることだと思うけど親が離婚したからだよ。
母親に引き取られたから名字が変わったんだ。
あの頃の俺は、両親は険悪な関係のくせに俺にだけは干渉してきて勉強することを強要されることに嫌気をさしてた。
その上家庭教師までつけると言いだして愛想よく出来る状態じゃなかったんだ。
本当は美大に言って絵を描きたいと思いながらも親を説得するほどのやる気を起こすことができず、もうどうでもいいやと思って毎日過ごしてたんだ。
そんな時、愛想もない俺に言ってくれたんだよ、自分がやりたいと思うことをするのがいいって。
無理に自分を抑え込んでも仕方がない、やりたいことがあるんだったら必死になってやり通すことがいいって。
『私も今頑張ってるところなの、一緒に頑張りましょう。
でも、私なんかが言うことなんて興味ないわよね。』
梨佳子はそう言ってたけど、おれは嬉しかったんだ。
それなのにうまく口にすることが出来なくて、そうしている内に梨佳子は家庭教師を辞めてしまった。
それから俺は梨佳子が言ってくれた言葉で両親に自分の本当の気持ちを話して説得を繰り返して美大に通うことができたんだ。
だからずっと、俺が素直になるきっかけを作ってくれた梨佳子に会いたいと思ってた。」
「私に会いたかったの?」
「そうだよ、俺は梨佳子にまた会いたかった。
そんな時バイト先に梨佳子がやってきて、改めて自覚したんだ。
何故こんなに梨佳子に会いたいと思うのか。
俺は梨佳子を好きだったんだということに気がついたんだ。
あの日、酔った梨佳子は酔ってたから珠代さんに早く連れて帰るように言ってたらいつのまにかいなくなってて、梨佳子を1人残すわけにはいかなくてホテルに連れて行ったんだ。
それからすぐに帰ろうとしたけど、ずっと会いたいと思っていた梨佳子を前にしたら出来なくて、告白してたんだ。」
「告白?そんなの覚えてない。」
「そうだろうな、朝の梨佳子の様子を見てすぐに分かったよ。
夜俺の告白を受け入れてくれたと思ったのに、朝になったらあの態度だったんだからな。
俺もいけなかったんだよな、酔ってる梨佳子に同意されたからって手を出すなんて。
でも、もう逃すわけにはいかなかった、やっと会うことが出来た梨佳子を。
それに、思いだしてもらいたかったしね。
だからあんなに暴走したんだろうな。」
「暴走って・・・。」
私は自分の告白なんかよりも孝蔵の告白に驚きと動揺のせいで、今まで流していたはずの涙はいつのまにか止まってしまっていた。
告白を聞きながら孝蔵の顔を見つめていた私は、真剣な顔で話す孝蔵から目を離すことが出来なくて今も見つめたまま。
急な話過ぎていまだに頭の中を整理することはできないけれど、今までの孝蔵の行動にやっと納得することができていた。

孝蔵が私のことをずっと好きだったなんて。
そんな私は孝蔵のことを忘れていたのに。

「これで俺が隠していたことは全部だよ。
俺は梨佳子のことが好きだ、だからもう2度とそばを離れるつもりはない。
梨佳子がどうして頑なになってしまったのか原因も分かったことだし、これからは遠慮なんかしないことにするよ。」
「遠慮なんかしてなかったくせに。」
「してたさ、最後まではしなかっただろ?
梨佳子が俺のことを好きなんだということは気づいてたけど、あんなに口で嫌がられたら無理もできないよ。
でも、これからは遠慮しない。
梨佳子が俺のことを好きだってはっきり分かったからな。」
「何言ってるのよっ、私孝蔵のことが好きだなんて一言も言ってないわよ!」
「言ったよ、昔の男のことを話してくれたってだけでも俺のことを意識してるのが分かるから。
そんなくだらない男のせいで梨佳子が頑なになったのはムカつくけど、これからは俺がそばにいるんだから問題ないし。」
「勝手な解釈ね、私はこれ以上孝蔵に関わってほしくないから話しただけで。」
「じゃ、俺のことが嫌い?」
「それは・・・。」
気がつけばいつも見せる顔に戻った孝蔵の言葉に、素直に答えることが出来ない私。
素直にというよりも、本当に孝蔵を信じていいのかまだ疑いの心がないわけじゃないからかもしれない。
それでも、嫌いかと聞かれて嫌いだと答えることが出来ない私は、孝蔵のことを信じたいと思いだしていた。
そして、本当は好きなのだといいたい。
でも、そうするにはもう少し何かが足りなくて答えることができないでいた。
「俺は梨佳子を裏切らないよ。」
「口ではどうとでも言えるわ。」
「じゃ、裏切ったら俺のことを殺してもいいよ。
でも、それなら梨佳子の手を汚すことになるから駄目だよな。
俺が自分で死ねば問題ないか、裏切ったら自分の命で自分の手で償うよ。
今はそれしか言えない。
だから、俺を信じてほしい。
俺が好きだと言って?本当は好きだって。」
「ずるいわ、そんなこと言われたら言うしかなくなるじゃない。」
「うん、ずるいよ。
そんなずるいことをしても俺は梨佳子のことを手に入れたいんだ。」
本当にずるいわよね、そんな風に言われたら今まで抑えていたものを言わないわけにはいかないじゃない、・・・・孝蔵のことが好きだって。」
「やっと聞けた。」
そう言って孝蔵は私を抱きしめる腕を強めながら首筋に顔を埋めた。
私も、なかなか出すことが出来なかった孝蔵を好きだという言葉を口に出したことで身体まで素直になったようで、自分でも孝蔵を抱きしめることができた。
ずっと感じていたはずの孝蔵の温もりが、何だか違うもののように思えてしまう不思議な感覚。
付き合っていたと思っていた人に騙されたことで鎧を着てしまっていた私が、孝蔵の言葉と表情で脱ぐことができるとは思ってもいなかった。
そして、脱いでしまった鎧がないことがこんなに心を軽くするということも。

信じてみたい、孝蔵のことを。

それが今の私の素直な気持ち。
だから、もう一度素直に口にしてみようか。
好きという言葉を。












「素直になった感想は?」
首筋に顔を埋めたままの孝蔵が問いかける。
「悪くないかもしれないわね。」
「俺もそう思うよ。
ということで、身も心も俺の物になってもらおうかな。
心は俺の物になったけど、身体はまだだし。」
「え?ちょっ!」
首筋に強く吸いつきキスをした後、洋服の上から私の胸に触れ自由に動きだす。
その動きは明らかに言葉の通りの行動を起こす意思が込められた動きで、私は焦ってしまう。
「急にこんなことっ。」
「急じゃないよ、言ってたろ?身も心も俺の物にするって。
それを実行するだけさ。
言ったことに対しては有言実行するよ俺は。」
「有言実行って、っどこ触ってるのよ!」
「どこって、梨佳子が感じているのが分かりやすい所かな。
ほら、ちょっと触ったら少しずつ濡れてきてるよ。
指を動かし始めたらどうなるかな。」
「んっ、やぁ・・、そんな、ぁん!」
「下着、すごいことになってきてるよ。身体は本当に素直だよね。
このまま下着濡らす方がいい?」
「いやっ、んっぁあああ・・・っ」
「嫌?それなら脱いじゃおうか。」
孝蔵はゆっくりと私の下着を脱がせていくのに私は抵抗することができず大人しく孝蔵の手に従っていく。
覆うものがなくなった私の秘部は心もとない気がしたけれど、孝蔵の指がすぐに奥まで侵入してきて探り出す。
その動きは身体の奥からざわざわとした何かが起こるスイッチでも探しているのかとおもってしまうほど私は身体を震わせてしまう。
しかも、それだけではなく私の口からはとめどなく喘ぎ声が出てしまっていた。
「こんなに指を締め付けられるってことは期待してもらってるって思ってもいいのかな?」
「はぁ、・・・期待、だなぁ、んっ!」
「やっぱり口は嘘つきだよね梨佳子は、俺の手をこんなに濡らすほど感じてるくせにまだ素直に言わないんだ。
もう、素直に言ってくれてもいいと思うんだけど。
ここに、俺が欲しいだろ?」
指を出し入れしながらあいている手で私の胸の突起を洋服の下から忍び込んできてつまみながら耳元でささやく。
孝蔵が言うように、私の身体は孝蔵を求めているのだということは自覚していた。
だからと言って素直にそうだと口にするのは恥ずかしくてできない。
そうは思っていても、中途半端に高められた疼きをこのままにされてしまっても辛いだけだった。

言うべきなの?
でも、恥ずかしくて欲しいだなんて私には言うこと出来ない。

「降参だ、俺の方が我慢できそうにないよ。
そんな潤んだ瞳で見られたらね。」
「潤む?・・・っあああ!」
孝蔵に問いかけていた私に急に秘部の圧迫感を感じて大きな声を出してしまった。
私の中に入ってしまっていた孝蔵の物は大きくて熱を持っていることを直に感じさせる。
そのことが圧迫感を感じながらも嬉しさも起こす。
私の中に入ったままの孝蔵の物がゆっくりと動き出し奥を探っているかのようにも思えた。
けれど、そんな考えはすぐになくなってしまった。
動きを速めていく孝蔵の物が快感を紡ぎだしていってしまうせいだ。
身体を痺れさせるほどの快感、それは私にとって初めて感じるものといっていいのかもしれない。
以前孝蔵の抱かれた時の記憶は私にはないから。
「はぁっ・・・、あああ、・・・やぁっ!」
「気持ちいよ梨佳子。
梨佳子も気持ちいいんだよね、だって俺を締め付けてるしね。」
「ふうぅん、気持ち・・・いいっ」
「やっと本当に素直になったね、好きだよ梨佳子。」
「うんっ、わたし・・・も、好き、・・・んんんっ!」
もうお互いのことしか考えられない私達は、息が荒くなっていくことを感じながらお互いを高めあい、気がつけば頭の中を真っ白にさせながら果ててしまっていた。
その後荒い息のままお互いの身体を抱きしめ合っていたけれど、孝蔵が私の洋服を整えた後支えられながら何とか部屋に着くことができた。
そして、下着をつけていなかったことに気づかされる行為がベッドの上で繰り返され気がつけば意識が途切れるまで孝蔵に抱かれ続けてしまっていた。










朝目覚めると、孝蔵の顔が近くにあって驚いてしまった。

そうだ、私孝蔵に抱かれて意識がなくなって、それから今まで眠ってしまってたんだ。
もう朝なのかな?
日が差し始めてる。
孝蔵の寝顔か、何だか可愛い。
そう思えるのは自分の気持ちに素直になることができたからかな。

「何笑ってるの?」
「起きてたの?」
「今起きたら梨佳子が俺のこと見てたんだよ。
そんなに俺っていい男?」
「そうね、いい男かな。」
「や、そう言われると照れるかも。」
「素直に言ったのに照れないでよ。」
「素直になった感想は?」
孝蔵は身体をゆっくりと起こしながら優しい声で問いかける。
「悪くないかな。」
そう言って私は孝蔵に寄りかかる。

そう悪くない、心を満たす暖かな気持ち。
それを思い出させてくれた孝蔵がとても愛しい。

「俺も悪くないよ、それどころか最高って言ってもいいかな。」
そう言いながら孝蔵は私の唇にキスを落とし、そのキスに私は素直な想いで答えていた。


+おわり♪+





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