3



5年間ずっと探し続けて帰って来てくれるのを待っていた人。
本当にアキラさんなの?
涙で視界が見えなくなっているけれど、私の目に映る男の人はアキラさんと同じ顔をしている。
違うのはスーツを着ていて前髪を後ろに流しているということだけ。





洸は、店の前に立っている男の人に「パパ」と言いながら駆け寄る。
写真でしか知らないはずなのに、私がいつも話しているせいなのかもしれない。
近づいた洸は足もとにまとわりつくような状態になりながら小さな顔で見上げている。
知らない人が見たら、父親と子供の微笑ましい光景に見えるだろう。
私はそんな洸の様子を見ながら少しずつ近づいていた。
本当にアキラさんなのか半信半疑になってはいたが、アキラさんとしか思えない顔の男の人が目の前にいるのだからこれ以上疑うことも出来ない。
だから、そんな風に思いながら近づいている私の目の前で突然起こった出来事に驚いてしまった。
足もとで騒いでいる洸をアキラさんは払いのけたのだ。
私はすぐに駆け出し洸のそばに向かった。
「洸、大丈夫?怪我してない?」
「痛いよ〜。」
話しかけるまでは驚いた顔になっていたけれど、突然起きた出来事を理解したのか洸は泣きだしてしまった。
私はアキラさんを見上げ、
「アキラさん何するの!」
大きな声を出し叫んだ。
するとアキラさんは叫ぶ私に冷たい視線を向ける。
その視線は今までアキラさんから向けられたことなのない視線だった。
「子供の泣き声というのは本当にうるさいものだな。」
視線だけではなく冷たい声色で信じられないことを言われて私の中に憤りが生まれる。

本当にこの人はアキラさんなの?
子供にひどいことをしたり、冷たいことを言う人ではなかった。

私は自分の中に芽生えた疑いの心で言葉を口にする。
「どうしてこんなひどいことができるの?
昔はこんなことしたことないじゃないアキラさん。」
「アキラ?誰だ、そいつは。」
「誰?あなたのことじゃない。」
「俺はアキラなんて名前ではない。
城野 飛鳥(じょうの あすか)という名前がある。」
「飛鳥?アキラさんじゃない?」
「アキラという男はそんなに俺に似ているのか?
だが、俺は自分と同じ顔に今まで出会ったことはないからアキラなんていう男のことは知らないな。
勝手に勘違いをされては困るよ。」
「でも、アキラさんと同じ顔をしているのにアキラさんじゃないなんて信じられない。」
「信じられなくても結構。
俺はおたくに会うのは初めてなのだから嘘は言っていない。
そんなことより俺がここに来ている用件を早く済ませてしまいたいんだが、店にでも入れてもらおうか。」
城野飛鳥と名乗る男はそう言ってドアをコンコンと叩く。
「用件?」
「そうだ、立ち退きの件と言えば分かるだろう?
いつまでも了承してもらえないようなので社長である俺が出向くはめになってしまったんだからきちんと話を聞いてもらうぞ。」
「あなたが立ち退きを言ってきている会社の社長?
帰ってください!私は立ち退く意思なんてないんですから。
そういうことで店にも入ってもらいたくありません。」
私はそう言って洸を立ち上がらせ手を引きながらドアの鍵を開ける。
ドアを開け中に入り閉めようとすると、邪魔をされ閉めることができない。
「勝手に話を終わらせるというのは感心しないな。
人の話は最後まで聞くものだと習わなかったのか?」
城野は人を馬鹿にしたような口調で話しかけてきたかと思うと、私の力など物ともせずドアを開けてしまった。
そして店の中に入りドアを閉める。
「あなたこそ習わなかったの、人の家に勝手に入ってはいけないって。
私はあなたに入っていいなんて一言もいってないはずですけど。」
「言いたいことはそれだけか?
では、次は俺の話を聞いてもらうことにしようか。
言いたいことはただ1つだ。立ち退きに了承してもらおうか。」
「嫌です。私はこの土地から離れるつもりはありません。
そういうことですのでお帰りください。」
城野は腕を組み威圧感を与えるような言い方をしてくるのが癪に障り、私は表情を硬くし、強い口調で言った後帰るようドアを開け促す。
そんな私に城野はフッと笑ったかと思うと表情を崩すことなく、
「確かに頑固だな、玉城(たまき)が言うとおり。
だが、この場所は簡単に諦めるには惜しい場所だ。
条件はおたくが気に入るようにさせてもらおう。
それが嫌だと言われればこちらも考えないといけない。
平和に暮らしたいのであればこちらの条件を飲むことをお勧めする。」
脅し文句ともとれる内容を話しだす。

これまで脅しをかけられたことはない。
だけど、なかったのがおかしいくらいなのかもしれない。
だからといってこのまま了承の返事をするわけにはいかない。
今まではこの場所を守るためだったけれど、今はそれだけではなくこの男に屈するのが我慢が出来ないから。
こんな人を人と思っていないような男に大事なこの場所を渡すわけにはいかない。
確かにアキラさんに似ている男。
でも、それは見かけだけ。
だから余計悔しさが込み上げてくる。

「どんなことを言われようともこの場所は渡しません。
お帰りください。」
自分の中に湧き起こる怒りを城野に向けそう言うと、
「後悔することにならないといいがな。
とりあえず今日は帰ることにするよ。
じゃ、また後日。」
そう言って城野は私が開けたままにしていたドアから静かに出て行った。


その後の私の行動は、塩を思いっきり外に向かい投げるということだった。






「ママ大丈夫?」
塩を思いっきり投げた後、洸が心配そうに私に話しかけてきた。
「大丈夫よ。
洸こそ痛いところない?」
「うん、もう大丈夫。」
「良かった。」
洸の身体を調べていると元気よく返事をしてくれたのでとりあえず安心する。
すると、洸は私に抱きついてきた。
「ねーママ、あの人パパじゃないの?
いつもママ、パパは優しかったって言ってたのに優しくなかったよ。
でも、写真のパパと同じだったのに何でかな?」
ぎゅっと私に抱きつきながら寂しそうな声で言う洸が愛しく、辛くて仕方がなかった。
私は洸を抱きしめ返しながら、
「あの人はパパじゃないのよ。
本当のパパは本当に優しい人よ。
絶対に洸を傷つけるようなことをする人ではないわ。
だから、あんな人をパパだなんて思っちゃ駄目。
あの人は私達には何の関係もない人なんだから。」
「パパじゃなかったんだ。
僕はいつパパと逢えるの?」
「それは・・・・、ごめんね、ママにも分からないの。
でもね、いつかきっとパパが迎えにきてくれるわ。
だからそれまではママと一緒に頑張っていこうね。」
「うん、分かった。」
「よしっ、じゃ手を洗っておやつ食べようか。」
「うんっ!」
おやつと聞き私の身体から離れた洸は笑顔を見せながら元気よく返事をしてくれる。
私は、その返事を聞いてホッとしながら洸と共に部屋に移動を始めた。
移動をしながら私の頭の中では、

あんな人のせいで洸が動揺してしまうなんて。
でも、それは仕方がないことかもしれない。
私もアキラさんが帰ってきたのだと思ってしまったのだから。
アキラさんに似ていてもまったくの別人。
人を馬鹿にして冷たい視線を向ける人をアキラさんと間違うなんて。
きっとまた立ち退きを迫りにやってくるのだろうということは分かってはいるけれど、アキラさんと別人だと分かっていても同じ顔で言われるのは同じことを別の人に言われるよりも辛い。
どうしたら諦めてくれるのかしら。

答えが見つからないことを考えながらおやつを用意した私は、洸と一緒に食べだした。












夜になり店を開店させると、徐々にお客さんが増えだしカウンターは満席となった。
カウンターに座るのは常連さんと初めて来たサラリーマン。
いつものように料理を出し終えた私は、御酌をしながら話を始めた。
「この居酒屋の周りも寂しくなってきたよね。
今月も店を閉めるって言ってる店もあるみたいだね。」
「そうなんです。寂しいですよ、本当に。
昔からあったお店が無くなっていくんですから。
でも、この場所は無くなりませんからこれからもご贔屓にしてくださいね。」
「それを聞いて安心したよ。
ここまで無くなったらくつろげる店がなくなっちゃうからね。
でも、いろいろ言われてるんじゃないの?」
「大丈夫ですよ。」
「それならいいけど。
無理だけはしちゃ駄目だよ、ひなたちゃん。」
「はい。」
「じゃ、そろそろ帰ろうかな。」
「そうですか?じや、お会計しますね。」
そう言って私は計算を始める。
「ありがとうございました。また来てくださいね。」
「またお邪魔するよ。」
そう言って常連さんは帰っていった。
見送りが終わった後、カウンターを片づけ洗い物を始めると、注文が入る。
注文された料理を作るべく用意をしていると、新しいお客さんがやってきた。
そうやってこの日の夜もいつもと同じように忙しく過ぎていくのだった。





仕事を終わらせた夜中、洸の寝顔を見つめる私。
今日はお店に来ることがなかった洸。
きっと昼の出来事が関係しているのだろう。
柔らかい洸の髪に触れながら、アキラさんのことを思い出す。

アキラさんの髪も洸みたいに柔らかかったな。
膝枕をしながら髪を撫でるとアキラさんは穏やかな表情をしていたのよね。

そんなことを考えながら何時しかそのまま洸の隣で私は眠ってしまい、夢の中でアキラさんと過ごしていた日々を思い出していた。





Copyright(c) 2008 machi all rights reserved.

面白かったよとちょっとでも思ってくれたら押してもらえるとうれしいです♪
よろしかったら感想も一緒に書いてもらえるとますますうれしいです♪

Novel

Top

Next

Back




検索サイトから来られた方は、 こちら からTOPへどうぞ。