16



城野が運転する車に揺られている間洸はうれしそうに城野に話しかけていたが、私は城野に話しかけることなく、外の景色を眺めていた。
それは、眺めながら突然現れた城野が口にしたことに揺さぶられている自分の心を落ち着かせるためのものだった。






車が止まった場所は、有名と言われているホテル。
車を玄関の前に停め、降りるよう促された私は城野についていくしかなかった。
城野の腕の中には洸がいて、この場を離れたいと思っていた私の心情を読み取ったかのように、車を降りてすぐに城野が抱きあげてしまったからだ。
後ろ姿を追いかけるようについていくしかない私は、エレベーターに乗り込み私達だけになったことで、口を開いた。
「どこに向かっているのかいい加減教えてほしいんですけど。」
「今まで聞いてこなかったから聞く気がないのかと思っていた。」
「そんなはずないでしょ。
突然のことに驚いていただけよ。
どうしてデザートを食べるだけでホテルにきているのか。」
「おいしい店があるからに決まっているだろ。」
城野は答えになっていない答えを飄々とした様子で言った後、ゆっくりとエレベーターの扉が開いた。
そのまま降りる城野と共に降りたけれどその場所はどう見ても食べ物を扱う店は見当たらず、宿泊の部屋の扉が目に入る。
そのうちの1つの扉の鍵を開け、扉を開いた城野は私に入るよう促す。
ますます城野の真意が読めない私は入ることを躊躇いながらも、促されるままゆっくりと部屋の中へと入るしかなかった。
「広いお部屋だねー。」
城野に抱きあげられたままだった洸は、今まで見たことがない豪華な部屋に興奮しているようで、下してと城野に言った後散策を開始していた。
確かに洸が興奮するのは無理がないだろう。
スイートルームだと思われる部屋は、装飾や家具がしっかりとした物のようだし、豪華さと広さを兼ね揃えた部屋は、子供の興味を引くには十分の効果を持っていた。
「座ったらどうだ?」
立ったままの状態になっていた私に、ソファーに座るよう城野が声をかけてきて、素直に座るには今の状況が許さなかった。
「こんな場所ではデザートなんて食べれないでしょ。
何を考えているの。」
「こんな場所とはひどいな。
このホテルで1番いい部屋を用意したのに。」
城野はいつになくふざけている様子を見せながら私の質問にはっきりと答えない。
そのことにいらつきが強まるのを感じてはいたが、いらつきを見せても城野に効果があるようには思えず落ち着かせながら話を続けていく。
「そういうことを言っているんじゃないのは分かっているでしょ。」
「おいしいデザートがこのホテルにあるから店よりも部屋の方が寛げるだろうと思って用意したんだ。
坊主は喜んでいるようだがひなたは店で周りの注目を集めながら食べる方がよかったのか?」
「それは・・・。」
城野の言葉に言葉を詰まらせてしまう私だった。
ホテルはよく考えると、城野の会社が所有しているものだということに気づくと、ホテルの中にある店にいくということは、目立つというのも分かる。
けれど、だからといってこの部屋に連れてきた理由としては説得力には欠ける。
「ママ!ベッドがあってね、ふかふかなんだよ!!」
城野と向き合ったままの私の所にパタパタと洸がかけてきて、興奮したままの状態で足元に抱きつき顔を見上げて話しかける。
「そうなの、気持ち良かった?」
「うん!」
私は、うれしそうにしている洸に対して不機嫌な表情を見せるわけにもいかず笑顔を見せながら話しかけた。
「坊主、デザートは何が食べたい?」
「坊主じゃないよ、洸だよ。」
「ははは、そうだったな。
で、何がいいんだ?」
「そうだなぁ、何があるの?」
「洸が食べたいと思うのは何でも用意できるぞ。」
「えーと、何がいいかなぁ。
じゃあね、チョコレートケーキとオレンジジュースがいい!」
「そうか、じゃ持ってきてもらうからそれまで遊んでていいぞ。」
「分かった。
でも、おじちゃんと一緒に遊びたいな。」
洸は私から離れ、城野の方を向き話しながら甘えるようにしゃがんだ状態になりながら話していた城野の首に自分の手を絡ませる。
「頼んでからな。」
城野は洸を抱き上げながらそう言うと、私の方を向き、
「何かリクエストのデザートはあるか?」
と聞いてきた。
「洸と同じものを。」
「分かった。」
私からの返事を聞いた城野は洸を抱き上げ、部屋にある受話器を持ち注文をした後洸と共に部屋から出ていき、ドアの隙間からベッドが見える部屋へと入って行った。
2人が出ていった後今まで座ることがなかったソファーへと腰を下ろし、身体から力が抜けていくのを感じていた。











「おいしいねぇ。」
「そうね。
ほら、口にチョコレートついてる。」
「とって、ママ。」
「甘えん坊ね、洸は。」
洸の口元についているチョコレートをハンカチで拭く。

注文して持ってきたケーキは、さすがと言うべきなのか日頃食べるようなケーキとは一味違うものだった。
甘いがそれだけではないおいしさが口の中に広がる。

「微笑ましいというのはこういうことを言うのかもしれないな。」
洸の口元を拭いていると、城野がつぶやいた。
突然の呟きに城野の方を振り向くと、今まで見たことがない穏やかな表情を見せ、私達を見つめていた。
私は、そんな表情を見せる城野に何も言葉を返すことができなかった。
胸を襲ったもののせいで。

急にそんな表情にならないで。
これ以上私の心をかき乱さないで。

自分の中に抑えていたものを揺さぶる効果を持った城野の表情に、ケーキを食べる手を止めてしまう。
本当はそれらのものを誤魔化すように食べだそうとしたけれど、いつまでも離れない城野の視線に手が止まってしまう。
私だけが居心地の悪い状態のまま時間だけが過ぎて行った。







このまま城野の近くにいるのは危険だというのは分かっていながらも、今の状況変えることができない。
今までの私だったら暴言を口にしながら立ち去っていたのかもしれないが、そんなこともできなくなっていることに苦笑を隠せない。
心の奥底に沈めているもののせいだということに気づいていないわけではないが、気づかない振りをしているといっていいのかもしれない。

どうしたいの私は。

自問自答してしまうつもりはないのに、気がつけば頭の中で今まで繰り返していた言葉。
「いつまでそうしているつもりだ?
洸は眠ってしまったぞ。」
「え?」
ハッと意識が戻されるように声が聞こえる方を見ると、洸は城野の腕の中で寝息を立てながら眠っていた。
城野は私に声をかけた後ゆっくりと歩き、先ほど2人で入って行った部屋へと行き、戻ってきた時には腕の中には洸はいなかった。
「良く眠っているようだからベッドに寝かせてきた。
まさか食べながら寝るとは思わなかったから驚いたがな。」
ククッと可笑しそうに笑いながら城野は洸の様子を知らせてきた。
ボーっとしていた私は、洸がそんな状態にあったことに気づかなかった。
「さて、ここからは大人の時間といこうか。」
フッと息を吐いた後、城野は真剣な表情になり私を見つめる。
そんな目を直視するのを私の身体は拒否というよりも逃げてしまう。
視線を逸らす私の腕を掴み、
「逸らすな。」
逆らえないような口調でそう言われ視線を重ねる。

だめ!
このままだと・・・。

危険信号が頭の中で点滅を始め、私は再び視線を逸らし、
「洸を連れて帰るから腕を離して。」
強い口調で言い、腕を振りほどこうとした。
けれど、しっかりとつかまれた腕は振りほどくことが出来ない。
「逃がさない、話終わっていなかっただろ?」
「逃げるんじゃないわ、帰るだけよ。」
「それならなぜ目を逸らす?
逸らすということは逃げているということだ。」
城野の言葉に私は事実を突き付けられ反論することが出来ず、口をギュッと噤む。
そんな状態になってしまった私に対し、掴んだ手を離すことなく移動を始める。
そして、ソファーに私を座らせると、隣に座り視線の高さを同じにしてしまう。
「身体は俺から離れたがっていないのに、どうして素直にならない。」
掴んでいた腕を離し、そっと私の頬に触れながら切ない視線を送りながら話す。
その表情や声は、心の奥底に沈め気づかない振りをしていた物を浮上させようとしている気がして落ち着かなくさせる。
「俺はひなたを愛している。この気持ちに偽りはない。」
「だめっ!」
愛を囁く城野の言葉を遮るように私は叫んだ。

これ以上言わないでっ。
聞かせないで!
気づかせないで、お願い・・・・。

「何が駄目なんだ!」
「だって、これ以上あなたといたら、愛を囁かれたら、私は・・・・・。
私は夫がいるのよ、そのことを忘れないで。」
絞り出すように言いながらも、真剣な言葉に沈めていた物が浮上を始める。
気づきたくないもの、気づきたくなかった本当の気持ち。
言い聞かせるようにアキラさんの存在を主張するけれど、
「それだけじゃ俺の気持ちを止めるのは無理だ。
帰っても来ない旦那に遠慮するほど俺の想いは簡単なものじゃない。」
城野は引く様子を見せない。
「お願い、私は今のままでいい、アキラさんを待っていたいの。
私はあなたのことを何とも想っていないのよ。
そんな女に愛を囁くなんて馬鹿げているわ。」
「馬鹿げているとは思わない。
俺はお前を愛しているというのは事実だ。
それを伝えないで指をくわえて見ている方が馬鹿げている。
それに、ひなたは俺に惹かれている、認めたくないかもしれないが。
抱きしめてもキスをしても本当には嫌がってはいない、それが本心だからだ。
それに言ったはずだ、旦那に遠慮をするほど俺の想いは簡単なものではないと。
俺は今のひなたを好きになったんだ、旦那込みのひなたを。
だから、俺の気持ちを、自分の気持ちを否定しないでくれ。」
城野はゆっくりと離れようとしていた私の身体を引き寄せ、抱きしめる。
この腕の中から逃げ出さないといけないと思いながらも、身体が動かない。
身体すべてで感じる城野の温もりがそうさせる。
感じたくない温もり、そう思いながらも心の奥底に閉じ込めたものは城野の温もりを求めている。
「ひなた。」
耳元で囁かれる言葉は、完全に閉じ込めていたものを解放させてしまう。
城野は、耳元で囁いた後、ゆっくりと身体を離したかと思うと、以前とは違う性急ではない、けれど、想いをぶつけるような熱いキスが唇に落とされた。

もう、誤魔化せない。
私はこの人に惹かれている。
好きになってしまっている。
こんなにも喜んでしまっている、この人からのキスを。

私は最後の砦が崩れさるのを感じながら、ゆっくりと初めて自分から城野の背中に手を回し、深くなっていくキスを受け入れた。





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