13



どうしてあの時、城野から視線を逸らすことが出来なかったのだろう・・・・。



遊園地に行ったことで興奮していたが、疲れたせいかいつもより早く眠そうにしている洸を寝かしつけた私は、遊園地での自分の行動を思い出していた。
思いだしていることそれは、思いもよらなかった自分の行動のせいだ。
嫌な奴で最低な人間だとしか思っていなかった城野に対しての自分の行動。


何故、気がつけば自然に笑っていたのか。
何故、アキラさんのことを城野に話したのか。
何故、城野との視線を逸らすことが出来なかったのか。


思い出せばきりがないくらい自分のことなのに分からなくなる。
穏やかな休日に突然登場した城野、洸が行きたいと行った遊園地に連れて行ったくれた理由は本人にも分からないと言っていた。

何だかおかしな感じだ。
私と城野は、お互い自分の行動の意味が分かっていないのだから。
思っても仕方がないことは分かっているのに思ってしまう。
どうして城野がアキラさんと同じ顔をしているのかと。
今日のような城野を見てしまうと、嫌な奴で最低な人間だと思っていたはずの自分の気持ちを、風船のように空気をいっぱい入れて満たしていたはずなのに、少しずつ萎んでいってしまっているのを自覚してしまう。
最低な人間のままでいてほしい。
そう思ってしまうのは、私の心を翻弄されることを感じているせいかもしれない。
だから、城野にそうあってほしいから、今日のような城野を知りたくはなかった。
勝手な想いだとは思うけれど・・・・。












翌週、やはり城野はいつものように店にやってきた。
遅い時間ではあったけれど。
常連のお客さん達が帰っていき、今日は早く店じまいしようかと思っていた時だった。

もう少し早くに店じまいすればよかった。

城野が店に入ってくる姿を見ながら思ってしまう私。
いままでとは違う感情からそう思ってしまってはいたが、そんな素振りを見せることなく城野を迎え入れる。
「いらっしゃいませ。」
そう声をかける私に対して城野は返事をすることなくカウンターに腰をかけ、飲み物を注文してくる。
注文を受け用意を始める私。
用意が終わり、カウンターに出す時に一緒に料理も出した。
それは、早くに店じまいをすれば良かったと思いながらも、きっと今日も城野は来るのだろうという予感のもと残していた料理だった。
矛盾だらけの自分の行動。
「まだ料理は注文していないはずだが?」
カウンターの前にだされた料理を見ながら城野が問いかけてくる。
「遊園地に洸を連れて行ってもらって、結局お金も出してもらってしまったからお礼です。」
「お礼が欲しくて連れて行ったわけではないんだが、ありがたくいただいとこう。」
そう言って、城野は料理を食べ始めた。
私はといえば、食べだす城野を目の前にして手持無沙汰状態だ。
城野は何食わぬ様子で料理を食べてはいたが、どことなくおいしいと思ってくれているのかもしれないと思えていた。
城野の周りに漂う空気に刺々しさがないからかもしれない。
そして、手持無沙汰状態だったはずの私は、城野の姿を見つめ続けていた。
穏やかさと落ち着きのなさが交わった気持ちで・・・・。






「ボーっとしてどうしたんだ?」
顔を上げ、私を見上げている城野の視線に、声をかけられ気づいた私は、
「どうもしませんよ。」
ハッと意識を戻しながらも、何事もなかった素振りをみせる。

なにじっと城野のこと見てるのよ私ったら。
しかも、不快感を感じることもなくなんてっ。
城野はこの土地を狙っている男なんだから気を許すなんてことをしないといけないのに。

「お前の旦那は戻ってくる気配はないのか?」
「え?」
自分に城野に気を許すことないよう言っていた矢先の城野の言葉に、私は驚いてしまいまともな返事を返すことが出来なかった。
「どうして戻ってくるかも分からない男のことを待つことが出来るんだ?」
城野はからかう様な表情ではない。
じっと私を見つめてはいるけれど。
「どうして、そんなことを聞きたいの?」
「興味があるから、だろうな。
ただ待ち続けることが出来るということが。」
「興味、そうね、私も正直に言うと、どうして待てるのかは分からないわ。
言えるのは、アキラさんを愛しているということだけ。
アキラさんと過ごした日々は、私にとって大切なもの。
両親も亡くした私に家族をくれた人。
洸がいて、アキラさんとの想い出があるだけで私は幸せみたい。
だから、待っているというよりは、離れていても1人じゃない気がするの。
・・・・こんな答えじゃ分かりにくいわよね。
でも、どうしてかと問われれば、こういう風にしか答えられないの。」
私は微笑みながら城野に自分の中にある今まで誰にも言ったことのない言葉を拙いながらも紡ぎだす。
城野に正直に言う必要はないのかもしれないけれど、いつになく穏やかな空気を纏っている城野からの問いかけは、素直に私の口を開かせた。
「愛してる、ね。
俺には分からない感情だ。
だから、今聞いても、お前の気持ちは正直俺には分からない。」
「別に分かってほしくて言ったわけじゃないわ。
聞かれたから答えただけ。
それに、あなたに私の気持ちが分かるとは思ってなかったから。」
「どういう意味だ?」
「どういうって、だってあなたは私じゃないんだから分かるわけないのよ。
他人の気持ちを本当に分かるなんてことは誰にも出来ないわ。
出来るのは、その人の気持ちを分かろうとすることと、感じ取ってその人に近づきたいと思う気持ちを持つことだと思う。
そうすることで、その人のことが分かるんじゃないかと思うから。
でも、あなたはどちらも持っていないでしょ私に対して。
だから分からなくても当然だわ。
それに、分かってもらいたくて言ったわけでもないしね。」
私は気にしないでという想いを、笑顔を見せることで表していた。
自分の正直な気持ちをこんなに素直に、穏やかに城野に話せている自分に驚きながら。







「もうそろそろ店を閉めたいのだけれど、いいかしら?」
私が話を終えてから口を開くのを止めてしまった城野に、時計を見て閉店時間が近づいていることに気づいた私は声をかける。
「ああ。」
城野は、そう言って静かに席を立ち、会計を済ませた後玄関に向かった。
私は調理場から移動を始め、玄関から帰ろうとする城野を見送る。
「ありがとうございました。」
私はそう言って他のお客さんを見送る時のように手を振った。
城野は手を振り返すわけでもなく、他の反応を見せるわけではなく去っていった、そう思っていた。
手を振っていたはずの私の手を取り、自分の方に引き寄せた後きつく抱きしめながらキスをしてくるまでは。
「んっ!」
突然ののキスに私は抵抗を試みる。
けれど、私の身体を城野の逞しい身体は動きを封じ込める。
それだけではなく、熱さを感じ、深く求めるようなキスにも動きは封じ込められてしまっていた。
アキラさんとは違うキス、それは、私を食いつくす勢いをもつもの。
けれど、私の身体は次第に反応を示す。
角度を変え、貪るようなキスに。
どれくらいの時間が経ったのか分からなくなるほど城野とのキスに取り込まれていた私は、ゆっくりと離れていく城野の唇を感じながらも、ギュッと握りしめたままの城野の上着を離すことも出来ず、身体を預けている状態になってしまっている。
口からは熱くなってしまった息が吐き出されていた。
「お前のことを知りたいと思っている俺の気持ちには近づいてはくれないのか、ひなた。」
私と同じように熱い息を感じる城野は、強く惹きつけられる視線でそう言うと、私の身体から離れ、玄関から出ていってしまった。



私は、急に身体から力が抜けるのを感じ、その場に座り込む。
そして、城野の温もりが残る唇に触れながら城野の最後に言った言葉で頭の中を満たしていた。





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