20



目の前で起きている出来事、現実だと思えないほどゆっくりとした時間が流れているように思えた。
けれど、耳に響く車の急ブレーキの音、人の声、それらが現実なのだと私に知らせる。
ゆっくりと車道に近づき、認めたくない現実が私に襲いかかる。
車に撥ねられた城野の頭からは大量の出血、ピクリとも動かない身体。
「じょ・・・う・・の・・・?」
身体の動きを止めるほどの現状。
しかし、動く気配を見せない城野にフラッと身体を動かしながら近づいて、身体を揺する。
「ねえ、目をあけて。
お願い、ねえ。」
「おじちゃん、おじちゃん。」
いつのまにか近づいていた洸も同じように城野の身体を揺さぶる。
「駄目だよ触ったら。
今救急車呼んだからそれまでそのままにしておくんだ。」
騒ぎに気づいた近所の人達が出てきて、私達の動きを止める。
それでも城野のそばから離れることは出来ず、救急車が来るまで呼びかけ続けた。
「お願い、目をあけて。」
「おじちゃん、おじちゃん。」
ずっと呼びつつけても城野の反応は返ってこない。
このまま城野が死んでしまうのではないかという思いが強くなり、恐怖で身体が震える。

私がきちんと城野の話を聞いていたらこんなことにはならなかったのに。
城野が事故にあうことなんてなかったはず。
こんな形で愛している人を失くすの?
城野の言葉が信じられなかった私のせいで。
お願い、お願いだから目をあけて!

涙を流しながら頭からの出血を両手で押さえる私だったけれど、そうしている内に救急車が到着し、担架が運ばれてくる。
担架がもう少しで近づくという時、
「ひなた・・・・、愛して・・・る。」
城野が震える声で言ったのが聞こえた。
その声はか細いものであったけれど、私の耳にはしっかりと聞こえて、
意識が戻ったと思ったけれど、うわ言のように私の名前を読んでいた。そんな城野の言葉が私の胸を熱くする。
「離れてください、担架に移します。」
救急隊が私の手を城野からはずし、素早く担架に乗せ動き出す。
「一緒に来られますか?」
救急隊の1人にそう話しかけられ、洸と共に救急車へと乗り込み、病院へと向かう。
時間的には数十分の車内での時間。
それでも私には何時間にも感じられるほどの時間だった。







病院に着き、すぐに処置が始まり私と洸は控え室へと案内された。
そして、手術の必要があるからと手術室への移動が始まり、終わるまでの時間をやはり控え室で待つことになる。
「何があったんでしょうか。」
手術の同意書へのサインが終わり、救急隊から連絡を受けた玉城が私達に近づき問いかける。
事故の原因は私にあるのだと話をし、洸をかばってくれたことを話すと、フーっと大きく息を吐き、
「そうですか。」
そう言ったまま口を閉ざし、私達と同じように城野の手術が終わるのを待っていた。
私もこれ以上話が出来る状態ではなく、膝の上に頭を乗せ眠っている洸の頭をなでながら城野の手術が終わるのを待つ。


手術が終わったと知らせがあったのはそれから3時間後のことだった。















手術が無事に終わったことを告げられ、城野が待つ病室へ向かう。
色々な管が身体につながれ、大変な手術だったのだと知らせる。
けれど、城野の頬は暖かく、生きているのだということを実感すると涙があふれて止まらなかった。

よかった、本当によかった。

素直な自分の気持ちがますます私の涙を止まらなくさせる。
麻酔は醒めていると言われたけれど、体力を使っているせいか城野は眠っている。
看護師さんからは、
「落ち着いていますから、一旦帰られても大丈夫だと思いますよ。
また明日お越しください。」
と言われ、完全看護である病院にこのまま私がいても邪魔になるだけだと思うけれど、なかなか城野のそばを離れることが出来ずにいた。
けれど、忙しそうに城野の周りを動く看護師さんを見ていると、このままいても邪魔になると思い、眠る城野の手を握り、
「明日また来るわ。」
と聞こえていないと思いながらも告げ、病室を後にした。
ソファーの上で眠っている洸を抱き上げ、玄関へと向かったけれど、何も持たず家から来ていたということに気づき、玄関で立ち止まってしまった。
すると、
「送りますよ。」
私の前で車が停まったかと思うと、窓を開け玉城が話しかけてきた。
乗りたくないと思わないでもなかったけれど、洸を連れたまま家まで歩いていくわけにもいかず、
「ありがとうございます。」
と声をかけ車に乗り込んだ。
車中、何を離すわけでもなく、気がつけば家の前に着いていた。
「助かりました。」
お礼を言って車を降りると、
「明日、飛鳥様に会いに行ってあげてください。」
と、思いもよらぬことを言われ、振り返り玉城と視線を合わせた。
もちろん明日は行くつもりでいたのだけれど、まさか玉城からそのように言われるとは思ってもいなかった。
「驚いているようですね。
確かに私が言ったことはあなたにとって驚くことかもしれませんね。
しかし、飛鳥様はあなたを選んだ。
そのことが分かったのですから、これ以上私が2人のことをかき回すわけにはいきません。」
「選んだ?」
「そうです。
あなたの子供を助けたのですから、飛鳥様が選んだということです。
私は信じていませんが、あなたは運命を信じますか?」
突然の言葉に玉城の意図を見つけることはできなかったけれど、
「そうですね、運命は、あるかもしれません。」
自分の中にある答えを口にする。
「そうですか、では、運命が飛鳥様とあなたを引き合わせたのかもしれませんね。
それと、昼に言ったことは飛鳥様の指示ではありません。
すべて私の一存で行われたことです。
では。」
玉城はそう言うと、車を発進させた。
突然の告白と運命と言った玉城の真意を見えなくなる車をいつまでも見つめ、考えていた。












次の日、むずがる洸を幼稚園に行かせ、城野の病院へと向かった。
面会時間は昼からだったので、その時間よりも早めについてしまったけれど、面会時間まで待ち、病室へと向かった。
ドアを開けると広めの個室を使用している城野は眠っているようだった。
その寝顔を見て、ホッとする。
起きる様子がないと思い、そっと髪の毛を撫でていると、
「髪を撫でるのではなく、キスをしてくれる方がうれしいんだがな。」
そう言って私の動きを止める城野は、ニッと笑っている。
「けが人が何言ってるのよ。」
「けが人だから甘えたいんだよ。
・・・・来てくれたんだな。」
電動ベッドの頭元を自分でゆっくりと起こしながら私と視線の高さを同じにした城野は、私の手にそっと自分の手を重ねる。
その手を払うことなく、生きている証の温もりを心地よく感じながら城野を見つめる。
「洸を助けてくれてありがとう。
あなたが事故にあったのは私のせいだわ。
本当にごめんなさい。」
「洸を助けたのは俺の意思だ、ひなたのせいじゃない。」
「でも、私があなたの話をきちんと聞いていればこんなことにはならなかった。」
「起こってしまったことは仕方がない。
誰が悪いとかを言っていても何も先に進めない。
だから、いつまでもひなたが気にしなくていい。
それよりも、俺の気持ちを受け入れてくれるかの方が俺にとって重要事項だ。」
「気持ち?」
「ひなたは俺の気持ちが偽りだと言った。
だが、俺のひなたに対する気持ちは偽りじゃない。
俺はひなたを愛している。
確かに最初は会社のために近づいた。
だが、ひなたと接している内にそんなことも忘れてしまうほど愛してしまった。
どうしても自分の物にしてしまいたいほど深くな。
ひなたから同じ気持ちだと言われた時は、柄にもなく飛び跳ねたいほど嬉しかったよ。
だから、このままひなたを手放すつもりはない。
どんなに嫌だと言われてもだ。」
城野の表情は、真剣で嘘を言っているとは思えなかった。
けれど、たとえ城野が言うことが嘘であったとしても伝えようと思っていたことがあった。
それを、今私は口にしなければならない。
「私はあなたの気持ちを疑ったわ。
他人の言葉に惑わされて、信じ切れなかった。
でも、あなたが事故にあって、目の前で血を流しながら返事もない時に思ったの。
私は、あなたのことを失くしたくないって。
だから、もうあなたのそばから、飛鳥のそばから離れることなんてできないの。
私は、あなたを愛しています。」
「ひなた。」
城野は私の言葉に顔をほころばせる。
その表情に私も自然と微笑むことが出来た。
「あと1つ、ひなたに話さないといけないことがある。」
「何?」
「ひなたは、運命って信じるか?」
「昨日からその言葉よく聞いてる気がするわ。」
「俺は信じてなかったんだが、信じる気になったよ。」
「どうして?」
「記憶がそうさせたんだ。
俺には空白の1年間がある。
それは今回と同じように事故にあって気がついたことなんだが、その空白の1年間の間自分が何をしていたのか分からないでいた。
だが、特に問題になることもなかったからそのままにしていたんだが、今回の事故で少し思い出したことがある。
桜の木の下でひなたが微笑んでいた。
そして、俺のことをアキラと呼んでいた。」
「それって・・・・。」
急な城野の告白に私は目を見開く。
「ひなたと一緒に見る桜はきれいだった。
その時に食べるお弁当がいつも以上においしく感じていたよ。
まだ完全に記憶が戻ったわけじゃない。
だが、俺の中に眠っていた記憶だと確信できるんだよ。
朝、玉城に聞いてみた。
そしたら、『私も運命というものを信じてしまいましたよ』と言っていた。」
「本当にアキラさんなの?本当に?」
「ああ、俺は飛鳥でありアキラだよ。」
「そんな、嘘みたいなことって・・・・。」
「だから言っただろ?
運命だって。」
城野は涙を流す私の頬を優しく拭いながら、優しく微笑んだ。
それは、私が大好きなアキラさんと同じ微笑みだった。





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