18



城野の気持ちを受け入れてから、毎日城野が来るのは変わらない。
ただ、来た時今まで店にいたのが店ではなく、洸と共に家で過ごしているという変化があった。
洸は、
「本当におじちゃんパパになってくれたんだね。」
と言って喜んでいる。
私も喜んでいないわけじゃない。
城野と過ごす時間は私を優しく包み込んでくれるから。
でも、心の中でアキラさんの存在がいて、ふとした時に城野に触れる手を躊躇わせる。
この5年、アキラさんを心の支えとして頑張ってきた。
それなのに、城野という存在に心を移したことを許せないと思う自分がいる。
どうして城野を選んだのかと責める私と城野のそばにいたいと思う私が、心の中で葛藤していた。
そんな私を城野は気づいているようだった。
触れることに躊躇いを見せる私に対し躊躇う私の手を強く握り、自分の腕の中に私を閉じ込め、
「無理することはないといったはずだ。
俺に触れることを躊躇う時はその手を俺が引き寄せる。
だから少しずつ、俺で心を満たしてくれ。
完全に旦那を忘れる必要はないんだから。
旦那と同じ位置まで俺で心を満たしてくれればいいと思ってる。」
優しく囁いてくれる。
その囁きを聞いていると、私は城野に身体を預けながら涙を流してしまいそうになる。
私はこんなに言ってもらえるほどの存在とは思えない。
それでも、城野に甘えてしまっている私は幸せの中にいると思える。
城野の存在が私に安らぎを与えてくれているのだと。












「今日も泊まっていくの?」
「駄目か?」
「駄目じゃないけど、ここから会社に行くためにいつも早く起きているから。
それよりは自宅で過ごす方がいいんじゃないかって。」
「1人で過ごすなんてもう考えられないんだよ。
ひなたがいて洸がいる。
そのことが俺を癒してくれているからな。」
「城野。」



城野はホテルで過ごした日から私の家に泊まっていた。
狭い場所に3人で川の字で寝ている。
その姿は本当の家族のようだと思ってしまうけれど、城野は毎日遅くにやってきて洸とも遊び、私の仕事が終われば2人の時間を過ごす。
洸が近くにいるので、身体を重ねるような行為はしないけれど、朝も早く出て行く城野のことを考えると身体が心配になってくる。
そう思い、家にも帰るよう提案したのだけれど癒すだなんてことを言われたらこれ以上何も言えない。
私も城野がそばにいることで癒されているから。



城野の言葉に城野の瞳を見つめてしまっていた私だったけれど、城野が私のそばに近づいてきた。
「ひなたはいつになったら名前を呼んでくれるんだろうと思っているんだが。」
「名前?」
「そう、俺はひなたと呼んでいるのに、ひなたは俺のことを城野と呼んでいる。
もう名前で呼んでほしいものだな。」
「名前、そうね、でも、今更な気がして改めて言われると照れるわね。」
「照れることはないだろ、ただ呼んでくれればいい、飛鳥と。」
真剣な顔をして名前を呼んでほしいという城野が、何だか可愛く見えてきて笑みがこぼれる。
「笑うところじゃないだろ。」
城野は私が笑ったことを馬鹿にしたと勘違いしたのか、ムッとした表情になる。
そんな様子も今までだったら知ることのなかった表情だ。
「ごめんなさい、でも、別におかしくて笑ったわけじゃないのよ?」
「じゃ、どういう理由なんだ?」
「飛鳥の色んな表情が知ることが出来てうれしいと思ったのよ。
だから自然と笑顔になっただけ。」
微笑みながらいう私に対して、城野も表情を緩める。
「ひなたにはかなわないよ。
たった一言で俺を喜ばせるんだからな。」
そう言いなが唇を重ねてくる。
城野のキスを受け入れながら身体を寄せると、裾から手を侵入させてくるのを感じ、動きを止めさせる。
「駄目よ、洸がいるのに。」
「よく眠っているんだから起きないさ。」
「そうかもしれないけど、分からないじゃない。
洸を驚かせるわ。
だから、この手の動きを止めて。
止めてくれないと今日は家に帰ってもらわないといけなくなるわ。」
「そんなこと言われたらこれ以上続けられないだろ。
分かった、今日も大人しくしていることにするがいつまでも大人しくいるのは無理だからな。」
裾から手を引き抜きながら唇を離し溜息交じりに話す城野だったが、ボソッと、
「ホテルにでもいかないといけないな。」
とつぶやいたのは私の耳には入ってこなかった。
その後の私達は、いつものように洸を間に挟みゆっくりと瞼を閉じて眠りについた。












「飛鳥様、本日のスケジュールですが・・・。」
「玉城、会食はしばらくキャンセルだ。」
「しかし、いつまでもそのようなことはできません。」
「そんなに長い間じゃない。
ただ、もうしばらく今の状態を満喫したいだけだ。
今はひなたと洸のそばにいたい。」
「飛鳥様、あの店をどうされるおつもりなのですか?」
「どうとは?」
「いつまでお戯れをされるのかということです。
会長の耳に入ると飛鳥様に支障がでると思われますが。」
「確かに会長の耳に入れば何かと支障がありそうだな。
だが、特に仕事に支障をきたしているわけではない。
そう簡単に会長の耳には入らないだろう。
その間に基盤を整えるつもりだ。
もちろん玉城にも協力してもらうがな。」
「本当に仕事に支障がないと?
立ち退きの件に支障がきているように思いますが。
このままでは建設計画が進められません。」
「・・・分かっている。」
玉城の問いかけに表情を硬くしながら椅子から立ち上がり、窓から外をじっと見つめる城野。
その後ろ姿を見つめる玉城の眼には鋭い視線が感じられたが、眼を伏せた後一礼をして社長室を後にする。





カツカツと靴音を響かせながら廊下を歩き携帯を取り出した後どこかに電話をかける玉城だったが、その内容はこれからのひなたの生活を脅かせるものだった。





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