夜中に目覚めた後アキラさんの夢をみることなく過ごした夜が過ぎ、鳥のさえずりが耳に入ってきたことで朝だと認識した脳からの信号で目覚めた私。
寝返りを打ちながらゆっくりと目をひらく。
カーテンの隙間から日差しが射しこんできて、再び目覚めなければという思いが身体を支配し、身体を布団の中から這い出させる。
布団から出た私は、肌寒さを感じて近くにあったカーディガンを羽織る。
いつもだったらそれで寒さが和らぐはずなのに、今日はなかなか和らがない。
それだけ今日が寒いのかもしれない。
けれど、身体のだるさも感じたことで、もしかして風邪をひいてしまったかもしれないという考えが頭の中に浮かぶ。

洸の隣で何もかけずに寝ていたから風邪ひいたのかな。
とりあえず風邪薬飲もう。
折角朝からずっと洸と過ごせる日なんだから元気にならないと。

そう思い、引き出しに入れているはずの風邪薬を探す私。
入っていると思っていた風邪薬は、箱は確かにあったのだけれど、中身が入っていなかった。
箱を見たことで最後に飲んだ時のことを思い出し、その後買い足すことを忘れていた。
仕方なく思いながら引き出しを閉めていると、
「ママ、おはよう。」
洸が私の隣に立ち顔を上に上げながら元気よく朝の挨拶をする。
「おはよう。
休みの日はきちんと自分で起きるのね、洸は。
幼稚園に行く時も今日みたいに起きてくれたらママ、助かるのになぁ。」
「僕お腹空いたよー。」
「もうママの話聞いてる?
はいはい、じゃー朝ごはんにしようね。
ママのお手伝いしてくれる?」
「うん!僕お手伝いする。」
洸の言葉に力が抜けてしまい、苦笑しながら2人で台所に向かい朝食の準備を始めた。
台所に立ち、冷蔵庫から出した材料を使い料理を始めると、洸専用の道具を洸がいつも置いている場所から持ってきて、足台用の椅子の上に立ち、レタスに包丁を入れる。
包丁といっても、刃がついている物ではなく、子供が使える料理用の包丁だ。
幼稚園で聞いてきたらしく、欲しいとねだられ誕生日の時に買ってあげた。
どうして欲しいの?という私の問いかけに、
「ナイショ。」
と言ってなかなか教えてくれなかった洸が一緒に料理を作ると言った時にその答えが分かった。
「僕大きくなったら料理作る人になって、お店で作るんだ。
だから、ママと一緒にいっぱいご飯作って練習するの。」
一緒に料理を作りながら何気なく話しだす洸の表情は、私にはまぶしく見えるほどの笑顔。
その言葉は小さい子供にこんなことを言わせるなんて、と胸が痛くなったけれどその反面嬉しいと思うく持ちも生まれる。
洸の優しさはアキラさんに似ていると思う。
何気ない一言、本人は私を喜ばせようと思って言ったわけではないのに、こんなにも私を幸せな気持ちにしてくれる。
アキラさんも自然な様子で私に幸せをもたらしてくれていた。
そんなことを考えていると、洸は私が寂しい想いをしないようにアキラさんがくれた贈り物なのかもしれないと思うことがある。
記憶喪失のアキラさんは、いつか自分がいなくなるということをどこかで感じていたのではないかと。
あくまでも私の勝手な想像だけど。
私とアキラさんの大切な宝物、洸。
アキラさんが残してくれたこの子に私は助けられている。
そのことを感じながら毎日を過ごす私は、洸と共に暮らしていくために風邪なんかに負けているわけにはいかない。
そう思うことで、次第にだるくなってきている身体を動かすことができていた。












「ママ、僕が作った卵焼きおいしい?」
朝食を作り終えた私達は、料理がのったお皿をテーブルに広げ、それぞれいつも座る場所に腰かける。
そして、食べだした私に洸が目をキラキラさせながら聞いてきて、私の答えを待っている。
「すっごくおしいしい。」
「やったー!」
洸は嬉しそうに箸を持ったまま両手を上げて喜ぶ。
洸が言う卵焼きと言うのは、菜箸をうまく持てずに握りしめた状態で作ったよく言えばスクランブルエッグのことだ。
手を下した洸が食事を再開させながらおいしそうに口に料理を運ぶ。
「おいしいねぇ。」
「そうだね。」
そんな会話が自然と行われながら穏やかな朝食の時間が過ぎていく。
食事をしながらも、私の箸はなかなか進まず皿の上を動かすだけになってきていた。
薬を飲めなかったせいか、風邪が悪化してきているようだった。
身体の寒気や食べた時の吐気感を感じてしまう。
そんな様子を洸に気づかれないよう何とか時間をかけながら食事を済ませた私は、台所で洗い物をしながら風邪で熱くなった吐息を吐き出す。

まずいかもしれない。
熱が上がってきて息まで熱くなってきたみたい。
洸と公園に行こうって言っていたけど今日は無理しない方がいいかも。
今日は家にいて一緒にお絵かきでもする方がいいわよね。

洗い物をしながらそう考えた私は、部屋に戻った後洸に一緒にお絵かきしようと言って納得してもらった。
それからノートとペンを用意してお絵かきを始める。
乗り物、食べ物、動物、色々な絵を描いていると、少しずつ頭がボーッとしてくるのを感じだす。
分かっていながらも寝て休むことが出来ないでいると、店のドアを乱暴に叩く音が聞こえる。
今日は仕入れを昨日まとめてしていたので店の玄関を開けることをしていない。
でも、こんな早い時間から来る人なんていないはずと思いながらも、やむ気配のない音に立ちあがり玄関へ向かう。
ドア越しに、
「どちらさまですか?」
と問いかけると、
「城野だ。」
不遜な声で返事が返ってきた。
城野、昨日来た感じの悪い社長だとすぐに思い出す。
「お帰りください。
私には会う理由はありませんから。」
そう言ってドアから背を向け部屋に帰ろうとすると、
「このままドアを開けない気か?
俺はそれでも構わないが、壊してでも中に入れさせてもらうぞ。」
城野は恐ろしいことを口にする。
声のトーンは嘘を言っている様子はなく、何故だか私は城野が実行するような気がしてしまう。
ドアを壊されてしまっては迷惑のなにものでもない。
それよりもドアを開けすぐに帰ってもらう方が嫌な気持ちにはなるにしてもまだましかもしれないと思い、嫌々ながら玄関の鍵をはずしゆっくりとドアを開ける。
ドアを開け次第に城野の顔が見えてくると、声と同じように不遜な顔で立っているのに気づく。
「最初から大人しく開けていればいいものを。」
ドアを開けてからの城野の第一声、どこまでも不遜な男だと思わせるには十分な一言。
「用件は手短にお願いします。」
私は口調を強くし、城野を睨む。
そんな私の様子に城野はフッと笑ったかと思うと、
「俺にそんな態度をする女は初めてだよ。
怖いもの知らずというものはお前みたいな奴を言うんだろうな。」
馬鹿にしたような口調で私に言ってくる。
どこまでも私を不快な気持ちにさせる男、城野。
こんな男が社長だなんて世も末だと思わずにはいられない。
「何度来られても私の考えは変わりません。
だから、いい加減諦めてください。
それに、たとえこの場所を手放すことになる日が来てもあなたみたいな礼儀知らずな人なんかに大切なこの場所を譲るなんてことはありませんから。」
「そういうところが怖いもの知らずだと言っているんだがな。
人の助言は素直に聞いておく方が利口というものだ。」
「あなたからの助言なんて有り難くもないですから。
ドアはきちんと開けました。
用事は済んだはずですから帰ってください。」
私は大きな動作で玄関にむかって腕を伸ばし指さしながら帰るよう城野を睨み続ける。
「用件は終わっていない。
立ち退きについてきちんと話をしていないからな。
ほら、この書類を見るといい。
この辺一帯で立ち退きを了承していないのはお前だけだ。
それがどういうことか分かるか?」
城野はそう言って書類を私に手渡しながら獲物を狙う様な鋭い視線を私に向け聞いてくるが、私にはどういうことか分からず口を開くことが出来ない。
「分からないようだから教えてやるよ。
立ち退きを了承している人達には良い条件を提示しているが、その条件はこの辺り一帯の住人が了承した場合のみ有効としている。
だから、まだ了承していない人間がいるということは、了承している人達の条件を不利にするということだ。
その了承していない人間というのは言わなくても分かるとは思うが。」
「私の、ことね。」
「そうだ。
お前が了承しない場合は、多くの人間に迷惑がかかるということを理解しておくんだな。」
「卑怯者。」
「それは違うな、俺は取引をしているだけだ。」
「その取引が卑怯だと言っているのよ!」
「自分に有利な取引をするのが利口な経営者だ。
俺にはこの土地が必要だ、どうしても、な。
そのためにはどんなことでもやるつもりだ。
もう諦めてこの場所を手放すことがお前にとって利口な方法だと俺は思うが。」
どこまでも卑怯な男だと思えて仕方がない。
私は悔しくて城野を睨み続けるけれど、この男にはなんの効果もないのだろうというのは分かっている。
それでも、私はこの場所をこんな男に渡したくはない。
たとえ周りの人間を巻き込むことがあっても。
そう思いながらも、他の人達のことを考えるとその考えも強く思えなくなってくる。
優しい近所の人達を私が苦しめてしまっているのかと思うと辛い。
城野の言葉に動揺をしてしまう私だったが、そのせいか目の前が歪んでくるのに気づく。
熱が上がってきてしまったのか身体から力も抜けてくる。
「おい。」
城野が私に声をかけているようだったけれど、私の耳には近い場所にいるはずの城野の声が遠くから聞こえるように思えた。
気がつけば、私は城野に倒れた身体を受け止められる。
「ママ!」
こっそりと私達の様子を見ていたのか洸が大きな声で呼びかけながら私に近づく。
「坊主、お前の母親は熱があるようだ。
連れて行くから布団がある場所に案内しろ。」
「ママ、ママッ!」
洸は城野の言葉に反応を示さず泣きながら私にすがりつき呼びかけてくる。
そんな洸の様子に城野は舌打ちをした後、
「ったく、ガキは役に立たない。
このままほっといてもいいが後味が悪いからな。」
そう言って私を抱き抱え歩き出す。
向かっている場所は部屋の方。
私は、放っておいてと言いたいのに声が出せず意識が遠のいてしまった。
そして、意識が遠のきながら城野の腕に抱かれた状態の私は、同じ顔をしているだけの城野に、アキラさんと同じ温もりを感じていた。





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