彼女と彼の事情


4.惑いと切なさと


孝蔵の額に自分の手を置いたまま寝顔を見つめてしまっている私。
孝蔵は小さな寝息をたてながら眠っている。
眠ってしまったのだからこのまま帰ってしまえばいいのに、私の手は額に吸い付けられているかのように動かすことができない。
目を閉じたままの孝蔵の寝顔を見つめながら今の自分の行動の理由はどういうことなのだろうと考えていた。
私にとって孝蔵は非常識でとんでもない奴だという認識のはずなのに、いくら風邪を引いているといってもそう思っている男の家に来るという私の行動は、今までの私だったら考えられない行動だ。

本当にどうしちゃったんだろう私は。
嫌な男だと思っていたはずなのに寝顔を見つめてしまっているということは。
私は孝蔵が見せた表情に気持ちを揺さぶられている。
それは認めなくてはいけない事実。
それともう1つ、私達は昔会ったことがあると孝蔵が言った言葉が気になっていることは確かだ。
いつ?どこで?
私の記憶の中に孝蔵はいない。
それなのに、私達は会ったことがあるというの?

私の心を占めだす疑問、その答えを出すことができないまま私は孝蔵の寝顔を見つめ続けていた。












「梨佳子。」
耳元で聞こえる私を呼ぶ声。
その声に私の閉じていた瞼はゆっくりと開かれ、頬に当たる布の感触があることに気づくと、
「寝てるのか?」
そう言いながらまだ頭が起きていない私の髪を優しく撫でる手。
その手があまりにも優しく髪を触るからまた瞼を閉じてしまいそうになる私だったけれど、私の髪を撫でる手が誰の物なのかはっきりしてくる。
この手と声の主は、私が額に手を置いている状態で眠っていたはずの孝蔵のものだということをはっきりと認識した私は、がばっと勢いよく身体を起こした。
すると、孝蔵の手が空に浮いていて私が身体を起こしたことで急に離れたことを私に示しているように思える格好だった。
「そんなに勢いよく起きなくても。」
急に起き上った私の様子を見て孝蔵はクスクス笑っている。
私は孝蔵の笑いに何だか馬鹿にされているような気になっていたけれど、自分が気付かないうちに寝てしまっていた事実がなんだか恥ずかしくて思わず大きな声を出してしまう。
「そんなに笑うことはないでしょっ。
元気になったみたいだからもう私は帰っていいみたいね。」
恥ずかしさを誤魔化すようにスクッと立ち上がろうとしていると、その動きを止めようとしている意思が感じられる手が私の腕を強く掴んで動きを止める。
「梨佳子が言うように元気になったみたいだからお礼をしようと思ってるのに帰られたら困るんだけど。」
私の腕を掴んだままの孝蔵はそう言ったかと思うと、グイッと私の腕を自分の方に引きよせ急に腕を引かれたことでバランスを崩してしまった私の身体をベッドの上に乗せ、私の身体を跨いで私を見下ろす。
どこかからかう様な表情をしている孝蔵の身体を押しのけようと腕を動かすと、私の動きを予想していたとしか思えないほど素早く私の両腕をシーツの上に自分の手を使い押し付け私の動きを阻止した後、自分の唇を私の唇に押しあてた。
そして、躊躇いもなく私の口腔内に自分の舌を侵入させていく。

またキスされてるしっ!
そう何度も同じ目にはあわないわよ!

そう思い、自由になる足を動かそうとするけれど、気がつけばすでに孝蔵の身体が動きを封じていて思うように動かすことができない。
だからといってこのまま幸蔵の好きにさせるわけにもいかないと顔を左右に振る私。
すると孝蔵はあいている手を洋服の下から侵入させ、直に私の胸に触れ揉んだ後突起物を強く捻る。
思わず身体をビクつかせた私は顔の動きを止めてしまい、待ってましたとばかりに孝蔵の舌の動きが私の口腔内をますます蹂躙する。
感じたくないのに次第に孝蔵の動きに反応してしまう私の身体。
「ふぅんっ」
鼻から抜ける自分の声が耳に響いて目頭が熱くなってくるのを感じると、目尻から一筋の涙が流れた。

泣きたくなんかないのに。
どうして孝蔵は私にこんなことをするの?
私はこんなこと望んでなんかないのに・・・・。

すると、今まで私の唇に覆いかぶさっていた孝蔵の唇が離れ、私の手が自由になったことを感じる。
目を開けるとすでに孝蔵は私の身体の上から離れようとしていて、私は素早く身体を起こし、ベッドの上で孝蔵から出来る限り離れた場所に移動する。
「どうしていつもこんなことっ。」
「どうして?
そんなの梨佳子が好きだからに決まってるだろ?」
「好きだったら何してもいいわけじゃないわっ。
私はあなたのことなんか好きじゃないのにこんなことしないで!」
「じゃ何でここに来たんだ?
嫌いな奴が風邪引いてるのなんかほっとけばいいのに。
それなのに梨佳子はここにいる。」
「それは・・・・。」
真面目な顔で話す孝蔵の言葉に、私は答えることができなかった。







そうよ、本当は来る気なんてなかったはずなのに。
なのに私はここにいる。
今私はこの場所にいて寝顔を見つめてしまっていた。
孝蔵のことなんて何とも思っていないはずなのに。
好きなはずはないのに・・・・。

自分の中にある想いに気づきたくなくて、何も言い返すことができないまま口を閉ざしてしまった私に孝蔵は、私との距離を近づけながら話を続ける。
「どうして答えられない?
それは梨佳子が俺のことを意識してきているのを認めたくないから?」
「私は孝蔵のことを何とも思っていない!
いつも私のことを好き勝手にする男のことを好きになるはずないでしょ!」
「それならどうしてそんなにムキになるんだ?
俺のことを意識しているとしか思えないよ梨佳子。」
「勝手なこと言わないで。
だいたい昔会ったことあるなんて嘘まで言うなんて。
何の目的があって私にこんなことをするのよ。」
「何度も言ってるだろ、梨佳子のことが好きだって。
それに俺は嘘なんかついてない、俺達は確かに昔会ってるんだよ。」
そう言って近づいてきた孝蔵は私の頬にそっと手で触れてくる。
そんな孝蔵の行動に私は手を払いのけベッドから立ち上がる。
「私の記憶にはないわ、もう私に近づかないで!」

もう私を惑わせないでっ。
私は仕事だけをしていたいの。
男なんて私にとって必要じゃないのよ。

私は言い捨てるように話すと早足で部屋から出ようとドアへ向かう。
そんな私をさっきのように孝蔵は引き留める様子をみせなかった。
だから私は躊躇うことなくドアノブに手をかけ部屋を出ようとすると、
「梨佳子の記憶に残っているはずだよ俺のこと。
高校生の俺と梨佳子は会ってるよ。」
孝蔵は落ち着いた声で私の背中に話しかけてくる。
でも、私は自分の動きを止めることなく部屋から出て玄関に向かい扉を開けエレベーターまで走った。
そして、やってきたエレベーターに乗り込み壁に背をもたれかけた。










高校生の孝蔵?
でも、私は会った覚えなんかない。
やっぱり私はからかわれているだけなのよ。
そう、私のことを好きなんて簡単に言う男のことなんて信じられない。
もうあんな惨めな思いをするのは嫌なの。
このまま孝蔵といるとあの時の自分を思い出す。
真実に気づくことがなく恋に溺れていた馬鹿な女だった頃のことを・・・・。





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