彼女と彼の事情


7.素直になれない想い


孝蔵に肩を抱かれた状態のまま構内に置いている車の前に連れ去られ、ドアを開けて助手席に私を乗せた後運転席に移動した孝蔵は、無言のまま車を発進させる。
車を走らせている間密室に閉じ込められた状態になってしまった私は、孝蔵の無言の圧力も感じて身体から力が抜けてしまい、椅子に身体を預けている状態になりながら暗くもネオンの明かりで灯されている外の景色を眺めて孝蔵の方を振り向くことはなかった。
狭い空間の中私達は言葉を交わすことなく、車は私には分からないどこかに向かっていた。

外を眺めている場合じゃないのに。
早く車から降ろしてほしいと言うべきなのに、それなのに私の口は動いてくれようとはしない。
孝蔵とはもう会わないと決めていたのに。
足搔けば足搔くほど孝蔵は近づいてきて私の心をかき乱す。
鎧を強くしているのにもかかわらず。
今だって駅で大きな声を出せば駅員が助けてくれたはず。
それなのにそうしなかったのは、うれしかったからだ。
孝蔵が私に触れていることが・・・・。
こうやって孝蔵は簡単に私の心の中に入ってくる。
それでも私はこの想いを自覚しながらも認めることが出来ない臆病者。
本当は分かっているのに、こんなに孝蔵がそばにいること、触れてくることが私の心を震わせることを・・・・。
私は自分の殻を破り一歩を踏み出すことができれば、そうすれば幸せになれるのかもしれないのに。
分かっているのにそうすることができない。

外を眺めながら頭の中で自分の今の想いを考えていた私は、横眼で孝蔵の表情を見る。
まだ表情が硬いようにも見える孝蔵だったけれど、私の視線に気づいてしまったようで少しだけ私の方を見たせいで視線が合ってしまった。
私はすぐに視線を窓の方に戻し、見ていなかった振りをする。
そんなことをしても視線が合ってしまったのだからばれてしまっているのに。
それでも、私は何もなかったように外の景色をただ黙って眺め続ける。
そんな私に孝蔵は声をかけることはなく運転を続けていた。












走らせ続けていた車は1度来たことがある孝蔵のマンションの駐車場へと入っていった。
駐車を終えた孝蔵はエンジンを止めシートベルトを外す。
私は、今更ながらも扉を開け逃げ出そうと取っ手を手にして引いた。
でも、ドアが開かることはなく外に出ることができなかった。
「本当諦め悪いんだな梨佳子は。
だいたい俺が簡単に梨佳子を逃がすわけがないだろ?」
孝蔵は私の方を見ながらニッコリ笑いながら言うけれど、笑顔なはずなのに目は笑っていなくていらついているように見える。
私は自分の行動が既に孝蔵に読まれていたことに顔を赤らめてしまいながら、
「いきなり人を車の中に連れ込むなんて卑怯なことをするのね。」
まるで負け惜しみのように聞こえてしまうかもと思いながら孝蔵を見ることなく口にした。
顔をドアの方を向けたままそういう私に、フッと鼻で笑う声が聞こえたかと思うと、孝蔵が私の身体の上に覆い被さってきて、カクンとシートが倒れてしまい、私は驚いて、
「キャッ!」
と叫んだ。
反射的に孝蔵の顔を見てしまった私は、真剣な顔で私のことを覗き込む顔を目の前にしてしまい、顔を背けることができなくなってしまった。
そんな状態の私に孝蔵は、気がつけば狭い空間の中器用に私の身体をシートに縫い付けてしまったように身動きが取れないよう身体を押さえつけていて、私は顔だけではなく身体まで孝蔵に逆らうことができないような状態になっている。
今の態勢に私の心臓は、駅で孝蔵に肩を抱かれた時よりも大きな音を鳴らしだし、あるはずがないのに耳に直接響いてくるような気さえして内心落ち着かない状態になってしまったけれど、そんな自分のことを気づかれないように声を何とか落ち着かせ孝蔵に話しかけた。
「どうしてこんなことをするの・・・。?」
「どうして?
そんな声を震わせながら聞いてくるくせに分からない?」
「分からないわ。」
「梨佳子は嘘つきだね、本当は分かってるくせに。
どうして声を震わせるのか、俺を払いのけようとしないのか。」
孝蔵は息がかかるくらい顔を近づけながら私の核心をつくことを口にする。
その言葉に私は素直な気持ちを表すことなんてできるはずがなかった。
だから、
「言ってる意味が分からないわ。
いいから早く離れて、いつまでもこんなことされたら迷惑よ。」
口調を強くするけれど効果はないのか、
「迷惑といわれてもね、梨佳子が素直になってくれないのが原因なんだから仕方がないと思うんだけど。」
と、私の言葉を気にする様子もない口調で返事をする孝蔵。
「こうでもしないと逃げるからね梨佳子は。
本当は部屋に行こうと思ってたんだけど、予想を裏切らない行動をしてくれるからこんなことになるんだよ。
それに前言ったよね俺、梨佳子は俺のことを好きになるって。
もう好きになってるんだろ?
それなのにいつまでも梨佳子は俺から逃げようとする。
そんなことされたらさすがに俺もいつまでも梨佳子のペースに合わせてあげることはできないよ。
梨佳子は俺のこと好きなのにいつになったら素直になるんだろうね?」
「何言ってるのよっ、私はあなたのことなんて好きじゃないわよ!
勝手なこと言わないでっ!」
「口からは嘘ばかり聞かされる。
でも、身体は素直だよね梨佳子はさ。
だから、まず口を塞いでみるっていい手だと思わない?」
「んっ!」
孝蔵はすぐに私の唇に自分の唇を重ねる。
舌を口の中に侵入させようとする孝蔵の動きに私は唇を強く閉じていたけれど、直接唇に触れてくる孝蔵の舌の動きに身体をざわめかせ、次第に強く閉じていたはずの唇はゆるみだす。
そんな私の変化を感じ取った孝蔵の舌は、気がつけば私の口の中に侵入させることに成功し、口の中を自由自在に動き、快感の渦が身体の奥から少しずつ湧き起ころうとしている。

駄目っ!
感じたら駄目っ!!
早くやめないと私は・・・・っ。

「んっふぅ・・・っ」
鼻から抜ける声が自然に出ながら孝蔵の洋服を強く握りしめる。
気がつけば孝蔵の洋服を強く握りしめてしまいながら頭の中でこのまま溺れるわけにはいかないと警告が聞こえる。
けれど、今までの私だったら孝蔵のキスに溺れながらも警告を聞くことができていたはずだ。
それなのに、今の私はいけないと、早くやめさせないといけないと思いながらキスを心地良く感じて離れないでほしいと願う気持ちが勝るようになっていることに気づいてしまった。
きっとそれは私が認めようとはしなかった気持ちのせいだと思い知らされる。
私は、孝蔵のことが好きだからキスをするのがうれしくて、身体を震わせてしまっているということを。
自覚をしてしまうと身体は素直に孝蔵のキスを受け入れて孝蔵の洋服の胸元を強く握りしめ続ける。

孝蔵は、ずるい・・・・。
こうやって私に知らしめてしまう。
孝蔵の唇の温もり、私を強く求める動きすべてが愛しいものだということを。
自覚してしまったら、私が守ろうとしていた弱い心は孝蔵を求め出し、受け入れてしまいたいと強く願ってしまう。
でも、諦めが悪い私を守ってきた鎧は、警告の声をますます強くし、溺れきることを許そうとはしない。
そうすることで今まで私は歩き続けることができたのだから・・・。

だから、受け入れていた孝蔵のキスを残されていた理性を思い出して顔を左右に動かしながら止めさせようと私は行動を始めた。
でも、孝蔵は簡単に私が起こした行動にキスを止めてはくれない。
深くなるキス、受け入れたい気持ちと受け入れることを拒否をする気持ちが私の中で激しくぶつかり合い私の目からは涙が溢れだす。
涙が頬を伝いだすと孝蔵の頬にも触れたのか、孝蔵の身体がピクッと反応してゆっくりと私の唇から離れていく。
孝蔵が離れたことを消えた温もりで気づいた私だったけれど、流れ始めた涙は急に止まることはなく、流れ続けてしまう。
そんな私を見つめ続ける孝蔵の瞳は優しく私を見つめていて、そのことがますます私に涙を流させる。
そっと私の頬に手を添えて涙を指で優しく拭いながら、
「この涙はキスが嫌だから流すの?
それとも、梨佳子の中で変わろうとしているものが怖いから流すの?」
涙を拭う手と同じような優しい声で私に問いかける孝蔵に、私は気持ちを抑えたままにすることはできなかった。
「怖いの・・・、このまま孝蔵に溺れてしまうことが。」
「溺れてしまえばいい、俺はもう梨佳子に溺れてしまってるんだから。
何故そこまで梨佳子は臆病になるのか俺には分からないよ。
自分の今の気持ちに素直になれば怖くはなくなるから。」
「駄目よ、このまま孝蔵に溺れて裏切られたら私はもう2度と立ち直ることが出来ない。
だから、駄目。」
「どうしてそんなことを思うんだ?
俺は梨佳子を裏切るなんてことあり得ないよ。」
「そんな風に言わないでっ。
彼もそう言っていたのに私を裏切ったわ!」
「彼?それ誰のことを言ってるんだ梨佳子。」
私は思わず言ってしまった自分の心の奥底に閉じ込めていた過去の出来事を口にしてしまった。
そんな私の言葉に孝蔵は、射抜くような強い眼差しで私を見つめる。
言うべきではなかった言葉だということは分かっていたけれど、1度出てしまった言葉は取り戻すことが出来ない。
それに、孝蔵の視線から逃れることが出来ない私は、話しだしてしまっていた、彼のことを。
私をこんな風に恋することを臆病になせてしまった、彼のことを・・・・。





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