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満たしたくはないのに私の頭の中を城野が満たす。
触れ合った温もりというよりも、熱を感じたキス。
城野に抱かれた身体は、力強く私を奪いつくす腕の強さ。
至近距離で感じる吐息。
その吐息は、私の口から吐き出される熱を持った吐息を吐きださせ、私の身体から力が抜けることを私自身に分からせるための合図のようなものになっていた。
城野によって高められた身体を覆い尽くすものが私の心を揺り動かす。
どうして城野によって揺り動かされるのか気づきたくはないのに。

アキラさんっ、今すぐ戻って私を抱きしめてっ。
そして、私をアキラさんで満たしてほしい。
そうでないと、そうしないと・・・・・。











「ひなたちゃん、いつものちょうだい!」
「はーい。」
城野とキスをしてから数日が過ぎたいつもの店での常連さんとの会話。
何故かあの日から城野は私の目の前には現れない。
毎日きていたはずの城野が現れないというのは、どこか違和感を感じさせる。
常連さんの中にも、
「あれ?
今日もあの兄ちゃんは来てないの?
毎日会ってたから寂しいなぁ。」
なんてことを言っていたりする。
中には、
「ひなたちゃんも寂しいんじゃないの」
なんて余計な一言をつける人もいたりするけれど。

どうして城野は姿を見せないのだろう。
寂しいわけではないけれど、やっぱり姿を急に見ないというのは違和感があり過ぎてしまう。
城野のことなんて気にしたくないのに、今の状況では気にしてしまうじゃない。

注文された料理を用意しながら気がつけばそんなことを考えてしまう私。
仕事に集中しようと思っていても、思いだされるのは城野のこと。
意識しないようにしているけれど、なかなかうまくいかない自分の感情に翻弄されてしまっていた。












「ママ〜、今日天気いいねぇ。」
「そうね。
こんな日は外で遊びたいよね、洸も。」
「うん!」
「それじゃ、温かくなって桜も咲いてきてるから見に行ってみようか。」
「いきたーい!」
「じゃ、お弁当用意するね。」
遊園地へ行ってから次の週の日曜日。
青天と呼んでいいほどきれいな青空を見ることができることで、洸と一緒に窓から眺めている時に花見に行くことを決めた。
折角の天気だからやはり出かけて外の空気を吸って日差しを感じたいと思うのは自然なことだろう。
昼前だということで、花見をしながらお弁当を食べようと思い準備する私。
準備を終え、洸の手を引きながら玄関を出た。
嬉しいことに風は強くなく、日差しが身体を温めるにはほどよい天気だ。
晴れている空の下、洸と手を繋ぎ歩きながら春の空気を身体に取り入れると、穏やかな気持ちになったような気になってくるから不思議な感じがする。
目的地である花見の場所は、川沿いに咲いている桜並木だ。
その場所にはすでにちらほらと花見をしようと集まっているひとがいるのが視界に入る。
天気がいい休日に、桜を見ながらお弁当を食べようと思うのは私達だけではないということだろう。
もしかするとこれからもう少し人が増えてくるのかもしれないと思った私は、特等席だと思っている桜を見る時には向かう場所に移動を始めた。
いつもの場所といっても、桜並木から少し離れた場所に1本だけある桜の木の下だ。
折角桜を見るのだから1本よりも多くの桜がいいと思う人が多いのか、または、少し坂になった場所にあるせいなのか、私以外の人がいるのを見たことがないので、勝手に特等席と思っている。
桜の木の下に着いた私は、持ってきたビニールシートをひろげお弁当の用意を始めた。
そんな私の隣に洸はちょこんと座り、用意が終わるのを待っている。
「よし、食べようか。」
「いただきまーすっ。」
私と洸は手をお手拭きで拭いた後、手を合わせお弁当を食べ始め、時折舞い降りてくる桜の花びらに邪魔をされながらも、楽しく穏やかな昼食となった。






「ママ、遊んでくるね。」
「いいけど、この場所から離れ過ぎちゃだめよ。」
「大丈夫〜。」
食べ終えた洸は、ジッとしていることに耐えれるはずもなく、草花が咲き乱れる場所を目指し、遊び出す。
そんな洸の姿を微笑ましく思いながら、お弁当箱を片づけた後、両手を背中の後ろに手をつき桜を見上げる。
隙間から見える日差しは、柔らかな日差しで私の身体を温めてくれ、懐かしい出来事を思い出させる。

アキラさんと初めて会った季節がまたやってきたんだな。
あの時は座り込んでいたアキラさんを家の中に入れることに必死で桜なんて見れなかったけど。
でも、この場所を見つけてくれたのはアキラさんなのよね。
いい場所を散歩の時に見つけたんだよって嬉しそうに話してたんだっけ。
それから、私の手を引いてこの場所に連れてきて、座った後アキラさんの腕に包まれながら一緒に桜を見つめていた。
アキラさんと過ごす穏やかな時間、それは、今でも大切な思い出。
一緒に過ごした時間が私を支えてくれる思い出で、それは今も変わらない。
でも、思い出だけじゃなく、あの時のように私を温かい腕で包みこんでほしいと強く願ってしまう。
城野のせいだ、そんな気持ちになるのは。
今まで思わなかったわけではない。
アキラさんにそばにいてほしいと思うことは何度もある。
けれど、自分の中の何かが変わりそうで怖くて仕方がない。
城野の存在が私を怯えさせる。
アキラさん、今抱きしめてほしいのに・・・・。

背中の後ろに置いていた手を移動させ、自分の身体を抱きしめる。
そうすることで、繋ぎとめることが出来るような気がして。
それでも、アキラさんとは違う腕にそのまま顔を伏せてしまった。
洋服を強く握りしめながら。



「寒いんだったら温めてやるよ。」
顔を伏せたままでいた私にそう話しかける聞き慣れた声。
それから、背中に温もりを感じた後、身体すべてで私を包み込むのは、アキラさんではなく、城野だった。





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