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「このままだったら記憶がない僕は戸籍がないから結婚することもできない。
僕達の子供のためにも戸籍の依頼をしようと思うんだ。」
「でも、そうしたら記憶が無くなる前のアキラさんは・・・。」
「記憶が戻らないということは必要がない記憶なんだと思う。
今の僕に必要なのはひなたとお腹の子だよ。
だから、これから一生を共に過ごすためにもそうしたいんだ。」
「アキラさん・・・。
アキラさんがそう思ってくれるのなら私に異存はないわ。」
「3人で幸せになろう。」
「はい。」
「じゃ、今から行ってくるよ。」
「今から?
私も一緒に行くわ。」
「大丈夫だよ1人で。
ひなたはゆっくりお腹の子としていて。」
「そう?」
「うん、時間かかるかもしれないからね。
じゃ、行ってくるよ。」

・・・・ダメ。

「行ってらっしゃい。」

・・・・見送ってはダメっ!アキラさんを引き留めないと!!

「お土産を買ってくるよ。」

・・・・行かないでアキラさん!!






私は胸の苦しさを感じて目を開けると、視界には天井が映る。
胸の苦しさの原因は、今まで見ていた夢のせいだと気づく。
体調が悪い時に必ず見る夢。
アキラさんがいなくなった日のことを繰り返して夢に見てしまう。
夢の中では私は行かないでと叫び続けているけれど、実際の行動は笑顔で送り出した様子が映し出される。
あの日からアキラさんは帰ってこない。
アキラさんが行ったはずの家庭裁判所にも尋ねてみたけれど、アキラさんらしい人物は来ていないと言われてしまった。
ずっと探しまわったけれど、アキラさんは見つからなかった。

どうして?
3人で幸せになろうと言ってくれたのに、どうして帰ってきてくれないの?

アキラさんを恋しく想う気持ちと同時に恨み言が身体中を駆け巡った。
洸をお腹に宿した私に急に襲った現実は、洸まで失いそうになったけれど、何とか助けてもらい、今に至ることができた。
アキラさんが居なくなった今、私の心の支えは洸だけだから生まれた時に腕に抱きしめた時には涙が止まらなかった。

この子のために私は何でも出来る。

そう思った。












やっぱり熱が上がったのね、そのせいで悲しい夢を見てしまった。

そう思いながら肌に感じるのは布団の感触。
自分で敷いた記憶もなく、落ち着いてくると今の状況についてやっと考え始める。

私、店で城野と話をしていたはず。
その後は?

「やっとお目覚めか。」
その声は溜息交じりで、私を不快にさせる声の持ち主。
「城野、さん。」
私は付け足したようにさん付で城野の名前を口にする。
視線を向けながら、どうして城野がこの場所にいるのか頭を働かせる。
けれど、城野が部屋までいる理由が分からなかった。
「俺がどうしているのか分からない表情だな。
倒れたあんたを運んだからここにいる。
もう1つ付け足すと、眠ったあんたは俺の手を放してくれなかったんでいるんだが。
俺がいたことに嫌そうな顔されても俺のせいじゃないとしか言えないな。」
城野はいつも口調で説明をする。
私は城野の言葉に自分の手を確認すると、確かにしっかりと城野の手を握りしめていた。
そのことに気づき、すぐに手を離す。
「失礼な態度だな、自分から手を握ってきたのに。」
「無意識のこととはいえ、ご迷惑をおかけしました。
もう大丈夫ですのでお帰りください。」
「寝ている時は大人しくて丁度良かったのに、目が覚めれば可愛げもないな。」
「別にあなたに愛想よくする必要もないですから。
それに、可愛いと言われる歳でもないですし。」
「ああ言えばこう言う、だな。」
肩を竦めながら言う城野はどこか馬鹿にしているようで私を苛立たせる。
でも、理由はそれだけではないことに気づいている。
アキラさんと同じ顔をした城野、アキラさんの悲しい夢を見た直後に見るには辛すぎる。
世の中には自分と同じ顔をしている人が3人いると聞いたことがあるけれど、城野はアキラさんに似すぎている。
顔だけではなく、声まで。
話し方や性格が違うから今まで気がつかなかったけれど。

何もこんな人がアキラさんと似ていなくてもいいのに。

そんな想いが浮かんでくる。
「ママ、大丈夫?」
今まで城野に気を取られていた私に、洸が目を潤ませながら私に聞いてきた。
洸の潤んだ目は、私のことを心配していたのだというのを気づかせる。
「ごめんね、心配かけて。
もうママ大丈夫だから。」
「本当?」
「本当よ。」
「良かった〜。」
そう言って洸は小さな腕を精一杯ひろげて私に抱きついてきた。
洸の温もりを身体中で感じながら、心配をかけたことを心の中でもう1度詫びながら洸を抱きしめる。
しばらく抱き合った後、私の身体から顔を上げた洸は、思ってもいなかったことを口にし出した。
「ママが眠てる時に、おじさん一緒に遊んでくれたんだよ。」
「え?」
「おじさん絵がすっごく上手なんだよ!」
そう言った後私から離れた洸はお絵かきノートを持ってきて、ほら、と私に手渡し見せてくれる。
そこには、洸の絵以外に大人が書いたと思える絵が描かれていた。

城野が洸と遊んでくれた?
そんなこと、信じられないけれど絵が証拠よね。

絵から視線をはずすと洸は城野の隣に座り、ニコニコ笑いながら懐いていた。
「暇だったからな、誰かさんが俺の手を握ったまま離してくれなかったんでね。」
しっかりと嫌味を込めた言葉を私に返しながら、洸を相手してくれていたのだと私に知らせる。
いまだ信じられない気持ちでいる私の目の前では、甘えてくる洸に城野が頭を撫でている。
子供好きだとは思えない行動を先日とっている城野の今の姿が私には真実の姿とは到底思えなかった。
だから、洸が城野のそばにいることが不安で仕方がない私は、
「洸、こっちにいらっしゃい。」
自分でも気づいてしまう強い口調になってしまった。
そんな私の気持ちを知るはずもない洸は、
「え〜、もう少しおじちゃんと遊ぶ。」
口を尖らせながら私に答える。
そんな洸の態度は私をいらつかせ、
「もう大丈夫なのでお帰りください。
お仕事も忙しいと思いますし、これ以上ここに居ていただく理由もありませんから。」
城野に再び帰るように促すが、口調は先ほど言った時よりも明らかに強いものだった。
「そんな怖い表情を見せなくてもいいんじゃないか?
ほら、子供が怯えてるぞ。」
洸に視線をやりながら私に話しかけてくる城野。
私も洸に視線をやると、確かに城野が言うように洸が私の声に怯えていることが分かる。
けれど、これ以上城野が洸に近づくのが怖くて仕方がなかった。
自分の都合のために私の居場所を奪おうとしている人間に洸が懐くということが。
何の目的もなく城野が洸に優しくするわけがないはずだから。
「洸、おじさんは仕事に行かないといけないからママが遊んであげる。
ほら、こっちにいらっしゃい。」
私は早くこの場から城野の存在を消してしまいたくて洸に優しい声で話しかける。
洸は、何か言いたげな表情を見せていたけれど、私の所に移動を始めた。
「折角遊びたいと言っている子供の邪魔をするのか?」
城野は、私の想いが分かっているのか探るような視線を投げかける。
「あなたが何の考えもなく洸に優しくするとは思えません。
これ以上私達に関わらないでください。」
「それは聞き入れられないな。」
「それは、この土地が欲しいからでしょ。」
私は城野を睨みながらそう言うと、城野は口を開いて返事をしようとしたその時、
「飛鳥様、お迎えにあがりました。」
という声に、中断された。
その声の主は、ドアの所に立ちながら頭を下げた格好になっているかと思うと、ゆっくりと正面を向いた。
その顔は、城野が訪ねる前に現れていた人だった。
「玉城か、買ってきたのか。」
「はい、こちらに。」
城野は立ち上がり、玉城さんに近づいた後、何かを受け取る。
受け取った後、こちらに向かってきたかと思うと、私の手の中にポンと投げてきた。
投げられたものを見ると、市販の風邪薬で、
「今日はそれでも飲んでゆっくりしているんだな。
また明日来るから元気になっていることだ。
今日みたいに目の前で倒れられたら面倒だからな。」
そう言った後、城野は玉城さんと共に立ち去り、私の手の中に残された風邪薬を返す暇もなかった。

何なの、風邪薬なんか買ってこさせて。
城野という人間のことがまったく分からない。
ひどい人間なのか優しい人間なのか。
それとも、これも城野の作戦なの?

私は城野の行動の理由が分からず戸惑ってしまっていた。







「飛鳥様らしくありませんね、風邪薬を買ってくるようになどと言われるのは。」
「目の前で倒れられたからそうしたまでだ。
深い意味はない。」
「そうですか。」
玉城は後部座席のドアを開けながら城野に問いかけてくるが、何でもないことのように城野は答えた後、車に乗り込む。
ゆっくりとドアを閉めた後助手席に座るべく移動を始める玉城だったが、ふと呟く。
「やはり、目には見えなくても繋がりは消えることはないのかもしれませんね。」
その呟きは誰かに聞かせるものではなかったため、静かに空気にとけ込み城野に気づかれることはなかった。





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