彼女と彼の事情


3.迷走する思い


私はどうしてしまったんだろう・・・。
頭では嫌がっていても身体は孝蔵を受け入れていた。
孝蔵のことは何とも思っていないはずなのにどうして?







昨日孝蔵と映画を見に行った時、ありえない事が起きた。
それは、映画館という暗闇の中で孝蔵に身体に触れられその上、孝蔵が与える快感を身体が受け入れてしまっていた。
逃げるように映画館を出た後孝蔵の前から去った私は、そのまま自分の家に戻り、自分に起きたことが信じられなくてベッドの中に入り込み、みの虫のようになりながら、朝まで悶々とした状態で過ごした。
帰ってから一晩、何故拒絶することが出来なかったのか考えていた私だったけど、どんなに考えても答えを出すことが出来なかった。


数学なら答えはすぐに出るのに。
自分の気持ちなのに分からないなんて・・・。

こんなに悩んでいても昨日食べたポップコーンだけの状態ではさすがにお腹が空いてくるというもので、私のお腹からは、催促する音が鳴り出していた。

とりあえず、何か食べよう。
お腹が満たされれば少しは頭も働いてくれるかもしれないし。

そう思い、ベッドから身体を起こし、台所に向かった。











朝食なのか昼食なのか分からない食事をしていると、携帯が鳴った。
携帯を見ると、「孝蔵」とディスプレイに表示されている。

孝蔵!?
登録した覚えないんですけど!!

ディスプレイを見ながら、出るのを躊躇っていると、携帯は切れてしまった。

切れちゃった。
仕方ないよね出る前に切れちゃったんだし。
さて、食事の続き続き。

そう思い携帯を置いて食事を再開させるために立ち上がると、再び携帯が鳴り出した。
今度は出るまでは切るものかと言わんばかりに携帯からは歌声が繰り返し流れてくる。
出なければ鳴り続けるのかと思い、ため息が思わず出てしまったが、このままにしておくわけにもいかず、仕方なく通話ボタンを押した。
「もしもし。」
「遅いよ梨佳子出るの。」
「用件は何ですか?」
思わず私は、冷やかな声で返事をした。
でも、孝蔵の声を耳元で聞いて胸がトクンっと大きく鳴ったのを感じていた。
脈拍が速くなって胸の音が全身に響いてくる。
「何か冷たいなぁ梨佳子。」
「誰がそうさせたのよ。用がないなら切るわよ。」
「待ってよ用件あるから。実は熱が出て寝込んでるんだけど、薬の買い置きないし、食べ物もないしで困ってんの。
だから梨佳子、お見舞いに来て。」
孝蔵は甘えた口調で言ってくるが確かによく聞いてみたら鼻声になっているのがわかる。

でもだからって何で私が孝蔵のお見舞いに行かないといけないのよっ。
「他に頼める人いるんでしょ?その人に頼みなさいよ。」
「そんな奴いないから梨佳子に頼んでんの。
しゃべるのきつくなってきたから住所言うから。メモとって。」
孝蔵はそう言って一方的に住所を言って電話を切ってしまった。
私といえば、言われた住所をしっかりと書きとめてたりする。

何で書いちゃうかな私。
ついつい癖で書いちゃったよ。
でも、別に行かなくてもきっと誰かお見舞いに行くよね。
よし!ご飯食べて気分転換に掃除でもするぞっ。

私は幸蔵からの電話はなかったものと思い、すっかり冷めてしまった食事を食べだすことにした。
でも視線の先には、孝蔵の住所を書きとめたメモがちらついていた。








「やっぱりきれいな部屋は落ち着くわね。」
一通り掃除を終えた私は、きれいになった部屋を前にして素直な感想が
口から出る。
私は、孝蔵からの電話の後食事が終わり掃除を始めた。
時間は念入りに掃除をしたせいか3時間は経っている。
その間もテーブルに置いているメモに視線がいってしまっていたが、気づかない振りをしていた。
掃除が終わってゆったりした気持ちでソファーに座りながらコーヒーを飲んでいた私は、テーブルの上にあったメモを手に取った。
メモをじっと見ながら書いてある文字を何度も目で追ってしまう。

何でこんなにメモが気になるのよ。
きっと孝蔵が風邪引いてるからだよね。
風邪を引いてる時は1人だと辛いよね。
薬とかもないって言ってたし。
仕方ないから行ってやろうかな。

自分に言い訳しているような気がしながらも、孝蔵のお見舞いに行くべく着替えをして出かけることにした。
















孝蔵から聞いた住所を元に出かけると、孝蔵の家は意外と私の家から近い所にあった。
駅2つ分先の場所にあり、後は番地を探せばいいだけだった。
キョロキョロしながら探してしるとスーパーがあったので、買い物をしていくことにした。
買ったものはレトルトのおかゆと風邪の定番桃缶、薬局も入っていたので風邪薬も買った。
他にいる物がないか探してみたけど、何で孝蔵のためにここまでしないといけないのかという気持ちが沸き起こり、スーパーを出ることにした。
そんなこんなで孝蔵の住んでいるマンションを見つけた私は、口をあんぐりと開けてしまうことになる。

何で大学生がこんな高そうなマンションに住んでんのよっ!

学生らしからぬマンションを前にして驚いてしまった私だったが、何とか気持ちを持ち直してオートロックの部屋番号を押した。
「はい。」
「梨佳子です。」
「来てくれたんだ。今開けるよ。」
孝蔵がそう言うとオートロックの入り口が開き、私は何だか緊張しながら奥へ進んだ。
孝蔵の部屋の前に立ちチャイムを押すと、孝蔵がパジャマ姿のまま出迎えた。
「遅いよ梨佳子待ちくたびれた。」
孝蔵はそう言って開けたドアに寄りかかっている。
そして、私を見ている目が熱のせいか潤んでいて何だか色っぽい。
男の人にそんなことを思ったことは今までないんだけど、今の孝蔵を見ていると、そんな言葉がとても当てはまる気がする。

何だか動悸がしてきた。
目も合わせにくいし。

そう思っていると、
「梨佳子?どうかした?」
孝蔵が下を向いていた私を下から覗きこんできた。
その動作に慌ててしまった私は、
「何でもないっ!」
と、自分が考えていた気持ちを見透かされたような気がして焦ってしまい、強い口調になってしまった。
「はい、お見舞い。他にも誰か来たんでしょうけど仕方ないから買ってきてあげたわよ。
じゃ、帰るから。」
「誰も来てないよ。来てくれたのは梨佳子だけ。
だから、もう少しいてよ。
このまま梨佳子に帰られても体調悪すぎて買ってきてくれたおかゆも用意できないよ。
梨佳子はそんな奴ほっといて帰るわけ?」
「っ、仕方ないわね。」
私はそう言って孝蔵が持っているスーパーの袋を奪い取り、仕方ないという表情をしながらも、自分にも分からない複雑な気持ちで部屋の中に入った。







「梨佳子は素直じゃないよな。」
「何がよ。」
「俺のお見舞いに来たいと思ってるんだら早く来ればいいのになかなか来ないんだから。」
「誰も来たくなかったけど、風邪の人をほっとくわけにはいかないでしょ。
だから嫌々きたの。」
「まー、そういうことにしとこうか。」
孝蔵は私が作ったレトルトのおかゆを食べながら楽しそうな顔をしておどけた口調で言ってくる。

何でこんなに自信満々にいうかな。
そんなわけないでしようがっ。
早く帰んないと何言い出すかわかんないわよね。

そう思って、
「おかゆも食べれてるみたいだから帰るわよ。」
そう言って立ち上がろうとした私を孝蔵が腕をつかんで引き止めた。
「まだ早いだろ帰るの。
お礼もしていないことだし。」
そう言って孝蔵は私の唇に自分の唇を近づけてきた。

やっぱりこんなことになるんじゃないっ!
のこのこ来た私が馬鹿だったっ!!

そう思いながらも身体を動かすことが出来なくてギュっと目を閉じた。
でも、唇には何も触れてくる気配がなく、その代わり、私の肩に何か重みを感じた。
何ごとだと思い目を開けると、孝蔵が私の肩に倒れこんでいた。
「ちっ、ちょっとっ!大丈夫っ!?」
「あんま大丈夫じゃないかも。」
そう言って孝蔵は肩に顔を乗せたままになっている。
「ベッドに行くわよ。」
私は具合悪そうにしている孝蔵に焦って、何とか立ち上がらせてから、何とか寝室の場所を聞いて肩に孝蔵の腕をかけて引きずりながら移動した。
重みに息を荒くしながらベッドに何とか寝かせ、布団をかけた。
息が落ち着いてから部屋を見回すとそこには書きかけの絵なのか、キャンパスらしきものに布がかけてあった。
孝蔵美大行ってるって言ってたけど、本当だったんだ。
今までの孝蔵の行動を考えたら美大に行っているなんて信じられなかったけど、実際に目の前にこういうものがあると、本当だったと信じることができた。
「情けないな、風邪くらいでキスもまともにできないなんて。」
孝蔵は熱が上がったのか、力ない声を出しながら言った。
「何言ってんのよ。
お礼にキスしようとかふざけたことするから熱も上がるのよ。
熱測ってみなさいよ。体温計どこにあるの?」
「頭元にあるから測るよ。」
「じゃ、私薬飲む準備してくるから。」
私はそう言って立ち上がると、孝蔵はベッドヘッドにある棚から体温計を出して熱を測りだした。
「38.0℃もあるじゃないのっ!?早く薬飲んで。」
私は渡された体温計のデジタル画面に驚きながら、孝蔵を座らせ買ってきた薬を飲ませた。
そして、薬を飲んだ孝蔵を再び横にして隙間がないように布団をかけた。
「薬も飲んだから大丈夫だとは思うけど、病院行く?」
「いいよ病院は。薬飲んだから熱も下がるよ。」
「そう?じゃ私帰るからゆっくり寝なさいよ。」
そう言って立ち上がろうとした私に、
「もう帰るの?もう少しいてよ。」
孝蔵はすがるような目をしながら私を見ている。

なんて目で見るのよ。
そんな目で見られたら帰れないじゃない。

私は孝蔵の視線に促されるように再び座り、帰るのを止めた。
「寝るまでそばにいてよ。」
「どうしたの?甘えん坊になってるじゃない。」
私がそう言うと孝蔵は私の手を取り、私の手を自分の額に当てた。
「気持ちいいな冷たくて。」
「ちょっと人の手をアイスノン代わりにしないでよね。」
平静を保ったように話ながらも、私は急な出来事に心臓を激しく動かしてしまう。
「手が冷たい人は心が温かいっていうのは本当だな。
梨佳子は何だかんだいいながら昔から優しいもんな。」
「昔?」
「俺と梨佳子は昔会ったことあるんだよ。」
「昔?どこで会ったの?」
「覚えてないんだな梨佳子は。」
孝蔵は攻めるような口調ではなかったけど、思い出せない私は何だか申し訳なくって、
「ごめん。」
と謝っていた。
そんな私に、孝蔵は思いを込めたような口調で言った。
「謝らなくていいから思い出して。
そして、俺を好きになって。
俺には梨佳子が必要だから。」
孝蔵の今までにない真剣な言葉に私は言葉を失った。

何で今になってそんなこと言うの?
私の心の中をこれ以上かき乱さないで・・・。

私は孝蔵の言葉に答えられないままでいると、スースーと穏やかな孝蔵の寝息が聞こえてきた。
その寝息を聞きながら、孝蔵の額から手を離せず、穏やかな眠りの中に
いる孝蔵の顔を見続けている私がいた。


















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